2010年1月26日火曜日

Procompsognathus の展開

 
 学名辞典(恐竜編)いじり(その2)です.

Procompsognathus Fraas, 1913

 属名 Procompsognathus は pro-Compsognathus=「先行する」+「コムプソグナトゥス(属)」と分解できます.Compsognathus のことは,ひとまず置いておきます.
 
 記載者の Fraas は,Eberhard Fraas (1862-1915)のこと.ドイツの地質学者・古生物学者です.

 Procompsognathus に属するとされる種は模式種のProcompsognathus triassicus Fraas, 1913一種のみ.
 triassicusはラテン語の「3の数」をあらわす[trias, triadis]を英語化したTriassic=「三畳(紀,系)の」を,さらにラテン語化して triassic-us《ラテン語形容詞化》もしくは,triass-icus《形容詞化》としたもの.どちらにしても「三畳系(紀)からの」という意味になります.

 なお,厳密にいうと,Triassicは《形容詞》なので,言葉に意味を持たせるためには,Triassic system=「三畳系」(地層そのもの),もしくはTriassic period =「三畳紀」(三畳系が堆積した時代)としてセットで使う必要があります.なので,和訳とはちょっとした“ねじれ”があり,一対一で対応しているわけではありません.しかし,英語の方は熟語として扱えば問題ありませんね.
 問題は,英語という言語の癖なのか《形容詞》をそのまま《名詞》として使っていることがあることにあります.この場合,the Triassicが「時代」を表しているのか,「地層」を表しているのかは,文章の前後関係によるしかなく,これは曖昧です.単語だけでは訳せない場合が出てきます.


 話が前後しますが,この学名辞典(恐竜編)の恐龍データの元本は,Steel (1969, 70)で,この分類に従っています.もちろん,新しい分類も提案されており,その文献類も所有しているのですが,そちらは膨大すぎて,ちょっと手に負えないところがあるので,古い文献の方を使っています.

 Steel (1970)では,Pterospondylus Jaekel, 1913がProcompsognathus Fraas, 1913 の同物異名[junior synonym]として挙げられています.

Pterospondylus Jaekel, 1913
 
 属名 Pterospondylus は ptero-spondyl-us=「翼状の」+「脊椎の」+「属するもの」と分解できます.「翼状の脊椎骨」ってどんなんだろうと考えてしまいますが,じつは,標本は一個の胸椎のみ.Steel (1970)はProcompsognathusの同物異名と考えていますが,最近では「一個の脊椎」などという標本は研究対象としては扱われず,nomen dubium(=疑わしい学名)として扱われています.

 Jaekel は Otto M. J. Jaekel (1863.2.21 - 1929.3.6)のこと.彼は,ドイツの古生物学者で地質学者.独・グライフスヴァルト大学教授を勤め,1912年にドイツ古生物学会を創立しています.

 記載当時の模式種は Pterospondylus trielbae Jaekel, 1913.
 種名のtrielbaeは地名が元になっているようなのですが,いまのところ不詳です.


 話を戻して,Procompsognathus の元になっている Compsognathus のこと

Compsognathus Wagner, 1861

 ここで,Compsognathus Compsognathus Wagner, 1861のこと.
 属名 Compsognathus はcompso-gnath-us=「繊細な」+「顎の」+「に属するもの」という意味.-gnath-us の《接尾辞》-usの解釈は,辞典類にもまともな説明が見つからず,まだ納得いかないのですが,仮にこうしてあります(-saur-us参照).

 記載者の Wagner は,J. A. Wagner (Johann Andreas Wagner: 1797.3.21 - 1861.11.17)で,独国の動物学者,古脊椎動物学者のこと.

 Compsognathus Wagner, 1861には,以下の一種が属することになっています.
 もちろんこれは,模式種ですね.

Compsognathus longipes Wagner, 1861

 longipes は「ロンギ・ペース[longi-pes]」 に分解でき,=「長い」+「足(柄)」という意味.
 属名と合わせて,「長い足のCompsognathus(=繊細な顎)」.
 学名から,どんな恐龍なのかイメージできましたか?

 

2010年1月24日日曜日

Halticosaurus の展開

 
 学名辞典(恐竜編)いじり(その1)です.

Halticosaurus Huene, 1908

 属名 Halticosaurus は haltico-saurus =「跳ぶ」+「龍」と分解できます.

 haltico- は ギリシャ語の「アルティコス[αλτικος]」=「よく跳ぶ,素早い」の発音をラテン語ふうに綴った halticos を語根化したもの.
 saurusはギリシャ語の「サウーロス[σαῦρος]」=「トカゲ」の発音をラテン語ふうに綴った sauros を語根化したsaur-に,《接尾辞》-us=「~の.~(に)属する.~(に)関係する」を合成したもの.直にいえば,-saur-us=「トカゲに属するもの」になりますが,めんどくさいので意訳して-saurus=「龍」に統一します.略字である「竜」を使わないのは趣味の問題です.

 命名者の Huene は,Friedrich von Huene (1875-1969):ドイツの古生物学者です.
 von Hueneとなっている場合もあります.von は「~からの」という意味で,出身地を表しています.出身地を「姓」としているわけです.フランス語の de と同じ用法ですね.
 日本人には「ピン」ときませんが,日本でもその昔,武士以外に「姓」をもつ人が少なかったとき,たとえば,よく知られている「宮本武蔵」は,じつは「宮本」村の「武蔵(たけぞう)」でした.元は百姓だったので,「姓」がなく,武士になったときに,出身地を「姓」にしたのです.
 しかし,ドイツやフランスの場合は,身分が卑しくて「姓」がなかったのではなくて,どうも「その土地の支配者の家系」ということらしいです.


 Halticosaurus Huene, 1908には,以下の種が属するとされたことがあります.

Halticosaurus longotarsus Huene, 1908
Halticosaurus orbitoangulatus Huene, 1932
Halticosaurus liliensterni Huene, 1934

 以下,順に情報サーフィンしてみましょう.


Halticosaurus longotarsus Huene, 1908

 H. longotarsus Huene, 1908 は,もちろん模式種.
 longotarsus は,long-o-tarsus=「長い」+《結合文字:の》+「足根骨」と分解できます.[-o-]は語根同志を結合する場合の音合わせの役割を果たします.
 《結合文字》には,-i-と-o-があって,前者はラテン語同志の結合に,後者はギリシャ語同志(正確には,ギリシャ語をラテン語ふうに綴ったもの)の結合に用いられます.原則はラテン語同志,ギリシャ語同志が合成されるべきなんですが,まま,そうでないものもあります.

 たとえば,この場合,long-はラテン語longusの語根.tarsusはギリシャ語「タルソス[ταρσός]」をラテン語ふうに綴ったものですから,「ラテン語」+「ギリシャ語」になり,原則を満たしていません.しかし,「タルソス」はtarsosと綴られるべきなので,tarsusはラテン語化していると主張することも可能です.実際,ラテン語なのか,ギリシャ語のラテン語ふう綴りなのか,ラテン語化しているのかの判断は,辞書を見てもよくわからないことの方が多いようです.
 で,まあ,百歩譲って,両方ともラテン語語根と考えても,《結合文字》に[-o-]を使っています.原則に従えば,longitarsusになるべきなんですが….
 もしくは,《ギ》+《ギ》にして,dolicho-tarsosが正解.

 学名は,属と種の「性」を合わせるなんて,日本人にはさっぱりわからないことには熱心なんですが,こういう根本的なことが「グチャ」だったりします.
 もっとも,一度公表された“名前”は,「性の不一致」((^^;)で語尾が修正されることはありますが,こういう矛盾は無視されて,印刷物通りに使用しますので,文句をいってもしょうがない((^^;).

 属名と種名を合わせれば,「長い足根骨のHalticosaurus(=跳ぶ龍)」という意味になります.
 奥深いでしょ((^^;).


Halticosaurus orbitoangulatus Huene, 1932

 orbitoangulatus はorbito-angulatus =「眼窩の」+「角(かど)のある」に分解されます.
 属名と合わせれば,「角のある眼窩のHalticosaurus」という意味ですか.よっぽど,眼窩周囲の骨に特徴があるのかと思ったら,どうやら,このあたりの部分しか産出していない模様.


Halticosaurus liliensterni Huene, 1934

 liliensterniはlilienstern-iと分解され,「Lilienstern氏に属する(の)」という意味です.
 語尾の-iは,人名から合成語をつけるときの《接尾辞》.ほかにもルールがありますが,それは,それが出てきたときにしましょう.
 Liliensternは「フォン=リリエンステルン[Hugo Rühle von Lilienstern]」 (1882-1946) :独国の古生物学者のこと.

 化石の名に,人名を用いるのは間々あることです.
 本来は,上記のように,産出した化石の特徴を表している言葉が優先的に用いられます.標本と密接に関係してますからね.しかし,同一属で,すでに数種が記載されている場合なんか,「形の特徴」なんて,たいていすでに使われていますから,その次によく使われるのが,産地名.
 地名は,小地名から国名もしくは大陸名までたくさんありますから,たいていここで終わってしまいますね.

 人名をつけるのは,標本自体との関連性も薄くなり,じつは優先順位なんかから行けば最後の方で,どうにも「つけるべき名前がないとき」ぐらいなんですが,「人名」だけに目立ちます.
 そのせいかどうか,日本の化石マニアの間では「化石の発見者は,名前をつけてもらえる権利がある」という伝説があります(意図的に振りまいているのかも).もっとも,研究者の側でも「(名前をつけてあげるから)化石を提供してよ」と持ちかける人たちもいて,どっちもどっちというところ.

 これは,周囲にトラブルをまき散らす悪習に近いのですが(実例をいくつも見聞しています),「伝説」というものは,伝説なだけに,なかなか元を絶ちがたいものです.
 

2010年1月21日木曜日

Puzosia の展開

 
 北海道産の著名なアモンナイトの一つにPuzosiaというのがあります.

 この一つの学名 Puzosia から,どんなことがわかるか,まあ,一種の情報サーフィンですね.やってみたいと思います.なお,話のベースは,以下の本からスタートし,つねに,この本にもどることで構成されています.

Wright, C. W., Callomon, J. H. & Howarth, M. K., 1996, Ammonoidea.
Treatise on invertebrate paleontology, Part L, Mollusca 4, Vol. 4, Cretaceous Ammonoidea. Geol. Soc. America, Inc. & Univ. Kansas, Kansas, 362 pp.


 まずは,正式な学名から.

Puzosia Bayle, 1878

 これは,属名です.最初のPuzosiaは属名.二番目は記載者で,三番目がその記載年です.

 まずは,記載者であるBayleさんについて.
 Bayleさんがどういう人であるかなどということは,これまでの状況では,まず,入手不可能な情報でした.数少ない,日本で入手できる地学史(地質学史)の本を開いても,Bayleという人の名が出てくることは,まず,ありません.
 科学史(地学史・地質学史)はまだ幼稚で,かなり特殊な立場の科学者のことしか扱っていないというのが事実のようです.

 ありがたいことに,我々は,いまインターネットを利用することができます.ま,ほとんどガラクタ情報ばかりですが(私のブログも含めて(^^;),か細いながらも,必要な情報にアクセスすることが可能です.かなりのテクニックが必要ですし,見つけた情報が正確なものかどうか,クロスチェックする必要もありますけどね.

 細かい経緯は抜きにして(^^;.

Bayle = Emile Bayle (1819-1895):仏国の地質学者・古生物学者.パリ鉱山学校・鉱物学教授,仏自然史博物館,古生物学委員長.

 情報元が,仏語なので,この程度にしかなりません(私は,フランス語がわからないので).ま,いいでしょ.


 話を戻します.
 さて,属名Puzosiaについて,みてみましょう.

Puzosia = Puzos-ia =「Puzos」+「に属する」

 と,分解することができます.
 Puzosとはなんでしょう?
 Puzosについては,よくわかりません.しかし,いろいろ調べてみると,Scaphites (アモンナイト)についての論文を書いていることがわかり,その言語が仏語なので,仏国人・古生物学者であろうことが推測されます.

 前出のBayleさんのことを考えても,フランス人は古生物学や地質学に対して,相当の貢献をしているようなんですが,地学史上では,かなり不等な扱いを受けているように見受けられます.なにか,英国人の業績ばかりが目立つように仕向けられている気がします.
 見なおしが,進んでいる最中なんでしょうけど,近代地質学が英国から始まったという伝説が,いまだに横行してますよね.科学史家には,がんばっていただきたいものです(特にフランス語ができる方に).
 ま,フランス人は自国語でしか論文を書かないのも,原因の一つなんですけどね.

 さて,Puzosia Bayle, 1878の模式種は,Ammonites planulatus J. de C. Sowerby, 1827.

 蛇足しておけば,模式種とは「属」を定義するときに,著者がその属の「典型的な種」として選定したものをいいます.

●J. de C. Sowerby 
 まずは,記載者のJ. de C. Sowerbyから.

J. de C. Sowerby = James De Carle Sowerby (1787 - 1871) : 英国の博物学者.

 父親のJames Sowerby (1757 - 1822)も博物学者で,こちらもアモンナイトの記載を残していますね.アモンナイトとの関わりはわかりませんが,J. de C.の兄弟である,George Brettingham Sowerby I (1788–1854)とCharles Edward Sowerby (1795–1842)も博物学者.
 博物学者一家ということですね.うらやましい限りです.
 もっとも,この時代,知識人はみな博物学者なので,「博物学者」という「くくり」には,あまり意味がないかもしれません.


Ammonites
 続いて,属名のAmmonites
Ammonites = Ammon-ites=「Ammon(の)」+「化石」

 「Ammon(アッモーン)」は,ギリシャ語では「アムーン[Ἄμμων]」.エジプトの主神「Amun」のことです.エジプトではなんと呼んでいたのかは,定かではありません.
 Ammonは「羊」の形で表されることも多く,人間の形で表されるときも,巻いた「角(つの)」をもって表現されています.Googleで「Ammon」を画像検索してみてください.
 この「巻いた角」が典型的な「アモンナイト」の形に重なっているわけです.なお,アモンナイトは日本では“アンモナイト”と表記されていますが,これは何語でもない単なるカタカナ語もしくは俗語.語源からいけば「アッモーンアイト」.英語でも「アモナイ」.決して「アンモナイト」ではありません.
 ここでは,「アモンナイト」と表記することとします.

種名 planulatus
planulatus = plan-ula-atus =「平らな」+《縮小語》+《形容詞化》=「小さな平板状の」

 と,いうふうに分解できます.なお,plan-の語源=[πέλανος]は「丸いケーキ」を意味していますので,「平板」よりも「円盤」をイメージした方がよいかもしれません.なにしろ,アモンナイトの中では小さな円盤状をしているように見えるのがAmmonites planulatusだったわけです(ま.ほとんどのアモンナイトが「小さな円盤状」ですけどね).

 当初は,みな属名Ammonitesですんでいたのですが,博物学者の記載が進むうちに,形態分類がおこなわれ,それぞれに新しい属名がつけられてゆきました.その一つが,Puzosiaというわけですね.

Puzosia
 Puzosia属は,白亜紀を通して,全世界的に繁栄していたようです.なぜって,化石がそういうふうに産出しているからです.
 そのため,Puzosia属を細分しようという試みがなされ,以下の四つの亜属が提唱されています.

Puzosia ( Puzosia )
Puzosia ( Anapuzosia ) Matsumoto, 1954
Puzosia ( Bhimaites ) Matsumoto, 1954
Puzosia ( Mesopuzosia ) Matsumoto, 1954

 すべて,記載者はMatsumotoさんですね.
 Matumotoは,昨年亡くなられた松本達郎(1913 - 2009)・九州大学名誉教授のこと.


Puzosia ( Puzosia )
 Puzosia ( Puzosia ) はMatsumotoceras Hoepen, 1968として提唱されたことがありますが,P. ( Puzosia )のままでいいという判断ですね.
  MatsumotocerasのMatsumotoはもちろん松本達郎氏のこと.松本氏のアモンナイト研究に対する貢献を表して,命名されたものです.しかし,意味を考えるとMatsumoto-ceras =「松本(の)」+「角(つの)」ですから,松本氏には「角があったんかいな?」ということになり,こういう合成語は「失礼」と考える人たちも多いです.
 ただ,アモンナイト関係に限らず,けっこう多いですね.この手の合成語は.
 命名者のHoepenはE. C. N. van Hoepen のこと.ただし,van Hoepenの詳細は不明.書かれた論文からは,オランダ人かと思われますが,何とも.


Puzosia ( Anapuzosia ) Matsumoto, 1954
Anapuzosia = ana-puzosia=「類似した」+「puzosia」

 なるほど.「類似したpuzosia」という意味ですか.

 なお,Matsumoto (1938)に一度,Anapuzosiaという名が出ていますが,これは「nom. nud.」= nomen nudum =「裸の名」=「記載のない学名」.Matsumoto (1954)になって,やっと正式に記載されたということです.
 こういうことはよくあることのようですが,やるべきではないですね.ほかの研究者が混乱してしまいます.

 Puzosia ( Anapuzosia ) の模式種が,[Puzosia buenaventura Anderson, 1938]です. 

 ここで,buenaventuraはSan Buenaventura, California (USA)の都市の名を採ったようですね.
 記載者のAndersonはFrank M. Anderson (1863 - 1945)(不詳:米国の古生物学者)のこと.著者は著作を見る限りでは,北米太平洋岸,とくにカリフォルニア付近の白亜系から第三系にかけての層序の研究を専門としていたようです.

Puzosia ( Bhimaites ) Matsumoto, 1954
Bhimaites = Bhima-ites=「Bhima」+「の化石」

 Bhimaとは,インドの叙事詩「マハーバーラタ」に登場する英雄のことで,怪力の持ち主とされています.化石に,実在の人物の名ではなく,伝説に登場する人物(神or悪魔)の名を採るのはよくあることです.ちなみに,模式標本はインド産.
 模式種は[Ammonites bhima Stoliczka, 1865].と,すると,亜属の名は,種名を格上げしたということになりますか.

Puzosia ( Mesopuzosia ) Matsumoto, 1954
Mesopuzosia = meso-puzosia=「中間の」+「puzosia」

 どういう意味で「中間」なのかは,よくわかりませんが,palaeo-, meso-, neo-とか,ortho-, meta-, para-などのように,お互いに関連をもたせたような命名はよく使われる方法ですね.

 この模式種はM. pacifica Matsumoto, 1954.こちらも,1938年に[nom. nud.]で初出し,1954になって正式に記載されたもの.
 種名pacifica (パーキフィカ)は pacificus (パーキ・フィクス)=「平和をつくる.平和な」の《女性形》.ここでは,「太平洋の」という意味でしょう.模式標本は日本産ですが,この仲間と考えられるものは,オーストリア・アンゴラ・マダガスカル・南インド・アラスカ・カリフォルニア・ベネズエラからも産出しているようです.

Pteropuzosia Matsumoto, 1988
 模式種をP. kawashitai Matsumoto, 1988として立てられたPteropuzosia Matsumoto, 1988は,Puzosia ( Mesopuzosia ) のシノニム(同物異名)とされています.たぶん,性的二形と考えられているのでしょう.

Pteropuzosia = ptero-puzosia=「翼状の」+「puzosia」

 この実物は見たことはありませんが,記載によると,軟体部が入っている部分が膨れあがり,「翼状の」出っ張りがあるとか.一般にこういうのは雌のアモンナイトと考えられていますね.部屋が異様に膨張しているのは子供を産むためだとか.こういうのを「性的二形」といいます.


 なんか,「落ち」がありませんが,何とかまとめましょう.
 このネタ本のWright, C. W.ほか(1996)には,Mesopuzosiaの典型的な例として,Puzosia ( Mesopuzosia ) yubarensis (Jimbo)の写真がでています.yubarensis はもちろん,夕張にちなんだ名で,「夕張産の」という意味.
 我々地質屋には,夕張市の再生を期待し,支持しているものが多いのですが,この学名からもわかるように,夕張は地質学的にも重要な地域だからです.

 

2010年1月20日水曜日

「寒がり」な県民性

 
 数日前の,新聞に「『寒がり』な県民はどこか」というような記事が載りました.
 その前後に,TVでもほぼ同じの内容を(例によって,脚色たっぷりに)バラィエティ番組でやってました.

 その新聞記事が見つからないのでGoogleで検索すると,新聞記事は出てきませんでしたが,元記事が見つかりました.
 ニュースの出所は株式会社「ウェザーニュース」という会社.こちらには,調査方法なども載ってましたので,議論には問題ないでしょう.

 記事を読むと,「やっぱりね」という感じ.
 「ウェザーニュース」という会社がどういう会社なのかは知りませんが,この程度の調査と結果で,「寒がりな県民」やらなにやらを「情報」として流すのは「どうかな?」と思います.


 調査方法は(記事に書かれている限りでは)「全国のウェザーリポーターの方に、着ている服の枚数と身につけている小物の数を報告してもらい、その日の朝の気温との相関を分析し、“寒がり度”を都道府県別に調査をしました。」とあります.

 まず,「ウェザーリポーター」という人たちがどういう人たちなのか説明がありません.
 この時点で,調査対象の母集団に問題がありそうだなという疑問が生じます.

 「全国で6,767人が回答」とありますから,想像をたくましくすれば,たぶん,「ウェザーニュース」という会社にボランティアで地域の気象情報を送っている気象マニアの人たちと思われます.
 気象マニアの人たちは,一般の人よりも,気象に関する関心が高いのは当たり前ですから,その時点での気象条件のみならず,その日一日に起こるであろう気象の変化も頭に置いているわけです.当然,「午後から寒くなる」とかいう情報をもっていれば,その日の朝は汗をかきそうでも,一枚余分に着込むでしょう.
 そういう人たちと一般の人たちを同じと見なして,「県民性」云々を即断していいものでしょうか.

 おかしなのは,「その日の朝の気温」と「着ている服の枚数」および「身につけている小物」の数に相関関係が見つかったらしいのですが,そのデータも解析結果も出ていません.
 でているのは,どこの県が一位だとか最下位だとかいう結果だけ.なにを基準に順位付けしたのかは,想像するしかありません.
 たぶん,「その日の朝の気温」と「着ている服の枚数」の相関関係だと思いますが,「身につけている小物」ってどういう意味があるのだろう?

 こういうのが,「結果だけ一人歩き」して,まるで,科学的な根拠のあるデータのように,垂れ流しにされるのは,なにか非常に怖い気がします.


 もしかして,こういう人たちが「地球温暖化」を議論しているのだろうか.と.

 しばらく前に,“ホッケースティック状”に地球の温度が変化しているというデータを出した学者がいるとか,どうもそのデーターは捏造くさいとか,「あほ」みたいな話がされてましたけど,こういう“いかさま”に近いデータの単純化が,科学的な議論のように扱われているようです.

 ちょっと,(普通の)歴史や人類史,地球史の知識がある人ならば,あんなデータはあり得ないことはすぐにわかるはずです.
 そうでなくても,普通の人の感覚でも,朝6時から午後2時ころまでは地球は温暖化してます(この場合は,観測者の周囲の環境だけ)し,夕方から朝にかけては寒冷化しています.
 3月から8月にかけては,地球は温暖化してます(この場合は北半球だけ)し,10月から2月にかけては寒冷化しています.

 20年ぐらい前には,一時的な寒冷化で,日本では国内で米が採れなくなり,外米を食べた記憶があります.10数年前には,北海道でも30℃を越える日が何日も続き,海に逃げ出した記憶があります.

 親の話では,厳寒期には「寝ている布団」が凍ったそうですが,今はそんなことはありません(もちろん,これは住居自体がよくなったこともあります).
 江戸時代に,蝦夷地開拓の話が持ち上がったのは,天明の大飢饉=つまり,一時的な寒冷化の時期ですが,この頃は釧路あたりまで流氷がきていたらしいですし,松浦武四郎がアイヌの長老に聞いた話では,有珠湾や洞爺湖が凍ったことがあるそうです.

 平安遷都1300年祭とかのイベントがあるようですが,このころ地球は温暖化していて,日本では奈良・平安の文化を生み出しています.おそらく,温暖化で米が安定して採れるようになり,生活が安定したためでしょう.

 明治になってからの,北海道開拓当初,北海道では米は獲れないといわれてきました.
 それが今では,やろうと思えば,名寄盆地でも十分な量と品質の米が確保できます(減反政策でほとんど放棄されているようですが).これは,農業試験研究所の技師の努力によるとされてきましたが,実は,地球温暖化のおかげが大です.

 地球は,短くは一日の範囲で温暖-寒冷を繰り返し(これは地球全体ではないですが),数日~数十日の単位でも,一年の単位でも,数十年の単位でも,数百年の単位でも,数万年~数百万年の単位でも温暖-寒冷を繰り返しているのです.
 ここ数十年の,しかも限られた観測地点のデータで,温暖化してるとか寒冷化してるとかいう話は,まず,眉に唾をつけてきかなければなりませんね.
 それが,研究費がほしいだけの科学者とか,景気の起爆剤がほしいだけの資本家が絡んでいる場合は特に…ね.「エコ」は,エコロジーの「エコ」ではなく,エコノミーの「エコ」だったりして.もちろん,この場合の「エコロジー」も「エコノミー」も非常に特殊な意味に限定されています.


 話を戻しますと,北海道人がほかの県の人よりも一枚余分に服を着るわけは…,簡単に説明ができます.
 日中は0℃程度に気温があがって暖かい日でも,日が落ちると共に,マイナス10数度まで下がることは,別に特殊な出来事ではありません.
 都市化していない地域の多い北海道では,場合によっては命にかかわる事態を招きます.
 身をもって,そういうことを経験している北海道人は,たとえ,日中は汗をかくようなことがあっても,一枚余分に着る習慣があるわけです.

 それを寒がりというのは,正確でしょうかね.

 気温が0℃以下になんかに下がることがない(従って,命の危険を感じることもない),不夜城の大都会に住んでる(従って,危険を感じればすぐに退避できる)人たちのいうことではありませんね.

 

2010年1月16日土曜日

学名辞典(恐竜編)

 
 ようやっと,ここ数ヶ月夢中になってつくっていた「学名辞典(恐竜編)」が完成!,とまでは行きませんが,実用レベルに達してきました.

 20世紀までに記載された恐竜名(属も種も)は,ほぼ網羅したはずです.
 でも,属名はともかく,種名の方は意味不明のものも多々あるので,それはまだ「不詳」として放置してあります.

 もしばらく「いじっ」たら,オンラインソフトウェアとして公開しようかな?などと考えてます(と,いってもその方法を知らないな(^^;).

 しばらく「いじる」というのは,当初の目的は「学名に市民権を与える」なので,眼にする頻度が多いと思われる日本産の哺乳類や鳥類ぐらいは「引けば意味がわかる」ぐらいにしたいからです.
 ただ,このさいでも,一つの辞書にまとめておくべきか,「恐竜辞典」,「哺乳類辞典」,「鳥類辞典」などと分けておくべきか,それすらも方針が立っていません.
 Logophileの辞書エディタが,辞書の分離や合併に対応していれば,あまり考えることなくできるんですが,前にも書いたようにこのエディタはあまり強力ではないからです.無意識に登録した単語を消していることもあるようです.単語「削除ボタン」にアラートがなく,間違えて押すとそのまま消えてしまうんです.一遍やってしまうと,後戻りがきかない=アンドゥもないんですね.


 さて,これまで,辞典造りをやってきて,気付いたことを幾つか.

 第一にいえることは,日本におけるラテン語環境・ギリシャ語環境が実に情けない状態だということです.簡単にいえば,まず,まともな「羅和辞典」・「ギ和辞典」がない.

 ちょっと失礼ないい方だったかな.
 言い直せば,学名の意味を知るための「羅和辞典」・「ギ和辞典」は存在しないわけです.
 それで,聖書やら特殊な古典やらに出てくる単語しかでてないような,しかも「単語」の成り立ちがわかるようなものではなく,単なる「単語帳」のような辞書しかなく,これを使うしかないのが現状.
 それも,価格的に安ければ,「しようがない」でも使いますが,思わずコストパフォーマンスを考えてしまうような値段(^^;.「羅英」・「ギ英」がダメ元で買える様な値段なのに比して…,彼我の文化程度の違いを思わず考えてしまう環境です.

 当初,けっこう役に立ったのが,大槻真一郎の「独-日-英 科学用語 語源辞典 ラテン語編」と「ギリシャ語編」.この中に出てくる《合成前綴》,《合成後綴》という概念は便利でした.合成語の多い学名の理解には,便利この上ない概念ですね.でも,ほかの辞書にはこういう概念はないですし,この辞書内でも,扱いが統一されていない=筋が通っていないことが,使い続けているとわかります.
 だいたい,《前綴》,《後綴》というけど,その間に使われているのは《なに綴》なんだ?《間綴》?

 使い続けていてわかるもうひとつのことは,第一にボキャ数が足りない.
 特に「ギリシャ語編」は,これで辞典?お金取る気?と思わせるほどのボキャ数.
 見出し単語および説明に出てくる単語の選定に偏りがある.著者はたぶん植物学の専門家なのだろうということが推測できます.植物学用語と医学用語はかなり些末なところまででていますが,動物や(もちろん古生物も)現代科学技術用語もおざなり.看板に「科学用語」とありますが,どうもね.
 使いこなしてくると,不満が出てきます.
 「~を参照せよ」みたいな記号があるので見てみると,それは見出し単語として存在しなかったりもする.辞典として熟成しているとは言い難いところがあるというとこですか.

 ま,文句はありますが,一番役に立った辞書であることも事実です(値段分役に立っているかというと,それは疑問).もっとも,ターゲットが医学関係者のようなので,高くて当たり前なのかも.PC翻訳ソフトでも,医学用はバカ高いですモンね.

 なお,似たようなもので,「医語関連 ローマ字化ギリシャ語集」(松下正幸著,栄光堂刊)というのがありますが,ほとんど役に立ちませんでした.なぜかというと,ギリシャ語からラテン語化するときの過程が問題なのに,最初から《ギ語》を使わずにローマナイズした単語を見出し語に使っているからです.
 内容も,ただの単語帳です.
 源語である《ギ語》からどのような過程をたどって《ラ語》,さらに現代(科学)用語になっているかが示されてないと,見出し語にない単語は,まるで理解不能になります.

 一例ですが,「変化のある」という意味のギリシャ語に「ポイキロス[ποικίλος]」というのがあります.これがラテン語化したときにはpoecilos, poecilus, poicilus, poicilos, poekilus, poekilosというようなバリエーションが見いだされます.
 ちなみに,前出「医語関連…」には「poikilos」しか載っていません.
 これでは,使い物にならない.

 もうひとつ,「科学英語 語源小辞典」(前田滋・井上尚英編)というのを入手しましたが,こちらも,源語である「ギリシャ語」を無視しているので,「医語関連…」とほとんど変わりがありません.ただし,こちらは「語根」を重視しているので,かなり応用がききます.
 源語である「ギリシャ語」から解説してもらえれば,もっと理解しやすい辞典になったと思います.

 致命的なのは,「小辞典」であること.なんといっても,ボキャ数が….
 もっと致命的なのは,「小辞典」といいながら,A5サイズであること.A5サイズは,辞書として引くには,日本人の手には大きすぎることがわかっていない.とにかく引きにくい.


 すべての辞典にいえることですが,ラテン語は単語の変化があきれるくらいあるのに,省略が多すぎること.初学者が誤解・混乱するような記述が多すぎて,学ぶこと自体がいやになりそう.
 ラテン語に熟達しているなら辞書を引くこともないはずですが,ラテン語に熟達していなければ,引けない辞書が多すぎますね.
 一番気になるのが,辞典ごとに見出し語の選択や意味にいたるまで,「相違」が矛盾といっていいほどあり,辞書自体が「熟成」していない,という気にさせます.