以前から気になっていたアラビア科学ですが(実際に興味あるのは,歴史としての「イスラム地質学」ですが),チョットした取っ掛かりが見つかり,しばらくそこに没頭してました.
取っ掛かりとは,
伊東俊太郎(1978, 2007)近代科学の源流.
伊東俊太郎(1993, 2006)十二世紀ルネサンス.
伊東俊太郎・広重徹・村上陽一郎(1996, 2002)改訂新版 思想史の中の科学.
いろいろ興味深いことはありますが,まとめると….
「異文化は受け入れた方が発展するのであって,文化を守り始めるとあっという間に腐る.」
具体的にいうと,ギリシャ文化を受け入れ,ヨーロッパ・キリスト教世界で異端とされ,排除された耶蘇教各派を受け入れたアラビアは科学革命を起こす.アラビア世界はもちろん,当時,インドや中国とも交流があり,さらには日本にもそれらは輸入されている.
一方,ヨーロッパ・キリスト教団(カトリック)はどんどん硬直化し,ヨーロッパは中世暗黒時代を迎える.
その後,アラビアで発展した文化を受け入れたヨーロッパはルネサンスをおこし,一方の文化を守り始めたイスラムのためにアラビア世界は頑迷となる.で,現代に繋がるというのがアラビア科学史の顛末.
ということで,学校で「ルネサンス」を習ったときには,なんで「(文芸)復興(or 再生)」なのか,意味がわかりませんでしたが,「もともとギリシャにあった文化」がアラビア世界で発展し,ヨーロッパの一部まで拡大したアラビア世界から,ヨーロッパ世界がその文化を学び(つまり帰ってきた),ヨーロッパで更に発展したから「ルネサンス=再生」な訳ですね.
これらを読んで,入手したのが「アラビア科学」に関する”真面目な”研究の情報.
以前やってたときは,見つからなかったンですがねえ,
矢島祐利(1965)アラビア科学の話.
矢島祐利(1977)アラビア科学史序説.
1965は「岩波新書」で,1977は箱入りの立派な装丁です.
ちなみに,第一次オイルショックは1973年のこと.
それまで日本人はオイルをたくさん使いながら,そこから輸入しているアラブ世界のことなんか,これっぽちも考えていなかった.焦って研究者を探した結果が「立派な箱入り本」なのかな?
でも,1965も,1977も,アラビア科学に関する具体的な記述はほとんどなく,発見されてるラテン語本を英訳したもののリストに過ぎません.「アラビア地質学」までは,まったく到達しない.
まあ,「発見されたラテン語訳の本」,それを発見した「西欧の研究者の眼」さらに,それを研究しようとしている「日本人・科学史家の眼」,と,二重三重のフィルターを通しているわけで,”アラビア科学史”の概略すら「いまだに,わからない」のは,仕様がありません.ましてや,”地質学史”なんてね.(^^;;
そして,これ以降,アラビア科学史研究は,まるで見つからないのです.
オイルを断たれて真っ青になった日本人.その時だけは,アラブ世界に目を向けようとしましたが,オイルの安定供給が始まると,またすぐに「のど元過ぎれば…」だったようです.
日本人がアラビア世界を理解しようとしなかったことと(たぶん,同様に世界も),いま,イスラム過激派が世界を震撼させていることと,「関係がある」とはいえないでしょうけど,誤解がさらに悪い関係をまねくことは考えられることです.
さて,21世紀になってから,日本で出た本が一冊あります.それは…
ジャカール,D.(2005)アラビア科学の歴史(遠藤ゆかり,2006訳).
もちろん,日本人のオリジナルではありません.
「知の再発見シリーズ」のひとつとして創元社(大阪)が出版したものです.