2010年3月30日火曜日
学名語源辞典 「logophile」版
最近,ブログの更新の頻度が高まってますが,それは学名語源辞典が実用段階に達したからです.
恐龍の学名(属名と種名を含めて)ならば,ほぼ百%意味が分かります.
だから,辞典を引けば,簡単に記事が書けるというわけです((^^;).
この辞典は,現在,「logophile」上で動いています.
現在は,Mac上でしか動いていませんが,「logophile」の作者は「Jamming」の作者とおなじで,「Jamming」には「Mac版」と「Windows版」がありますので,そのうち,「logophile」もWindows上で動くようになることを期待してもいいでしょう.
私の学名辞典も,(希望があれば)公開してもいいと思っているのですが(と,いうよりはやってみたいと思っているのですが),公開するためのノウハウを知らないので,今のところ何とも.
ところで,なんで,データが「恐龍」なのかというと,これはあくまで「とりあえず」なのです.動物の分類群では「恐龍」に関するデータが一番多く,ほかのものはホントに情けないくらい少ない.
日本産脊椎動物(現世)の学名を一時期,調べようとしたのですが,まずデータがほとんどそろわない.過去の記事にも書きましたが,大学が運営しているHP上での,学名の扱いの,そりゃあ「粗略」なこと.学名の存在意義を疑わせるような混乱ぶりです.
日本の大学(大学以外の研究機関も含めて)には,分類学者はいないのだろうと思わせる状態です.書籍もいくつか購入しましたが,…やめておきましょう((-_-;).
そんなわけで,まずは,恐龍の学名から手をつけたというわけです.
ところで,恐龍版が完成したのはいいんですが,やはり,日本では「恐龍」なんて,「もの」が,ほとんど出てこない.つまり,…つまらない.
というわけで,引き続き,「中生代の海成爬虫類」と「白亜紀アモンナイト」の学名の調査を始めました.
注:「logophile」,「Jamming」は今井あさとさん作成のオンラインソフトウェアです.
2010年3月28日日曜日
Velocipes の展開
学名辞典(恐龍編)いじり(その10)です.
Velocipes gürichi Huene, 1932 という恐龍がいました.
「いました」というのは,現在,分類学上では,この標本は無視されているからです.
標本は,左足の腓骨(脛の骨の細い方)の近位部分だけ.
それで,Velocipesと名付けるというのは! いろんな意味で,すごいですね((^^;).
Velocipesのveloci-は,《ラテン語》のvelox (ウェーロークス)=「速やかな」の《合成前綴》veloc(i)-です.後半の-pesは《ラテン語》のpes (ペース)=「足」.
合わせて,「速やかな足」という意味.(腓骨の一部でねえ….しつこいな(^^;)
種名のgürichiは人名Gürichの形容詞化で「G. J. E. Gürichに属する」という意味ですが,めんどくさいので「G. J. E. Gürichの」と略しておきます.
G. J. E. Gürichとは,Georg Julius Ernst Gürich (1859.9.25-1938.8.?)のことで,ドイツの地質学者で,古生物学者でした.
さて,原著ではgürichiになっていますが,[ü]の使用はNG.ICZN (32-c-i)により,自動的に[ue]に訂正されます.したがって,gürichiはguerichi.
著者のHuene については「Halticosaurus の展開」を参照してください.
あとは推測のみ.
標本の産地はシレジア地方(ポーランド-チェコ国境あたり)ということです.時代はヒットラー政権下で,Gürichはドイツの支配下にあったポーランドの古生界の研究で有名ということですから,標本はGürichが発見したものかもしれませんね.
2010年3月27日土曜日
Eon
プライベートな「地学事典」(Logophile上で動かしてます)の整理をしていたら,とんでもない事実が発覚してました.
へたすると,大学の授業(一時期,非常勤講師をやっていた)や,一般市民相手の講演で「ウソ」を言っていたことになるのね~~(- -;).
Eon =「累代」という地質学用語があります.
「古生代・中生代・新生代を合わせて顕生累代[Phanerozoic Eon],先カンブリア時代を隠生累代[Cryptozoic Eon]と呼ぶ.ISSC報告(H.D.Hedberg (ed.), 1976)」と「地学事典」(平凡社)にも出ています.
簡単に言ってしまえば,「地質時代」は大きく二つに分けられ,それは「生物の痕跡が豊かな顕生累代と,生物の痕跡が見つけにくい隠生累代の二つである」ということです.
ところが,いつの間にか「隠生累代」という言葉が消えてしまって,「累代」には,下の四つがあることになっています.
顕生累代[Phanerozoic Eon] ┬新生代[Cainozoic Era]*
├中生代[Mesozoic Era]
└古生代[Palaeozoic Era]
原生累代[Proterozoic Eon]
太古累代[Archaean Eon]**
冥王累代[Hadean Eon]
もともとは
顕生累代[Phanerozoic Eon] ┬新生代[Cainozoic Era]cenozoic
├中生代[Mesozoic Era]
└古生代[Palaeozoic Era]
隠生累代[Cryptozoic Eon] ┬原生代[Proterozoic Era]
├始生代[Archaeozoic Era]**
└冥王代[Hadean Era]
だったんですけどね.
ひどいモンですね.累代[Eon]というランクは「生命の痕跡が顕著である」vs.「そうでない」というわかりやすい等価の基準で決められていたのに,そうでなくなってしまいました.
そういえば,昔は,生物の分類は「動物」と「植物」という二つの対立する概念から始まってましたが,今は「真核生物」-「古細菌」-「細菌」に分けるのと似てますね.
ちなみに,「真核生物」には「動物」-「植物」のほか,「菌」や「原生生物」まで入ってますから,イメージ的には,ほぼすべての生物が入っています.まるで,99.99:0.01みたいな,バランスをひどく欠いているような気がしますが,細胞レベルの「相違」ということでは,これはリーズナブルな面もあるのです.
そういえば,原生代の開始を真核生物の出現とする研究者もいるので,それと密接にリンクしているのでしょうね.
しかし,「顕生累代」と違い,「隠生累代」では(文字通り)生物の痕跡はほんの僅かしかありません.「真核生物の出現」なんていう基準は,基準としてはスマートでも,現実に判断できるかというと,疑問符がたくさんつきまとってしまいます.
区別のつかないもの,疑問の多いものは,一括しておいたほうがスマートなので,「隠生累代」は「隠生累代」として一括し,その中で,「冥王代」-「始生代」-「原生代」の定義や区分について議論してゆくほうが(つまり,これまでのやり方でのほうが)わかりやすいと思いますけどねえ.最悪の場合は,「隠生累代での時代区分は『生命の痕跡』を基準としない」なんてこともあり得るかも.
逆に,「冥王累代」-「始生累代」-「原生累代」を使用すると不都合なことがたくさん出てきます.それは,地質時代はその地層から産出する「化石(=古生物の痕跡)」で決めるという前提があるからです.繰り返しになりますが,始生代の始まりも原生代の始まりも化石では決められないからです.なんたって,化石が非常に乏しい時代ですからね.
冥王代にいたって,生命が発生する前の時代ですから,時代名そのものに[zo-]=「生物(動物)」の字が入ってすらいない.「原生累代」-「太古累代」-「冥王累代」なんて,分けるほど情報がない(顕生累代の各代の情報量に比べれば桁違い:無いと言っても過言でない)のにもかかわらず,「代」から「累代」に格上げする理由なんて,どこにあるんでしょうかね.
とはいっても,顕生累代の研究は頭打ちで,隠生累代のほうが注目を浴びてるようですから,しょうがないのかもね(こういうこと「うるさい」ことを言うと,嫌われたり,無視されたりするんです.前に,Paleogene=「古第三紀」ではないし,Neogene=「新第三紀」でもないって,いってたんですが,その時は,まるっきり無視されていました.ところが,最近は「第四紀の定義」に絡んで,どう訳すかで,大騒ぎになってますね).
* 新生代[Cainozoic Era]:現在,一般には「新生代[Cenozic Era]」と普通に書かれていますが,新生代[Cainozoic Era]が正しい.詳しくは「新生代」参照.
** 太古累代[Archaean Eon]:「太古代」という不正確な書き方をする人が,けっこう,いますが,それだと,「太古代[Archaean Era]」と区別がつかないのでやめてほしいと思います.つい,「消防署の方から来た」というのを想い出してしまう((^^;).
なお,[Archean]とつづられている場合もがありますが(というよりは英語圏ではこれが普通のようです),これはいけません.元々は,ギリシャ語の.アルカイオス[ἀρχαῖος]」=「始源の.古い」をラテン語綴り化した[archaeos]をさらに《語根化》した[archae(o)-]ですから.
たぶん,英語訛り(日本人の耳には区別がつかない発音が多い(^^;,これは英語より米語の方がひどい)で,「アーケァン」とやるので,逆に,もともと綴りにあった[a]を省略するということをやらかしてるのだと思います.曖昧な発音が綴りを変える.こういう例は山ほどありますね.(新生代[Cainozoic→Cenozoic]」など)
また,[Archaean Eon]を「始生累代」と訳す人がいますが,これは完全な誤訳です.[Archaeozoic]には[zo-]=「生物(動物)」という語根が入っていますが,[Archaean]には入っていないからです.
注意してみてください.地球上にまだ生命が発生していない時代として定義されている[Hadean]=「冥王代」には[zo-]が使われていないでしょ.
2010年3月26日金曜日
Triassolestes の展開
学名辞典(恐龍編)いじり(その9)です.
Triassolestes Reig, 1963 という恐龍がいました.
「いました」というのは,「過去に住んでいた」という意味ではなくて….おや?前回とおなじ書き出しだなあ((^^;)
じつは,こちらも,現在では,恐龍だとは考えられていません.
それで,まあ,Spinosuchusとおんなじで,情報収集が極端に困難になります.ま,判ることだけ.
Triassolestes Reig, 1963
Triassolestes romeri Reig, 1963
標本は,アルゼンチンの三畳系であるイスキグアラスト累層[Ischigualasto Fm.]から産出してます.それで,ついた属名がTriassolestes = Triasso-lestes=「三畳紀(系)の」+「強盗」.
●Trias - Triassic
ドイツを中心に北西ヨーロッパに分布する,ある地層が注目されました.その地層は,だいたいどこへ行っても「コイパー[Keuper]」,「ムシェルカルク[Muschelkalk]」,「ブントザントシュタイン[Buntsandstein]」の三層がセットで現れます.
上部:「コイパー[Keuper]」:雑色の泥岩・砂岩・泥灰岩・ドロマイト・石膏・硬石膏などからなる.
中部:「ムシェルカルク[Muschelkalk]」:石灰岩相を主体とする.
下部:「ブントザントシュタイン[Buntsandstein]」:雑色の砂岩・泥岩・礫岩からなる.
要するに,中部が海成相で,上下の地層が陸生相を示していることが判りますね.三相のセットが特徴的なところから,Friedrich Von Alberti (1834)が,このセットに「トリアス[Trias]」と名付けました.
のちに,このセット(地層自体)のことを「Trias-System」と呼び,この地層が堆積した期間(=時代)を「Trias-Period」と呼ぶことが,世界的に統一されてゆきます.
英語に訳されたものが,それぞれ,「Triassic system」と「Triassic period」(いつの間にか,《名詞》だったものが,《形容詞》+《名詞》のセットになってますね).
さて,その語源は….
「3の数」もしくは「三つ」を意味するギリシャ語が「トゥリアス[τριάς],トゥリアドゥス[τριάδος]」.これをラテン語化したものが「トゥリアス[trias],トゥリアディス[triadis]」.
もともとは,地層という「もの」を示す言葉でしたが,それが,「時代」をも表すようになったため,[-system], [-period]という言葉を付加して区別していたわけですね.そのため,《数詞》が《名詞》を経由して,《形容詞》になってしまったわけです.
ところで,ラテン語の「三つの」という形容詞には「トゥレース[tres],トゥリア[tria]」があります.そこで,本来は「トゥリ・レーステース[Tri-lestes]」になるべきなのですが,これでは「三つの強盗」になってしまいます.
「トゥリアス[trias]」に「もの」の意味をかぶせてしまったため,本来の意味が出せなくなってしまったわけですね.
そこで,なにが起こったかというと,「Triassic」という《英語》をラテン語の語根化し(強引ですね),「triass-, triasso-」で「三畳紀(系)の」という意味を持たしてしまったのです.
triassは《英語》であって,《ラテン語》じゃあ,ありませんよ~~(だから,当然,ラテン語の辞書には,載っていません).《ギリシャ語》でもない.
●lestes
lestesは《ラテン語》ではありません.
lestesは《ギリシャ語》の「レーステース[ληστής]」=「強盗」を,ラテン語綴りに変えたもの.従って,ラテン語辞書には載っていません.
したがって,Triassolestesは《ラテン語化英語》+《ギリシャ語》の合成語で,まったくルール無視の《合成語》だということになります.
なぜなら,原則は《ラ語》同志,もしくは《ギ語》同志の間でおこなわれ,《ラ語》同志の場合は[-i-]で連結し,《ギ語》同志の場合は[-o-]でおこなわれる,と辞書に書いてあります.
これかそれか,現在は,Triassolestes Reigという学名は使われていません.
Triassolestes Reig, 1963はTrialestes Bonaparte, 1982に置き換えられているようなのですが,残念ながら,この経緯は分かりません(もちろん,Bonaparte (1982)が入手できないから(-_-;).
●Trialestes
ところで,結果は《ギ語》+《ギ語》でルールどおりになりました.
しかし,どう見ても,意味は「三人の強盗」ですけどね~~~((^^;).
2010年3月25日木曜日
Spinosuchus の展開
学名辞典(恐龍編)いじり(その8)です.
Spinosuchus という恐龍がいました.
「いました」というのは,「過去に住んでいた」という意味ではなくて(それもありますが,(^^;),一時期,恐龍類と考えられていたのですが,現在は「爬虫類のなかの別のグループ」とされているという意味です.
恐龍を含む爬虫類やその周辺を含めて,分類体系は,現在,グチャグチャになっていますので,詳しい説明は私にはできません.申し訳ない.自称恐龍博士たちがいっぱいいるのに,体系立てて説明できる人がいないというのは,自称恐龍博士はやはり自称だけなのですかね~~((^^;).
日本にも,「恐龍」を記載した人は,何人も出ているのですけれどね~.
話を戻しましょう.
Spinosuchus は恐龍ではないので,これ以上説明しません.といえば,終わりですが,私は「恐龍博士」ではないので,もう少し追求することにします((^^;).
Spinosuchus Huene, 1932
Spinosuchus caseanus Huene, 1932
Spinosuchus の標本は1921年にE. C. Caseが発見したとされています.
E. C. Case (1871-1953)はUSA*の古生物学者.標本は,頸椎から仙椎までの一連の脊椎で22個あったとされています.発見はテキサスのクロスビー郡に分布する上部三畳系のドッカム累層[Dockum Fm.]から.CaseはこれをCoelophysisの椎体と考え,1922年にCoelophysis sp.として記載したそうです(「そうです」というのは,原著が入手できないので,確認ができないからです).
ところが,von Huene**が,この一連の脊椎にCoelophysisとは思えない特徴を見いだします.それは,異様に膨らんだ神経棘.神経棘のことを[neural spine]といいますので,von Hueneのつけた属名がSpinosuchus = Spino-suchus***=「棘の」+「ワニ」.
そして,最初に記載したCaseに敬意を表して,種名をcaseanusと名付けます.
[-anus]は《場所》《時》《人名》《国民》《固有名詞》の形容詞化語尾.単数男性ですから[-i]をつけて,caseiでもいいはずです.というよりは,それが普通のはずと思いますが,こうなっています.もちろん,ICZNでは[-anus]の使用は許されていますが,[-ii], [-i]のほうが望ましいと明記されてます(ICZN D-16).
こういうルール(文法?)について,ラテン語かギリシャ語の専門家がわかりやすい本を書いてくれないかなぁ,と,思いますが,それができる人がいるのか,それ自体が疑問.なにせ,日本にはまともな「羅和辞書」,「希和辞書」もないのが現状.残念.
さて,属の語尾[-suchus]についてですが,なぜ,suchus=「ワニ」としたのかは判りません.
脊椎しか産出していないので,脊椎の特徴が何かしら,-saurusとつけるのをためらわしたと想像することもできます.もちろん,この時点ではSpinosaurus Stromer, 1915がすでに提唱されていますので,-saurusの使用はできませんでしたけどね.でも,-saurosでも,-sauravusでも,-sauroidesでもよかったわけで,やはり,-suchusを選んだのは,それなりの理由があるんだと思います.
これかそれか,のちに,Spinosuchusは恐龍類ではないと判断されてしまいます.そうなると,Spinosuchusについて語る人は,ほとんどいなくなってしまいます.だから,これ以上の情報はありません.
詳しいことは,いくつかの原著論文に当たってみるのがはやいのですが,私の環境では,それはほとんど不可能なので,あきらめてください.
べつに,検閲やら隠匿やらをしなくても,流通困難な情報というものはあるんです.
私は,図書館やら,学会やら,それを統括する政府組織やらのサボタージュだと思ってますけどね.なぜなら,現状「著作権」という言葉は,原著者のためにあるのではなくて,流通させる企業のためにある言葉ですからね(このことは,別の機会に…).
* USA:常識的には「アメリカ合衆国」と書くべきでしょうけど,これ明らかに誤訳なので,使いたくない.the United States of Americaですから,「アメリカ合州国」が正しい.
** von Huene:von Hueneについては「Halticosaurus の展開」を参照のこと.
*** suchus:suchus については「Dolichosuchus の展開」を参照のこと.
2010年3月24日水曜日
プリズム
歴史はプリズムのよう.見る方向によって見え方が違う.
誰がいったのかは知りませんが,確かにそう感じるときがあります.
今日はヘレン=ミアーズ「アメリカの鏡・日本」について.
前回のラルフ=タウンゼントはUSAの愚行を告発するという色合いが濃かったですが,ヘレン=ミアーズはそうではありません.
USAの側から見,日本の側から見,冷静な世界観を提唱しています.
タウンゼントには歴史観を脅かされましたが,ミアーズにはもっと深く冷静に歴史を見るべきであることを教えられます.
なるほど,マッカーサーが,この本を封印したわけが,よく分かります.
ひと言で言うと,「かわいそうな日本」
欧米のダブル=スタンダードに翻弄された「哀れな日本」が浮かび上がります.
欧米はやってもいいけど,おなじことを日本帝国がするとそれは「犯罪」だったのです.
オリンピックはもうだいぶ前に終わりましたね.
なにか,金(かね)にあかせて大量の選手団と役員団を送り込み,結果はまたもや,いまいちでしたが….
スポーツの世界でもルールが変わるということは頻繁にあるようです.
戦後,国際大会でも日本人がようやく勝てるようになり,日本にも世界レベルの選手もいることが示せるようになりました.
ところが,日本人選手が連続して「金メダル」を取ったり,「メダルを独占」したりということがあると,そのスポーツのルールが変わるということがしばしばあった(という人がいます.私は知りません.あまり興味がない).もちろん,公式には日本人がどうのこうのということではなく,選手の安全のためとか,より高度なスポーツにするためとかいう理由らしいですが,「どうも怪しい」と感じる日本人は多かったようですね.
今年の,冬季五輪では,浅田真央選手とキム・ヨナ選手の金メダル争いの余波で,日本人フアンと韓国人フアンの間で,主にネット上で争いが起きたようです.
しかし,そんなことをしている場合でしょうかね?
もともと,欧米で始まったオリンピックです.アジア勢がメダルを独占するなどという事態が続けば,またぞろ,欧米のダブル=スタンダードが顔を出すかも.
話を戻しますと,優秀な民族の集まりである欧米人(自分たちがそういっていた)には,劣等民族の集まりであるアジアを支配し,彼らを導くのは当然の義務でした.ま,外見上は植民地支配ということになります.
当時は,それが当たり前でしたから,欧米の優秀な生徒だった日本帝国も,ほぼ同じことをしました.表向きは,アジア各国の欧米からの独立を支援するということでしたけどね.
かくて,日本は勝てるわけのない戦争の泥沼に,どんどん踏み込んでいきました.
こういうと,日本は正しかったといっているように見えますが,そうではありません.欧米のルールがどうであろうと,それにのっかった日本は,やはり間違いを犯したのです.行った先の国々あるいは民族がどういう性向の持ち主か知りもせず,日本人と同じような考え方や行動をすると決め込むのが,間違いです.
昔,インドネシアを旅行したとき,ガイドの人が言ってました.
その昔,オランダが支配してたとき,われわれは「オランダ人万歳」と言ってました.日本人が来たとき「日本人万歳」と言いました.でも,心の中では,どっちもさっさと出てって欲しいと思ってました.と.
まったく,その通りでしょうね.
2010年3月19日金曜日
ラルフ=タウンゼント
「偽装の十年」との関わりで,ラルフ=タウンゼント氏の著書に手を出してしまいました.
訳本で読めるのは
タウンゼント, R. (1937-1940)「アメリカはアジアに介入するな!(田中秀雄・先田賢紀智,2005訳)」(芙蓉書房)
タウンゼント, R. (1933)「暗黒大陸中国の真実(田中秀雄・先田賢紀智,2004訳)」(芙蓉書房)
の二冊のみ.
先に,「暗黒大陸中国の真実」を読みました.
映画「砲艦サンパブロ*」の世界ですね.
「歯に衣着せぬ」タウンゼントの筆に,米国人がアジア人を理解するのは大変なことなのだろうと思いつつ,読み進めます.
すぐに,読むことに嫌気がさします.ホントにアジア人が嫌いなようです.蔑視?差別?
もっと読み進めます.
タウンゼントが中国人について書いていることは,日本人にも,現代日本人にも何割かは当たっているだろうと感じます.しかし,「日本と中国人」の章では,アジア人が理解できないのではなく,中国人を嫌いなのであることがはっきりします.
それにしても,日本人を持ち上げすぎだろうと….
不快感**この上ない本でした.
ところが,二冊目の「アメリカはアジアに介入するな!」は,タウンゼントの真意が理解できたような気がします.
すごく,リニアーな本です.
当時のアメリカ人で,こんなに公平な(もしくは日本よりの)人がいたなんて信じられませんね.ウソかと思う記述ばかりですが,裏付けのデータも示されてます.
我々が教えられていた歴史は複雑で,矛盾や不詳なところが多いのに対し,タウンゼントの世界観はすごく直線的で,理解がしやすい.こんな人が当時のアメリカ合衆国にいたのに,なぜ,日米は戦争になったのでしょうか.
歴史はプリズムのようで,見る方向によって見え方が違うといいます.
それにしても,これでは,我々の周りにある日本の近現代史が「黒だ」といっていることが「白だ」といっているに等しい.「濃い灰色」か「薄い灰色」の違いではなく,「黒」と「白」ほど違います.
読むほうは混乱する一方です.
対処法は,「足して二で割る」か,「両方とも無視する」かのどちらかになります.
私は歴史を専門としたことはなく,科学史をちょっとかじっただけなんですが,歴史ほど捏造されやすいものはないというのが実感です.
なかには,かなりの悪意もありますし,そうでないものもあります.
映画や小説,マンガやTVゲームなどで,ただ,作品を面白くするためだけに,なんでもない人物がヒーローになってたりするわけですが,それがどんどん美化されて,虚像が世論になってしまう.繰り返し,繰り返し,取り上げられていると,いわゆるプロの間にも,それを背景として心にもってしまう人まで出てくる.
例を挙げてもいいですけど,熱狂的なフアンが多いので,「炎上」でもされると,困りますから.って,それほどこのブログが読まれてるとは思えませんけどね((^^;).
それにしても,この歳になって,歴史観をまた組み立て直さなければならないとは….
* ちなみに,サンパブロは「聖人パブロ」かと思っていたのですが,じつは「sand pebble=砂・砂利」でした.たぶん,「つまらないもの」という意味の皮肉なんでしょうね.しかし,どこにでもよくあるものが,即,つまらないものというのも,偏見ですよ.
** じつは,心当たりがあります.ごく初期の香港映画(ジャッキー=チェンなどがでてくる)の主人公は,映画の主人公としてはあってならないほどインモラルな行動が描かれていることがありました.昔よく読んだ「水滸伝」のヒーローなども,「エッ」と思うような描写があります.まさか,それが中国人=漢民族にとっては当たり前のことだとは…思いたくないのですけどね.
2010年3月7日日曜日
Saltopus の展開
学名辞典(恐龍編)いじり(その7)です.
Saltopus elginensis Huene, 1910という恐龍がいます.
Saltopusはsalto-pusと分けられる《ラテン語》の合成語で,「踊る」+「足」という意味です.
saltoは,じつは日本語化しています.
体操競技で有名な技「ムーンサルト」は「moon-salto」と綴ります.これは和製英語とされてますが,和製ラテン語でもあります.moonは英語で,saltoはラテン語ですからね(salto=「踊る」は,salio =「跳ぶ」から派生したそうです).
より正確にラテン語化するとすれば,luna=「月」の語根[lun-]に,saltoの名詞形であるsaltusを合成して,「ルーン・サルトゥス[lun-saltus]」ですかね.
+++
語源的にはまったく関係がないようなんですが,似た言葉に「鮭」=《英語》「salmon」<《ラテン語》「サルモー[salmo]」と,「塩」=《英語》「salt」<《ラテン語》「サール[sal]」があります.
秋に,川に溢れるようにやってきて飛び跳ねる(=salio, salto)鮭(=salmo).一挙にやってくるので,獲ったあと保存には「塩(= sal)漬け」にするしかない鮭.
なんか関係があるような気がします.
+++
種名の elginensis は,産地であるスコットランドの地名[Elgin]の《形容詞化》で「Elgin産の」という意味.この標本はElgin地域の上部三畳系(後期三畳紀)の地層から産出しています.
なお,時計のメーカーとして著名なエルジン[Elgin]は,USA,イリノイ州のエルジン市にあったことから付いた名前です.たぶん,エルジン市の開基者がスコットランドのElgin出身だったんでしょうね.
2010年3月5日金曜日
「偽装の十年」
久しぶりに,面白い本を見つけてしまいました.
木村肥佐生(1990)「チベット 偽装の十年(スコット・ベリー編,三浦順子,1994訳)」です.
「Lukousaurus の展開」を書いたときに,R. C. アンドリュース(1926)「恐竜探検記(小畠郁生,1994訳)」を読んでいたのですが,そういえば,モンゴルやチベットの地理も歴史もろくに知らないことに気付き,適当な本を探していたら,この本にぶつかったという次第です.
実に面白いです.
目が悪くなってから,長時間本を読み続けることは,ほとんどできなかったんですが,ほぼ一気に読みあげました.おかげで眼がショボイ,ショボイ((^^;).
ウソかと思うくらいの「冒険小説」ですが,これは一日本人青年が実際に体験した「事実」だから,すごい.
おかげで,モンゴルの,チベットの,そして中国の真実が少しだけ理解できたような気がします.
ついでに,論客ペマ=ギャルポ氏が,なぜ日本にいるのかも判りました.
まだ読んでいない関連する本が何冊かありますので,当分退屈するヒマもないようです.
2010年3月1日月曜日
Lukousaurus の展開
学名辞典(恐龍編)いじり(その6)です.
Lukousaurus yini Young, 1948という恐龍がいます.
LukousaurusはLukou-saurusの合成語で,Lukouは漢字で「蘆溝」.そう,あの「蘆溝橋事件」の蘆溝橋のある蘆溝ですね.
蘆溝橋事件が起きたのが1937年.日本の敗戦が1945年.Lukousaurus が記載された1948年といえば,極東軍事裁判の判決が出た年です.この年,朝鮮半島は南北に分かれ,大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が成立しています.翌1949年には中華人民共和国が成立し,蒋介石の「中華民国」は台湾へと脱出します.さらに,1950年,朝鮮戦争勃発.
こんな激動の時代にも,中国では,恐龍化石の記載なんて,浮世離れしたことがおこなわれていたんですねえ.
さて,種名のyiniはyin-iという合成語で,[-i]は人名について形容詞化する語尾です.従って,「Yin氏の(に属する)」という意味です.Yin氏というのは不詳ですが,どうやら,中国地質調査所所長であった「尹」という人物らしいのですが,「名」の方は見いだせませんでした.
記載者のYoungは中国人古生物学者の楊鍾健[Young Chung-Chien]のこと.なお,文献によっては,楊鍾健[Yang Zhongjian]となっているものもありますが,後者は,中華人民共和国成立後に一般化したピンイン表記というもので,現代の中国語は,みなこの方法で表します.
しかし,学問の世界では,最初に使った名前を使い続けるのが常識で,こういうことは,国策が関係していようが,なんだろうが,あってはいけません.
同様なことで,女性の日本人研究者で,結婚後,論文用の名を変える人がいるそうですが,信じられないことです.そんな事情は,他の研究者には無関係なことですし,そのことにこだわっていると混乱を助長するだけなので,名前の表記を変えたら,別人と見なしてもいいことになっています.というよりは,まあ,そうせざるを得ないのですね.
もっとも,ピンイン表記はあくまでピンイン表記(つまり中国語)なのであって,欧文表記ではないので,英語で論文を書いたら,名前はピンイン表記ではなく,欧文表記を使うべきですね.
登録:
投稿 (Atom)