2010年3月27日土曜日

Eon

 
 プライベートな「地学事典」(Logophile上で動かしてます)の整理をしていたら,とんでもない事実が発覚してました.
 へたすると,大学の授業(一時期,非常勤講師をやっていた)や,一般市民相手の講演で「ウソ」を言っていたことになるのね~~(- -;).

 Eon =「累代」という地質学用語があります.

 「古生代・中生代・新生代を合わせて顕生累代[Phanerozoic Eon],先カンブリア時代を隠生累代[Cryptozoic Eon]と呼ぶ.ISSC報告(H.D.Hedberg (ed.), 1976)」と「地学事典」(平凡社)にも出ています.
 簡単に言ってしまえば,「地質時代」は大きく二つに分けられ,それは「生物の痕跡が豊かな顕生累代と,生物の痕跡が見つけにくい隠生累代の二つである」ということです.

 ところが,いつの間にか「隠生累代」という言葉が消えてしまって,「累代」には,下の四つがあることになっています.

顕生累代[Phanerozoic Eon] ┬新生代[Cainozoic Era]*
             ├中生代[Mesozoic Era]
             └古生代[Palaeozoic Era]
原生累代[Proterozoic Eon]
太古累代[Archaean Eon]**
冥王累代[Hadean Eon]

 もともとは

顕生累代[Phanerozoic Eon] ┬新生代[Cainozoic Era]cenozoic
             ├中生代[Mesozoic Era]
             └古生代[Palaeozoic Era]
隠生累代[Cryptozoic Eon]  ┬原生代[Proterozoic Era]
              ├始生代[Archaeozoic Era]**
              └冥王代[Hadean Era]

 だったんですけどね.

 ひどいモンですね.累代[Eon]というランクは「生命の痕跡が顕著である」vs.「そうでない」というわかりやすい等価の基準で決められていたのに,そうでなくなってしまいました.

 そういえば,昔は,生物の分類は「動物」と「植物」という二つの対立する概念から始まってましたが,今は「真核生物」-「古細菌」-「細菌」に分けるのと似てますね.
 ちなみに,「真核生物」には「動物」-「植物」のほか,「菌」や「原生生物」まで入ってますから,イメージ的には,ほぼすべての生物が入っています.まるで,99.99:0.01みたいな,バランスをひどく欠いているような気がしますが,細胞レベルの「相違」ということでは,これはリーズナブルな面もあるのです.

 そういえば,原生代の開始を真核生物の出現とする研究者もいるので,それと密接にリンクしているのでしょうね.
 しかし,「顕生累代」と違い,「隠生累代」では(文字通り)生物の痕跡はほんの僅かしかありません.「真核生物の出現」なんていう基準は,基準としてはスマートでも,現実に判断できるかというと,疑問符がたくさんつきまとってしまいます.
 区別のつかないもの,疑問の多いものは,一括しておいたほうがスマートなので,「隠生累代」は「隠生累代」として一括し,その中で,「冥王代」-「始生代」-「原生代」の定義や区分について議論してゆくほうが(つまり,これまでのやり方でのほうが)わかりやすいと思いますけどねえ.最悪の場合は,「隠生累代での時代区分は『生命の痕跡』を基準としない」なんてこともあり得るかも.

 逆に,「冥王累代」-「始生累代」-「原生累代」を使用すると不都合なことがたくさん出てきます.それは,地質時代はその地層から産出する「化石(=古生物の痕跡)」で決めるという前提があるからです.繰り返しになりますが,始生代の始まりも原生代の始まりも化石では決められないからです.なんたって,化石が非常に乏しい時代ですからね.
 冥王代にいたって,生命が発生する前の時代ですから,時代名そのものに[zo-]=「生物(動物)」の字が入ってすらいない.「原生累代」-「太古累代」-「冥王累代」なんて,分けるほど情報がない(顕生累代の各代の情報量に比べれば桁違い:無いと言っても過言でない)のにもかかわらず,「代」から「累代」に格上げする理由なんて,どこにあるんでしょうかね.
 
 とはいっても,顕生累代の研究は頭打ちで,隠生累代のほうが注目を浴びてるようですから,しょうがないのかもね(こういうこと「うるさい」ことを言うと,嫌われたり,無視されたりするんです.前に,Paleogene=「古第三紀」ではないし,Neogene=「新第三紀」でもないって,いってたんですが,その時は,まるっきり無視されていました.ところが,最近は「第四紀の定義」に絡んで,どう訳すかで,大騒ぎになってますね).


* 新生代[Cainozoic Era]:現在,一般には「新生代[Cenozic Era]」と普通に書かれていますが,新生代[Cainozoic Era]が正しい.詳しくは「新生代」参照.

** 太古累代[Archaean Eon]:「太古代」という不正確な書き方をする人が,けっこう,いますが,それだと,「太古代[Archaean Era]」と区別がつかないのでやめてほしいと思います.つい,「消防署の方から来た」というのを想い出してしまう((^^;).
 なお,[Archean]とつづられている場合もがありますが(というよりは英語圏ではこれが普通のようです),これはいけません.元々は,ギリシャ語の.アルカイオス[ἀρχαῖος]」=「始源の.古い」をラテン語綴り化した[archaeos]をさらに《語根化》した[archae(o)-]ですから.
 たぶん,英語訛り(日本人の耳には区別がつかない発音が多い(^^;,これは英語より米語の方がひどい)で,「アーケァン」とやるので,逆に,もともと綴りにあった[a]を省略するということをやらかしてるのだと思います.曖昧な発音が綴りを変える.こういう例は山ほどありますね.(新生代[Cainozoic→Cenozoic]」など)
 また,[Archaean Eon]を「始生累代」と訳す人がいますが,これは完全な誤訳です.[Archaeozoic]には[zo-]=「生物(動物)」という語根が入っていますが,[Archaean]には入っていないからです.
 注意してみてください.地球上にまだ生命が発生していない時代として定義されている[Hadean]=「冥王代」には[zo-]が使われていないでしょ.

 

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