2013年1月31日木曜日
Scaphitesの展開(Ⅱ)
1871年になって,ミーク氏[Fielding B. Meek (1817-1876)]が,スカファイテスに似たディスコスカファイテス[Discoscaphites]という属を提唱しています.ミークは米国の地質学者であり古生物学者だった人.たくさんのアンモナイトを記載しています.
ディスコスカファイテスは,ギリシャ語のディスコス[δίσκος]=「円盤」をラテン語化(ディスクス[discus])し,接頭辞「ディスコ・[disco-]」としたもの.
スケッチを見てもらうとわかりますが,確かに「円盤形のスカファイテス」ですね.
ラテン語化したディスクスは,さらに英語化してディスカス[discus]になっていますので,なじみ深いかと.
アンモナイトの仲間では,有名はパキディスクス[Pachydiscus]が,この語を使っています.意味は「厚い円盤」.円盤投げの円盤にそっくりですね.北海道でも,大型のこの仲間が化石として産出します.
パキディスクスは,1884年にチッテル氏[Karl A. von Zittel (1839-1904)]によって提案された属名です.チッテル氏は独逸の古生物学者で,古生物に関する教科書をたくさん書いています.
パキディスクスについては,後日また詳しくやる予定.
ディスコサウルス[Discosaurus Leidy, 1851]という属名も提唱されています.
「・サウルス」がついていますけど,こちらは海棲爬虫類.
しかも,米国・アラバマ州産の部分的な尾椎から創設されたもので,一部はエラスモサウルスの仲間と考えられ,残りは新属新種とするにはあまりにも部分的すぎると云うことで,「ノーメン・ドゥビウム[nomen dubium]」=「疑わしい名前」とされ,属名自体も「ノーメン・バーヌム[nomen vanum]」=「意味のない名前」として,使用されていません.残念.
2013年1月30日水曜日
Scaphitesの展開(Ⅰ)
スカファイテス(もしくはスカフィテス)[Scaphites]というアンモナイトがあります.
数字の「6」みたいな形をしている不思議なヤツです.
なにが不思議って,この形からは,こいつの人生は「ここで終わり」ってことが想像されてしまうからです.アンモナイトは開口部から軟体部が出ていて生活しているはずです.そうすると,軟体部が最初の巻いた殻の部分にぶつかっているはずですから,これ以上成長できないわけです.
だから,彼の人生はこれでお終い!.
まったく,生き物の世界というのは不思議なことがありすぎます.
+++
さて,このスカファイテスから,学名についての雑学を探ってみたいと思います.
その前に,スカファイテスを最初に記載した人ですが,ジェームス=パーキンソン[James Parkinson (1755 - 1824)]といいます.Parkinsonは英国の薬学者で外科医,博物学者で政治活動家でもありました.
要するに,当時の知的階級というヤツですね.
パーキンソン氏は「パーキンソン病」の発見者でもあります.
なお,この学名は日本では「スカファイテス」と表記されるのが一般的なようですが,もとは「舵手」を意味するギリシャ語[σκαφ_ίτης]ですから,「スカプイテース」となるのが正しいはずです.
なお,英語的には「スカ・ファイ・テス」と発音しているようです.つまり,現在の日本で使われているのは,カタカナ化英語ということですね.
ギリシャ語のスカプイテース(=舵手)ですが,なぜこの名前が選ばれたのかは,パーキンソンの原著にも書いてありませんので不明です.
ちょっと探ってみます.
ギリシャ語の「スカプェー[σκάφη]」は「えぐり掘られたもの」という意味で,小舟(たぶん丸木舟)を意味します.これに接尾辞「・イテース[-ιτης]」=「《化石.鉱物.塩類.製品.身体の部分の属性》などを示す」が合成されたものですから,スカプイテースは「小舟の舵手」だったのだろうことが推測できます.
しかし,たぶんですが,パーキンソンはそうではなく,「えぐり掘られたもの」に「石(化石)」を意味する語尾をつけて合成語をつくったのだろうと想像します.
6の字型の内側が「えぐり掘られたように」見えるからです.
パーキンソンは模式種を指定していません.ま,昔のことですから,記載もいい加減だったんでしょう.
1813年になって,サービィ[Sowerby, J.]が模式種[Scaphites equalis]を指定しているようです.
種名[equalis]は意味不明.たぶん,ラテン語の[aequalis]=「等しい」なのでしょうけど,「等しいスカファイテス」って意味不明.
まあ,そんなことも,間々あります.
[続く]
2013年1月29日火曜日
ダイアモンド・ダスト
凍てつく朝
輝くダストが
舞う時間
宮武軟骨
ただの氷の細片に,ただ光り輝いているというだけで,何の意味もなくうれしくなる.
指先が痺れてきたので,うちに入る.
なぜか,今日もがんばろうと思う.
2013年1月27日日曜日
経験
まあ,そんなことじゃあないかとは思ってましたけど.
この経験は活かされるのでしょうか.それとも忘れ去られるのでしょうか.
「あのとき、大川小学校で何が起きたのか」(池上正樹・加藤 順子,著)
高校に地学を!
2013年1月18日金曜日
千代川謙一さん
千歳化石会名誉会長の千代川謙一さんの訃報がとどきました.
又聞きの又聞きなので,詳細は不明.ただ,「昨年末に亡くなった」…とだけ.
本人の意志で「誰にも知らせるな」ということだったらしいです.
年末に,本人から電話があったし,今年も元気で奥さんといっしょに「道の駅巡りをする予定」という年賀状ももらいました.
もしかしたら,その時には,すでに覚悟していたのかもしれません.
そんな気がします.
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千代川さんは,ある意味「戦友」でした.
ある日突然,穂別町立博物館を訪れた千代川さんは,私を「値踏み」するような目で話しかけてきました.
化石(マニア)の世界は,かなり怖い世界でもあります.
「化石が好き」といいながら,実は,化石の裏に付いた「値札」や化石がもたらす「虚名」が「好き」な人たちがたくさんいる世界でもあります.
公設博物館の学芸員でありながら,化石バイヤーみたいなことをしている人たちも,いなかったといえば,ウソになります.
だから,千代川さんも私を「値踏み」したのでしょう.
でも,すぐに打ち解けて,その時連れて歩いていた「近所の子どもたちやその親に紹介していいか」と聞かれました.
その時から,長いつきあいが始まりました.
機会あるごとに,一緒に山歩きをして,化石採集をしました.
千歳化石会内の了解事項として,採集した化石を,一時的に自分のものとするのはかまわないが,専門家が興味を示した場合は寄贈することというのがあります.
もう一つは,定期的に,学校・博物館・資料館などに化石をまとめて寄贈するので協力すること,というのもあるそうです.
実際,かれらは,無償で化石の発掘に協力したり,重要な化石が見つかったらしいという噂を聞けば,出かけていって確認し,地元の教育委員会等と交渉し,発掘まで漕ぎ着けたりもしています.
小平町での長頸竜発掘は一から十までかれらの成果ですし,1993年の穂別町での長頸竜化石の発掘にボランティアで参加してくれています.ほかにも数え切れないぐらいたくさん….
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千代川さんのお宅に,なんどもお邪魔しました.
化石会会長の邸宅には,まったくふさわしくなく,化石はほとんど置いてありませんでした.
気に入ったものはしばらく置いておくけど,みなどこかに寄贈してしまうのだそうです.
ほかにも,化石会主催者の邸宅にまねかれたことが何度かありますが,千代川邸とは,まったく異なります.どこだって,山ほどの化石とノジュールが積み上げられています.どれも,博物館級の化石ばかり.
ただ,よく見ると,裏に小さい数字の付いたシールが貼ってあります.
「27.00」とか.
あとで,事情通にきくと「それは「2万7千円」という値札だよ」とのこと.
なるほど,「化石で家を建てた」とか,「化石で息子を大学に行かせた」と豪語するひとたちがいたわけです.
日本では,化石を保護する法律なんてありませんから「勝手にとって勝手に売っても問題がない」という人もいます.昔の,某国立博物館の学芸員だった人がそういってましたし,某大学教授も主張していました.
そうなのかもしれません.
ただ結果としては,現在,学生さんがアンモナイト古生物学者を目指してフィールドに出かけても,化石を採集することは,もはやほとんど不可能です.表層部の化石はすべて持ち去られているのです.
沢を歩けば,数歩ごとにアンモナイトの入ったノジュールが落ちていた昔を知る私としては,暗い気持ちになります.
失礼.別に一部のマニア(と,マニアに毛の生えた程度の専門家)の悪口を書く気だった訳ではありません.
千代川さんとそのグループは「そんなことはしなかった」と,示しておきたいだけです.
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千代川さんは,事故で視力を失いました.
それでも,がんばって,周囲の支えもあり,化石会を続けていました.会長の座は別の元気な人に譲りましたが….
私も,いろいろあって,あの町で学芸員を続ける自信と気力がなくなり,生まれ故郷の旭川に戻ることにしましたので,千歳と旭川に離れてしまい,いっしょに山歩きすることもなくなりました.
でも,あの世でいっしょに山歩きする日も,そう遠いことでもないような気がするので,楽しみがひとつ増えました.
たぶん今頃は,笠巻さんといっしょに長頸竜化石の発掘に勤しんでいることでしょう.
私の分,残しておいてください.
合掌.
千歳化石会が,某資料館に寄贈した化石(一部)
小平町長頸竜発掘の準備を進めるための打ち合わせ中
左:千代川謙一会長(当時)
中:仲谷英夫さん(現・鹿児島大学教授)
右:若き日の私
後:小平町教委課長
2013年1月12日土曜日
学名の英語的発音がダメな理由
Montanoceratopsという恐龍がいる.
Montanoceratops Sternberg, 1951であるから,Sternberg氏が1951年に記載した恐龍である.
この恐龍の英語的発音をネット上からひろってみると…,簡単にいくつかひろうことができる.
以下に四つばかし.
Montanoceratops =《英》: mon-TAN-o-SER-a-tops
Montanoceratops =《英》: mon-Tan-o-Sair-a-tops
Montanoceratops =《英》: mon-TAN-oh-SER-ah-tops
Montanoceratops =《英》: MON-tan-oh-SAIR-uh-tops
この表記法は,大文字と小文字の違いは大きい声と小さい声=つまり,アクセントを意味しているらしい.また,アルファベットの綴りは,「英語的発音」ではなく,日本人が慣れ親しんだ「ローマ字的発音」を意味しているらしい.そうでなければ,記述に意味がないと思う.
さて,英語的発音はサンプルを採集した人によって,まったく異なることがわかると思う.
語根であるMontanaは,北米の地名であるのにもかかわらず,かくも読み方が違うのだ.
結局,英語の単語は「すでに発音法を知っている人でないと発音できない特殊な言語」であるので,世界共通語としては,不適切なものであることがわかるであろう.
世界共通語としての「学名」は英語的発音ではなく,ラテン語風の発音つまり,「日本人が普通にローマ字読みするようにやる」のが一番適切なのである.
2013年1月7日月曜日
雪
軽口を
叩く気も失せ
静かに降る雪
宮武軟骨
ブリザードの後処理が終わらないうちに,また静かに雪が降り続いています.
肩が上がらない((--;).それでも,生活のため最低限の除雪はしなければ….
授業の準備もあるし….
ま,自然があいてでは仕様がありません.けどね.
2013年1月4日金曜日
酷い映画
昨夜,TVで放映した「キリンノなんとやら」という映画を見た.
つい最後まで見てしまったが,見たことを後悔するような映画だった.
劇団ひとり扮するところの教師が,最低の悪党に描かれていた.
少年が犯した「犯罪の原因が教師にある」ということだ.
そんなバカなといいたい.少年にモラルが無いのは,基本的に「親」の責任だ.
たまたま,出会った教師の責任であるはずがない(もちろん,親に教えてもらえなかった「モラル」を教師のおかげで身につける子どももいるであろうが).
原作者は,著名なベストセラー作家らしいが,その作品は推して知るべしだ.
たぶん読んだことはないと思うが,これからも読む気はない.あまりにも「薄っぺら」である.
劇団ひとり扮するところの教師は,夜間に至っても自分が担当している水泳部のために働いている素晴らしい教師である.
原作者は教師の現場を知らないに違いない.
ときどきニュースになるが,部活の生徒を連れて,活動予算がないが故に,自分の車で,自分で運転して,たまたま事故に遭遇した教師が槍玉にあがっている.
何の見返りもないのに,責任ばかりが重くのしかかる.
現場では,そのため心を病む教師も次第に増えているという.
いつになったら,こんな事態は解消されるのだ.
それを,あの主人公の刑事は「教師の資格がない」と罵った.
刑事は犯罪を暴くのが仕事かもしれないが,人を裁くのは仕事ではない.
実につまらない映画だった.
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