ポロナイ煤田採炭の事業は,一周年通して操業するヿ能はず.春夏秋の三季を以て専ら之に従事し,冬期は翌年度探炭準備の爲め唯た沿層坑掘進のみを施せり.其然る所以の者は,冬季は積雪の爲め汽車運轉を中止し,随て運炭の途なく,且つ山元にも貯積すべき炭庫少きが爲め,斯の如く計畫せし者なり.故に年々掘採する炭量も,實に微々たる者にして未た需要の半をも充す能はず.二十年度採出炭量の如きも塊炭(六分目篩を通過せざる者)五万三千噸,粉炭(六分目篩を通過せしもの)壼萬五千噸.合計六萬八千噸の豫算なり.又,煤田開始明治十二年より二十年十月に至る採出塊炭總量は拾八萬七千〇二十一噸二分三厘なり.
附言:目下採炭季節變換の計畫中なり.
(採炭法)
「ポロナイ」の探炭法は「ロングウォール・システム」*1にして,先つ第一着に坑道を掘鑿し,後採炭す(或は鍎入*2と稱へ,岩石を掘鑿し,煤層に會し後,層に沿て掘進す).即ち,炭層に會ひ,其層に沿ひ,二條の坑道を掘鑿す.其上部の者を横風坑(平均高十四尺巾四尺)と云ひ,下部の者を坑道(六六の合脊)と稱す.又,坑道及び横風坑間に小坑を開鑿す.名けて竪風坑或は小風井(四四の合脊)と云ふ.横風坑及小風井は通風の爲めに設る者と雖とも,小風井は後日石炭漏斗口となさんため三拾尺毎に設く.其坑道横風坑間炭柱の厚さは十尺乃至二十尺を通常とす.
本坑々道は留内高さ七尺幅九尺.仝坑内各沿層坑道は留内高さ六尺幅九尺にして,共に二條の重道を布設す.而して瀧ノ澤及ひ本澤の各坑道は,留内高さ五尺幅五尺となし,車道は皆一條線にして,處々に岐線を造り,炭車の往復を便にす.
各坑道共掘進するに從ひ,下磐を切り,車道を据付る者とす.其軌鐵は鋼鐵にして,一碼の重量拾貳听及ひ拾六听の二種を用ゆ.坑道中,上盤墜落の恐れある處には大角留,或は中角留を据付け,風坑に至ては小角留を据へ付る者とす(角留は普通鳥居形の留枠なり).
各坑道とも延長するに随ひ上部の石炭を採掘す.其法二あり.第一は横風坑上部に切場(採炭場)を設け直に掘採し,之を坑道に卸し,坑外に運出す.第二は坑道中適宜の場所を撰み昇リ風坑(上部に向ひ堀り昇る小坑也)百五十尺或は二百尺乃至三百尺を掘盤し,此處に自轉車を据付け昇リ風抗ヲ斜道となし,自轉車の左右に中切と稱へ小坑道を造り,軌鐵を布設し第一着に中切上部の煤炭を採出し,右車道に落し是を自轉車に運ひ,斜道に依て坑道に卸し坑外に運出す.而して中切上部煤炭掘採を終れば坑道並に中切間の石炭採掘に着手す.即ち,第一に於ては坑道の上部三四百尺乃至五百尺の石炭を漸次上向に掘採す.第二に至ては之を中断し,二段或は三段に取るの工風にして目下第二法を多く用ゆ.
現今採炭するに「ブラスチング」(火薬を以て破裂せしめ採炭する法)を使用せり.之を施すには第一着に透シ掘と稱ヘ鶴嘴を以て炭層の下部を掘採(巾五寸深さ三尺五寸許)し炭層と下磐との間に空隙を生せしめ,後其炭層中良處を撰み之に發破孔を掘り(發破孔は徑八分深さ約三尺にして火藥二十目を籠め,四尺許りの導火線を付し之に火を点す)發破を行ふて炭塊を得るなり.
漸次探炭するに従ひ上部即切塲に通風不良となる此時に當ては,該坑ロより數十尺高き處に於て仝煤層露出の点より風坑(名けて風井と云ふ)を掘り下け,採炭場に開通し,一時の通風を圖る.然れとも一抗を採炭するために數風井を掘鑿せざるを得ず,眞に策の得たる者と云ふ可らず.
火薬孔を掘るには通常径七分長さ一尺乃至五尺の鋼製八角鑽て用ひ,目方四百目乃至五百目の手槌を揮て之を捶ち,一捶一旋時々水を孔中に注で鑽鋒を援け,且つ屢々岩屑を掻き出し,深さ通例三尺に至れば凡そ二十目の火藥を籠めて,長さ四尺許の導火線を付し,之に火を點して破裂を行ふ.其導火線は渾て佐渡製の者を用ゆ.又漏水の甚たしき塲處,或は岩質堅硬にして火藥を用井難き所には爆裂藥を用ゆるを常とす.
坑道風坑風井等の掘鑿並に採炭及ひ支柱の業は悉皆請負稼にして,掘鑿は尺數を以て賃金を拂ひ,採炭は噸數,支柱は員數に因て給する者とす.
良民及囚徒に係はる請負賃錢及諸職工賃錢は左表(下表)の如し.
附言:囚徒賃銭は一ヶ年間使役囚員と支拂ふべき金額とを豫め計算して定るものに付き,年々多少の増減あるべし.右(上)は普通賃錢にして事業の難易により増減す.
右(上)普通の單價にして事業の難易に因り科程並に賃錢を變更す.
採炭には渾て囚徒のみを使役す.其請負賃錢及一囚科程は左(下)の如し.
因徒にて採炭壱噸に係はる雑品費は左(下)の如し.
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*1「ロングウォール・システム」:Longwall System:下図参照.坑道堀が主体ではなく,二本の坑道を掘ったあと,その間の炭層を壁(longwall)に見たて,炭層すべてを掘り出す方法.
*2:鍎入:鍎入坑道(とつにゅうこうどう).現在はほとんど使われない用語.