2013年5月29日水曜日

ウェーゲナー伝説

 
ウェーゲナーの「大陸移動説」はプレートテクトニクスの原形もしくは始祖といわれています.
PT論のお話しをするときには,必ず彼の名前が出てきます.
しかし,南北両米大陸と欧亜-阿大陸が別れて,大西洋ができたという説は,ウェーゲナーが最初ではありません.

ウェーゲナーの「大陸移動説」発表を遡ること約50年前,1858年にアントニオ=スナイダー-ペレグリーニ[Snider-Pellegrini, A.]が大西洋はひとつの大陸が東西に別れてできたという説を発表しています.

それでは,なぜ「PT論の始祖」という栄冠はスナイダー-ペレグリーニの頭上には輝かなかったのでしょう?

それは,もちろんわかりません.
でも,歴史を独学でやってみると,なんとなくヒントがあります.

歴史は記述ですから,記述漏れがあるし,見方によっていろいろ解釈が異なるのが当たり前です(だから,歴史学は科学ではないのですが).歴史は地球上で起きたことの記述ですから,すべてが記述されているわけではありませんし,記述が連鎖しているとも限りません.

恣意的に事件を選択して,点と点を繋ぎ,勝手な解釈をすることが可能な“学門”なのです(誰かに師事していれば,きっとその影響を受け,その見方しかできなかったと思います).
だから,いまだに「日本は侵略などしていない」とか,「戦争犯罪とされていることの一部は起きていない」とか,主張できるわけです(逆もまた真).
ましてや,日本側の記述と,他国の記述では当然違うことが書かれていますし,それについての解釈となると,180度反対のことも可能になるわけです.

同様に,論争の最中につい投げかけてしまった「不適切な言葉」を繋いでゆけば,PT論に反対していた地質学者を最低の悪党に仕立てることも簡単です.ましてや,それが生き残った勝利者の著作であれば,な・お・さ・ら

さて,スナイダー-ペレグリーニに話を戻します.
スナイダー-ペレグリーニの頭上に栄冠が輝かなかった理由の一つは,彼は大西洋の展開の原因を「ノアの洪水」に求めていたらしいです(らしい,というのは原著を読むことができないので,引用したものを信じるしかないわけです).
PT論の始祖が「ノアの洪水の信者」では,いかにも(科学的に)都合が悪いですね.

もう一つ.
ウェーゲナーの大陸移動説は「地質学者」によって迫害にあい,ウェーゲナー自身は探検中に非業の最期を遂げています.
これは「ヒーロー」の素質充分.

かくして,PT論の始祖という栄冠は「ウェゲナー」の上に輝いている…と,いうわけです.
歴史学が科学でないなら,科学史とくに地学史は,まだもの凄く幼稚な学門です.常識はウソだらけ.事実の発掘もほとんど進んでいませんし,それをいいことに,いわゆるホイッグ史観で「今現在」歴史を書いている人たちも多数いるわけです.
よい子は決して,だまされてはいけませんよ((^^;).
 

2013年5月27日月曜日

デジタル顕微鏡(×)→デジタルルーペ(◎)

 
面白いものを見つけました.

ただし,商品は「デジタル顕微鏡」といってますが,「デジタルルーペ」ですね.

最大倍率はほとんど意味をなしません.

でも,×10~×17だと,下の写真のように充分使えます.


授業でも使ってみました.
その場で見つけた微化石を提示できます.
なかなかいい.


でも,最高倍率は意味ないですし,シャッターとズームボタンがいっしょで,しかもかなり押し込まなければシャッターはおりませんので,ぶれやすいなど細かいところは残念.
日本のメーカーが作れば,もっと実用的な倍率と,扱いやすさを追求してくれるのでしょうけどね.

しかし,この「デジ顕」は(中国の無名メーカー製ですが),もう日本のメーカーがなくしてしまった,アイディアを実現してゆく力や貪欲さを感じます.
一世を風靡した日本のカメラメーカーが衰退してゆく中,非常に羨ましい.
 

2013年5月26日日曜日

池田清彦の本

 
ひさびさに,池田清彦氏の本を買って読んだ.


    


明石家さんまの酷い番組に出演してるのをみてあきれかえり(・o・),久しくこの人の本を見つけても買っていなかったのだった.

ないが酷いって,共演者の大(?)先生方が,ダーウィニズム的解釈で法螺話をしているのに,池田大先生はひたすらニヤニヤ笑っているばかりなのだから.
本当に,この構造主義生物学の論客と,TVの池田大先生とは同一人物なのかと,いまだに疑っている.

でも,やはりこの人の話は面白い.
昔から,ダーウィニズムはなんかおかしいと,素人ながらに疑問に思っていたことを,スパスパ切ってくれるのだから.もし,この人がそばにいたら,生物学を専攻していたかもしれないと,思っているぐらいだ.

でも,52頁,「メガネウラ」がいたのは「石炭紀」であって,「ペルム紀」ではありませんよ.大先生(^^;.
 

2013年5月18日土曜日

「わかりやすい」ということ

 

授業で使えるネタはないかと,最近発行された地球科学ネタの本を,いくつか購入しました.
もの凄い違和感.


なにがってよくわからなかったんですが….
お金のかかったイラストと,めったに見に行けるものではない場所の写真が多用してあり,確かに「分かりやすい」と評判がある本だと思われます.
でも違和感.


「授業で使えるネタはないな」と数ヶ月放置したあと,片付けるために中を見てみました.
今度は分かりました.
「わかりやすい」ということは,ウソや間違いたくさんの意味のない情報が混じりやすいということでもあります.


たとえば,ある本の220頁の図.
「ウマの進化」の図が載っていますが,本文には説明はありません.まあ,図だけでわかるといえばわかるんですが….

ここに使われている「ウマの系統図」の原図は非常に有名な図です.
でもここでは,全く意味のない“イラスト”になっている.
なぜこんな面積を持った分岐図になっているのでしょう.

それは原図を見ればわかります(G.G.シンプソンの原図が見つからなかったので,それを引用したMüellerの図を借用しました.だから英語ではなくドイツ語です).
描かれた「枝」のひとつひとつは分類群(ここでは属名)になっています.原図の「枝のひとつひとつには意味がある」のです.
それが,ここではただの背景になってしまっている.

もっと非道いことがあります.
この系統図で,左右に枝を伸ばしているわけは原図の上部をみてもらえばわかります.左側は「南米」,中央部は「北米」,右側は「旧世界(おもにアジア)」に分けて説明されているのです(普及書のイラストには,それが欠如している).
この原図は,北米で発生したウマ科の生物が,北米大陸が南米大陸やアジアとつながったときに「移民を開始し,別な属が生まれる」ことを示しているのです.

そういう情報が一切なくなってしまって,単に古い方が「森林のウマ」,新しい方が「草原のウマ」という情報しかなくなってしまっています.
それだけなら,中新世の始め頃に一本線を引いて,下半分を「森林のウマ」,上半分を「草原のウマ」とするだけでいいのにね.

そのうち,“地質学ジョーク”として使うことを考えようっと.
それにしても,残念.