PT論のお話しをするときには,必ず彼の名前が出てきます.
しかし,南北両米大陸と欧亜-阿大陸が別れて,大西洋ができたという説は,ウェーゲナーが最初ではありません.
ウェーゲナーの「大陸移動説」発表を遡ること約50年前,1858年にアントニオ=スナイダー-ペレグリーニ[Snider-Pellegrini, A.]が大西洋はひとつの大陸が東西に別れてできたという説を発表しています.
それでは,なぜ「PT論の始祖」という栄冠はスナイダー-ペレグリーニの頭上には輝かなかったのでしょう?
それは,もちろんわかりません.
でも,歴史を独学でやってみると,なんとなくヒントがあります.歴史は記述ですから,記述漏れがあるし,見方によっていろいろ解釈が異なるのが当たり前です(だから,歴史学は科学ではないのですが).歴史は地球上で起きたことの記述ですから,すべてが記述されているわけではありませんし,記述が連鎖しているとも限りません.
恣意的に事件を選択して,点と点を繋ぎ,勝手な解釈をすることが可能な“学門”なのです(誰かに師事していれば,きっとその影響を受け,その見方しかできなかったと思います).
だから,いまだに「日本は侵略などしていない」とか,「戦争犯罪とされていることの一部は起きていない」とか,主張できるわけです(逆もまた真).ましてや,日本側の記述と,他国の記述では当然違うことが書かれていますし,それについての解釈となると,180度反対のことも可能になるわけです.
同様に,論争の最中につい投げかけてしまった「不適切な言葉」を繋いでゆけば,PT論に反対していた地質学者を最低の悪党に仕立てることも簡単です.ましてや,それが生き残った勝利者の著作であれば,な・お・さ・ら.
さて,スナイダー-ペレグリーニに話を戻します.
スナイダー-ペレグリーニの頭上に栄冠が輝かなかった理由の一つは,彼は大西洋の展開の原因を「ノアの洪水」に求めていたらしいです(らしい,というのは原著を読むことができないので,引用したものを信じるしかないわけです).PT論の始祖が「ノアの洪水の信者」では,いかにも(科学的に)都合が悪いですね.
もう一つ.
ウェーゲナーの大陸移動説は「地質学者」によって迫害にあい,ウェーゲナー自身は探検中に非業の最期を遂げています.これは「ヒーロー」の素質充分.
かくして,PT論の始祖という栄冠は「ウェゲナー」の上に輝いている…と,いうわけです.
歴史学が科学でないなら,科学史とくに地学史は,まだもの凄く幼稚な学門です.常識はウソだらけ.事実の発掘もほとんど進んでいませんし,それをいいことに,いわゆるホイッグ史観で「今現在」歴史を書いている人たちも多数いるわけです.よい子は決して,だまされてはいけませんよ((^^;).