2013年5月18日土曜日

「わかりやすい」ということ

 

授業で使えるネタはないかと,最近発行された地球科学ネタの本を,いくつか購入しました.
もの凄い違和感.


なにがってよくわからなかったんですが….
お金のかかったイラストと,めったに見に行けるものではない場所の写真が多用してあり,確かに「分かりやすい」と評判がある本だと思われます.
でも違和感.


「授業で使えるネタはないな」と数ヶ月放置したあと,片付けるために中を見てみました.
今度は分かりました.
「わかりやすい」ということは,ウソや間違いたくさんの意味のない情報が混じりやすいということでもあります.


たとえば,ある本の220頁の図.
「ウマの進化」の図が載っていますが,本文には説明はありません.まあ,図だけでわかるといえばわかるんですが….

ここに使われている「ウマの系統図」の原図は非常に有名な図です.
でもここでは,全く意味のない“イラスト”になっている.
なぜこんな面積を持った分岐図になっているのでしょう.

それは原図を見ればわかります(G.G.シンプソンの原図が見つからなかったので,それを引用したMüellerの図を借用しました.だから英語ではなくドイツ語です).
描かれた「枝」のひとつひとつは分類群(ここでは属名)になっています.原図の「枝のひとつひとつには意味がある」のです.
それが,ここではただの背景になってしまっている.

もっと非道いことがあります.
この系統図で,左右に枝を伸ばしているわけは原図の上部をみてもらえばわかります.左側は「南米」,中央部は「北米」,右側は「旧世界(おもにアジア)」に分けて説明されているのです(普及書のイラストには,それが欠如している).
この原図は,北米で発生したウマ科の生物が,北米大陸が南米大陸やアジアとつながったときに「移民を開始し,別な属が生まれる」ことを示しているのです.

そういう情報が一切なくなってしまって,単に古い方が「森林のウマ」,新しい方が「草原のウマ」という情報しかなくなってしまっています.
それだけなら,中新世の始め頃に一本線を引いて,下半分を「森林のウマ」,上半分を「草原のウマ」とするだけでいいのにね.

そのうち,“地質学ジョーク”として使うことを考えようっと.
それにしても,残念.

 

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