2009年11月29日日曜日
ゾンビが歩く
先々週の日曜日(2009/11/15),北海道新聞の書評欄に「都城の歩んだ道:自伝」が載りました.評者は,杉山滋郎氏(北大教授)です.
別に,都城氏の自伝なんかは興味がないので,どうでもいいんですが,誤解を招くような「言葉」がたくさんあるのが気になります.
まず,見出しが「日本の地質学会に反発」「渡米し得た世界的名声」とあります.
「日本の地質学会」のどこに反発したのか.記事には書いていませんが,それらしき記述では…,
「まず、日本の学界の封建的風土に我慢がならなかった。大学の研究室にいる助手は教授に仕える身であり、用事でいつ呼ばれてもいいよう、ずっと自室で待機していなければならない。」
「夕方になれば、 何度も教授室の前に行っては 鍵穴を覗き、光が漏れてこず 教授はもう帰ったと確認できるまで自分も帰らない。」
整理しておけば,この文章からは,都城氏は都城氏がいた「東大地質学教室」の「封建的風土」を嫌ったとしか読めませんね.「東大」=「日本の地質学会」という構図は,…?,…!,まあ,あったのだろうけど((^^;,いまもあるしね),「一緒くた」にしちゃあいけないでしょ.ほかにも,大学,あることだし.
もちろん,都城氏の中では「東大」=「日本の地質学会」だったんでしょうけどね.しかし,この人,東大にいる間に助教授にまでなった人で,「東大という体制」の中心人物に近い人じゃあないんでしょうかね.
ちなみに,都城氏が嫌った「地団研」の巣窟といわれていた某大学では,助手はお気楽な生活してましたよ.一方で,その地団研の巣窟の中でも,東大からやってきた教授の下にいた助手や大学院生はいつもピリピリしてましたね.
なにが事実なんだか,表面だけではわからないですね.
蛇足しておけば,都城氏が表現したような,この大学の雰囲気は好きでした.
教授なんかが帰ったあとも(だからこそ),夜を日に継いで,実験機器を動かしたり,論文を読んだりしている,不夜城.
いつのころからか,学生も,大学院生もサラリーマン化してしまって9時から5時までしかいなくなってしまいましたが,これには,先行して大学の教官たちがサラリーマン化した事実がありますね.
大学が,学生を後継者ではなく,通過する人として扱いだしたことも,強く背景にあります.研究成果なんかよりも,施設の管理の方が大事だったようです.行き着く先は,….当然ですね.「愛校心」なんか,いうな.
話を戻します.
そのあとにも,酷く不正確な記述があります.
いわゆる,「歴史主義論争」といわれるものについてです.これは,都城氏の自伝(と書いてある)ですから,都城氏は,やはり,「歴史主義者」vs.「物理化学主義者」との戦いがあったと認識している.
栃内文彦氏が,実際に本人を含む関係者にインタビューし,検証した結果,そんな「戦い」は存在しなかったと結論づけた論文*があります(おかしいな.栃内氏がこの論文を書いたころは,まだ北大にいたはずだけれど,杉山氏は読んでないのですかね).
しかし,これは,都城氏の自伝なのだから,都城氏は「戦いはあった」と認識しているわけです.
人の心は闇ですね.
実は,科学史上,こういう存在しなかった「戦い」の話はたくさんあるのです.
有名なのが「天変地異説」vs.「斉一説」
ほかにも,「水成論」vs.「火成論」など.
こういうシンボライズされた「戦い」は,「善」と「悪」が戦って「善が勝った」とか,「神」と「悪魔」が戦って「神が勝った」のように,単純で,わかりやすいですけれど,「要注意!」ですね.
「忠臣蔵」の浅野内匠頭が実際は“たわけ”者で,吉良上野介が実は名君だったみたいに….評価とは逆の事実もあれば,ソンなことはどこにも存在しなかったりもする.
“歴史主義者”の巣窟だった(ハズの)北大地鉱教室には,電子顕微鏡もあれば,古地磁気測定装置もあったし,EPMAなど各種測定機器がそろっていた.物理的性格も,化学的性格も,決しておろそかにされてはいなかった(八木健三さんが,実験鉱物学をやったからといって邪魔はされなかったし,逆に賞賛されたと証言しています).
10年ぐらい前の,北大・地球物理学科の公式HPに某教授が「湊が分析機器を貸してくれなかった(意地悪された)」と書いていたくらいだから,全国的にも,北大内でも,相当早くに,これらの分析機器が導入されていたことがわかります.
でも,話を単純にして,「歴史主義者」は,物理も化学も無視して,ドグマチックに学問を進めていたようにした方がわかりやすい.
実際に,実に効果を上げているようですね.この話は,何度でも,出てきます.ウンザリするぐらい.
ところで,都城氏は“歴史”を無視して((^^;),物理化学で「世界的名声」を得たんですから,「地質学の巨人」を名乗るのはやめた方がいいんじゃあないですかね.謳うなら「地球物理学の巨人」でしょう.
贔屓の引き倒しみたいになってますね((^^;).
なにか,暗殺した相手の名前を名乗ったヤマトタケルみたいですね.
不思議なことに,似たような前例があります.
“水成論と火成論の戦い”で勝利したとされる,ウェルナー[Abraham Gottlob Werner].彼は,地球の成立に関する思弁的な“地質学”をジオロジー[Geology]と呼び,自分がやっている地質現象を研究する(今でいう科学的な)学問をジオグノシー[Geognosy]と呼んで区別していました.
結局,科学史上ではウェルナーの支持した水成論が勝利したことになってるのですが,我々が今,地質学と呼んでいるものは「ジオロジー」です.勝利したから,相手方の名を名乗ることにしたのですかね.
今では,当たり前のことですが,岩石には水成岩もあれば,火成岩もあることがわかっています.
勝利したはずの,ライエルの斉一論は,どうも怪しげな所があると疑われていますし,「世界を変えた地図」のスミスも,最初ではなかったことが指摘されています.
地質学史は,まだ幼稚なんです.
もっとも,現役時代のスミスは敗残者の方にリストアップされていて,同情すべき人物ですが….スミスは技術者であって科学者ではなかったので,彼の靴についた泥でアカデミーの絨毯が汚されることはなかった…と,表現されてますね.
誤解を恐れずにいえば,「地質学は歴史学」です.
歴史的背景を抜きにした地質学は,あり得ません(時間はパラメターではないと思う人は,「地球科学」を名乗ってほしいものです.だから,地球科学は地質学に取って代わることは出来ません).
一方で,再現不可能な現象の多い「地質学は科学ではない」といわれることさえある.
それは,時間がパラメターだからです.
*栃内文彦(2002)第二次大戦後の日本地質学会における“歴史性論争”=舟橋三男は“歴史主義者”だったのか?.科学史研究,41巻,65-74頁.
「オウム」の混乱
恐竜プシッタコサウルス[Psittacosaurus Osborn, 1923]は「鸚鵡(嘴)龍」と漢訳されています.
プシッタコ・[psittaco-]はラテン語の語根で,「オウムの・」の意味.・サウルス[-saurus]と合成されて,「オウムの龍」.漢字で書けば「鸚鵡龍」となります.漢訳で挟まれている「・嘴・」は,この恐竜の「吻部」が「オウムの嘴」状だったからで,《意訳》になります.
実は,今,恐竜学名の意味についての辞典をつくっていて,けっこう夢中になってるので,ブログ更新が進んでいません.正確に言うと,「辞書の展開」関連で,昔つくった「学名辞典」の整備を進めている所なんです(もうすぐ,実用レベルに達するはず).
最近のブログ記事は,実は,それに関係したモンばかりです.
で,「プシッタコ・」ですが,これが,非道く混乱している.
正確にいうと,「オウム類」の学名の和訳が混乱しています(それだけでなく,分類自体も相当混乱しているようですが,ここでは立ち入りしません.というか,門外漢である私には言及不可能なようです.ただし,「こんなの(門外漢には理解できない概念)が科学といえるか」という気はする(-_-;).
ラテン語の「psittacus」は,通常「オウム」と訳されていますが,プシッタクス属[genus Psittacus]は「ヨウム属」です.「ヨウム」は「洋鵡」が語源らしい.
一方,「オウム属」の学名は「genus Cacatua Vieillot, 1817」.「オウム」は「鸚鵡」ね.
これだけでも,大分混乱してますね.
「ヨウム属」は,アフリカ中西部原産の全長30cmぐらいの灰色の鳥.調べた限りでは,一属一種(三亜種ぐらいあるらしい).
「オウム属」とは,オーストラリア・東インドネシアおよび周辺の島々に生息する直立性の頭冠羽を持つものをいいます.全長40~50cmぐらいの白色の鳥.調べた限りでは一属一種(四亜種ぐらいあるらしい).和名は「キバタン(黄芭旦)」(エッ!,「オウム」じゃあないの!).
属名の「cacatua」は,マレー語の「kakatua」から.
英語の「cockatoo」は,マレー語からオランダ語化した「kaketoe」を経由しています.
なお,もうひとつの「オウム」を意味する英語「parrot」は,フランス語の「perrot」からで,これは「Pierre (Peter)」《男性名詞》の《縮小語》です.
さて,ここからが(もっと)問題.
family PSITTACIDAE Illiger, 1811は,通常「オウム科」と訳されていますが,これは「オウム類」を一科とした場合.
family CACATUIDAE Gray, 1840を成立させたときは,family CACATUIDAE Gray, 1840 =「オウム科」で,PSITTACIDAEは「インコ科」と訳されています(インコは「鸚哥」ね).
二科に分離せず,一科の場合はPSITTACIDAEが優先され,この場合は「オウム科」と訳される(!).
さて,order PSITTACIFORMES Wagler, 1830は,「インコ目」とも「オウム目」とも訳されていますね(!!)…(いわせてもらえれば,「インコ形目」とすべきです).
なお,インコを意味する英語「parakeet」はフランス語の「paroquet」,イタリア語の「parrocchetto」,スペイン語の「periquito」などからきたといわれているが,語源は不明のようです.
混乱は整理されるべきなんだろうとは思いますが,たぶん,今の日本には「鳥類の分類学」なんてのは成立してないんだろうと思います.基礎科学には金をかけない国ですからね.
こういった混乱は,(当然)その筋の世界だけでなく,一般市民の世界にも影響します.
order PSITTACIFORMES Wagler, 1830を「インコ形目」ではなく,「インコ目」と訳すから,これに含まれる生き物は全部「インコ」になってしまう.一方で,「オウム目」とも訳すから「オウム」とも呼ばれる.
一般市民は(学名を,というよりは“科学者”を盲信してるから),オウムとインコは同レベルで違うものだと思うから,違いを知ろうとして,混乱を深める.
オウムは,オウム属に含まれるものだけ,つまりは,「キバタン(黄芭旦)」のみを「オウム」と呼ぶべきですね(亜種があると思う人は,それも「オウム」に含めればよい).
プシッタクス属[genus Psittacus]は「ヨウム属」をやめて,「インコ属」にすべきです.同時に,「インコ属」にも「オウム属」にも含まれないものを(つまり,インコでもオウムでもないものを),「インコ」や「オウム」と呼ぶのを止めなければなりませんが….
なお,「~インコ」,「~オウム」のほとんどは分類に関係なく,「商品名」と化しているものが多いようですから,これにだまされないように.
こういうものはたくさんあって,たとえば,「ガラス」と「クリスタル」は相反する概念なのに,「クリスタル=ガラス」なんて言葉がある.
似たようなことで,「マイナス=イオン」なんて,科学を装った「商品名」(実態があるのかどうかはわからないけど)もあります.
み~~んな,「地質学者」をやめて「地球科学者」になったのに,「地質学会」を名乗ってる学会もありますしね~~.
2009年11月18日水曜日
シーラカンス
先日,“生きた化石”のところで「シーラカンス」を無造作に使ってしまいました.
反省しております.
マスコミが「シーラカンス」といっておるものは,「ラティメリア・カルムナエ[Latimeria chalumnae Smith, 1939]」といい,どこにも「シーラカンス」と呼べる要素・由来はありません.
ちなみに,「ラティメリア」は現地の博物館の学芸員であるラティマー氏(女性)の名前を採ったもの.彼女は問題の標本が重要なものであることを最初に認識し,そのスケッチを記載者であるスミス氏に送りました.「カルムナエ」は発見地のカルムナ川から.合わせ技で,「カルムナ川産のラティメリア」となります.
現地語では「ゴンベッサ」と呼ぶそうです.
一方,「シーラカンス」というのは英語の「シーラカンス[Coelacanth]」からきているもので,本当は学名の「コエラカントゥス[Coelacanthus]」属のこと.
学名は,本来は「英語風読み」なんかしてはいけない.
英語は,個々の英語の単語の読み方がわかっていないと読めないですから.
だれが,[Coelacanth]を「シーラカンス」と読むことをあらかじめ知っていないで,読むことが出来ます?
まあ,でも,英語化してますからしょうがないのでしょうね.だからといって,日本人も「シーラカンス」と呼ばなければいけないわけではありません.学名のほうで「コエラカントゥス」と呼ぶべきものです.
なお,この学名は「中空の棘のあるもの」という意味です.
ラテン語「acanth(o)-」には「棘」という意味しかありませんが,ここでは英語の「棘[spine]」が「脊椎」という意味も持つところからの連想と考えてよいでしょう.
英語圏の人間はかなり強引なのですね.
コエラカントゥス属はコエラカントゥス科の模式属.
模式属というのは,すでに死語になっているかとは思いますが,「科」を設定するときの代表的な性格を持つ属のことです.
分類は,分類学者によって多少の差があるのはしょうがないですが,たとえばWikipediaに示されているコエラカントゥス科は以下のようになっています.
コエラカントゥス科[COELACANTHIDAE]
├アクセリア属[Axelia]
├ティキネポミス属[Ticinepomis]
├コエラカントゥス属[Coelacanthus]
└ウィマニア属 [Wimania]
おや?
ラティメリア属が入っていませんね.
ラティメリア属は,ラティメリア科に入れられています.
ラティメリア科 [LATIMERIIDAE]
├ホロプァグス属 [Holophagus]
├リビュス属 [Libys]
├マクロポーマ属 [Macropoma]
├マクロポモイデース属 [Macropomoides]
├メガコエラカントゥス属[Megacoelacanthus]
├ラティメリア属[Latimeria]
└ウンディーナ属[Undina]
じゃあ,コエラカントゥス科とラティメリア科の関係は….
コエラカントゥス形目[COELACANTHIFORMES]
├コエラカントゥス科 [COELACANTHIDAE]
├ディプロケルキデス科 [DIPLOCERCIDAE]
├ハドゥロネクトル科 [HADRONECTORIDAE]
├マウソニア科 [MAWSONIIDAE]
├ミグアサイア科 [MIGUASHAIIDAE]
├ラティメリア科 [LATIMERIIDAE]
├ラウギア科 [LAUGIIDAE]
├ラブドデルマ科 [RHABDODERMATIDAE]
└ウィテイア科 [WHITEIIDAE]
うーん.遠いですね.
これで,「ラティメリア」のことを“シーラカンス”と呼ぶのは,二重,三重くらいに「拙い」ことが,理解できたでしょうか.
だいたい,発見者のラティマー氏に失礼でしょ.
問題は,いつ,誰が,ラティメリアのことをシーラカンスと俗称するようになったのかなんですが,これはわかりませんねえ.情報がない.
日本の科学史は,長期にわたって「なかった」といってもおかしくない状態ですからね.
また,国立K博の学芸員かな?
2009年11月17日火曜日
新生代
「新生代」という言葉を和英辞典で引いてみてください.
大きめの辞典でないとでていないでしょうけど,たぶん「Cenozoic Era」とでていることでしょう.
どうもこれが,「アヤシイ」言葉らしい.
断片的な情報をつなぎ合わせると,「Cenozoic」という言葉は,もともとヨーロッパで「Caenozoic」と綴られていた言葉が,その発音が「seenozoic」に近いというので,米国で使われた“俗語”(というか“俗つづり”).
ところが,ヨーロッパで使われていたという「Caenozoic」は,もともとフィリップス[J. Philliips]が「Cainozoic」として提唱していたにもかかわらず,使われていた,こちらも“俗語”.
現在では,俗語の俗語のほうが偉そうな顔をして(主たる語として),辞典類に収まっているという次第.
酷いことに,caen(o)-やcen(o)-には,ギリシャ語の語源がないにもかかわらず,
フィリップスは,それまで「第一期[Primary]」・「第二期[Secondary]」・「第三期[Tertiary]」として分けられていた「地質時代」を,曖昧であり混乱の元であるとして,すでにセジウイック[Sedgwick]が提唱していた「Palaeozoic Era」にならい,「Palaeozoic Era」・「Mesozoic Era」・「Cainozoic Era」の三つに分けたのでありました.
「Cainozoic」は,ギリシャ語の「カイノス[καινός]=「新しい.新鮮な」と「ゾーオン [ζῷον] [zoon]」 =「動物,生物」を組み合わせ,「新しい動物」という英語を造り,さらにこれを形容詞化したもの.
従って,これだけでは「新しい動物の」という意味しかなく,独立した用語ではありません.だから正式には,「Era」とセットで,やっと「Cainozoic Era」=「新しい動物の時代」という意味になる.
いい加減なのか,特有の性格なのか,現在の英語では,この形容詞が名詞化してしまって,「Cainozoic」だけで「新しい動物の時代」を意味しています.だから,PCで翻訳をかけると「Cainozoic Era」は「新生代時代」と訳されてしまいます.新生代の地層を意味する「Cainozoic System」は「新生代系」などと訳されてしまう.
困ったモンです.
話を戻すと,フィリップスが提唱した元々の「Cainozoic」のcain(o)-はギリシャ語語源を持ちますが,俗語のCaenozoicや俗語の俗語であるCenozoicは,もちろんギリシャ語やその直接の子孫であるラテン語の語源を持ちません.
それなのに,強引にも,これら俗語や俗語の俗語は,現代の辞典ではギリシャ語の語源を持つように書かれているのが普通です.よく見ると,この記述は,まったく整合性がないことに気付きます.
ごく最近まで,辞典の記述を盲信しながらも,なぜそうなるのかが理解できなかったのですが,やっと「いい加減である」ことに気付き,理解できた次第.
困ったモンだ.
“生きた化石”
今日もまた,TVでアナウンサーが,「シーラカンスは“生きた化石”です」といっていました.
この人たちはマッチポンプです.いい加減な言葉を使って,広げて,しばらくたつと「日本語が乱れている」と主張する傾向があります.これもそれの一つかも.
「生きた化石」という言葉は「存在」しません.
これは「living fossil」の訳語ですから,「生きている化石」が正しいのです.
もちろん,「(現在)生きている(化石となっているはず=絶滅しているはずの)化石」という意味です.
「生きた化石」という言葉の「生きた」は過去形ですから,「(過去に)生きた化石」という当たり前の意味を重ねていることになります.「絶滅したはずだが,生き残ったもの」という意味には,なりません.
また,日本語としても,奇妙なわけですね.
「馬から落馬した」みたいな奇妙な日本語です.
「(現在)生きている化石」という意味を出すためには,現在進行形である「生きている」を使わなければならないわけです.
驚いたことに,安手の辞典には「生きている化石」ではなく「生きた化石」と出ているものもあるらしい.
また,Googleで検索してみると,「生きた化石」=327,000件,「生きている化石」=343,000件でした.
由来のわからない「俗語」が,市民権を得ているというわけですね.
誰が,こんな言葉を流行らしているんでしょうね.
「クビナガリュウ」の場合は,国立K博の学芸員が流行らせた俗語だったことがわかってますけど,また,彼らですかね.
「えっ」,「生きた」には,現在(進行)形の意味もあるって?
やっぱ,そういうことをいう人がいるんだろうなあ….
ま,「化石」という言葉自体も,もとは「俗語」ですけどね….
2009年11月16日月曜日
親孝行
このところ,昔撮ったVTRをDVDに変換する作業に追われています.
本当は,昨年中か,今年前半には終わらせておるつもりだったヤツですが,諸般の事情で,年末の今やっています((^^;).
所有している8mmVTRのデッキの寿命がもう尽きそうなので,切羽詰まってのことです.
まずは,やはり,娘どもの記録から.
ダビングは,マニュアル操作ですから,録画時間と同じだけかかります.
そうすると,見るとはなしに,モニタ画面を見てしまうわけですが,「カワイイ」です((^^;).
当時は,仕事もあったし,充実していたなあと思います(戦い続けてたもんなあ).
だれかが言っていましたが,「子供は生まれてから三年ぐらいの間に,一生分の『親孝行』をしてしまう」んだそうです.
然り.
今,しきりに反省しています.
あんなに親孝行してくれたのに,今は何を彼女らに要求してるんだろう.
彼女らが,幸せになってくれればそれでいいではないか.
先日,近所の老人と話していたら,私の病気の話題になって,なんの加減か「親より先に死ぬなんて,親不孝だ」と言われてしまいました.
とくに反論はしませんでしたが,多少なりとも「ムッ」ときました.
が,その理由はよくわかりませんでした.
今は,よくわかります.
子供はもう十分親孝行してるので,これ以上何を要求するのか.これ以上,なにかを要求するのは,子供の負担になるだけで,親が“子不幸”をしてるだけなんじゃあないかと思いますね.
今は,子供たちが生きていくのに「いい時代」か.
明らかに,今の老人たちの時代より希望がないだろうと思います.
今の老人たちは,戦争やら,何もなかった時代を過ごしてきたことを言いますが,「努力すれば,すこしでもよくなる時代」だったですね.
もう,相当前から,「努力だけでは,どうにもならない時代」に突入しているような気がします.
みんなそう感じているから,“政権交代”が起きた.
子供が,未来に「希望を持てる時代」になってほしいものだと思います.
2009年11月3日火曜日
辞書の展開(20)
今回は,リーポテュプラ大目[grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975]を予定していました.いろいろ調べてみたのですが,正直な話,よくわかりませんでした.
「リーポテュプラ」類という分類群は,聞き慣れない言葉です.
どうやら「食虫目[INSECTIVORA]」の定義の変遷に密接に関係あるグループらしい.「食虫目[INSECTIVORA]」は歴史的に,定義が何度となく変わっているらしいのですが,曖昧なまま使われてきたようです.
一方で,「食虫目[INSECTIVORA]」という分類群名は現在でも普通に使われており(たとえば,阿部永ほか,2005*),我が頭は混乱するばかりです.
手持ちの教科書を開くと,「食虫目[INSECTIVORA]」関連の記述は,似ていたり,比較が出来ないほど異なっていたり,むちゃくちゃです.「混乱している」の一言で片付けられたりしています.
何とか,整理しようと試みたのですが,私の手には負えないようです.
The Taxonomiconの記述では,
grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975(リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
├ order incertae sedis
├ ?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998 (アフリカトガリネズミ目)
├ order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(ハリネズミ形目)
└ order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(トガリネズミ形目)
となっています.
この中には,「モグラ」と,北海道人が「モグラ」と勘違いしている「トガリネズミ」類も入っているので,整理したいところです.が,「リーポテュプラ」全体については,なにかほかの情報が入るまで,ペンディングにさせてください.
●「モグラ」と「トガリネズミ」の違い
grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975(リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
├ order incertae sedis
├ ?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998 (アフリカトガリネズミ目)
│ ├ suborder TENRECOMORPHA Butler, 1972(テンレック形亜目)
│ └ suborder CHRYSOCHLORIDEA (Broom, 1915)(キンモグラ亜目)
├ order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(ハリネズミ形目)
│ ├ superfamily incertae sedis
│ ├ superfamily ERINACEOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Gill, 1872(ハリネズミ上科)
│ └ superfamily TALPOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Novacek, 1975(モグラ上科)
└ order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(トガリネズミ形目)
├ superfamily incertae sedis
└ superfamily SORICOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Gill, 1872(トガリネズミ上科)
?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998は「アフリカトガリネズミ目」と訳されています.その中には「キンモグラ亜目」と訳されるsuborder CHRYSOCHLORIDEA (Broom, 1915)がありますが,これらは,「トガリネズミ」でも,「モグラ」でもありません.日本に生息していて,昔から「トガリネズミ」とか,「モグラ」とか呼ばれていたのならともかく,こういう“和訳”は“誤訳”に近いので,やめてほしいものです.悪意すら感じますね.
ちなみに,表のようにAFROSORICIDAには,TENRECOMORPHAとCHRYSOCHLORIDEAしか含まれていず,「アフリカトガリネズミ」に該当する種も属も存在していません.
また,「キンモグラ」と訳されているChrysochlorisは「金色の黄緑色」という意味で,モグラという意味はありません.なぜ,こんなに好き好んで,混乱を招くような“和訳”をするのか,まったく不思議です.
なお,日本では北海道を除く地域に生息する「モグラ」類は「ハリネズミ形目[order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975]」に属し,北海道にも生息する「トガリネズミ」は「トガリネズミ形目[order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975]」に属しています.若干似ているとはいえ,ずいぶんと遠い親戚関係と判断されていますね.
ちなみに,「ネズミ」は齧歯類であり,「トガリネズミ」は「ネズミ」ではなく,「ソーレックス形」類なので,「トガリネズミ」という名称も混乱を招くモトです.
しかし,「トガリネズミ」という言葉が,日本語の歴史上どういう意味を持つ言葉なのかが不明なので,この名称の使用の是非については判断できません.ま,誰が使い始めたのかもわからない「用語」が,無責任に使われているということです.
*安部 永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田正明(2005)「日本の哺乳類[改訂版]」(東海大学出版会).
2009年11月1日日曜日
鉄人28号
NTTドコモのCMで「鉄人28号」が出演している.
一度だけ,「鉄人28号」が空を飛ぶシーンを見てしまい,感動した.
その後,そのシーンが放映されるのを楽しみにしているのだが,未だに出会わない.ロングバージョンの最後のごく短い時間だけ登場するようだ.通常のバージョンでは,その部分はカットされているということらしい.通常のバージョンでさえ,まれにしか放送されないというに….
だいたい,NTTドコモはTVCMに力を入れていないようで,ソフトバンクのカイ君たちとは雲泥の差だね.
だいぶ前のことだが,H教育大・岩○沢校で「科学論」(本当は「科学史・科学教育史」)の非常勤をやっていたとき,ネタとして「鉄人28号」を使ったことがある.
我々の子供時代,大流行したロボットものの双璧の一つが「鉄人28号」だ.もうひとつが「鉄腕アトム」.この二つのロボットは,どちらも,「科学技術」のシンボルなんだが,決定的な違いがある.
鉄人はリモコンで操作される.鉄人自体に意志はない.科学技術は「両刃の剣」であるという横山光輝のメッセージだ.
悪用されても,「科学技術」自体には,責任はない.
しかし,「それ」を造り出した科学者・技術者には責任がある.少なくとも,太平洋戦争で負けたときには,多くの科学者・技術者がそう思った.地団研が結成されたのは,このことがきっかけであると聞いている.
時代が移り,日本中が好景気に浮かれていた.しかし,その影で汚染物質に泣いている人たちがいた.科学者たちは,すでに,事実を隠蔽する側と発掘する側に分かれていた.
ベトナム戦争が激化する中,大量殺戮に荷担する科学者たちが糾弾された.
http://socrates.berkeley.edu/~schwrtz/SftP/Jason.html
金と地位を得た「戦争教授」たちには,糾弾は「屁」でもなかったようだ.
世の中平和になった.とくに日本は.
そんな中,すでに記事「ネメシス」で紹介しているように,日本の科学者は手放しで,ジェイソンのメンバーであるアルヴァレズを「天才」と褒めちぎった.再記しておくと,アルヴァレズは原爆開発チームの主要メンバーであり,日本への原爆投下チームのメンバーでもある.彼は,日本上空に立ち昇る「キノコ雲」を現場で観察・記録していた.
すでに,「『科学技術』自体には責任がない」が,「『科学者』には責任がない」にすり替わっているようだ.
もちろん,こういう科学者の意識の変化と並行して,地団研は力を失っていった.今では,地団研自体が「悪鬼」の様にいわれている.
鉄人28号には意志がない.
他方,「アトム」は意志を持っている.
意志を持っているが故に人間と対立し,人間とロボットの調和がテーマになる.「差別」も時々顔を出す.表向きは「科学技術」がテーマだが,実は人間同士の葛藤がテーマだ.ロボット三原則に拘束されたアトムは,人間のために死を選ぶしかなかった.
アトムはそもそも,誕生自体に「いわく」がある.
世のため人のため,工場でオープンに生み出されたロボットではなく,不慮の死を遂げた子供の身代わりとして,たまたま科学者であった父親がプライベートな目的で生み出したものだ.絵柄や表向きの明るさとは異なり,背後には私生児的な暗さがある(もちろん,こういう事情が手塚漫画の深さに直結している).
「アトム」は科学の問題としては,単純には扱えない難しさがある.
少し遅れてやってきたヒーローに,「8マン」がいる.
表向きは,スーパーマンを実現するために生み出されたサイボーグである.
この当時のアメリカンコミックスのスーパーマン類は「力」を誇示・礼賛した単純なヒーローものばかりだったが,日本版の「スーパーマン」=「8マン」は違った.科学の力で「人間ではないもの」にされてしまった「人間」の「苦しみ」がテーマだった.
原作者の平井和正には,「サイボーグ・ブルース」という小説がある.小説であるが故に主人公であるサイボーグ=「人間でないものにされてしまった人間」=「8マン」の苦しみが,よりはっきりと表れている.
科学はどこまで行き着くのかという意味での議論の題材になる.人工臓器の出現や,臓器移植の実現で,現実味を増してきているのも都合がよい.
これは,人間の「死」の問題にも直結している.人間に「死」を宣告するのは臓器移植を前提とした科学か,人間として死ぬことを選ぶ「人間の感性」か.
議論は広がる.
最後は「科学が善か悪か」ではなく,「(善悪を判断する)人間としての感性」を磨くことのほうが重要であるという結論を導き出してほしいというのが目的でした.
こういう授業をもっとやりたかったなァ.
と,鉄人28号が空を飛ぶ姿を見ながら考えた(想い出した).
「飛べ,鉄人!」
ちなみに,空を飛ぶ鉄人の勇姿は(最後の一瞬だけですが)NTTドコモのHPで見ることが出来ます(04 「CMを見る」をクリック).
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