2014年11月28日金曜日

「先カンブリア-」という言葉

 
カンブリア系(Cambrian)という地層が認識されたのが,1836年.
英国のシジュイック(A. Sedgwick)の造語でした.英国Wales地方の古名「クムブリア(Cumburia)」のバリエーションである「カムブリア(Camburia)」に,英語・形容詞語尾である-anを使ったもの.
この英語・形容詞語尾の-anは,ラテン語の-ānusを借用したもので,この場合は,本来は形容詞ですが,しばしば名詞として用いられるそうです.

したがって,カンブリアンは「形容詞であるとともに,時代・地層・岩石のどれをも表す名詞でもあ」ったわけです.文脈上でわかる時を除いて,これは,しばしば混乱を引き起こしますので,困ったものです.
これを日本語に訳した時には,原語の「カンブリア」に地層を表す「系」か時代を表す「紀」を必ずつけます.原文にCambrianとしか書いてなければ,文脈でもって判断するしかないわけです.


ところで,1845年に,英国のマーチソン(R. I. Murchison)ほかが,カンブリア系の下位にある地層に「アゾイック(Azoic*)」という用語を提唱しています.
「アゾイック(Azoic*)」はギリシャ語のἀ-(否定辞)とζωικός (=動物の,動物に富む)からつくられた言葉.したがって,日本語では「無生代」と訳せます.


さて,J. S. Dana(1872)は北米で,片麻岩のように高度の変成作用をうけた岩石と,それらをおおって変成作用をまったく受けていないか,または弱い変成作用しかうけていない地層を識別しました.
これらは英国地方のアゾイックに相当すると考えられ,それにArchaean (or Arche'an)の名を与えました.Archaeanはギリシャ語のἀρχαῖος (=始原の,古い)に英語・形容詞化語尾-ean (ラテン語・形容詞化語尾-eanusの借用)を加えたもの(ギリシャ語と英語とラテン語がゴッチャになってる⇒品がない言葉:失礼!).
その時に,こういってます.
「Archaean層のどの部分であれ,一つの時代に属しているという生命の証拠がなければ,Archeozoicと呼ぶべきではない(生命の証拠が見いだされれば,Archeozoicと修正されるであろう)」
つまり,-zoicというのは「生命の証拠」に基づくべきで,「アゾイック(生命が居ない時代)」という用語は,言葉そのものが矛盾している,ということですね.
その上で,「動物(この場合は生命)」を示す語根をなくして「アルカエアン(始原の)」という言葉を造ったわけです.
日本の英和辞典ではArchaeanに「始生代」の訳を与えているものがありますが,造語した人が「やってはいけない」と注意書きした間違いを犯しているわけです.
だから,Archaeanは「太古(代/界)」と訳し,Archeozoicを「始生(代/界)」と訳すのが正しいわけです.


ところで,「プレカンブリアン」だれが造った言葉かはわかりません.
しかし,1878年に英国でつくられたようです.そして,1896年に米国のC. R. Van Hiseが「下部カンブリア系よりも古いすべての地層を意味する」と定義しました(松下,1967).

さて,「先カンブリア(系/紀)」という言葉があります.
これは,元はプレカンブリアン(Precambrian)という英語.この場合は,pre-は「『(時間・時代・時期的に)前…』,『(地位,順位が)上位の,すぐれた」の意を表す」(研究社 新英和大6)ですから,困ったことになります.
なぜなら,プレカンブリアンが時代の場合は「カンブリア紀より前の…」ですし,地層の場合は「カンブリア系より上の…」を表してしまうことになります.まったく逆ですね.
実際には,「プレカンブリアン」といった場合には,時代的には「カンブリア紀より前…」を示しますし,地層としても「カンブリア系より下の…」を意味します.不思議なことですが.
だから,地質学では「プレカンブリアン」は常に「時代を示す」ことになってしまいます.だから日本語に訳した時は必ず「先・」なわけですね.「下カンブリア系」という訳語は使われない.


(多分ですが)これは「世界最初の地質図はW. スミスによってつくられた」という伝説を維持したいがためなんではないかと思ったりして(実際には,フランスのキュビエとブロンニアールが,ほぼ同時か先行して地質図作成を行っているようです).
スミスは英国地質図を描く時に「化石による地層同定の法則」を提案しています.世界最初といわれています(実際には,フランスのキュビエとブロンニアールが,ほぼ同時か先行して化石による地層対比を行っているようです(^^;).だから,英国人にとっては,「地層=時代」だったわけですね.

これは,「化石がでる地層」の場合は問題ないわけです.
が,カンブリア系の下には化石のでない地層がまだあり,化石がでないので時代が決まりません.だから「地層でしかなかった」はずなのです.だったら,「サブ・カンブリアン(Subcambrian)」か「ヒュポ・カンブリアン(Hypocambrian)」のはずですが,そうなっていない.不思議です.
それはともかく,カンブリア系の下にある地層は,化石が産出しないので「時代が決定できない」.したがって,研究不可能=非・科学的=研究放棄.ということになります.プレカンブリアンという言葉は「こっから下は研究しませんよ」という宣言の言葉だったのでしょうね.少なくとも,英国ではそうでした.


そして1954年,カナダのガンフリント層(約19億年前とされる)から藍藻化石(現在ではシアノバクテリアと呼ばれるのが普通)をはじめとする顕微鏡的な微化石が発見***され,アーケアン(太古代)は,アーケオゾイック(始生代)と呼んでもいいことになるわけです.


ということは,「プレカンブリアン(先カンブリア)」という言葉は,すでに意味のない言葉になっているはずですね(なぜ,まだ生き延びてるんでしょう?;そもそも英国でしか役に立たない言葉だし(^^;).
俗語ならともかく,学術用語として使うのはやめてほしいものです.「英国が地質学の中心」伝説でもあるのでしょうかね(じつは地質学史を調べると…それは,ある).
英国では「無生代(Azoic)」,「先カンブリアン(Precambrian)」として研究放棄した地層・時代について,北米では研究できることが明らかにされ,地層名・時代名も提案されたわけですから,それを使うべきでしょう.
使うにしても「先カンブリア紀」ではなく,せいぜい「先カンブリア時代(Precambrian Age)」でしょうね.

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* Murchison, R. I., De Verneuil, E. and Keyserling, Von A., 1845, Geology of Russia in Europe and the Ural Mountains, 2 volumes, London.

** Dana, J. D., 1872, Green Mountain Geology. On the Quartzite.
The American Journal of Science and Arts. vol. 3, nos. 13-18, pp. 250-256.

*** Tyler, S. A. and Barghoorn, E. S., 1954. Occurrence of structurally preserved plants in Precambrian rocks of the Canadian Shield.
Science, 119: 606--608.
 

2014年10月2日木曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 = V =


=== V ===

Vipara Evanesca(ヴィペラ・イヴァネスカ)「蛇よ、消えよ」:
『秘密の部屋』で登場。決闘クラブでドラコが出現させた蛇を、スネイプはこの呪文を唱えて、燃やすような形で退治した。

Viparaは,たぶんラテン語のvipera(=ヘビ).
Evanesca は,たぶんラテン語のevanesco(=消す,消滅する).
Vはラテン語ではUと同じ発音なので,たぶん「ウィペラ・エウァネスカ」と発音することでしょう.


Vulnera Sanentur(ヴァルネラ・サネントゥール)「傷よ、癒えよ」:
『謎のプリンス』で登場。スネイプが、セクタムセンプラの呪文で負傷したドラコに対して使用し、傷はおろか、流れ出た血や破れた服まで元通りにした。小説では「歌うような呪文」という記述があるが、呪文名は登場していない。

Vulnera は,たぶんラテン語のvulnus(=傷)のこと
Sanentur も,たぶんラテン語のsano(=癒やす,直す)からの造語でしょう.

このシリーズ,以上.

2014年9月29日月曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 = T =


=== T ===

Tarantallegra(タラントアレグラ)「踊れ」:
対象にクイック・ステップを踏ませる。

Tarantallegra Tarantoallegro の合成語でしょう.
Tarantoはイタリア南東部の地名.この地方に俗に“舞踏蜘蛛”と呼ばれるタランチュラが多かったので蜘蛛の名前の語源となったそうです.実際には,この蜘蛛にはほとんど毒は無く,舞踏病を引き起こすというのも,ただの伝説だとか.
この伝説にしたがって,Tarantoを「踊る」という意味に使っているのでしょう.
allegro はイタリア語ですが,これはラテン語のalacer(=速い,活発な,生き生きとした)が語源.
「速く踊れ」というつもりなんでしょうかね.


Tergeo(テルジオ)「拭え」:
対象の汚れなどを拭う。

Tergeo は,そのまんま,ラテン語のtergeo(=拭う,磨く,綺麗にする)ですね.

2014年9月27日土曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 = S =


=== S ===

Silencio(シレンシオ)「黙れ」:
対象を一時的に黙らせる。第5巻でハーマイオニーがドロホフに対して使用し、彼の呪文の威力を軽減させている。このことから無言呪文を除き、呪文を唱えられなかった場合、その呪文の威力が低下すると思われる。

Silencio は,ラテン語のsileo(=静かにする;静かに;動くな)かな?
もちろん,英語のsilenceの語源.


Sonorus(ソノーラス)「響け」:
自分の声をスピーカーを用いたように響かせる。反対呪文は「クワイエタス」。

Sonorusは,ラテン語の形容詞sonorus(=鳴り響く,共鳴する,騒々しい)と同じ形です.
でも,ここで形容詞はおかしいですね.動詞はsono(=響く,反響する,音を立てる,など).


Specialis revelio!(スペシアリス・レベリオ)「化けの皮 剥がれよ」:
第6巻でハーマイオニーが、ハリーの「上級魔法薬」の教科書に使用。しかし何も起こらなかったため、効果は不明。

Specialis は,ラテン語の形容詞specialis(=個々の,特別な)と同じです.上級魔法だからspecial(英語)なんでしょうかね.
revelio は,たぶんラテン語のrevelo(=ベールを剥がす,裸にする)からの造語でしょう.


Stupefy(ステューピファイ)「麻痺せよ」:
「失神呪文」「麻痺呪文」。対象を失神させることができる。失神させられると、一定時間経つか「気つけ呪文」を使用されるまで失神状態が解けず、戦闘では一時的に戦闘不能状態に追い込まれる。また呪文自体にも相当なパワーがあり、第5巻では魔法省の役人4人から同時にこの呪文を撃たれたミネルバ・マクゴナガルが、一時生命が危うい状態になっている。小説では赤い閃光として表現される。映画『不死鳥の騎士団』では失神に加え「相手を吹き飛ばす」という効果もある。

Stupefy は英語ですよね.普通は「ビックリさせる」ですが,「麻痺させる」という意味もあります.
この語源がラテン語のstupefacio(=意識を失わせる,無感覚にさせる,麻痺させる).どうして,こちらを使わなかったんでしょうね.
 

2014年9月23日火曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 = R =


=== R ===

Reducio(レデュシオ)「縮め」:
反対呪文は「エンゴージオ」。

Reducio は不詳.たぶん,ラテン語のreduco(=戻す)からの造語でしょう.“和訳”はちょっと,ニュアンスが違いますね.


Reducto(レダクト)「粉々」:
「粉々呪文」。対象物を粉々に破壊する。

Reducto も,ラテン語では前記reducoと同系列の言葉でreducto(=退く;撤回する)というのがあります.この呪文が使われた背景が不明ですが,こちらも“和訳”はちょっと,ニュアンスが違いますね.


Reparo(レパロ)「直れ」:
壊れた物を直す呪文。なお、中に液体が入っていた場合、液体は戻らない。

Reparo は,そのままラテン語のreparo(=修復する;再生する)でしょう.
英語のrepairの語源ですね.


Repello Inimicum(レペロ・イニミカム)「敵をよけよ」:
『死の秘宝 PART2』で登場。スラグホーン、モリー、フリットウィックが、ホグワーツ城防衛のために使用した呪文。

Repello は,そのままラテン語のrepello(=駆る,追い払う)
Inimicum もラテン語のinimicus(=敵)でしょう.
しかし,ちょっと,ニュアンスが違いますね.


Repello Muggletum(レペロ マグルタム)「マグルを避けよ」:
「マグル避け呪文」。マグルがこの呪文をかけた物に近づくと、急用を思い出し、対象物から遠ざかるようになる。

Repello は前出.
Muggletum は,劇中で(魔法使いではない)一般人をMuggleと読んでいて,それをラテン語風にしたものと思われます.
ちなみに,英俗語ではmuggleは「マリファナ」の意味があるらしく,「無能な奴」の意味もあるらしいです.ただし,これは作中の設定なのかもしれません(普通の辞書には無い).
劇中,ハーマイオニーがこう呼ばれて,いわゆる“純血魔法使い”から差別されている設定になっていました.


Riddikulus(リディクラス)「ばかばかしい」:
まね妖怪を退治する呪文。心の中に滑稽なものを想像しつつ使用する。映画版では「バカ笑い」と訳されている。

Riddikulus は,不詳ですが,ラテン語のridiculus(=笑える,可笑しい,滑稽な)かと.これは英語の ridiculousの語源ですね.

2014年9月18日木曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 = Q =


=== Q ===

Quietus(クワイエタス)「静まれ」:
「ソノーラス」によって響かせた自分の声を元に戻す。

Quietus は,ラテン語のquietusと綴りは同じですが,ラテン語では形容詞.動詞はquiesco.でも,命令形はどうやるのかわかりません(最初にお断りしたとおり.(^^;).
これは,英語のquietの語源ですね.
 

2014年9月16日火曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 = P =


=== P ===

Partis Temporus(パーティス・テンポラス)「道を開けよ」:
『謎のプリンス』で登場。ダンブルドアが亡者を追い払う為に炎を出したが、その炎が道を塞いでしまったため、この呪文を唱えて炎をどかし、再び道を作った。

Partisは,そのままラテン語のpars(=部分)の属格partisかも.
Temporusは,たぶんラテン語のtempus(=時間,状態など)からの造語.
つまるところ…,“部分的に状態を保持せよ”ということなのかな?
自信なし.(^^;


Periculum(ペリキュラム)「救出せよ」:
『炎のゴブレット』で登場。第三の課題でハリーがフラー・デラクールを救出するためにこの呪文を使用して杖先から赤い火花を打ち上げた。

Periculum というラテン語はあるのですが,その意味は「危険;試み;責任」などで,どう解釈したらいいのかは,わかりません.発音は「ペリークルム」が近いでしょう.


Petrificus Totalus(ペトリフィカス・トタルス)「石になれ」:
「全身金縛り術」。この呪文が命中した人間は全身が動かせなくなる。声帯や舌も動かせなくなるため話すこともできないが、意識や思考は保たれる。物品にかけることもでき、例として防犯ブザーにこの呪文を行使するとブザー自体が機能しなくなる。映画では青い閃光として表現された。

petrificus はpetri-ficusの合成語と思われます.
ただし,petri-はギリシャ語形の言葉なのでpetro-が普通.一方,-ficusはラテン語形の言葉なので,こういう合成は不自然なんですが,後半がラテン語形なのでpetro-がpetri-になったのかもしれません.
簡単に言えば,petrifyという英単語をラテン語風に綴ったのだとも.
Totalusは,たぶんラテン語の totalis(=全体の)のこと.totalisは,ラテン語のtotus(=全体)からの派生語(tot-alis).英語のtotalの語源でしょうね.


piertotum locomotor(ピエルトータム ロコモーター)「すべての石よ、動け」:
第7巻でマクゴナガルが使用。ホグワーツ城内の石像が、生きているかのように動き出した。映画では「すべての兵よ、動け」と訳されている。

piertotumは不詳.ただし, pier-totumと分ければ,-totumは前出のtotusの中性形.ただし,やっぱりpier-は不詳.
locomotorは,前出=L=参照.
ということで,pier-を除いても「全体・動け」のつもりみたいです.


Prior Incantato(プライオア・インカンタート)「直前呪文」:
杖が最近使った呪文の効果を再現させる。4巻でエイモス・ディゴリーが使用。

Prior は,ラテン語のprior.prae(=前の)の比較級で「より前の」.ただ,発音は「プリオル」でしょう.
Incantatoは,たぶん,ラテン語のincantatio(=呪文).英語のincantation(=呪文,唱文;魔法)の語源.
なぜ比較級なんでしょうねえ?


Protego(プロテゴ)「護れ」

Protego は,そのまんまラテン語のprotego(=防護する)です.ただし,発音は「プローテゴ」でしょう.


Protego Horribilis(プロテゴ・ホリビリス)「恐ろしきものから守れ」:
「盾の呪文」。魔法を用いた攻撃に対してバリアを発生させ、魔法から身を護る。上から順に呪文の強度が拡大すると思われる。続けて言うことで「許されざる呪文」に対しても、効果があると思われる。護身として幅広く使える。その為、魔法省からはこの呪文を習得するよう指令が発布されたが、習得するのは難しいらしく、フレッドとジョージ・ウィーズリーが開発した「盾の帽子」には注文が殺到した。呪文に限らず、矢などの物理攻撃も防ぐことが出来る。

Protego は,前出.
Horribilis もラテン語のhorribilis(=恐ろしい).ただ,これは形容詞なのでprotego horribilis ×××.とあるべきかとは思います.


Protego Maxima(プロテゴ・マキシマ)「最大の防御」:
『死の秘宝 PART2』で登場。スラグホーン、モリー、フリットウィックが、ホグワーツ城防衛のために使用した呪文。

Protego は,前出.
Maxima も,Bombarda Maximaの説明で,でてきてます.


Protego Totalum(プロテゴ・トタラム)「万全の守り」:

Protego は,前出.
Totalum は,ラテン語のtotalis(=完全な)からの造語と思われます.
 

2014年9月11日木曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 = N =


=== N ===

Nox(ノックス)「闇よ」:
杖先に灯った明かりを消すことができる。「ルーモス」の反対呪文。ラテン語で「闇」という意味がある。

noxは,ラテン語のnox(=夜)ですね.
元はギリシャ語の「νύξ(ニュックス)」.翼竜の一属,Nyctosaurusの語源でもあります.
「タヌキ属」のNyctereutesの語源でもあります.ちなみにnyctereutesは「夜の狩人」の意味.

英語のnightは,νύξ, νυκτ-(ギ)> nox, noct-(ラ)> nacht(独)経由でできたらしいです.
ノクターン(nocturne)は「夜想曲」ですもんね~.
 

2014年9月9日火曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =M=


=== M ===

Meteolojinx Recanto(メテオロジンクス・レカント)「気象呪い崩し」:
魔法省の窓から見える天気を変えるのに有効と言われる呪文。

meteolojinx は,たぶん,ラテン語のmeteorologicus(=地上(空中)の現象に熟達した)からの造語.名詞はmeteorologia.これはもちろん,英語のmeteorology(=気象学)の語源です.
recanto は,ラテン語のrecanto(=反響する,木霊;転じて「魔法にかける;取り除く,撤回する」など).英語のrecantですね.
つまるところ「(魔法使いの)気象呪文を撤回せよ」とでもなるのかな.


Mobiliarbus(モビリアーブス)「木よ動け」:
木を動かす。

Mobiliarbus は,たぶんラテン語の mobilisと arbosの合成語.
mobilisは,動詞 moveo(=動かす)の形容詞形.moveoは,もちろん英語のmoveの語源です.
arbosは,arborの変異形で,意味は「木」のこと.ギリシャ神話にでてくるArgoはJasonの舟ですが,arborに関係あるらしい.


Mobilicorpus(モビリコーパス)「体よ動け」:
第3巻でシリウスが使用。気絶して動かなくなったスネイプをそのままの状態で浮遊させ、運べるようにした。

Mobilicorpusは上記と同様に,mobilisとcorpusの合成語でしょう.
mobilisは既出.
corpusは,ラテン語で「体(とくにヒトや動物)」のこと.英語でもそのまま使ってますね.


Morsmordre(モースモードル)「闇の印を」:
ヴォルデモートと死喰い人が「闇の印」を上空に打ち上げる時に使用する。

Morsmordreは,たぶんmors-mordreの合成語.
morsはもちろん,ラテン語の「死,死体;死や破壊を引き起こすもの」という意味の言葉.
mordreは不明.
ですが,たぶん,ラテン語のmordeo(=噛む,切り込む;刺す;傷つける)の変形かと.
つまり,「死や破壊を引き起こすものの傷をつけよ」とかいう意味になるんでしょう.まったく自信が無いですけど.〔^^;

ちなみにヴォルデモート(Voldemort)の意味は不明ですが,無理やり解釈するとvol de mort.mortは「死・」を意味するラテン語の語根.volはvolan(=飛ぶこと)ですから,「死の飛行」とかいう意味なんじゃあないでしょうか.
ちなみに,「飛び魚座」はvolansであり,エゾモモンガの学名がPteromys volans (Linnaeus, 1758)です.

Nox(ノックス)「闇よ」:
杖先に灯った明かりを消すことができる。「ルーモス」の反対呪文。ラテン語で「闇」という意味がある。

noxは,ラテン語のnox(=夜)ですね.
これは元はギリシャ語のνύξ(nyx).翼竜の一属,Nyctosaurusの語源でもあります.
「タヌキ属」のNyctereutesの語源でもあります.ちなみにnyctereutesは「夜の狩人」の意味.
 

2014年9月6日土曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =L=


=== L ===
(J, Kで始まる呪文はありません)

Lacarnum Inflamarae(ラカーナム・インフラマーレイ)「??」:
『賢者の石』で登場。ハーマイオニーがクィディッチの試合の際、スネイプの気を逸らす為、この呪文を唱えてローブの裾を炎上させた。小説では「杖から明るいブルーの炎が飛び出し」という記述があるが、呪文名は登場していない。また原作では悪魔の罠を退治する際にもこの呪文を使っている。

Lacarnum は不明.
Inflamarae は,たぶんラテン語のinflammo (=火を点ける)からの造語でしょう.


Legilimens(レジリメンス)「開心」:
「開心術」。相手の心をこじ開け、記憶や思考を読み取る。閉心術を使うことで防げる。

Legilimens は,たぶんラテン語のlegibilis(=読める,判読可能な)からの造語でしょうね.「開心」は意訳?


Locomotor(ロコモーター・○○)「」:
移動のための呪文(Locomotion Charm)物を浮かせ、杖を向けた方向に運ぶ呪文。○○には運びたい物の名前が入る作中ではトランク。

Locomotor は,たぶんloco+motorの合成語でしょう.

loco-は「場所」という意味.-motorは「動かすもの」という意味.これからフランス語のlocomoteurがつくられ,さらに英語になったらしい.意味は「運動力のあるもの」で,のちに「機関車」に使われるようになりました.
ロコモーターは英語的発音で,ラテン語風には「ロコモートル」でしょうね.


Locomotor Mortis(ロコモーター・モルティス)「」:
足縛りの呪い(Leg-Locker Curse)。第1巻でスネイプがクィディッチの審判をやった時、ハリーを守る為、ハーマイオニーとロンがスネイプにかけようと練習していた。映画『賢者の石』の未公開シーンではネビルがこの呪文をかけられている。ラテン語のmortisは、英語で死後硬直を意味するrigor mortisの語源である。

Locomotor は前出.
Mortis は,ラテン語のmors(=死,死体)の属格(「~の」の意).
?ちょっと,意味は理解しかねます.(?_?)


Lumos(ルーモス)「光よ」:
杖に灯りを灯す呪文。反対呪文は「ノックス」。ちなみに、「ルーモス」の後に「マキシマム」と唱えると、さらに光が強くなるその際の意味は「強き光よ」。

Lumos は,ギリシャ語風になってますけど,ギリシャ語辞典には,そのような言葉は見あたりませんね.
たぶん,ラテン語のlumen(=光,明かり,陽の光)からの造語でしょう.だったら,luminareあたりの方がそれらしいですけどね.
ちなみに,「マキシマム(maximum)(=最大の)」はラテン語.
lumosをギリシャ語風に造ったとすれば,これは男性形になっちまうので,ラテン語化してlumus(下記参照).そうすると,マキシマムじゃあなくて「マキシムス(maximus)(男)」じゃあないのかなあ.
もっと勉強せにゃ.(^^;
ちなみに,ルーメン(lm)は物理学の光束の単位ですね.


Lumus Solarum(ルーマス・ソレム)「?」:
『賢者の石』で登場。ハーマイオニーは、この呪文を唱えて日光を出現させ、悪魔の罠を退治した。

Lumus は前出.
Solarum は,たぶんラテン語のsolaris (=太陽の)からの造語.
 

2014年8月24日日曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =I=


=== I ===

Immobulus(イモビラス)「動くな」:
『秘密の部屋』で登場。闇の魔術に対する防衛術の授業でハーマイオニーが使用し、ピクシー妖精の動きを止めた。 原作では縛り呪文を使っている。『アズカバンの囚人』にて、スネイプが暴れ柳を止める際にも使用した。

Immobulusは,たぶんラテン語のimmobilis=「不動の」.
もちろん,英語のimmobileはこれが語源.


Impedimenta(インペディメンタ)「妨害せよ」:
対象を妨害し、その人物の動作を遅延・一時停止させる。相手を吹き飛ばすことも可能。

Impedimenta は,たぶん,ラテン語のimpedimentum(=妨害).
英語のimpedimentはこれが語源.


Impervius(インパービアス)「防水せよ」:
水をはじくことができる。第7巻でハーマイオニーが「防水・防火せよ」と唱えていることから防火の効果もある模様。

Imperviusは,ラテン語のimpervius(=通過できない;越せない)そのもの.
「防水,防火」ではありませんね.
英語のimperviousはこれが語源です.


Incarcerous(インカーセラス)「縛れ」:
対象にロープを巻きつけ、縛り上げる。対象の首にロープを巻きつけ、窒息に至らしめることも可能。

Incarcerous は,たぶんラテン語のincarcero(=投獄する,拘束する)からの造語.
「縛れ」というのは,意訳でしょうね.
英語のincarcerateはこれが語源.


Incendio(インセンディオ)「燃えよ」:
対象を炎上させる。煙突飛行粉にもこの呪文が使われている。反対呪文は「アグアメンティ」。

Incendioは,たぶん,ラテン語のincendo(=燃やす)からの造語.
ちなみに,英語のincenseは「お香;香を焚く」ですが,もともとは“なにかを燃やす”意味で,ラテン語を語源としているようです.
 

2014年8月23日土曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =H=


=== H ===

Harmonia Nectere Passus(ハーモニア・ネクテレ・パサス)「そのもとに還れ」:
『謎のプリンス』で登場。「姿をくらますキャビネット」に入れた物を、対になっているキャビネットへ送る呪文。

Harmonia は,語源のギリシャ語ἁρμονίαでは「連結すること,締めること」の意味ですが,ラテン語のharmoniaでは「メロディ,調和」などの意味になります.
Nectere は,たぶん,ラテン語のnecto .意味は「結びつける;束縛する;貼る」など
Passus は不詳.ラテン語のpassusは「広がった」という意味か,もしくは「歩幅,歩調」なんですが….

強引に解釈すると「(二つのキャビネットを)調和させ,結びつけよ」ということでしょうかね.


Homenum Revelio(ホメナム レベリオ)「人現れよ」:
隠れている人間の存在を知ることができる。第7巻でラブグッド家を訪れたトラバースが、ハリーの存在を調べるために使用した。この時、ハリーは「何かが自分の上にスーッと低く飛んできて、その影の中にハリーの体を取り込むような奇妙な感じがした」らしい。

Homenum は,たぶん,homo(=ヒト)からの造語.
homoはもちろん,Homo sapiensのhomo.
ちなみに,ホモ・セクシュアルのホモはギリシャ語のομος (homos)=「まったく同一の,普通の,共有の」が語源です(学生さんに,ホモ・サピエンスを説明する時の定番ギャグ(^^;).

Revelio は,これもたぶん,ラテン語のrevelo(=現れる,明らかにする)からの造語.

2014年8月21日木曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =G=


=== G ===

Geminio(ジェミニオ)「そっくり」:
対象のダミーを作る。第7巻で、グリンゴッツ魔法銀行にあるレストレンジ家の金庫に「双子の呪文」が施されていたが、効果から恐らくこの呪文と同一のものと思われる。

Geminio は,たぶん,ラテン語のgeminus(=「双子の;対の;類似の」)からの造語でしょう.


Glisseo(グリセオ)「滑れ」:
第7巻でハーマイオニーが使用。足下の階段が滑り台に変化した。

Glisseoは不詳.
語源はたぶん,フランス語のglisser(=滑る,滑走する).
 

2014年8月18日月曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =F=

 
=== F ===

Ferula(フェルーラ)「巻け」:
対象に包帯を巻く。

Ferula は不詳.
ラテン語のferulaは「茴香(ウイキョウ)」のこと.薬草としても使われるといいますから,「巻け」ではなく,「治療」を意味してるのかも.
でも,ウイキョウは「整腸,健胃剤」…?


Finito Incantatem(フィニート・インカンターテム)「呪文よ終われ」:
呪文そのものを終わらせる。短縮系の「フィニート(終われ)」だけでも同一の効果が得られる。

Finito は,たぶんラテン語のfinio=「制限する;決定する;終わらせる」.
だから,Finitoだけでも「終わらせる」になるんでしょう.
Incantatem は,たぶんラテン語のincantamentum(=魅力,魔法)のこと.
英語でも,incantationは「呪文,呪文を唱えること」ですね.enchantmentも同じ言葉.


Flagrate(フラグレート)「焼印」:
第5巻でハーマイオニーが使用。神秘部の扉に×印の焼印をつけた。

Flagrateは,ラテン語のflagroですかね.
意味は「燃え立つ,燃え上がる;燃える」など.ちょっと,ニュアンスが違いますね.


Furnuculus(ファーナンキュラス)「鼻呪い」:
第4巻でハリーが使用。ハリーはドラコにかけようとするが、ドラコの「歯呪い」の光線とぶつかり、グレゴリー・ゴイルにかかってしまい、ゴイルの鼻に醜いできものが出来た。

Furnuculusは,たぶんfurnu-culusの合成語.furnu-は,もとはfurnusで,意味は「オーブン;パン屋」.-culusは「(その)小さなもの」を意味する接尾辞.つまり,“小さな火”を意味しているものと思われます.「鼻呪い」はヘン.
ファーナンキュラスは英語的発音.ラテン語風には「フルヌ-クルス」でしょうね.
 

2014年8月16日土曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =E=


=== E ===

Enervate(エネルベート)「活きよ」:
失神した者の意識を回復させることができる。反対呪文は「ステューピファイ」。

Enervateは,不詳.
奇妙な言葉です.英語のenervateは「(人)から気力を奪う;(人)の力を弱める」という意味ですが,語源のラテン語でも,もちろん同じ意味.
どこでひっくり返っちまったんでしょうね.


Erecto(エレクト)「立て」:
対象を立たせる。第7巻でハーマイオニーが使用。

ラテン語の「立ちあげる;直立させる」はerigo.
この形容詞がerectus.直立猿人(Homo erectus)のerectusですね.これはもちろん,英語のerectの語源.
たぶん,このあたりから造語したものでしょう.


Evanesco(エバネスコ)「消えよ」:
物を消す。スネイプは「魔法薬学」の授業で、学生が失敗した魔法薬を消す為にこの呪文を多用していた。

Evanescoは,evanescoというラテン語.ただし,発音は「エー・ウァーネスコ」が近い.
意味はもちろん,「消える;去る」です.


Everte Statum(エヴァーテ・スタティム)「宙を踊れ」:
『秘密の部屋』で登場。決闘クラブでドラコがハリーに対して使用し、ハリーを吹き飛ばした。

Everteは,たぶんラテン語のeverto.
意味は「取り除く;排出する」.「宙を踊れ」は意訳でしょう.


Expecto patronum(エクスペクト・パトローナム)「守護霊よ来たれ」:
「守護霊の呪文」。守護霊を創り出す。守護霊は銀白色で半透明。形状は術者によって異なり、基本的には実在の動物だが、魔法生物になる者もいる。守護霊を出現させることで吸魂鬼を追い払うことができるほか、熟練者になると守護霊に伝言を託すことも可能。守護霊を創り出すためには幸福なことを思い浮かべる必要がある。そのため術者の精神状態や人間関係に影響されやすく、守護霊の形状が変化することもある。なお、ヴォルデモート及び死喰い人は、守護霊を出さないスネイプを除く。

Expecto は,ラテン語のexpecto.
意味は「期待する;予測する;希望する」など.
patronum は,ラテン語のpatronusもしくはpatrona.
意味はどちらも「守護者」で前者が男性形.後者が女性形です.
この呪文が,映画を見ていて「ん?ラテン語形の言葉かな?」と思った最初のもの.
今は死語になっちまいましたが,フイルムカメラのパトローネ(Patrone)はこれが語源ですね.日本にはドイツ語経由で入ってきましたからね.英語では(film) cartridge.アメリカ製のカメラなんて,使い物になりませんでしたからね.


Expelliarmus(エクスペリアームス)「武器よ去れ」:
「武装解除術」。紅の閃光を放ち、対象の持つ武器を強制的に吹き飛ばす。術者の力量次第では、武器を持つ人間も同時に吹き飛ばして気絶させたり、吹き飛ばした武器を自分の手元に来させ、自分のものにすることができる。ハリーが得意とする呪文のひとつ。第2巻ではセブルス・スネイプが「エクスペリアームズ」と唱えている文庫版では修正されている。映画では作品によって術の表現が変わっている。

Expelliarmusは,たぶんexpelli-armusという合成語.
ただし,ラテン語のarmusは「肩,肩甲骨」の意味で,「武器」の意味は無いようです.こちらはギリシャ語ἁρμός=「肩」が語源.
武器の意味を持つラテン語はarma.これが,armusに変化するという例は無いようです.

Expulso(エクスパルソ)「爆破」:
対象を爆破する。第7巻でアントニン・ドロホフが使用。

ラテン語のexpulso は「放逐する,除名する,免職する;排出する,駆除する;(弾丸などを)発射する」などの意味.「爆破」というよりは「あっちへ行ってしまえ」というような意味でしょうか.

2014年8月13日水曜日

ハリー・ポッターの魔法呪文 =D=

=== D ===

Defodio(デイフォディオ)「掘れ」:
第7巻でハーマイオニーが使用。穴掘り呪文。グリンゴッツ魔法銀行から脱出を図るドラゴンを助けた。

Defodioは,そのままラテン語のdefodioと思われます.意味は,やはり「掘る」
これは(たぶん)fodio=「掘る」の強調形だと思われます.
で,fodioしたものがfossa=「溝,掘,窩」で,知られたところでは「フォッサ・マグナ(Fossa Magna)=大地溝帯」なんかがありますね.
で,fossaから「掘り出されたもの」がfossilis=「化石」>英語になってfossilsです.


Deletrius(デリトリウス)「消えよ」:
第4巻でエイモス・ディゴリーが使用。直前呪文によって出現した「闇の印」を消去した。

Deletriusは不明.
ただし,ラテン語のdeleoは「消し去る,削除する」という動詞で,「破壊する;全滅させる」という意味もあります.たぶん,これからの造語でしょうね.


Densaugeo(デンソージオ)「歯呪い」:
第4巻でドラコが使用。ドラコはハリーにかけようとしたが、ハリーの「鼻呪い」の光線とぶつかり、ハーマイオニーにかかってしまう。その結果、ハーマイオニーの歯がリスの前歯のように伸びた。

Densaugeoは,たぶんdens augeo=「歯」+「大きくさせる」.


Deprimo(デプリモ)「沈め」:
第7巻でハーマイオニーが使用。ラブグッド家の2階の床にかけ、ラブグッド家を崩壊させた。

Deprimoは,そのまんまラテン語のdeprimoでしょう.
ただし発音は「デープリモー」ですが.意味は「押し下げる,沈める」.これから派生した形容詞がdepressus.もちろん,英語のdepressの語源.


Descendo(ディセンド)「落ちろ」:
対象を落下させる。7巻でロンが天井に向かって唱え、跳ね上げ式の梯子を下ろした。また、ビンセント・クラッブは物を積み上げた壁に向けてこの呪文を使い、壁を崩れ落とした。

Descendoは,ラテン語のdescendoそのものですね.意味は「降りる,下降する」.


Diffindo(ディフィンド)「裂けよ」:
対象を引き裂く。人体に行使した場合は対象の身体に切り傷を生じさせる。

Diffindoは,ラテン語のdiffindo.意味は「割る,開く」など.


Diminuendo(ディミヌエンド)「縮め」:
『不死鳥の騎士団』で登場。ナイジェルが死喰い人の模型人形に向かってこの呪文を使用し、人形を小さくした。

Diminuendo はラテン語のdeminutioでしょうね.意味は「和らげること,減らすこと」.
?なぜ《名詞》なんだろう.動詞はdeminuo=「小さくする,小さく切り刻む;減らす」….
もっと,まともな辞書が欲しい.(^^;


Duro(デューロ)「固まれ」:第7巻でハーマイオニーが使用。タペストリーを石に変えた。

Duro
は,ラテン語のduro.意味は「固める;固まる」.そのままですね.
 

2014年8月10日日曜日

ハリーポッターの魔法呪文 =C=

ハリーポッターの魔法呪文

映画「ハリーポッター」を見ていて,ここに出てくる魔法の呪文は,ひょっとしてラテン語もしくはラテン語に近い言葉ではと思い,調べてみました.
なお,呪文そのものはWikipediaにでているものを利用しています.ただし,表記はカタカナ言葉になっていますので,アルファベット表記を優先しています.

=== C ===

Cave inimicum(カーベ イニミカム)「敵を警戒せよ」:第7巻で、ハリー、ロン、ハーマイオニーがキャンプを張る時に使用した防衛呪文の1つ。

Caveは,たぶんラテン語のcaveaのこと.
caveaはもちろん,英語のcaveの語源で「穴」を意味しますが,この場合は「巣穴(=避難所)」のことでしょう.この動詞はcavo=「掘り抜く,穴を開ける」.
inimicumは,ラテン語のinimicusだと思われます.このただし,発音は「イニミークス」この意味は「敵性の,有害な」など.
そうすると,意味は「有害な穴」ということになりますか.たぶん,“敵意をもったものに対する避難所 or 敵にとって有害な穴”というような意味なんでしょう.
採用されている日本語訳は,意訳でしょうね.


Cistem Aperio(システム・アペーリオ)「箱よ、開け」:『秘密の部屋』で登場。「リドルの日記」に登場した過去の記憶の中で、アラゴグを隠してあった箱を開けるためにリドルが使用した。

Cistemは,たぶんラテン語のcista.
cistaは「箱,棚」の意.元はギリシャ語の[κίστη (ciste)].英語のchestの語源なんだろうと思います.chestは「胸」の意で使われていますが,元の意味はやはり「籠,箱」.胸は心臓や肺が収められた“箱”ということですかね.
Aperioも,たぶんラテン語のaperio.
その意味は「明らかにする,曝す;(閉じられていたものを)開ける;開く,(年が)開ける」など.
つまり,「箱よ,開け」ですね.
なお,Cistemはラテン語風に発音すれば「キステム」です.


Colloportus(コロポータス)「扉よくっつけ」:扉を完全に閉鎖する。

Colloportusは,たぶんギリシャ語の[κολλοπόω (collopoo)]から造った言葉ですね.[κολλοπόω]は,「膠で貼り合わせる」という意味.
「扉」に関わる意味は見いだせません.単に「くっつけ!」ですね.


Confringo(コンフリンゴ)「爆発せよ」:対象物を爆発させる。第7巻でハリーが使用。

Confringoは,ラテン語そのままで,意味は「粉々に粉砕する,破壊する」.和訳「爆発せよ」は強調したのでしょう.


Confundo(コンファンド)「錯乱せよ」:「錯乱呪文」。対象を錯乱させる[9]。映画『謎のプリンス』では呪文名が「コンファンダス」となっている。

Confundoは,ラテン語の動詞で「混ぜる」の意.それから「混乱させる」という意味が派生したようです.

2014年8月8日金曜日

ハリーポッターの魔法呪文 ==B==

ハリーポッターの魔法呪文

映画「ハリーポッター」を見ていて,ここに出てくる魔法の呪文は,ひょっとしてラテン語もしくはラテン語に近い言葉ではと思い,調べてみました.
なお,呪文そのものはWikipediaにでているものを利用しています.ただし,表記はカタカナ言葉になっていますので,アルファベット表記を優先しています.

=== B ===

Bombarda(ボンバーダ)「砕けよ」:『アズカバンの囚人』で登場。シリウスを閉じ込めている牢を破壊するためにハーマイオニーが使用した呪文。

Bombardaは,たぶんラテン語のbombardoのこと.これは「爆撃する,砲撃する」の意.
と,辞書には載ってますが,たぶん違うかと.なぜなら,爆撃,砲撃なんてのは,ごく最近の技術ですから.
たぶん,元はbombusで,これはギリシャ語のβόμβοςからきたもの.意味は「ブンブンいうこと,ボンボンいうこと」.
ラテン語化したbombusは,「マルハナバチ」の属名ですね.
ちなみに,マルハナバチの英名はBumblebee=「バンブルビー」….そう,映画「トランスフォーマー」に出てきますね.(^^;


Bombarda Maxima(ボンバーダ・マキシマ)「完全粉砕せよ」:『不死鳥の騎士団』で登場。ドローレス・アンブリッジが「必要の部屋」に侵入しようとして使用した。

Bombardaは前出.
Maximaは,たぶんラテン語のmaximusのこと.maximusの意味は「最大の」
語尾-aはたぶん,Bombardaの語尾に合わせたのでしょう.
 

2014年8月7日木曜日

ハリーポッターの魔法呪文 ==A==

授業も終わって,羽を伸ばしてる最中.
といっても,懸案である蝦夷地質学にかかれるほど余裕があるわけではありません.まずは,体のメンテが必要なもので.(^^;
で,思いついたのがこれ.以下.

ハリーポッターの魔法呪文
映画「ハリーポッター」を見ていて,ここに出てくる魔法の呪文は,ひょっとしてラテン語もしくはラテン語に近い言葉ではと思い,調べてみました.
なお,呪文そのものはWikipediaにでているものを利用しています.ただし,表記はカタカナ言葉になっていますので,アルファベット表記を優先しています.

注:わたくしはラテン語を習ったことがありません.学名の語源が知りたくてやってるだけですので,名詞と形容詞はわずかながら理解できますが,動詞の変化や文法については,サッパリですので,あまり信用しないように.(^^;

=== A ====

Accio(アクシオ)「来い」:「呼び寄せ呪文」。離れた場所にある物体を、術者の側に呼び寄せる。ホグワーツ魔法魔術学校では4年生の「呪文学」で習う。

Accioはラテン語そのものでaccio=「呼ぶ,命じる,求める」を意味する動詞です.そのままですね.ただ,発音は「アッキオ」の方が近いと思います.


Aguamenti(アグアメンティ)「水よ」:杖の先から水を噴出させる。反対呪文は「インセンディオ」。

これは,何語だかまったくわかりません.
ただし,「水」に関した呪文だというわけですから,前4文字はagua-ではなくaqua-だった可能性がありますね.それじゃあ,-mentiとはなにかということになりますが,まったく不明.


Anapneo(アナプニオ)「気道開け」:気管に食べ物などの障害物が詰まった際、その障害物を取り除くことができる。第6巻でホラス・スラグホーンが使用。

anapneo:これは,もろにギリシャ語.
元はἀναπνέω (anapneō)で,意味は「呼吸する;一息入れる;一服する,休憩する」など.πνέω (pneo)自体が「息をする」意味が強い言葉です.ですから,「気道開け」というよりも「呼吸しろ」の意味が強い呪文かと.


Arania Exumai(アラーニア・エグズメイ)「蜘蛛よ、去れ」:『秘密の部屋』で登場。杖先から白い光を出し、蜘蛛を吹き飛ばす呪文。

Arania はラテン語のaranea.これは「蜘蛛もしくは蜘蛛の巣」を意味します.
exumaiは不詳.


Aresto momentum(アレスト・モメンタム)「動きよ、止まれ」:『アズカバンの囚人』で初登場。ダンブルドアが、吸魂鬼に襲われて箒から落下するハリーに対して使用した。後に『死の秘宝 PART2』でハーマイオニーも使用した。

arestoは,たぶんarrestoというラテン語で「止める」という動詞. momentumも,そのままラテン語で,「運動;動作」という意味.したがって,「動作を止めよ!」ね.


Ascendio(アセンディオ)「昇れ」:『炎のゴブレット』で登場。第二の課題で、ハリーは湖から脱出するためにこの呪文を使用し、自身の身体を浮上させた。

Ascendioは,たぶんascendoというラテン語.意味は「登れ/昇れ/上れ」.そのままですね.


Avis(エイビス)「鳥よ」:杖から鳥を出す。第4巻でオリバンダー老人が使用。

Avisは,もちろんラテン語で「鳥」の意.ただし,元はサンスクリット語らしい.

2014年6月14日土曜日

空ブログ更新です

 


スパムが酷いので.


どうやら,請負業者が更新の滞っているブログを見つけては,スパムを送りつける仕事を請け負っているようです.


別のことで忙しいので,更新が滞ってますが,止めたわけではありません.


ネット上には迷惑な連中がたくさん.


で,こんな意味のない記事を.勘弁して欲しいなあ….


 

2014年4月17日木曜日

"含銅磁鉄鉱"

 
先日,T.O. さんからご質問を頂いた.

1.古代製鉄関連で「含銅磁鉄鉱」という呼称がよく使われますが、鉱物の呼称として如何なものでしょうか。
2.日本でも、銅と磁鉄鉱が共に採掘される箇所がありますが、その場合、磁鉄鉱の中に銅が混在しているものなのでしょうか。
これを製練した場合、銅を含む所詮「含銅磁鉄鉱」ということなのでしょうか。

というもの.

「含銅磁鉄鉱」という「言葉」は聞いたことがありませんでしたが,鉱物学や鉱床学を習ったのは,もう40年も前のことであるし,そういう新鉱物がその間に出てきた可能性が全くないわけでもないので(ほとんど,あり得ないですが),調べるので時間を欲しいとして保留しておきました.

授業が始まって,少し余裕ができた(というか,開き直った(^^;)ので,少し調べてみました.

とりあえず,ネット上で「含銅磁鉄鉱」を検索してみると,いくつか,その言葉が使われていますが,T.Oさんのご指摘通り,「古代製鉄関連」でしか使われていないようです(学問体系が異なったとしても,似た言葉を別な概念に使うのは,誤解を招くことが多く,どうかと思います).

ただ,地質学関係では,まったく使われていないかというと,そうともいえず,ごく稀に「含銅磁鉄鉱」が出てきます.
しかし,それは文脈を見てもらえばわかるのですが「含銅磁鉄鉱床」という使い方.正確にいえば「含銅磁鉄鉱鉱床」.それは「含銅磁鉄鉱」の鉱床ではなく,「(含銅)磁鉄鉱・鉱床」ですね.まれにそれが「含銅磁鉄鉱」と略されたのか誤植(欠植?)なのかわかりませんが,それは確かにある(困ったものです).

まあ,なんにしても「含銅磁鉄鉱」という新鉱物が発見されたという記述は見あたりませんでした.

さて,この「(含銅)磁鉄鉱床」,どこに出てくるかというと,まず最初が「釜石鉱山」です.餅鉄があったことで有名な鉱山です(標本欲しいなあ(^^;).
ここは有名なスカルン鉱床で,石炭紀-ペルム紀の石灰岩に蟹岳複合岩体と呼ばれる閃緑岩・モンゾニ岩・花崗閃緑岩が貫入してできたもの.
鹿野・南部(1981)によれば「東側の古生層火砕岩と西側の閃緑扮岩々脈との間に生成したざくろ石スカルン中に,火砕岩に近接して,磁鉄鉱の濃集する鉄鉱体が胚胎している.スカルン帯の前縁,残存石灰岩との境界付近には灰鉄輝石を主とするスカルンが発達し,その中でも石灰岩にもっとも近接して塊状の黄銅鉱・キューバ鉱が濃集し,高品位銅鉱体が形成されている.スカルン鉱物と鉱石鉱物の組合せ,およびそれらの分布にみられるこのような傾向は釜石鉱山の西列鉱床群に共通している.」となっています.

まあ,このように「鉄鉱石」と「銅鉱石」がそれぞれ濃集体を作って「(含銅)磁鉄鉱・鉱床」をつくっているということなんでしょうね.
けっして「含銅磁鉄鉱(という鉱物の)鉱床」があるわけではない.
なお,ここで出てきた黄銅鉱は化学式がCuFeS2,キューバ鉱はCuFe2S3なので,“含銅鉄鉱”ではありますが,“ 含銅磁鉄鉱”ではありません(ちなみに磁鉄鉱の化学式はFe3O4).

さて,磁鉄鉱中に「銅」成分がないかというと,そういうわけにはいきません.磁鉄鉱が主体の鉱石中にも随伴鉱物として黄銅鉱,磁硫鉄鉱,黄鉄鉱が記載されていますので,見た目で選り分けても原材料に「銅成分」が混入するのは避けられないでしょう.

製錬過程でどうなるかは,その時代の技術によって異なると思われますので,私の能力では言及できません

なお,ほかに阿哲地域(岡山県)の本郷鉱山でも“ 含銅磁鉄鉱を採掘していたらしいです.ここも,スカルン鉱床ですね.


注:ネットサーフィン中に「キースラーガー(含銅磁鉄鉱)」という記述がありましたが,キースラーガーは「層状含銅硫化鉄鉱鉱床」ですので,お間違えの無いように.我が北海道でも「下川鉱山」が有名でした.お,この標本,もってるな.(^^)

 

2014年3月19日水曜日

地球全史スーパー(デタラメ)年表

 
地質学雑誌の広告に釣られて発注したが,届いたらとんでもない代物だった.

    


著者らは,きっと地質学史の基礎や地史学の基礎を知らないのだろう.
たぶん,英語も.

授業の資料に使えるかと思って購入したが,使用するなら全ページにわたって説明してあげないと学生さんは混乱するばかりだろう.よって,不可.
第三紀は廃止になったとか書きながら,「古第三紀」や「新第三紀」を使うなよ.
地質学って「本当に滅びたんだなあ」と実感する.

これ以前に,「The Concise Geologic Time Scale」の和訳本「要説地質年代」がでていた.
これの素晴らしいところは,「日本地質学会」の“誤訳のススメ”なんかものともしていないところ.

   


Paleogene Periodを「旧成紀」,Neogene Periodを「新成紀」とキチンと訳しています.
個人的には「旧(古)獣紀」,「新獣紀」のほうが好きですが.

購入した時には,「顕生累代」とペアになる用語に「先カンブリア時代」を採用してあって,ガッカリしたのですが,今回の「地球全史スーパー年表」よりは,はるかにまし.

「顕生累代」を使用するなら,ペアになる言葉は「隠生累代」になるべきなのは,理の当然.
「先カンブリア時代」なんてのは,カンブリア紀以前は研究対象ではなかった時代の言葉で,俗語として使うならともかく正式に使うのはどうもね.

でも,「原生累代」,「太古累代」はおかしい.単位が交差しています.
その下に,「新・中・古原生代」や「新・中・旧・原太古代」って,おかしいでしょ(これは,まあ,原著がそうなってるのだから,しょうがないといえば,しょうがないですが).実体がないのに,「古生代」なんかと同列にするのはね~~.
 

2014年3月9日日曜日

「日本の地質学は九州からはじまった」?

 
地団研の機関誌「そくほう」697号に,こんな記事が載りました.


まあ,佐賀大会を盛り上げようという気持ちはわからんでもないですが,記述が不正確すぎますね.
真面目に地質学史をやってる人が見たら,かなり不愉快に思うことでしょう.

第一に「リヒトホーフェン」が日本にやってきたのは,確かに記述の通り「1860年」ですが,正確には1860年9月4日(万延元年七月十九日).江戸・横浜で冬を越して「条約の仮調印」後,1861年1月31日(万延元年十二月二十一日)に長崎に向かったはずです.
九州がみえたと記録しているのが2月10日.しかし,船から陸上の地形は見ましたが,上陸して調査なんてことはできなかった.
長崎入港が2月17日(万延二年一月八日).
「1860年」だけ示して,調査地(?)長崎に到着したのが,いかにも早かったように見せかけるのはどうかと.

そのあと「長崎で接した地質岩石の観察により…」と,いかにもその周辺の地質調査を行ったかのように表現されていますが,当時の日本では外国人の旅行はきびしく制限されており,自由な地質調査なんか,幕府の許可が無いとできるわけもなかったはずです.
で,許可された範囲内の地域(風頭山,金比羅山など)にはでかけたようですが,詳細は不明.
結局,当時長崎に居たポンペの紹介で司馬凌海が収集していた岩石を見せてもらい「長崎周辺の地質構造に関する所見」と「九州の地質学」の二論文を作り上げたらしいです(ある意味凄い!).

例によって,この二論文は入手不可能.もっとも原著はドイツ語ですから,入手できても解読が大変.(^^;
で,リヒトホーフェン一行が長崎を発って上海に向かったのが,1861年2月24日(万延二年一月十五日).
長崎にいた期間は,一週間でした(もちろん,入港した日と出港した日はなにかできたとも思えません).

これで,「日本の地質学は九州からはじまった」とPRされてもねえ.

勘違いされても困るので追記しときますが,リヒトホーフェンに業績が無いとかいっているわけではありません.彼の業績は発掘され,評価されるべきでしょう.正当にね.
++++文献+++
上村直己(1997)リヒトホーフェンの見た幕末・明初の九州.
熊本大学文学会,地域科学編,「文学部論叢」,第56号,地域科学編,53-96頁.
 

2014年2月8日土曜日

「ワッソン報文」より

 
報文の正式名称は不明である.
報文は「開拓使顧問ホラシ・ケプロン報文」中(p. 371-390)にあるが,目次には「ゼームス,アール,ワツソン氏北海道初期測量報文摘要」とあり,当該報文の標題は
「開拓使測量長ゼームス、アル、ワスソン」
「北海道初期測量報文摘要」
とある.ここでは仮に「ワッソン報文」と呼んでおくことにする.
冒頭の注では「1874年3月30日付けで,ワッソンがケプロン将軍に提出した報文の摘要」であることが示されている.ところが,本文では冒頭に「千八百七十四年第三月十四日」からの行動が示されている.報告書は前年の業務の報告であるはずで,本文が1874年の行動であるはずがない.
また,ワッソンは1874(明治7)年4月に陸軍省に転出したはずなので,1874年に測量行ができるはずがない.したがって,冒頭の日付は1873年の間違いであると判断する.
====
1873年3月初旬,ワッソンは「北海道三角測量事業」の命を受ける.正式名称は不明である.仮に「北海道三角測量事業」と呼んでおく.この事業は途中で中止され,残った三角測量は福士成豊が引き継ぐ(たぶん)が,三角測量事業全体としては,のちに終了したことになっている.区別しないのは混乱の元である.
また,ワーフィールドが前年「札幌本道の建設にともなう測量」を行っているが,これは「地形測量」を前提とした「三角測量」ではない.したがって,これも区別されるべきである.

ワーフィールドが測量補助につかった生徒のうち6名を「北海道三角測量事業」に引きつづき使用することをワッソンが要請している.この間の経緯は不詳であるが,結局「札幌本道測量事業」に参加した数名は「北海道三角測量事業」にも参加しているらしい.
摘要には,ワッソンは10名の補助を要請したことが書かれているが,東京で決定した人員は以下のようであった.

補助 荒井都之助
補助生徒 溝口,關,野澤,永井,奈佐,松本,竹村,寺澤
訳官 井添
事務官 平林

「補助」と「補助生徒」にどのような差があるのか不明であるが,合計9名で要求より1名たりない.後に加わるデイが10人目かもしれない.
前年の「札幌本道測量」の時には,ワーフィールドにはJ. R. クラークが補助兼通訳として参加していたが,「北海道三角測量事業」からははずされており,ワッソンは日本人通訳は測量術を知らないので専門用語の通訳に難があることを嘆いている.
ここでは,荒井郁之助のほかは姓以外不詳であるが,別の資料からわかる名を記しておく.

荒井郁之助(開拓使五等出仕)(1875当時)
溝口善輔(開拓使十三等出仕)(1875当時)
野澤房迪(開拓使十三等出仕)(1875当時)(沼津兵学校出身)
永井直晴(開拓使十三等出仕)(1875当時)
関 大之(開拓使御用係)(1875当時)
奈佐 榮(開拓使御用係)(1875当時)(沼津兵学校出身)
松本安宅(開拓使 史生)(1875当時)
竹村義晴(開拓使 史掌)(1875当時)
寺澤正明(不詳)

1873.03.14(原本では「千八百七十四年第三月十四日」)
ワッソンが申請した外国人補助と測量機器は,USAに発注されたと記述.
1873.04.19
・日本汽船・北海丸に乗船し,4月29日,札幌に到着.
1873.05.05
・小樽から送付の機材・食料が到着(!),「同日一同野業に取掛れり」
・一同「ワツ(輪厚)」まで移動.昨年の札幌本道建設作業の残務を処理する.
ワッソンは,三角術測量のための基線設置に適地を探していたが,石狩川の150~200マイル上流に広原があることを知った.その実地検分のために「少人数にて該所迄,石狩川を遡るに決したり」.

1873.05.25
・ワッソンは荒井,井添,平林にアイヌ語通訳一名を加え,篠路から船で出発した.
1873.06.06
・45里上流の「イチヤン(一已)」に到着.急流のため,和船を「土人舟(チプ?)」に乗り換える.ときどき,アイヌ船でも危険なところがある.
1873.06.08
・小支流「ヒルシナイ(?春志内)」川口に露営.
1873.06.09
・「広原の下端なる「カワカミ(上川)」に着せり」
いわずとしれた(現)「上川盆地」である.
残念ながら,ここでは三角測量の基線を引く場所は見いだせず,帰途につき7月7日札幌に帰った.
当時の上川盆地は,のちに訪れたライマンが思わず「カジュメア!(インド北部の避暑地)」と叫んだほどの一大森林地帯で,10数kmの基線を引く場所は,容易には見いだせなかったのである.
ワッソンの上川盆地についての評価を記しておく.
「此原は四面山を遶らして暴風を防ぎ,且気候温かなり.加るに水利ありて木材に富み而して土壌肥沃なり.」
確かに,現在の上川盆地(旭川周辺)は四面を山に囲まれ,強風が吹くことはめったにない.「気候温かなり」というのは,冬期間を経験しなかったワッソンの誤評価であるが,6月の旭川であれば,札幌よりも暖かいかもしれない.
札幌の残留部隊は,測量機器の使用法を訓練していた.

ワッソンは,帰札ののち,あらたな基線候補地を探して「東海岸の勇払に向て」出発した.勇払方面を東海岸という表現は不正確である.それは,松前藩時代以来,日本海側を「西蝦夷地」,太平洋側を「東蝦夷地」と呼んでいたなごりであろう.
結果,勇払-鵡川間に適地を見いだした.ワッソンは,ほかに函館の平野部および黒松内低地帯を助基線の候補地にあげている.

1873.07上旬
・ワッソンは,松本鎮台(松本十郎:1873~1876.7開拓使大判官.「アツシ判官」の異名を持つ)の依頼により,石狩-札幌間の運河設置について判断調査を行う.結果は「良運河を造るヿ能はざるなり」.
1873.07.18
・連邦海軍大尉「M. S. デイ」,札幌着.
しかし,測量器械未到着のため「西海洋より噴火港迄を測量し,期に至りて函館に赴き,器械を得て勇払に至らんと決」した.

1873.07.27
・ワッソン,デイ,荒井,永井は札幌を出発.小樽内から長万部にいたり噴火港をまわって,8月3日に函館に着いた.(小樽内:現在の小樽市ではなく,札幌-小樽間にある星置川下流を小樽内とよび,過去松前藩によるオタルナイ場所があった)
1873.08.04
・函館に着いた船便には基線測量用および天文測量用の精密機器はなく,小型機器のみであったため,精密機器の到着まで小型機器を用いて「石狩川及ひ其支流の河畔なる広原等を測量するに決」した.この地域は北海道開拓の要地であり,いずれにしろ三角測量の必要な土地であったからだ.
・甲乙丙丁,四組に分け作業を進める(正式な名称かどうか不明:この名を使う).
甲組:デイ,荒井,松本+林訳官
石狩川河口より測量開始し,茨戸河口まで測量の予定(「其浅深を量り」とあるから,川底までの深さも測定した模様).
乙組:関,奈佐
「「タランシツト」を用ひ「バラト」,篠路,豊平の三川及ひ其支流を測量するヿに担当せり」(「タランシット」は「トランシット」のことで,「バラト」は茨戸).
丙組:溝口,野深
千歳川及ひ其数支流を測量
丁組:ワッソン指揮,永井・竹村・井添・平林(但し,井添は訳官,平林は事務官である)
石狩川を,茨戸河口から上流へ.
精密測量機器が未着であるため,アリダードを用いた平板測量,スタジア測量を用いたとある.

1873.09.02
・甲組,乙組,丙組出発.
「此器械を整備するが為め」日数を重ねたとあるが,機器の作成かあるいは修練のためかは不明.
・ワッソンは,舟を扱うアイヌが見つからなかったため出発が遅れた.理由は,石狩川の急流では,アイヌの方が和人より操船が巧みであるからでる.
1873.10.18
・ワッソン隊は石狩川支流・アイベツ(愛別)河口に到着した.
愛別は上川盆地の北の端にあり,石狩川はここから大雪山麓の渓谷に入る.舟での遡航は困難になり,また気候は晩秋を迎えていた.これ以上の遡航を断念し,10月12に野営した「シユーベツ」(忠別つまり現在の旭川付近)河口まで戻り,「シユーベツ(忠別川)」の測量に切り替える.帰途,舟二隻を転覆させ,機材流失.21日,忠別川の測量を始めたが天候不順のため遅延.26日,「バイー河口」にて終業(「バイー」は不詳.しかし「石狩川図」を見るかぎり,ワッソン隊は忠別川を遡ったのではなく,美瑛川を遡った可能性が高い.そうであれば,「バイー」は「バイエ(Biye)」すなわち現在の美瑛だと思われる).
1873.10.31
・ワッソン隊は空知河口へ.空知川測量を試みるも,季節はすでに初冬.作業不可能のため帰札へ.
1873.11.06
・ワッソン隊,札幌に到着.同時期,甲組(デイ隊)は石狩河口より幌向河口(現・南幌駅付近)までを測量し終わり,ほかの各組も予定を終了して札幌へ戻った.
1873.11.24
・ワッソン,デイ,荒井,東京へもどり,製図を開始する.
なお,通常「北海道石狩川図」と呼ばれる図は,この時の報文に添付されたものらしい.
・この年の成果は以下.

測量せる川名        停脚所の数        測量せる里数        測量者の名
石狩        1,050        150.82        ワスソン
チユーベツ        78        10.04        ワスソン
バラト        456        17.65        関
篠路        546        17.65        関
豊平        580        36.14        関
千歳        233        10.36        溝口
夕張        459        40.76        溝口
フシコユーバリ        41        3.13        溝口
モナメ        18        1.66        溝口
ユーニ        50        3.00        溝口
ヘルベツ        25        1.61        溝口
アノラ        155        6.24        溝口
ハシヤンベツ        31        1.24        溝口
パンゲトラタ        18        0.78        溝口
パンゲトラタ        22        0.88        溝口
ウエムベツ        49        1.82        溝口
スタベツ        43        1.80        溝口
ツクベツ        72        3.00        溝口
クオベツ        60        2.68        溝口
シマタツプ        288        14.60        溝口
ワツ        138        8.38        溝口
幌向        211        10.50        松本
イクシベツ        ー        ー        松本

ワッソンは,この報文に付け加えて,石狩河畔は農地に最適であることを示している(事実そのとおりになっている).しかし,「カモイコタン(神居古潭)」より下流域は水害があるであろうことも指摘した.
また,神居古潭より上流は「河上と云ふ」(としているが,これは「上川」の間違いであろう:翻訳者のミス)とし,上川はそこに通じる道がないことで開発困難であることを指摘した.
また,石狩川は幌向より上流は舟での遡航は困難で,喫水が4~5尺の船は空知河口までのぼれるが,それより上流は大型船は不可能であるとしている.
さらに,来年の測量の準備が整っていることや,デイや荒井の能力の高さを強調している.
以上.

昨年は,旭川-石狩間を何度となく,車で走った.北海道の広さを改めて実感した.
わずか百数十年前,道もないこの地を,徒歩や小船で,未来を信じて歩き回った人々に(その多くは名前すら残していない)感動を禁じ得ない.
 

2014年2月5日水曜日

福士成豊の測量

 

福士成豊が開拓使・函館支庁の命により道南部の測量を行っていたらしいことはわかるのですが,それがいつ頃,どのような範囲で行われたのかは曖昧です.
そこで,デイ(1877)の「北海道測量報文」と大蔵省(1885)の「開拓使事業報告」を基本に,いくつかの文献をクロスさせて探ってみました.

正式な報文があるのにわかりづらいのは,デイが英文報告書を提出したのが1876. 3なのに,和文報告書は1877. 12出版であり,相対的年数表示「昨年」あるいは「一昨年」という書き方が「いつ」を示しているのかよく判らないことでです.
一方,大蔵省(1885)の「開拓使事業報告」は報告書そのものではなく,編集文であるため,省略が多い様です.デイが関係した「三角測量事業」という書き方ではなく,途中からデイ抜きの「測量事業」が書き込まれていたりします.そのままでは信頼性が足りないように思われることです.


以下,デイの報告書から「北海道三角測量事業」の海岸線測量について,時間・場所を明記して編集してみました.

1874(明治 7)年6月,沿岸線測量隊は二班を構成.「勇払基線*」から測量を開始した.
一班は東進し襟裳岬方面へ.この年は勇払から歌別河口まで測量終了.
二班は西進し噴火湾方面へ向かう.この年は勇払から旧室蘭駅まで測量終了.

翌1875(明治 8)年は,四班を構成.
松本班・水野班は5月28日に出発した(たぶん函館から).
松本班(加藤補助)は,昨年度終点「幌泉と襟裳岬(昨年,此崎迄測量せり)との間ベツベツ河口**」から測量を開始し,根室で終了した.
水野班(菅沼補助)は,「其昨年測量せる最尾の標杭(噴火湾の北岸紋別***近傍)」から測量を開始し,有珠湾を通り長万部から渡島半島を縦断,日本海岸を岩内-古平-余市-忍路-小樽内(星置川河口)まで測量し,竹村班と合流した.
野澤班と竹村班は5月31日,函館丸に乗船し宗谷へ.
野澤班(木村補助)は,宗谷より東進し,8月28には知床岬まで測量を完了し,10月上旬,根室に達し松本班と合流した.
竹村班は,野澤班の第一杭から測量を開始し,西海岸を小樽内方面へ.10月下旬水野班と合流した.

1874~1875の二年で,道南部を除くすべての海岸線を踏破.測量を終わる.

「右(上)四氏の事業と昨年永井奈佐両氏及ひ一昨年福士氏の施す所とを以て北海道本島の沿海線測量は全く成就せり」(北海道測量報文;デイ,1877)
したがって,1874年の二班は「永井班」と「奈佐班」であり,福士成豊は1873(明治 6)年に道南部海岸線の測量を終えていたと考えられる.


デイが測量長になったのが1874(明治7)年4月で,「北海道測量事業手続書(計画書)」を提出したのが1875(明治8)年3月で,それから本格的な三角測量が始まったわけですから,函館支庁が福士に測量を命じたのがいかに早いか,またそれを一人で(かどうかは不明ですが)こなした福士の能力は記しておくべきことでしょう.実際に,どのようなことが行われたのか,それを知ることはもう不可能なのでしょうか.
福士は記録を残していないのでしょうかねえ….

---
*勇払基線:三角測量の基本となる線のこと.当初,石狩浜で設定を試みたが,適切な土地がなく,勇払-鵡川間に設定された.勇払側の基点は道の文化財となっている.鵡川側の基点はいまだ不明.
**ベツベツ川:たぶん「歌別川」のこと.
***紋別:伊達紋別
 

江戸末期〜明治初期の蝦夷地測量事情=キーマン・福士成豊=

 
訳あって,江戸末期から明治初期にかけての地形図測量事情を調べています.
あまり興味が無いけど,ライマンの地質調査の背景がわかればと….

この話題のキーマンは「福士成豊」のようです.
でも,残念なことに情報がほとんど無い.理由は,たぶん,彼が町民の出だからだと思います.明治政府や開拓使に取り入ってボロもうけもしなかったし,政治にも関わらなかった.勇ましいこともしなかったから,いわゆる“歴史家”からも注目されていない.
まとまった記録(伝記など)はないので,同時代のいろいろな記録から絞り込んでいくしかないわけですね.



おぼろげながら,彼の業績が見えてきました.
開拓使が御雇外国人や荒井郁之助などを活用して,やっとの思いで北海道の(現代的な意味での)地形図作り(三角測量による)を始めますが,じつは成豊がすでに道南部で始めていた.彼は,箱館在住のブラキストンから,測量術も学んでいたのです.

成豊の能力・業績は,たぶん初期には認められていなかった.町民だから.

でも,御雇外国人が認めた彼の能力は,結局,開拓使・明治政府(この場合は道庁か?)も認めざるを得なかった.で,逆に費用のかかる御雇外国人は切り捨てられて(これがたぶん,「北海道三角測量事業」が事業半ばで中断された理由),成豊があとを引き継ぐことになるわけですね.
また,その頃には,御雇外国人の指導下,測量術を身につけた若者が多数出てくることになる.

一方,無節操な開拓使のやり方に腹を立てた荒井郁之助は,もともと黒田らとそりが合わなかったこともあって,辞任してしまう.
そんな事件があったのだろうと推測します.

残念だけれど,こういったことを裏付ける資料のありかは私にはわからない.あったとしても.たぶん見せてもらうことができない.
このへんが限界.
 

2014年1月22日水曜日

不思議な写真

 
ネタ探しでサーフィン中に不思議な写真を見つけた.
あるWebページで「強制移住させられたサハリンアイヌ」という写真だ.

見覚えがある.そういう写真ではなかったはずだと思い,桑田權平の「來曼先生小傳」を見直す.
あった.
タイトルは「アイヌ土人」.説明文はない.だが,なにかがおかしい.

Webページの写真の元データは北大図書館の北方資料DB.
そこには「札幌郡対雁村旧樺太アイヌ移住合写」というタイトル.説明は「明治9年に開拓使によって札幌郡対雁村に強制移住させられた樺太アイヌたち」となっている.

見比べていただきたい.
桑田權平の「來曼先生小傳」からの「アイヌ土人」の写真.


北大図書・北方資料DBからの「札幌郡対雁村旧樺太アイヌ移住合写」の写真.


双方の写真,人物はまったく同じ,前景も同じ.だが,背景が微妙に異なる.
北大図書の方の写真にある家屋が,桑田權平使用の写真の方には「無い」のだ.
これはいったい…?