2010年3月1日月曜日

Lukousaurus の展開

 
 学名辞典(恐龍編)いじり(その6)です.

 Lukousaurus yini Young, 1948という恐龍がいます.

 LukousaurusはLukou-saurusの合成語で,Lukouは漢字で「蘆溝」.そう,あの「蘆溝橋事件」の蘆溝橋のある蘆溝ですね.
 蘆溝橋事件が起きたのが1937年.日本の敗戦が1945年.Lukousaurus が記載された1948年といえば,極東軍事裁判の判決が出た年です.この年,朝鮮半島は南北に分かれ,大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が成立しています.翌1949年には中華人民共和国が成立し,蒋介石の「中華民国」は台湾へと脱出します.さらに,1950年,朝鮮戦争勃発.
 こんな激動の時代にも,中国では,恐龍化石の記載なんて,浮世離れしたことがおこなわれていたんですねえ.

 さて,種名のyiniはyin-iという合成語で,[-i]は人名について形容詞化する語尾です.従って,「Yin氏の(に属する)」という意味です.Yin氏というのは不詳ですが,どうやら,中国地質調査所所長であった「尹」という人物らしいのですが,「名」の方は見いだせませんでした.


 記載者のYoungは中国人古生物学者の楊鍾健[Young Chung-Chien]のこと.なお,文献によっては,楊鍾健[Yang Zhongjian]となっているものもありますが,後者は,中華人民共和国成立後に一般化したピンイン表記というもので,現代の中国語は,みなこの方法で表します.

 しかし,学問の世界では,最初に使った名前を使い続けるのが常識で,こういうことは,国策が関係していようが,なんだろうが,あってはいけません.
 同様なことで,女性の日本人研究者で,結婚後,論文用の名を変える人がいるそうですが,信じられないことです.そんな事情は,他の研究者には無関係なことですし,そのことにこだわっていると混乱を助長するだけなので,名前の表記を変えたら,別人と見なしてもいいことになっています.というよりは,まあ,そうせざるを得ないのですね.

 もっとも,ピンイン表記はあくまでピンイン表記(つまり中国語)なのであって,欧文表記ではないので,英語で論文を書いたら,名前はピンイン表記ではなく,欧文表記を使うべきですね.
 

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