学名辞典(恐龍編)いじり(その5)です.
Dolichosuchus Huene, 1932という恐龍の属があります.
模式種はDolichosuchus cristatus Huene, 1932
属名のDolichosuchusはdolicho+suchusの合成語.意味は「長い+ワニ」です.
dolicho-は《ギリシャ語》の「ドリコス[δολιχός]」=「長い」が《合成前綴化》したもの.
ところが,-suchusは「ギリシャ語辞典」には(もちろんラテン語辞典にも)載っていない言葉です.
科学用語・語源辞典には,「σοῦχος(エジプトのある地方に住む『ワニ』の名)」としかありません.説明不足としか,いいようがないですね.
「エジプトのある地方」で《ギリシャ語》が使われていたというのでしょうかね.たぶん,「エジプトのある地方」で使われていた言葉(何語だか不明ですが)を《ギリシャ語》で記録されていたものを科学用語化(ラテン語化)した言葉なのだと思われます.が,しかし,「ソウーコス[σοῦχος]」という《ギリシャ語綴》を《ラテン語綴化》したら,-soucusもしくは-soucosになると思われ,むしろ,英語訛りの方が強く出ているのではないかと思わせます(つまり,ごく最近,英語圏の人間が創りあげた言葉である可能性が高い).
語源および経緯は不明ですが,-such(-us)とか-such(-ia)は「ワニ」を意味する(元々は「ある種のワニ」を示していると考えるのが自然ですが,科学用語の語源となった時点で「ワニ一般」を示す言葉に変化した)とせざるを得ません.
種名のcristatusは「鶏冠,とさか」を意味する《ラテン語》のcrista, cristaeの《形容詞》cristatus = crist-atus=「鶏冠状の」をそのまま使用しています.
属名と種名を合わせて,「鶏冠状の長いワニ」という意味です.
今回は「鶏冠状のDolichosuchus」という意味は採択できませんね.なぜなら,一属一種ですし,標本は「左足の脛骨[tibia]」のみなので,常識的にはnomina dubiaで,今後もこの属に所属するとされる種は出ないだろうからです.
しかし,「一本の脛骨」で「鶏冠状」とはどういう意味なのでしょうね.
記載者のHueneはFriedrich von Huene (1875.3.22 - 1969.4.4)のことで,von Hueneと記されることもあります.Hueneについては「Halticosaurus の展開」も参照のこと.
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なお,どこかで書いたかもしれませんが,「竜」ではなく,「龍」の字を採用してます.「竜」の字と「龍」の字の関係は混沌としているようですが,どれかの説を採用しているというのではなく,単なる趣味の問題です.
もちろん,最近の辞典類では「龍」の字を無視する傾向が出ているのも,「龍」の字を採用する理由の一つではあります.
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