2011年9月25日日曜日

魚の分類(15)

ようやっと,Berg (1940)の研究史に載っていた分類群名の語源について,rev. up. し終わりました.

日本では,気がついている人はいないと思いますけど((^^;).
おかげで,世界中からスパムが集まるようになってしまった((^^;)

何がやりたかったかというと,デボン紀の一大事=脊椎動物の上陸について,駄文を書くことだったんですが(大人の童話シリーズ;(^^;),魚の分類があまりにもカオスなので,整理してみようと思ったからです.
結果は…,やはりカオスのママなんですが,ここ十年以上も作り続けている“学名語源辞典”にたくさんのデータが集まり,今までわからなかった「語尾変化」についても理解できるようになったつもりでいます.

たぶん,海棲爬虫類やアンモナイト,あるいは日本に生息している動物などの学名についての調査を始めることができるようになったかとも思います.

もう一つ気付いたことは,「無顎類」が面白い.
海域の巨大化した無脊椎動物に追われながら,陸域から流れ込む有機物(すでに植物は上陸していた)を求めて,移動を開始した原始的な脊椎動物は,砂漠化しつつあるデボン紀の大陸という,こちらも苛酷な環境から「渚」ではなく,さらに陸上へといかざるを得ない運命が待ち受けていたこと.
また,体制を変えた上で,海に戻る連中もいたわけですが,どっちにしても,その間,たくさんの“進化の実験”がおこなわれた.
S.J.グールドの「ワンダフル・ライフ」に匹敵するようなドラマがあるんだろうと思いますが,そんな情報はどこにあるんだろう….

ZEIFORMES

order ZEIFORMES (author unknown)


1940: order 97. ZEIFORMES: Berg, p. 468.

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ZEIFORMESはgenus Zeus Linnaeus, 1758を冠とする分類群名称の一つです.

Zeusは,一般にはギリシャ語の[ὁ Ζεύς]=「ゼウス大神」からきているとされていますが,どうも疑問があります.
ギ語辞典には,[ὁ Ζεύς]が魚に関係があるような記述はないのに対し,ラ語辞典には「zeus, zei (zēus, zēī)は,“魚の一種”であり,ギリシャ語では[ζαιός](zaios)もしくは [ζαζαιός](zazaios)という」と記されているからです(残念ながら,[ζαιός], [ζαζαιός]についての説明はありませんけど).
したがって,genus Zeusの語源は,ギリシャ語の[ὁ Ζεύς]ではなく,ラテン語の(zēus, zēī)であると判断したほうがよさそうです(だいたい,欧米人が「神」の名につながる「名」を魚につけるとは思われませんからね).

そうすると,ze-, zeo-を語根とする系列と,ze-, zei-を語根とする系列があるようであることが理解できます.ze-, zeo-のほうは,ギリシャ語の[ὁ Ζεύς]を語源とし(間違い),ze-, zei-のほうは,ラテン語の(zēus, zēī)を語源としている(正当)と考えるとスッキリするからです.

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以下,ze-, zeo-を語根とする系列と考えられる分類群名称.
《合成語》《亜目》ZEOIDEA = ze-oidea=「Zeusの」+「~類似の形からなる《中複》」=「Zeus類」
《合成語》《目名》ZEOMORPHI = zeo-morphi=「Zeusの」+「~様のもの《男複》」=「Zeus様類」
《合成語》《目名》ZEOIDEI = ze-oidei=「Zeusの」+「~類似の形からなる《男複》」=「Zeus類」

以下,ze-, zei-を語根とする系列と考えられる分類群名称.
《合成語》《属名》Zeus = ze-us =「zēusの」+《名詞化語尾》=「マトウダイ属」
《合成語》《科名》ZEIDAE = ze-idae =「Zeusの」+《科》
《合成語》《亜目》ZEIOIDEI = zei-oidei =「Zeusの」+「~類似の形からなるもの《男複》」=「マトウダイ類形類」
《合成語》《目名》ZEIFORMES = ze-iformes =「Zeusの」+「~の形をした《男女複》」=「マトウダイ形類」
違うかもしれませんけど((^^;).

(2011.09.25.)

2011年9月23日金曜日

TELEOSTEI

subclass TELEOSTEI Müller, 1844


1844: subclass II. TELEOSTEI Müller, (Berg, 1940, p. 346)


1904: order TELEOSTEI Müller, 1844: Boulenger, (Berg, 1940, p. 347)


1909: order 3. TELEOSTEI: Goodrich, (Berg, 1940, p. 348)


1923: superorder TELEOSTEI: Jordan, (Berg, 1940, p. 349)


1932: subclass 7. TELEOSTEI: Woodward, (Berg, 1940, p. 350)


1930: order TELEOSTEI: Goodrich, (Berg, 1940, p. 351)



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TELEOSTEI = tele-ostei =「完全な」+「~骨をもつもの《男複》」=「完骨類(完骨魚類・全骨魚類・真骨魚類)」



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ギリシャ語で「終わりに達した.完全な,真の」を意味する言葉が[τέλεος](テレオス).これをラテン語の語根としてtele-, teleo- (テレ・,テレオ・)=「完全な,全くの」の意味で使用します.



tele-は「遠い」という意味だと誤解されがちですが,そちらはギリシャ語の[τῆλε](テーレー)が語根化したtel-, tele- (tēl-, tēle-)のほうです.こちらは発音は「テール・,テーレ・」になりますので,望遠鏡は「テーレ・スコープ」,電話は「テーレ・プォーン」が正確です(英語じゃあないですよ).



-osteiは,「骨」を意味するギリシャ語の[ὀστέον](オステオン)がラテン語の《合成後綴》化した-osteusの変異形で,《形容詞》《男性》《複数》が名詞化したもの.「~骨:~骨をもつもの」の意.



合わせて,「完全な骨をもつものども」の意味です.「完骨類」と訳せます.


通常は「完骨魚類」・「全骨魚類」・「真骨魚類」と訳されているようです(「魚」を付加するのが適切かどうかは注意すべきでしょう).まれに「硬骨魚類」としている場合を見かけますが,これは完全な誤訳ですね(「硬骨魚類」→ OSTEICHTHYES)


(2011.09.23.:修正)


スパムが酷いので,移動します.


(2014.07.13:修正)

SYNBRANCHIFORMES

(clade unknown) SYNBRANCHIFORMES (author unknown)


1904: suborder SYMBRANCHII: Boulenger, (Berg, 1940, p. 347).
1906: order SYMBRANCHII: Regan, (Berg, 1940, p.347)
1909: suborder 6. SYMBRANCHIFORMES: Goodrich, (Berg, 1940, p. 348)
1923: order SYMBRANCHIA: Jordan, (Berg, 1940, p. 349)

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SYNBRANCHIFORMESは,genus Synbranchus Bloch, 1795を冠とする分類群名称の一つです.
Synbranchusは,文法的にはSymbranchusが正しいのですが,最初の記載が,Synbranchusという誤記だったらしいです.ところが,文法的には間違いでも,最初の記載が生きますので,Synbranchusが正しい,というやっかいなことになっています.

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Synbranchus = sym-branch-us=「共に」+《不詳》+《名詞化語尾》

もっと困ったことに,branch-に該当するギリシャ語もラテン語も見いだすことができません.
最も近いラテン語はbranchos(<もとのギリシャ語[βράγχος])ですが,これは「しわがれ声」という意味.訳せば,「共にしわがれ声をもつもの」という意味になりますが,なんのことだか….
もう一つ.Branchus(<もとのギリシャ語[Βράγχος])というものがありますが,これはギリシャ神話のアポロ(神)の息子の一人.こういうものは,原著が読めなければ,理解が不可能ですね.

たぶん,これは,branchi-の誤記だと思います.
branchi-は,ギリシャ語の[τό βράγχιον]=《中》「鰓」が,ラテン語の《合成前綴》化したもの.これならば,Symbranchiusとなり,「共に鰓をもつもの」となり(たぶん,癒合したような鰓をもっている),意味が通じます.
繰り返しますが,こういうものは,原著が読めなければ,理解が不可能です.

何が起きたのかを推測すれば,[βράγχιον]の語尾[-ιον(-ion)]は《縮小詞》と同じ形なので,これは「小さな鰓」であって「(普通の)鰓」である言葉があるのだと勘違いしたのでしょう.現存する最大のギリシャ語辞典にも,そのような言葉は(残念ながら)「ありません」でした.
もし,この解析が正しければ,原著者は(文法的には)二重の過ちを犯していることになります.
困ったことに,文法的に誤っていようが,意味のない言葉であろうが,命名法では「最初に使われた名称」が生きますので,Synbranchusは(意味不明でも)正当な分類用語となります.

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さて,Synbranchusの語根は,synbranch-です.これに,各種語尾が合成されて,分類用語が造られます.
《合成語》《科名》SYNBRANCHIDAE = synbranch-idae=「Synbranchusの」+《科》
《合成語》《目名》SYNBRANCHIFORMES = synbranch-iformes=「Synbranchusの」+《目》

以下は,ミススペルSynbranchusを訂正し,Symbranchusとしたものと思われる例.
《合成語》《亜目名》SYMBRANCHIFORMES = symbranch-iformes=「Symbranchusの」+「~の形をしたもの」

以下は,ミススペルSynbranchusを訂正し,Symbranchiusとしたものと思われる例.
《合成語》《目名》SYMBRANCHIA = sym-branchia=「共に」+「鰓をもつもの《中複》」=「共鰓類」
《合成語》《亜目名》SYMBRANCHII = sym-branchii=「共に」+「鰓をもつもの《男複》」=「共鰓類」
《合成語》《目名》SYMBRANCHII=「同上」

(2011.09.23.修正)


2011年9月16日金曜日

学名の記載者名が「省略形」な理由

かねてから,学名の記載者名が省略形なわけをづーっと考えてました.
ま,「省略形」などころか,「記載者名」そのものすら明記しないことが,ほとんどなんですけどもね.

この「省略する習慣」ために,原著を確認することができないばかりか,誰が定義した「分類群名」なのかもわからないので,実際に何を意味しているかもわからずに“分類”が行われているという,わけのわからない事態がしょっちゅう起きているわけです.
本当に困ったことです.

話を戻します.
記載者名の省略形とは,たとえば有名なLinne (Carl von Linné),ラテン語名Linnaeus (Carolus Linnaeus)の名前がLinn.と略されるようなことです.

Linneならば,現代的分類記載法の創設者ですから,誰でも知ってますが,そうではなくて,誰も知らないようなマイナーな記載者名まで,こういう省略形を使う習慣があるようです.
学名をキチンと書いてある図鑑なんてのもほとんどありませんが,まれにでもあるそういう図鑑を見ていただくと,記載者名には,そのような省略形が多いのに気付きますよ.
ひどいときには,Tak.なんてのがありました.これはなんと,Takahashiという日本人名なんですが,そんなの誰が知ってるかい!(特に外国人は)

こんな悪習が,普通にあるのが不思議でした.

以前紹介した小倉博行(2007, p. 24)を読んでいて気がつきました.
古代ローマ人の個人名は,「実にバリエーションに乏しく,せいぜい20ほどしかありませんでした」とあります.つまり,最初の数文字を記してしまえば,そのフルネームがすぐにわかってしまったというわけです.つまり,フルネームを示す意味があまりない.

この話は非常に面白いので,ぜひ原著を読んでほしいと思います.ギリシャ神話などで,たとえば,オーケアノスの子どもたちを,まとめてオーケアニデスなどと呼ぶ習慣があることを想い出します.

つまり,こういう個人名にはあまり意味が無く,「何々一族の男」とか,「誰々の何番目の娘」とかいういい方のほうが,一般的だったのですね.だから,個人名は省略形がおおいのです.

リンネは,スウェーデン人で,スウェーデン風の名前を持っているのにもかかわらず,ラテン語風にアレンジした名前を使用していました.なんか,現代の子どもの名前に欧米風の名前をつけることが多くなっているのと重なってしまいます.こてこての日本人顔なのに….

つまるところ,無意識な,リンネへのあこがれ,ラテン語を使うことへのあこがれみたいなものが,分類学者の中にもあるということなんです.
アイドルの髪型をまねる若者みたいな軽薄さが….
   

2011年9月15日木曜日

PETROMYZONTIFORMES

order PETROMYZONTIFORMES (author unknown)


1909: subclass 2. PETROMYZONTIA: Goodrich, (Berg, 1940, p. 348)
1923: class 2. PETROMYZONES: Berg, (Berg, 1940, p. 349)
1927: order 3. PETROMYZONTIA: Stensiö, (Berg, 1940, p. 351)
1930: subclass PETROMYZONTIA: Goodrich, (Berg, 1940, p. 351)

以上は,名称の形を比較しただけで,その定義の比較はしておりません.
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PETROMYZONTIFORMESはgenus Petromyzonを冠とする分類群名称です.

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Petromyzon = petro-myzon=「岩石の」+「吸うもの」

petro-は,ギリシャ語の[ἡ πέτρᾱ]=《女》「岩石」が,ラテン語の《合成前綴》化したもの.

-myzonは,ギリシャ語の[μύζων]=《男》《単》「吸うこと;吸うもの」が,ラテン語化し,《合成後綴》扱いになったものです.

これらをあわせて,Petromyzon = petro-myzon=「岩石の吸うもの」.意味は,よくわかりません((^^;).こんな,わけのわからない命名も珍しいですね.
だいたいが,[μύζων]という単語自体についての,辞典の説明もわけがわからんのですけどね.

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しょうがないですが,話を進めます.
Petromyzonの語根はpetromyz-のはずです.しかし,各分類群名称を検討すると,petromyzont-が採用されています.

PETROMYZONTIFORMES = petromyzont-iformes
PETROMYZONTIDA = petromyzont-ida
などです.
なぜ,こうなるのかはわかりません.が,可能性が高いのは,myzonの《属格》形が使われているのではないかと思われます.しかし,たしか,こういう合成語には《属格形語尾》
は使用してはいけないというルールがあったと記憶するですが,こう堂々と使われていると,逆に《属格形語尾》を使うんだったかな?と思ってしまいますね(わざわざそんな,混乱を起こすようなことが,推奨されるでしょうかね).
ただし,[μύζων]は,前述したように辞典の記述の意味がわからないだけでなく,その変化形もろくに示されていませんから,確たる証拠はありません.

だから,上記は,
PETROMYZIFORMES = petromyz-iformes
PETROMYZIDA = petromyz-ida
なのでは,と思います.

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一方,現在は使われなくなった,petromyz-を冠とする分類用語に以下があります.
PETROMYZONES
PETROMYZONTIA

こちらは,なぜこの語尾を採用しているのかは,まったくわかりません
ホントにわけのわからない分類群(名称)だこと(--;.
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(2011.09.15.:修正)


2011年9月7日水曜日

スズメバチ

数日前から,庭のブラックベリーの茂みと,ブドウの棚に,スズメバチがきています.

イヤだなと思いつつも,草木の手入れの最中に,連中の行動を観察していると,まるでマルハナバチみたいに,一生懸命,蜜を集めています.

なんか,近所の不良中学生が,いつもはペットボトルやパンの袋など「ポイ捨て」なのに,街に落ちているゴミを拾っているのを見たときのよう((^^;).
連中は連中で,一生懸命なので,離れて観察している分には,けっこうカワイイ奴らです.

ただ,無意味に「攻撃的」なのがいけませんね.

「攻撃的」というレッテルを貼られると,存在そのものが怪しくなりますね.見かけただけで,「殺してしまえ」という反応を導き出してしまう.
国際関係もそうですね,やたら「攻撃的」な国は(というよりは,そういうレッテルを貼られた国は),同じ反応を導き出します.
最近,そういう国が多いですね.
貧乏なくせに軍事費だけがやたら突出している国とか,まだ貧乏人をたくさん抱えているのに航空母艦を作りたがる国とか.

日本だって,おんなじで,戦争はしないと宣言し,軍事費を抑えているから,割と警戒心を持たれないんで,近所の国に対抗するためと称し,軍事費を増やしていったら,60数年前を想い出す人が増えてゆくことでしょう.国際間の緊張は,いいことではありませんね.
こんな簡単なことが,ほとんどの国にはわかっていない.

相手がどういう虫,中学生,国民なのか知らないで,風評に踊らされること.これが逆に「危機」を生み出すということ.
でも,相手がスズメバチじゃあ,友好関係は保てないよな~~.またまた((^^;).
「虫コナーズ」ぶら下げとこ.

2011年9月5日月曜日

COELACANTHIFORMES

order COELACANTHIFORMES Berg, 1937


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COELACANTHIFORMESはgenus Coelacanthusを模式属とする科の上位分類群名として提案されたものの一つです.以下その例.

genus Coelacanthus Agassiz, 1836
family COELACANTHIDAE Agassiz, 1836
suborder COELACANTHOIDEI Berg, 1937
order COELACANTHIFORMES Berg, 1937
subclassis COELACANTHIMORPHA (author unknown)

order COELACANTHIDA (author unknown)
1857: order COELACANTHIDA: Agassiz,: Berg, 1940, p. 347.

order COELACANTHINI Agassiz, 1843
1843: order COELACANTHINI Agassiz,
1909: order COELACANTHINI: Goodrich, (Berg, 1940, p. 348)
1930: order COELACANTHINI: Goodrich, (Berg, 1940, p. 351)

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まずは,genus Coelacanthusから.
Coelacanthus = coel-acanth-us

coel- は,ギリシャ語の「空洞の」を意味する[κοῖλος](コイーロス)が,ラテン語の語根化したものです.本来は,coil-, coilo-の綴りのはずですが,coel-, coelo-も使用されます.
これらの語根は,本来は「空洞の」という意味ですが,「中空の」,「腹の,腹腔の」,「(くり抜いて)凹んだ」などの意味を持たせることもあるようです.

acantho-は,ギリシャ語で「棘,針」を意味する[ἄκανθα](アカンタ)をラテン語語根化したもの.acanth-, acantho- (アカントゥ・,アカント・)=「刺の,刺のある」という意味を持ちます.

-usは,ギリシャ語語尾に多い[-ος](・オス)をラテン語化するときに使われています.なぜそうなるのかは不明.一方で,これは,「《行為とその結果》《性質》を示す」名詞形接尾辞であるとか,「~の.~(に)属する.~(に)関係する」形容詞形接尾辞であるとかの説明があります.ちょっと理解不能.
なお,ICZN Add. B.では[-ος]は[-us]に換えるよう推奨されています(理由不明).
合成科学用語では,ギリシャ語に安易につけられてラテン語化されることも多いような気がします.

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さて,この合成語は「中空の棘に属するもの」とでも訳せるのでしょうか.意味不明ですね.そこで意訳して,「中空の脊椎を持つもの」(属)となります.「管椎類」と訳されている場合があります.
じつは,英語のspine(スパイン)も「棘」と同時に「脊椎」の意味を持っています.どうやら,「神経棘」が尖っていることを意味しているらしいのですが,脊椎が連続した「脊柱」を意味することもあります.それで,ギリシャ語-ラテン語の「アカンタ」-「アカンタス」も「脊椎」-「脊柱」の意味にも使うということらしいです.

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Coelacanthusが成立したので,これがcoelacanth-という語根になります.
これに,さまざまな《合成後綴》が合成されて,多様な分類群名になります.

まず,《科》を意味する《合成後綴》-idaeが合成されて,
COELACANTHIDAE = coelacanth-idae=「Coelacanthusの」+《科》

つぎに,「~の形をしたもの《男女複》」という意味で,《目》名によく使用される《合成後綴》-iformesを合成して,
COELACANTHIFORMES = coelacanth-iformes=「Coelacanthusの」+「~の形をしたもの《男女複》」

さらに,「~様のもの《中複》」という意味で,《綱》名によく使われる《合成後綴》-morphaを合成して,
COELACANTHIMORPHA = coelacanthi-morpha=「Coelacanthusの」+「~様のもの《中複》」=「Coelacanthus様(類)」

などがあります.

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一方,現在使用されていない分類群名には,
《関係》を意味する《合成後綴》《男複》の-iniを合成して,
COELACANTHINI = coelacanth-ini=「Coelacanthusの」+《関係:男複》=「Coelacanthus類」
(注:-iniは,現在は,動物分類上の《tribe(族)》の語尾に用いられる)

《家族,種族,同類》を意味する《合成後綴》《中複》の-idaを合成して,
COELACANTHIDA = coelacanth-ida=「Coelacanthusの」+《家族,種族,同類:中複》
=「Coelacanthus類」

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(2011.09.05.:修正)


2011年9月3日土曜日

CHIMAERIFORMES

order CHIMAERIFORMES Obruchev, 1953

1857: order CHIMAERAE: Agassiz, (Berg, 1940, p. 347).
1923: order CHIMAEROIDEI: Jordan, (Berg, 1940, p. 349)
1953: order CHIMAERIFORMES Obruchev,

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上記,分類群名称は,genus Chimaera から派生したものです.

Chimaeraは,ギリシャ語の[ἡ Χίμαιρα]=《女》「キマイラ」がラテン語綴化したもの.
ラテン語綴化のために,本来はChimairaですが,Chimaeraになっています(二重母音[-αι](-ai)は,ラテン語化して[-ae]になる(ICZN:付録B))

これは,そのまま属名として…,
genus Chimaera =「キマエラ」(=ギンザメ属)

《科》をあらわす《合成後綴》-idaeが合成されて,
CHIMAERIDAE = chimaer-idae=「Chimaeraの」+《科》

《目》をあらわす《合成後綴》-iformesが合成されて,
CHIMAERIFORMES = chimaer-iformes=「Chimaeraの」+《目》
などが,造られています.

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一方,現在は使われていない「目名」として,
Chimaeraの複数形をそのまま使ったCHIMAERAE(=「Chimaeraども」)や,

「~類似の形からなる」を意味する《合成後綴》-oideusの《男性複数》形-oideiを使った,
CHIMAEROIDEI = chimaer-oidei =「Chimaeraの」+「~類似の形からなる《男複》」
などがあります(これは,亜目名として,現在も使われることがあるようです).

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【蛇足】
Chimaeraの語根に《形容詞》形語尾-usが合成された
chimaer-us = chimaerusは,形容詞なので「種名」として用いられています.意味は「寓話のような.法外の,信じ難い」となっていますが,どこからその意味が出てきたのかは不明.

(2011.09.03.:修正)

2011年9月2日金曜日

BERYCIDAE

family BERYCIDAE (author unknown)

BERYCIDAEはBeryxを模式属とする科です.
genus BeryxはCuvier (1829)が記載したことはわかっていますが,この名をいただく,科・亜目・目のすべてが「記載者不明」という,とっても不思議なグループです(とても科学の範疇にあるとは思えませんね:魚類分類学では,間々あるようですが…(^^;).
order BERYCIFORMES (author unkown)
suborder BERYCOIDEI (author unkown)

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そもそも,Beryxという用語自体の意味が不明.ある辞典には「魚の一種」とありますが,説明ではないですね.別な辞典には「絶滅した古代魚の一種」とありました.Beryxは現生種の「キンメダイ」のことなんですが….
「語源辞典・ラテン語編」の説明はもっと難解.語源辞典にも載っていないギリシャ語の単語で説明してあります(-_-;).
「<(βῆρυς =) κήρυξ, κήρυκος《男》反芻魚」

どうやら,キュビエがつくった合成語らしいのですが,その合成語のもとの語の意味が,入手可能な辞書には載っていないのでお手上げというところ.

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ともあれ,Beryxという「用語」が存在するという前提で話を始めます.

《NL》《男》beryx, berycis (bēryx, bērycis)=「キンメダイの類」

この《合成前綴》がberyc-, beryci- =「キンメダイの」.
これに,《科》を意味する《合成後綴》を付加して,
BERYCIDAE = beryc-idae=「Beryxの」+《科》

「~類似の形からなるもの」という意味の《合成後綴》-oidei《男複》を付加して,
BERYCOIDEI = beryc-oidei=「Beryxの」+「~類似の形からなるもの《男複》」
これは「亜目」として使用されているようです.

BERYCIFORMES = beryc-iformes=「Beryxの」+「~の形をしたもの《男複》」
こちらは,「目」として使用されています.

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別に,目名として,BERYCOMORPHIと BERYCOIDEIが提案されています.

BERYCOIDEIのほうは,上記「亜目」と同じ形(動物分類学では,現在でも「上科」以上のランクについて《語尾形》が決まっていない.ましてや,昔はやったもの勝ち状態なので).

BERYCOMORPHI = beryco-morphi=「Beryxの」+「~様のもの《男複》」
Beryxはギリシャ語ではないので,beryc-o-morphiではなく beryc-i-morphiのほうが正則だと思われますが,BERYCOMORPHI自体が,現在は使われていないので,問題外なようです.