2009年8月25日火曜日

辞書の展開(15)

 
●新体系の「FERAE-ARCTOIDEA」から
 つぎは,infraorder CYNOIDEA Flower, 1869 (犬下目)の姉妹群である熊下目[infraorder ARCTOIDEA]です.熊下目は巨大なグループですので,順次細分します.

infraorder ARCTOIDEA Flower, 1869 (熊下目:ゆうかもく)
├ parvorder URSIDA Tedford, 1976(熊小目)
└ parvorder MUSTELIDA Tedford, 1976(鼬小目)

 熊下目は熊小目と鼬小目に分かれます.
 ARCTOIDEAはギリシャ語の「アルクトス [ἄρκτος]」=「熊」をラテン語の語根化したものに,(本来は)「(動物の)上科」を示す接尾辞[-oidea]を合成したもの.
 一方,URSIDAはラテン語の「ursus(ウルスス)」=「熊」を語根化[urs-]し,接尾辞[-ida]をつけたもの.[-ida]は「(動物の)小目」を示すらしいのですが,辞典などにはまったく記載がなく,自信がありません..
 ま,語尾変化のほうは勘弁いただくとして,「熊」のギリシャ語語源とラテン語語源の違いを理解してください.

 熊小目の姉妹群である鼬小目は,ラテン語の「mustela(ムーステーラ)」=「イタチの類」を属名とし,それに接頭辞[-ida]を付加したもの.
 熊と鼬が近い関係にあるとは,意外ですね.

 

2009年8月24日月曜日

辞書の展開(14)

 
●犬形獣亜目[suborder CANIFORMIA]
 次は,犬形獣亜目[suborder CANIFORMIA]です.

suborder CANIFORMIA Kretzoi, 1943(犬形獣亜目)
├ CANIFORMIA incertae sedis ... family †MIACIDAE Cope, 1880 (ミアキス科)
├ infraorder CYNOIDEA Flower, 1869 (犬下目:けんかもく,いぬかもく)
└ infraorder ARCTOIDEA Flower, 1869 (熊下目:ゆうかもく,くまかもく)
           from “The Taxonomicon

 例によって,「犬下目」と「熊下目」に分けるために,先に「ミアキス科」をはじき出しています.
 ミアキス類は,旧体系では犬猫含めた食肉目の先祖形という扱いでしたが,新体系では犬形獣の中での先祖形という扱いに位置づけが変わっています.

 犬下目[infraorder CYNOIDEA] には,次の分類群が納められています.

infraorder CYNOIDEA Flower, 1869 (犬下目)
└ family CANIDAE (Fischer de Waldheim, 1817) Gray, 1821 (イヌ科)
  ├ CANIDAE incertae sedis
  ├ subfamily †HESPEROCYONINAE Martin, 1989(ヘスペルキュオーン亜科)
  ├ subfamily †BOROPHAGINAE Simpson, 1945(ボロプァグス亜科)
  └ subfamily CANINAE (Fischer, 1817) Gill, 1872 (イヌ亜科)
    ├ CANINAE incertae sedis
    ├ tribe VULPINI Hemprich & Ehrenberg, 1832(ウルペース族,キツネ族)
    └ tribe CANINI Fischer, 1817(カニス族,イヌ族)
           from “The Taxonomicon

 犬下目位置不詳には,genus Procynodictis Wortman & Matthew, 1899やgenus Prohesperocyon Wang, 1994が入れられています.前者は,以前はミアキス科に入れられていたものですが,後者はよく分かりません.Procynodictisは後期始新世の北米に生息していました.

 ヘスペルキュオーン亜科は,詳細不明な属-種が多いですが,始新世後期から中新世前期の北米に生息していたグループで,なにか中途半端な印象のあるグループです.ボロプァグス亜科(これに属する属は主に中新世の北米に生息していた)をふくめて,現世のイヌ亜科への橋渡し的な役割なんでしょうか.
 また,両亜科とも分かる範囲では北米産ということは,犬グループは北米で進化したということなんでしょうね.

 イヌ亜科はキツネ族とイヌ族に分けられています.この分類を成立させるために,はじき出されたのがレプトキュオーン[Leptocyon]属.レプトキュオーン属は中~後期中新世の北米に生息(話がうまく合いすぎてるなあ).

 キツネ族は(記録の限りでは)前期鮮新世の北米で発生(後期中新世の記録もあるが,どうも怪しいらしい).
 後期鮮新世には,北米から欧州,アフリカ,アジアに勢力範囲を拡大した.南米に進出したのはごく最近のことらしい.

 イヌ族は前期鮮新世には欧州-アジア-オーストラリアにいた.もちろん北米にも.
 鮮新世後期にはアフリカに進出し,南米に進出したのは更新世になってからのことらしい.この間,多種多様な仲間を増やしながらのことですね.

 

2009年8月23日日曜日

辞書の展開(13)

 
●猫形獣亜目[suborder FELIFORMIA]
 さて,猫形獣亜目[suborder FELIFORMIA]は以下のように並べられています.

suborder FELIFORMIA Kretzoi, 1945(猫形獣亜目)
├ family incertae sedis
├ family †VIVERRAVIDAE Wortman & Matthew, 1899 (ウィウェーラウス科)
├ family †NIMRAVIDAE Cope, 1880 (ニムラウス科)
├ family FELIDAE (Fischer de Waldheim, 1817) Gray, 1821 (ネコ科)
├ family VIVERRIDAE (Gray, 1821) Bonaparte, 1845 (ジャコウネコ科)
├ family HERPESTIDAE (Bonaparte, 1845) Gray, 1869 (マングース科)
├ family HYAENIDAE (Gray, 1821) Gray, 1869 (ハイエナ科)
└ family NANDINIIDAE Pocock, 1929 (ナンディニア科,キノボリジャコウネコ科)
           from “The Taxonomicon

 これらはいずれも,旧体系でもネコ上科[FELOIDEA or AELUROIDEA]に分類されていたものです.科の定義については,クラディズム以後も再定義された様子がないので,これらのこれより細部については,またの機会に.

 細かいことですが…,以下.
 NANDINIIDAEはあまり聞かない分類群ですが,「キノボリジャコウネコ科」という名前が与えられてますね.これを構成している生物は一属一種のみ.

family NANDINIIDAE Pocock, 1929
 genus Nandinia Gray, 1843
  Nandinia binotata (Gray, 1830) - African palm civet

 これには「キノボリジャコウネコ」という和名が与えられています.
 この種は,以前には他のジャコウネコ類と一緒に「ジャコウネコ科[VIVERRIDAE Gray, 1821]」に入れられているのが普通でした.(たぶん)それで,つけられた“和名”が「キノボリジャコウネコ」.
 新体系では独立して別の科となり,ジャコウネコではないのにジャコウネコの名が残ってしまいました.
 不自然になってしまいましたね.

 下手な命名はしない方がいいという例になってしまいそうですねえ.英名も相当混乱があるので,参考にはしない方がいいですね.type loc.の現地語か学名をそのまま使うのがよろしいかと.
 現地の言葉が不明なので,ここでは,勝手に「ナンディニア科」と呼ばせていただきます.

2009年8月18日火曜日

HP更新

 
現在作成中のHP「北海道化石物語」に付録の一部を追加しました.
乞う,ご批判!

 

2009年8月16日日曜日

辞書の展開(12)

 
●食肉目[order CARNIVORA Bowdich, 1821]
 食肉目[order CARNIVORA Bowdich, 1821]は“ネコ目”と呼ぶように指導されてますが,まるで原語を反映していません.ここでは,昔ながらの「食肉目」を使います.

 食肉目は,昔はPINNIPEDIAとFISSIPEDIAの二つに分けられるのが普通でした.
 PINNIPEDIAはpinni+ped+ia=「羽の」+「脚の」+「group」という語根の合成語で「鰭脚類」と訳されています.一方の,FISSIPEDIAはfissi+ped+ia=「裂かれた」+「脚の」+「group」という語根の合成語で「裂脚類」と訳されています.
 鰭脚類は後脚が融合し鰭状になった「アザラシ」・「アシカ」・「セイウチ」などをグループ化し,裂脚類はそうではなく,後脚が二本に分かれたままの(つまり残りの食肉目全部)をグループ化したものでした.
 現代人の常識では,脚は別れているのが普通で,鰭脚化したのは海に戻った食肉目の適応の過程だと考えてしまいますが,昔は鰭脚が基本であり,進化して鰭脚が(分かれた)脚になったと考えたのでしょうかね.

 用語の意味を聞かされれば,なにか不自然な分け方だと自然に思うことかと思います.
 もしかしたら,昔の科学者は「魚類」→「鰭脚類」→「裂脚類」と進化してきたと考えていたのかもしれませんね.

 新分類では,大まかには

order CARNIVORA Bowdich, 1821 (食肉目)
├ CARNIVORA incertae sedis(食肉目分類位置不詳)
├ suborder FELIFORMIA Kretzoi, 1945(猫形獣亜目)
└ suborder CANIFORMIA Kretzoi, 1943(犬形獣亜目)
       from “The Taxonomicon

 となっています.
 なんか,「犬」か「猫」かに分けるなんて,私らの生活感覚には合っていますね.

 しかし,「CARNIVORA incertae sedis」ってのは,いったい何でしょうね.“The Taxonomicon”には,実は「CARNIVORA incertae sedis」という分類はありません.ランクも無しに放り出してあるので,私が勝手にまとめたものです.
 いってみれば,「犬形」と「猫形」に分類するのに邪魔な「古い形質をもった雑多なもの」ということになりますか.
 具体的には,以下の属があげられています.

    genus †Aelurotherium Adams, 1896
    genus †Eosictis Scott, 1945
    genus †Elmensius Kretzoi, 1929
    genus †Kelba R.J.G. Savage, 1965
    ?genus †Vishnucyon Pilgrim, 1932
    genus †Vinayakia Pilgrim, 1932
    genus †Notoamphicyon Ameghino, 1904

 Aelurotheriumは,始新世(北米)に生息していて,古い体系では肉歯目に入れられていたこともありました.Kelbaは,中新世(東アフリカ)に生息していて,古い体系では汎盗目に入れられていたこともありました.
 Eosictis, Elmensius, Vishnucyon, Vinayakiaは詳細不明.
 と,いうことは,旧体系では大部分は無視されていたか,調査の網に引っかからなかったということ.もちろん,クラディズムでは重要なポイントを占めるグループであることは間違いありませんね.

 なにか,プレートテクトニクス的解釈では重要な露頭(岩体)でありながら,地向斜造山論では長年「無視」されてきたか,解釈不能として放置されてきた「メランジ」を思い出してしまいます.

 「分からないこと」にこそ,突破口があるということですかね.
 

辞書の展開(11)

 
●肉歯目[order CREODONTA (Cope, 1875) McKenna, 1975] 

 肉歯類は始新世に繁栄した原始的な肉食性哺乳類です.
 当時のアフリカとローラシア(北米+ユーラシア)に広く分布していました.
 漸新世の初期に入っても生き延びていましたが,急速に勢力を弱め,食肉目と交代してゆきます.
 肉歯目はオックシュアエナ*(=オキシエナ)類とヒュアエノドン*(=ヒエノドン)類に分けられるのが普通です.ランクは亜目だったり,科だったりはしますが.

order CREODONTA
└ suborder HYAENODONTIA
  ├ family HYAENODONTIDAE
  └ family OXYAENIDAE
               by Carroll (1988)

order HYAENODONTA van Valen, 1967 (CREODONTA Cope, 1875)
├ family OXYAENIDAE Cope, 1877
└ family HYAENODONTIDAE Leidy, 1869
               by Mueller (1989)

肉歯目〔ヒエノドン目〕[ Creodonta ]:太古の肉食性有胎盤類.
├オキシエナ亜目 [ Oxyaenoidea ]:初期の肉歯類.
└ヒエノドン亜目 [ Hyaenodontia ]:長続きした種々の肉歯類.
               コルバート・モラレス(1991)より

order †HYAENODONTIA (=†CREODONTA)
├ family OXYAENIDAE
└ family HYAENODONTIDAE
               by Burkitt (1995)

order †CREODONTA (Cope, 1875) McKenna, 1975(肉歯目)
├ CREODONTA incertae sedis
│ ├ subfamily incertae sedis
│ └ ?subfamily †KOHOLIINAE Crochet, 1988
├ family †HYAENODONTIDAE Leidy, 1869(ヒュアエノドン科)
│ ├ subfamily incertae sedis
│ ├ subfamily †LIMNOCYONINAE Wortman, 1902(リムノキュオーン亜科)
│ │ ├ tribe †LIMNOCYONINI (Wortman, 1902) Van Valen, 1966
│ │ └ tribe †MACHAEROIDINI (Matthew, 1909) Van Valen, 1966
│ └ subfamily †HYAENODONTINAE (Leidy, 1869) Trouessart, 1885(ヒュアエノドン亜科)
│   ├ tribe †PROVIVERRINI (Schlosser, 1886) Van Valen, 1966
│   ├ tribe †HYAENODONTINI (Leidy, 1869) Van Valen, 1966
│   ├ tribe †TERATODONTINI (Savage, 1965) McKenna et Bell, 1997
│   └ tribe †APTERODONTINI Szalay, 1967
└ family †OXYAENIDAE Cope, 1877(オックシュアエナ科)
  ├ subfamily †OXYAENINAE (Cope, 1877) Trouessart, 1885
  ├ subfamily †TYTTHAENINAE Gunnell et Gingerich, 1991
  └ subfamily †AMBLOCTONINAE Cope, 1877
               http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

 新体系でも,大きな構造は変わりないようです.subfamily 以下は別の機会に.


* 「オックシュアエナ」は普通「オキシエナ」と,「ヒュアエノドン」は通常「ヒエノドン」と表記されていますが,(たぶん)「デズニー・ランド」に近い表記の仕方だと思います.できるだけ,ラテン語風に表記しておきます.

【文献】
Carroll, R. L., 1988, Vertebrate Paleontology and Evolution. W. H. Freeman and Company, New York, 698 pp.
Mueller, A. H., 1989, Lehrbuch der Palaeozoologie, Band III, Vertebraten, Teil 3, Mammalia. Gustav Fisher Verlag, Jana, 809 pp.
コルバート, E. H.・モラレス,M.(1991)脊椎動物の進化【原著第4版】(田隅本生,1994訳).築地書館.
The Taxonomicon: http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

 

2009年8月15日土曜日

辞書の展開(10)

●キーモレーステース目[order CIMOLESTA McKenna, 1975]

 キーモレーステース目の名称の元になっているCimolestesは北米の後期白亜紀から前期暁新世にかけて生息していた哺乳類.食肉目の先祖形と考えられている一方で,その位置づけはあいまいでした.
 ちなみに,cimolestesの語源は,はっきりしませんが,cimoがギリシャ語の「キマス[κιμάς]」=「引き裂かれた肉」だとすると,「裂肉強盗」になり,いかにも野獣の代表ということになりそうですね.

 MaKenna (1975)はこのCimolestesをはじめとする多種多様な生物をまとめてキーモレーステース目[order CIMOLESTA McKenna, 1975]を設定しました.大部分は絶滅したグループですが,現世の穿山甲[genus Manis Linnaeus, 1758; genus Phataginus Rafinesque, 1821]などが含まれる恐ろしく多種多様なグループです.

 簡単には把握できないので,詳細は別の機会に.
 とりあえず,亜目レベルののリストだけ.

order CIMOLESTA McKenna, 1975(キーモレーステース目)
├ CIMOLESTA incertae sedis
├ suborder †DIDELPHODONTA McKenna, 1975(二子宮歯亜目)
├ suborder †APATOTHERIA (Scott & Jepsen, 1936) McKenna, 1975(擬獣亜目)
├ suborder †TAENIODONTA (Cope, 1876) McKenna, 1975(紐歯亜目)
├ suborder †TILLODONTIA (Marsh, 1875) McKenna, 1993(欠歯亜目)
├ suborder †PANTODONTA Cope, 1873(汎歯亜目)
├ suborder †PANTOLESTA McKenna, 1975(汎盗亜目*)
├ suborder PHOLIDOTA (Weber, 1904) McKenna & Bell, 1997 (穿山甲亜目)
└ suborder †ERNANODONTA Ding, 1987(通小歯亜目*<エルナノドン亜目)

*は例によって,私的和訳.

 穿山甲亜目だけは現生種が入っているので,すこし紹介しておきます.

suborder PHOLIDOTA (Weber, 1904) McKenna et Bell, 1997(有鱗亜目<穿山甲亜目)
├ PHOLIDOTA incertae sedis
├ family †EPOICOTHERIIDAE Simpson, 1927(エポイコテーリウム科)
├ family †METACHEIROMYIDAE Wortman, 1903(メタケイロミュース科)
└ family MANIDAE Gray, 1821(センザンコウ科)
  ├ subfamily MANINAE (Gray, 1821) Pocock, 1924(センザンコウ亜科)
  └ subfamily SMUTSIINAE (Gray, 1873) Pocock, 1924(オオセンザンコウ亜科)
    ├ tribe SMUTSIINI (Gray, 1873) McKenna et Bell, 1997(オオセンザンコウ族)
    └ tribe UROMANINI (Pocock, 1924) McKenna et Bell, 1997(オナガセンザンコウ族)

http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

 穿山甲類はこれまで,化石種を含めてセンザンコウ科一科にまとめられるか,せいぜい,現生種を含むセンザンコウ科と化石種が中心の別科の二つぐらいにしか分けられていませんでしたが,ひどく複雑になっています.
 過去の分類は,ほんのいくつか見ただけでも,研究者間でひどく異なっており,相当混乱していたのだろうということがわかります.
 どれを見ても,属-種のデータがひどく少ないので,比較がなかなか困難です.
 ただ,新分類では,生息地域(大陸)によって別系統と認識し,それによって各属を独立させるというやり方を取っているようです.

辞書の展開(9)

 
●新体系の「Ferae」から
 「FERAE」全体で一つの記事にしようと書き続けていたのですが,巨大になりすぎて,いつまでたってもケリがつかないし,一つの記事がこ〜〜んなに長いと誰も読んでくれそうもないので,細切れにします.
 体調不良で休んでいたわけではありません((^^;)
 むしろ,なにかに夢中になってないと,不快感が気になって,どうもね.

●野獣大目[grandorder FERAE (Linnaeus, 1758) McKenna, 1975]
 この標記から野獣大目はもともと野獣目 [order FERAE Linnaeus, 1758]として提案されたものということがわかりますね.

 FERAE=「野獣」はラテン語から.
 ギリシャ語の「野獣」は「テーロ[θήρ],テーロス[θηρός]」で,ラテン語の語根化して「テール・/テーロ・[ther-/thero-]」.こちらの語根を使った野獣類の学名は「山」ほどありますね.

 野獣大目は以下の三つに分類されています.

grandorder FERAE (Linnaeus, 1758) McKenna, 1975(野獣大目)
├ order CIMOLESTA McKenna, 1975 (裂肉盗目*<キモレステス目)
├ order CREODONTA (Cope, 1875) McKenna, 1975(肉歯目)
└ order CARNIVORA Bowdich, 1821 (食肉目)

         http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

*は私的訳語>これはあまりよろしくないですが….「科」までは,現生種がいるときはその名前を基本に,いないときは「属名」を基本にし,「科」より上,「目」は,あまり具体的な生物をイメージできないように,意図的に漢字訳するようにしています.

 

2009年8月6日木曜日

辞書の展開(8)

 
●新体系の「ANAGALIDA」から

grandorder ANAGALIDA(アナガレ大目)
├ ANAGALIDA incertae sedis … family ANAGALIDAE Simpson, 1931 (アナガレ科)
├ mirorder MACROSCELIDEA (Butler, 1956) McKenna & Bell, 1997(大脛中目*)
├ mirorder DUPLICIDENTATA (Illiger, 1811) McKenna & Bell, 1997(双歯中目)
│ ├ order MIMOTONIDA Li et al., 1987(ミモトナ目)
│ └ order LAGOMORPHA Brandt, 1855 (兎型目)
│   ├ family OCHOTONIDAE Thomas, 1897(ナキウサギ科)
│   └ family LEPORIDAE (Fischer, 1817) Gray, 1821(ノウサギ科*;ウサギ科)
└ mirorder SIMPLICIDENTATA (Weber, 1904) McKenna & Bell, 1997(単歯中目)
  ├ order MIXODONTIA Sych, 1971(混歯目)
  └ order RODENTIA Bowdich, 1821 (齧歯類)
    ├ RODENTIA incertae sedis
    ├ suborder SCIUROMORPHA Brandt, 1855(栗鼠形亜目*)
    │ ├ SCIUROMORPHA incertae sedis
    │ ├ Infraorder †THERIDOMYOMORPHA (Wood, 1955) McKenna & Bell, 1997(獣鼠形下目*)
    │ └ Infraorder SCIURIDA (Carus, 1868) McKenna & Bell, 1997(影尾下目)
    ├ suborder MYOMORPHA Brandt, 1855(鼠形亜目*)
    │ ├ infraorder MYODONTA (Schaub, 1955) McKenna & Bell, 1997(鼠歯下目)
    │ ├ infraorder GLIRIMORPHA (Thaler, 1966) McKenna & Bell, 1997(山鼠形下目)
    │ └ infraorder GEOMORPHA (Thaler, 1966) McKenna & Bell, 1997(堀鼠形下目)
    ├ suborder ANOMALUROMORPHA Bugge, 1974(異尾形亜目*)
    ├ suborder SCIURAVIDA McKenna & Bell, 1997(栗鼠様亜目*)
    └ suborder HYSTRICOGNATHA Woods, 1976(山嵐顎亜目*)

http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

注:原文は英語.各分類群の名称は私的和訳.

●アナガレ大目
 新体系では,このグループの代表にアナガレ類をもってきています.
 アナガレ科自体は,アナガレ大目所属位置不詳のアナガレ科になっていますので,なにか不自然に見えますが,まあいいでしょう.
 アナガレ類は,東南アジアの「古成紀」(パレオジーン=以前の“古第三紀”:暁新世から漸新世まで)に繁栄した絶滅グループです.

●大脛中目
 次の中目:MACROSCELIDEAは,その筋では“ハネジネズミ類”としているようですが,たぶん漢字で“跳地鼠”とかいたものをカタカナ化したものでしょう.この訳は,原語を反映していず,しかもカタカナ化すると意味がわからず不自然ですので,ここでは使いません.
 また,「目」ぐらいのランクになると,具体的な動物(種あるいは属)が想像できるような命名は不都合ですので,一般にそのグループ全体を示すような言葉が選ばれています.これを尊重し,ここでは「大脛中目」を採用します.
 大脛類は,アフリカ大陸の「新成紀」(ネオジーン=以前の“新第三紀”:中新世から鮮新世まで)に繁栄し,アフリカの各地に生き延びています.

●双歯中目
 次の中目:DUPLICIDENTATAは,その筋では“重歯類”としているようですが,「重」はこれを意味する単語が多すぎて,混乱を招きますし,「dupli-」自体は「二重の」を意味する言葉ですので,ここでは「双歯」類を使います.あるいは「二重歯」類の方がいいかもしれません.
 これは,もちろん,次のSIMPLICIDENTATA (単歯中目)に対応する言葉で,門歯の後にもう一組の歯があるかないかの違いを示しています.要するに,兎の仲間とその先祖ですね.

 双歯中目には,ミモトナ目と兎形目が含まれています.
 ミモトナは,もともと兎型類の中に入れられているのが普通ですが,兎型類の先祖として「目」を設定し,位置づけられているようです.

 なお,兎形目はしばしば,兎目と訳されています.
 現世生物のみを論じるときには,たいして問題も起きませんが,原語は明らかに「兎『形』目」ですし,ウサギ科[family LEPORIDAE Fischer, 1817]もウサギ類になってしまうので,「兎形目」と正確な訳を使用した方がいいでしょう.

●単歯中目
 次のSIMPLICIDENTATAは,単歯類と訳されていますが,上述のように「単一」の意味ではなく,「二重歯」に対応する「一重歯」の意味と思われますので,「一重歯類」を使用した方がいいかもしれません.
 単歯中目には,混歯類[MIXODONTIA]と齧歯類[RODENTIA]が含まれています.

●混歯目
 混歯類は,実態がはっきりしませんが,これに入れられている一属である Gomphos は,一時はミモトナ科として,Eurymylus, Rhombomylusはエウリュミュルス科として,アナガレ目に入れられていたこともあるようです.

●齧歯目
 齧歯目は旧体系でも巨大なグループでしたが,新体系でもそれは同じです.
 これを“ネズミ目”と呼ぶように指導されたこともありましたが,直感的にも“ネズミ”とはいえないような動物がたくさん入っていて,このような呼び方はナンセンスだということは素人にも(素人なら,なおさら)わかるはずです.
 齧歯目は「齧歯目所属位置不詳」,「栗鼠型亜目」,「鼠型亜目」,「異尾形亜目」,「栗鼠様亜目」,「山嵐顎亜目」に分けられています.もちろん,暗黙の内に,このように進化(分化)してきたということが意図されていますね.

●“齧歯目所属位置不詳”
 “齧歯目所属位置不詳”には,旧体系(たとえば,Carroll, 1988)でも「齧歯目所属位置不詳」とされた分類群のいくつかが入れられています.この“よくわからなかった部分”が齧歯目の先祖形と位置づけられているのですね.しかし,すべてがそう位置づけられているわけではなく,大部分はよくわかっていません.かなりの部分が「無視」されていますね(はっきり言ってしまえば,新分類とて,すべてを説明できているわけではないということになりますか).
 一方で,Carroll (1988)以降に創設された「科」がいくつかあり,最近の新しい発見が新体系の確立に大きな役割を果たしているということですか.

● 栗鼠型亜目
 栗鼠型亜目[SCIUROMORPHA]の和訳はリス亜目になっている場合がありますので,原語を反映していないので注意しましょう.記載者名[Brandt, 1855]を見る限りでは,定義に変更はないようです.

● 鼠型亜目
 鼠型亜目[MYOMORPHA]も,リス型亜目と同様に,ネズミ亜目になっている場合があります.同様に,記載者名[Brandt, 1855]を見る限りでは,定義に変更はないようです.
 しかし,亜目以下の細部に関しては,変更があります.というか,McKenna & Bell, 1997による修正があります.McKenna & Bell, 1997は入手していないので検討は後日に回します.

●残り三つの亜目は,比較的最近になってから,創られたものですね.

● 異尾形亜目
 異尾形亜目[ANOMALUROMORPHA]は,(たぶん)Carroll (1988)では齧歯目・栗鼠顎亜目・下目未確立に入れられていた異尾上科[superfamily ANOMALUROIDEA]を拡張再定義したものと思われます.正確なところは,Bugge, 1974の論文を入手して,検討しなければなりませんが,今のところそこまでする気はありません.
 分類学というのは,難しいというよりは,こういった文献収集が「めんどくさい」んです.いきおい,大学などの図書が充実しているところでしか,研究ができないという障害になってしまいます.ま,今大学では「分類学」なんて学問はやってないんですけどね.

● 栗鼠様亜目
 栗鼠様亜目[SCIURAVIDA]はMcKenna & Bell, 1997が定義しています(すべての鍵はMcKenna & Bell, 1997の入手にかかっているようですね).
 栗鼠様亜目は,Carroll (1988)では齧歯目・栗鼠顎亜目・原齧歯形下目・強鼠上科*に入れられていた栗鼠様科[SCIURAVIDAE]を(たぶん)拡張・再定義したものと思われます.
 事実,栗鼠様亜目の栗鼠様科(新体系)と栗鼠様科(Carroll, 1988)を構成する属はほぼ同じです.も少し,詳しい検討が必要ですが,それは別の機会に.

● 山嵐顎亜目
 山嵐顎亜目[HYSTRICOGNATHA]は新旧それほど変わりがないようです.


●齧歯目・旧体系に戻ってみます.

order RODENTIA(齧歯目)
├ suborder SCIUROGNATHI(栗鼠顎亜目)
│ ├ infraorder PROTROGOMORPHA(原齧歯形下目)*
│ ├ infraorder SCIUROMORPHA(栗鼠形下目)
│ ├ infraorder CASTORIMORHA(海狸形下目)
│ ├ infraorder UNNAMED*
│ ├ infraorder MYOMORPHA(鼠形下目)
│ └ infraorder INDETERMINAE
├ suborder HYSTRICOGNATHI(山嵐顎亜目)
│ ├ infraorder BATHYGEROMORPHA(不詳**)?Bathyergomorpha***
│ ├ infraorder HYSTRLCOMORPHA(山嵐形下目)
│ ├ infraorder PHIOMORPHA(プィオミュス下目****)
│ └ infraorder CAVIOMORPHA(天竺鼠形下目)
└ order RODENTIA incertae sedis

from carroll (1988)
* 
・齧歯目は「栗鼠顎亜目」と「山嵐顎亜目」に大別され,そのほかに齧歯目・分類位置不詳のグループがあります(した).
 この「分類位置不詳」のグループは,新体系ではそれぞれ,あるグループの先祖形として位置づけられていることが多いようですが,大部分はまだはっきりとしていません(はっきり言ってしまえば,新分類とて,すべてを説明できているわけではないということになりますか).

 「栗鼠顎亜目」と「山嵐顎亜目」は,下顎と門歯の関係によって分けられていたようです.もちろん,新分類ではこの指標は採用されていませんが,採用されない理由がしっかりと説明されている文献が見つからないもので,私にはよくわかりません.
 ま,何となく変わってしまうというのは,科学の世界でも,実はよくあることです.「勝ち馬にのる」のが原因ということですかね.


●反省
 新分類での「大目」というグループを単位にして,グループの概略を把握しようとしたのですが,失敗でした.単位がちょっと大きすぎたのと,情報不足が原因ですね.
 いずれまた,調べ直して再チャレンジしたいと反省しております.

 ここは調査中のメモ書きですから,多少マニアックに見えてもしかたないと考えております.「北海道化石物語」に転記するときには,もっと理解しやすくすることを心がけましょう((^^;).