2012年1月31日火曜日

通学時…

通学時
 児童を蹴散らす
  車に児童

宮武軟骨


交差点を渡ろうとしている児童が,車の途切れるのを待っているとき,クラクションを鳴らして子どもたちを蹴散らして行く車がある.そこは,除雪の状態によっては,区別がつきにくいかもしれないが,見慣れている人間にとっては,明らかに「歩道の一部」だ.
歩道で,彼らは待っているのである.
よく見ると,その車には,蹴散らされた児童と同じくらいの年頃の子どもが乗っている.いわゆる自家用車通学だ.だから,運転しているのは,同年代の子どもを持つ「親」.
とくに,母親の場合が多い.

悲しいことだが,「あれが自分の子どもだったら」とは考えないらしい.
地域住民,PTA,学校,役場(教育委員会および除雪を担当している部局),四者がキチンと状況を把握して,共通の理解の上で「児童を守る」システムを作りあげて行かないと,いずれ,もっと悲しい事態が起きる可能性は否定できまい.
悲しいことだが.

近所に大型店舗(いわゆる「巨艦」といわれるヤツ)ができてから,バス通りの交通量が増え,通学路である裏道に入りこんでくる車が極端に増えた.
昔は,確かスクールゾーンとかいうのがあって,通学時間帯には通行制限されていたと記憶するが,いまはそんなことはないようだ.普段でも30km/h制限の道を,雪煙を立てて,まるでラリー中のように,たくさんの車が走って行く.絶対,30km/h以下じゃあないな.
交差点の角に雪を積み上げたまま放置する,いまの除雪法では,交差点を渡ろうとする子どもたちは,ある意味,表通りの交差点を渡るより必死である.すべての子どもを持つ親は,一度,自分の子どもがどのような道を通学しているか,経験してみるといい.
スクールゾーンを復活させようという気になるだろうから.
 

2012年1月30日月曜日

動物名考(9) クマタカ

クマタカ(角鷹,熊鷹)


Spizaetus nipalensis (Hodgson, 1836)


[Mountain Hawk-eagle]


タカ(鷹)はタカ目タカ科に属する鳥のうち,比較的小型のものを指すそうです(理系ではなく,国語辞典系の定義).逆に,比較的大型のものはワシ(鷲)と呼ばれています.クジラとイルカの関係に似ていますね.
ただし,昔のアジアでは,二つは区別していたようです(本草綱目および,それに準じている和漢三才図会など).
和漢三才図会に,「鷹」の字は,「ムネ(「鷹」の字の「鳥」を「月」に換えた字)で他の動物を撃つ.それでこう名づける」とあります.

クマタカについて考察する前に,クマタカの上位分類について整理しておこうと思ったのですが,困った現象が起きています.現代的な混乱です.リンネの分類法に従った古典的な分類(基本はこうあるべき)と,クラディズムの手法を利用した分類(実際には分類ではなくて,進化系統の筋道を表したもの),それとDNA分析による近縁関係を基本とした分類(絶滅種は無視せざるを得ない:こちらも類縁関係を表しているだけで,分類とはいいがたい),この三者が「ごった煮」になってしまっています.
この場合は,遺伝子学者がDNAの近縁関係によって再配列したようなのですが,リンネの記載法を無視しているので,分類になっていないのですね.食い散らかして放り出した.そんな感じです.

おまけに,日本の“学者”が原語の意味も考えずに学名を“和訳”したから,分類用語が錯綜して,ますます,わけがわからなくなっています.わたしの能力では解きほぐせそうにもありませんね.

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まずは,目ですが
order ACCIPITRES Linnaeus, 1758
order ACCIPITRIFORMES Vieillot, 1816
order FALCONIFORMES Sharpe, 1874
ざっと,こんなものが出てきます.もっとあるのかもしれないですが,少なくとも記載者の名前が明示されてるものだけです.
現世生物の記載にはありがちですが,分類名だけあって定義は明示されていないのが普通です.ひどい場合には(じつは普通ですが),その分類名の定義者名すら明示されていない.
その分類群名を採用した根拠も書かれていない.ま,ナイナイ尽くしで「記載」と称しているわけですね.
というわけで,これらのどれがリーズナブルなのかは,判断できないのです.

なお,“和名”(和訳)はもっとひどく,このどれにも“タカ目”の“和訳”((^^;)が与えられています.

FALCONIFORMESに“隼形目”という和訳が与えられている例も見たことがあります.falco-はラテン語としては「ハヤブサ」ですが,genus Falcoは「チゴハヤブサ属」ですから,和訳としては,「チゴハヤブサ形類」が正しいのですがね.“タカ目”よりはましでしょうけど((^^;).
ACCIPITRIFORMESも,ラテン語のaccipiterは,1)「タカのような捕食性の鳥」,2)「とくにAccipiter nisus (Linnaeus, 1758) =ハイタカ」を意味する言葉ですので,“タカ目”や“タカ形目”よりも「ハイタカ形類」がリーズナブル.

また,DNA分析からは,FALCONIFORMESはACCIPITRIFORMESから,かなり遠い位置にあるので,分離すべきという意見があり,実際にそれに従っている分類もあるようです.残念ですが,その「原著論文」が見つからないので,判断ができません.公表されているのかどうかも不明.
まあ,でも現世生物は古典的な形態分類よりもDNAの相違による分類に置き換わりつつあるので,時代の流れにしたがって,FALCONIFORMESは分離独立ということで考えた方がいいのかもしれません.

したがって,クマタカは,以下のように記述されます.
order ACCIPITRIFORMES Vieillot, 1816
 familia: ACCIPITRIDAE Vieillot, 1816
  genus: Nisaetus Blyth, 1845
   Nisaetus nipalensis Hodgson, 1836

なお,“クマタカ”をSpizaetus nipalensis (Hodgson, 1836)としている場合がありますが,これは,古い分類体系(形態のみによる分類)とされています.
DNA分析の結果,アジア産の“クマタカ”類はNisaetus Blyth, 1845 に編入されています.DNA分析で分類をいじるのは引っかかるところがあるんですが,この場合は「動物地理区」とも調和的で「これでいい」のかもしれません.
なお,結果として genus: Spizaetus Vieillot, 1816に属する種は中南米産に,genus: Nisaetus Blyth, 1845に属する種はアジア産に統一されたようです.
しかし,どちらの属も模式種が見つからないのは,いじくり回された結果で(整理が終わっていないので)はないかと邪推するものですが.
こういうのは,シノニムをキッチリ記載している論文でも見つからないと手に負えません.

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さて,上記したように,genus: Nisaetus Blyth, 1845は模式種が不明ですので,なんと和訳するべきなのかわかりません.
何はともあれ,クマタカ[Nisaetus nipalensis Hodgson, 1836]に行き着いたこととしておきます((^^;).
属名Nisaetusは,Nis-aetusという構造で,「Nisusの鷲」という意味.このNisusは,ギリシャ神話に出てくる「ニースス王[Νῖσος]=[Nisus]」のことで,ある事件の後,王はハイタカに変えられたという伝説があります.-aetusは,ギリシャ語のアエトス[ὁ αετός]=《男》「鷲」で,あわせて「Nisus王のワシ」となります.
種名nipalensisは,nipal-ensisという構造の合成語で,「Nepal産の」という意味.

和俗名「クマタカ」は,和漢三才図会によれば,本草綱目を引用し「角鷹」と表記しています.元は中国語で,日本でも相当古くから使われていたことになりますね.
「角鷹」の「角」は,「角毛」のことで,耳を覆う毛が角のように立っているところから出た言葉.したがって,「熊鷹」と書くのは間違いということになります.“熊のように強いから”などというのは「後付け」じゃあないかと思います.少なくとも「(古典の)何々に書いてある」という記述は見あたらないです.

英俗名は「Mountain Hawk-Eagle」.Hawk-Eagleというのは,なにか不自然な単語です.英和辞典にも載っていない.最近の造語でしょう.そういえば,日本語でも「ワシタカ類」という不自然な言葉が使われていましたね.無視してもいいでしょう.

なお,genus: Nisaetus Blythに属するとされる種は7~8種あげられていますが,いずれも,日本には生息せず,和俗名も与えられていないようなので,割愛します.
 

2012年1月27日金曜日

動物名考(8) タンチョウ

タンチョウ(丹頂)


Grus japonensis (Muller, 1766)


[Japanese crane, Manchurian crane, Red-crowned crane]



タンチョウは,俗に「タンチョウヅル(丹頂鶴)」ともいうように,ツルの仲間です.一般にいうツルは分類学的はGRUIDAE(ツル科)に属するものをいい,大変に広い分類群が該当します.

タンチョウはもちろん,頭の頂が紅い(丹:通常は赤色顔料のことをいい,硫化水銀や鉛の酸化物=鉛丹などを指します)からですが,では「ツル」はどういう意味なんでしょう.
中村浩「動物名の由来」によれば,複数の説があるとし,代表的な四つの説を挙げています.
一つ目は,「ツルはツラナル也.多くつらなり飛ぶ鳥也」(日本釈名)
二つ目は,「ツルは鳴く声もて名づくなるべし」(和訓栞).同,「鶯,郭公,雁,鶴は我名を鳴くなり」(古今集註)
三つ目は,「ツルはすぐるの転也.諸鳥にすぐれて大なる鳥也」(引用不詳)
四つ目は,「ツルは朝鮮語に由来するもので,朝鮮語ではツルのことをツリという.ツリが転じてツルになった」(引用不詳)

しかし,中村氏は“中村説”とでもいうべきものを主張.
「ツルはつるむ」に由来する名ではないかといいます.「『ツルム』とは『交尾』のことで,古くは『ツルブ』といった」そうです.「『ツルブ』とは漢字で“婚”とかく.結婚とは“つるび結ばれる”ことである」そうです.
タンチョウの求愛ダンスは,広く映像で知られていますし,アイヌの民族舞踊「ツルの舞」なんかでも有名ですね.
タンチョウは明治に入ってすぐに絶滅したとされていました(殿様の狩り場がなくなってしまったために,狩りたい放題になったのが原因とか).それまでは,日本全国で普通に見られたらしいです.つまり,昔の人は「ツルの求愛ダンス」を普通に見ていたはずなのです.
蛇足しておけば,大正も終わりころになって,釧路原野で再発見されたときには,誰も知らなく巨大な鳥がいるということで,話題になったそうです.
絶滅したと思われていた生物が,じつは生きていたわけですから,つまり,タンチョウは“生きている化石”ということですね.

「田鶴」という言葉があります.使われている漢字から,これは「ツル」を指しているように思われていますけど,「タズ」は「多豆賀泥(たずかね)」が略されたもので,古語としては,ツルに限らず,「大きな鳥」を,すべて「タズ(多豆)」と「よんだと思われる」とされています.
「田鶴」がでてくる和歌に添えられた絵をよく見ると,ツルではなくコウノトリであることも多いとか.

タンチョウの学名は,後述しますが,Grus japonensisです.もちろん,「日本産のツル」という意味.ところが実際は,日本よりも中国北東部や朝鮮半島に多い鳥で,それを反映して,英俗名は「Manchurian crane(満洲鶴)」になっています.
しかし,中国政府にとっては「満洲」は「満洲国」を思い起こさせるということで「タブー」になっていて(「偽満」というらしい),英俗名にクレームがつき「Red-crowned crane」と呼ぶようにと圧力がかかっているそうです.
満洲は,古来からの中国の領土だと主張しているんですから,別に「Manchurian crane」でもかまわないようなモンですが….よくわかりません.

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さて,タンチョウの上位分類から.
ordo: GRUIFORMES Bonaparte, 1854
 familia: GRUIDAE Vigors, 1825
  subfamilia: GRUINAE Vigors, 1825
   genus: Grus Brisson, 1760 [type: Ardea grus Linnæus, 1758]

きれいにそろってますね.
語根のgru-は,ラテン語のgrus=「ツル(鶴)」から.
したがって,鶴形類(鶴形目),ツル科,ツル亜科,ツル属です.
ツル属の模式種はArdea grus Linnæus, 1758ですから,種名のgrusは形容詞と見なして,「ツル(の中の)のツル」.原記載のArdeaはラテン語で,「サギの類」(とくに青鷺の類)を意味しますから,ツルとサギは近縁と考えられていたのでしょうね.
なお,希に,genus: Grus Pallas, 1766となっていることがありますが,これは異物同名でまったく別の鳥です.Pallasの方が後記載ですから,Grus Brisson, 1760が有効.

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続いて,genus: Grus Brisson, 1760に属するとされる種のリストを.

genus: Grus Brisson, 1760
 Grus grus (Linnaeus, 1758)(クロヅル; Common crane)
 Grus americana Linnaeus, 1758(アメリカシロヅル; Whooping crane)
 Grus antigone Linnaeus, 1758(オオヅル; Sarus Crane)
 Grus canadensis Linnaeus, 1758(カナダヅル; Sandhill Crane)
 Grus leucogeranus Pallas, 1773(ソデグロヅル; Siberian crane)
 Grus japonensis (P. L. S. Müller, 1776)(タンチョウ; Red-crowned crane)
 Grus rubicunda (Perry, 1810)(オーストラリアヅル; Brolga)
 Grus vipio (Pallas, 1811)(マナヅル; White-naped crane)
 Grus monacha Temminck, 1835(ナベヅル; Hooded crane)
 Grus nigricollis Przevalski, 1876(オグロヅル; Black-necked crane)

grusは上述の通り.
和俗名は“クロヅル”と呼ばれているようですが,クロヅルというよりは“ハイヅル”のよう.現在の日本にはあまりあらわれないツルのようですが,「和漢三才図会」には「黒鶴」の名が見えています.でも,色彩の記述が微妙です.ただし,「色の淡いものがあり,薄墨と名づけるものがある」とありますので,こちらはあたっているかと.でも,そうすると,「クロヅル」に該当する鳥がいなくなります.この種のヨーロッパ産のものが,多少色が黒いといいますから,寺島良安の時代以前にはこれらも日本に来ていたのでしょうか(後出,「ナベヅル」参照).
英俗名は「フツウヅル[Common crane]」.ざっぱな命名ですが,分布範囲などを考慮すると,そうなのかな.日本で普通のツルは後述の「マナヅル」ということになりますけどね.

americanaは,ラテン語で「Amerigo の」という意味.これは,Amerigo VespucciのAmerigoをラテン語化したAmericusの《女性形》ですが,ここでは,「人物;Amerigoの」ではなく,「地名;Americaの」という意味になりますね.
主な生息地は北米で,日本にはあらわれない模様.だから和俗名は必要ないのですが,こう呼ぶ人もいるようです.面白いのは,英俗名は単に「whooと鳴くツル」なのに,和俗名には「シロ」の文字が入ること.欧米人にとっては,普通のツルは「灰色」ですが,日本人にとっての普通のツルは「白色」という認識の違いが出たようです.
ただ,“アメリカクロヅル”というのがいないのに,わざわざ「シロ」を入れる必要があるのかという気がします.

antigoneは,ギリシャ神話のオイディプスの娘の名前[ἡ Ἀντιγονη]=《女》「アンティゴネー」をラテン語化[Antigone]したもの.ちょっと,命名の趣旨が不明だったのですが,この鳥が「頸上部から頭部にかけて羽がなく,赤い皮膚が露出する」ということと,アンティゴネーが「首をつって自殺した」というのと関係があるのかもしれません.そうであれば,ちょっと命名者のセンスを疑いますね((--;).
和俗名は“オオヅル”というのがあるようです.英俗名が「湖のツル」ですが,これは英語ではなく,サンスクリット語が語源だそうです.サンスクリット語が語源ということは,この鳥の生息地はインド.おまけに,湖が生息地なので,う~~ん,なるほど.こちらは英俗名のセンスがいいのに対し,和俗名は悲しい((--;).

canadensisは,ラテン語で「カナダ産の」という意味.ところで,Canadaの語源ですが,欧米人が侵出したときに,現地人に「ここは何処だ」と訊ねたら,原住民は「ここはkanada(=「村」だ)」と答えたので,地名と勘違いしたという話です.よくある話((^^;).
和俗名は,学名から引っ張った「カナダヅル」.英俗名は地名の「Sandhill」だそうです.

種名leucogeranusはleuco-geran-usという構造の合成語で,元はギリシャ語.
leuco-は,[λευκός]=「明るい,輝く,鮮やかな;白い」という形容詞をラテン語の語根化したもの.
geran-は,[ἡ/ὁ γερανός] =《女・男》「ツル (crane)」という名詞をラテン語の語根化したもの.
-usは,形容詞化語尾で,あわせて,「白いツルの」という意味になります.
和俗名が,「ソデグロヅル」で,風切り羽根が黒いのを表しているのに対し,学名が「白いツルの」なのは,やはり欧米では,「灰色~淡黒」のツルが“普通”だからだでしょうか.これに対し,英俗名はSiberian crane.これは,繁殖地を示しています.

japonensisは,もちろん「日本産の」という意味.ただ,なぜ,日本のことをJaponというのかがわからない.
和俗名は「タンチョウ」.和漢三才図会には「丹頂鶴」がでていますから,相当古くからこの名称があったことになりますね.「本草綱目」の「鶴」の記載は「丹頂鶴」のことだと良安が解説しています.アジアでは,鶴の代表は「丹頂鶴」ということですね.
あまり英名のことを書いて,炎上されても困るので…略.

rubicundaは,ラテン語の形容詞 rubicundus =「赤い」の《女性形》.つまり,属名と合わせて,「赤いツル」.ですが,「赤いツル」というほど,赤くありませんね.頭部の一部が「赤い」だけです.
和俗名「オーストラリアヅル」は生息地を示したものですが,英俗名の「Brolga」のほうが,アボリジニの言葉だということですから,こちらのほうが好きですね.和俗名でも「ブロルガ」とすればいいのに.

vipioは,ラテン語で「小さなツルのある種」をさす言葉だそうですが,具体的にはどんなツルを指しているのかは不明です.
和俗名は「マナヅル(真鶴)」で,和漢三才図会に記述があります.古い時期から,ツルの典型として認識されてきた種です.
英俗名は「White-naped crane」.「エリジロヅル(襟白鶴)」とでも訳しておきましょうか.

monachaは,ラテン語の《女性名詞》monacha で,意味は「尼僧,修道女」です.元が,ギリシャ語で[ἡ μοναχή]=《女》「尼僧,修道女」.
男性形のmonachusは,もちろん「僧侶」という意味.こちらは(も),元はギリシャ語で[ὁ μοναχός]=《男》「僧侶」です.本来は《形容詞》[μοναχός]=「単一の;孤独な」であり,「独りで生活するもの」の意味です.昔は,坊主も純粋だったんですねぇ.
さて,この語は,たぶん,体幹部が「黒っぽい」ところからきているのでしょう.写真を見るかぎりでは,Grus grus (Linnaeus, 1758)=「クロヅル」よりも黒っぽく見えます.ひょっとしたら,和漢三才図会でいう「黒鶴」の黒っぽい方は,じつはこちらを指しているのかもしれません.和俗名をつけた人は,古語の知識が足りなかったのかな.
和俗名は「ナベヅル(鍋鶴)」.鍋鶴の意味は不詳ですが,和漢三才図会には,「肉の味も佳い」とあり,普通に食されていたようですから「鶴鍋」の「鍋鶴」なのかもしれませんね.
英俗名は「頭巾鶴 [Hooded crane]」です.ツル科の鳥は,多かれ少なかれ頭部に特徴があり,頭巾をかぶっているように見えるので,この名称が適当かどうかは疑問のところです.

nigricollisは,nigri-collisという合成語で,意味は「黒い丘/高まり」です.ちょっと,意味がピンときません.もしかしたら,原著者はcollum =「頸」と勘違いしたのかもしれません.ちなみに英俗名は「首黒鶴[Black-necked crane]」になっています.
一方,和俗名は「オグロヅル」.英俗名と和俗名では,ぜんぜん違うように思えてしまいますが,じつは,この鳥は,首と尾が黒いのです(それと,風切り羽根も).困ったモンだなあ….
 

2012年1月26日木曜日

「安倍晴明の一千年」

鉱脈にあたったのかもしれない.
かなり以前から,日本人の世界観,自然観を理解したいと考えて,いろいろな書物にあたってきたのですが,宗教・占いなど,この手の本は,ほとんどすべてが胡散臭く,読むに値しないというよりは,混乱を深めるためにあるようなものが多く,行きつ戻りつというのがこれまででした.

先日紹介した「陰陽道の神々」は,理系頭でも理解できる((^^;)数少ない本の一つでした.それに引用されていたのが,田中貴子「安倍晴明の一千年=「晴明現象」を読む=」で,珍しく(失礼(^^;)市立図書館の蔵書にあったので,借用して一晩で読みました.

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市立図書館は不便なので,まずはネット上で蔵書を検索するのですが,データ不足のため本に書かれていることの概略もわかりません.とりあえず,題名だけで借用してみると,たいていが,「トンデモ本」ネタになりそうなものばかりで,いわゆる研究書に引用されているような書籍は,ほとんどないのが事実です.
もっとも,一般市民が愛するのは,事実や真実より,夢や虚構なのでしょうから仕方がありません.

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で,たまたま田中貴子氏の著書があったので,借り出してみると,これがなかなか面白い.
安倍晴明の実像が,歴史が流れる中でいかにして「歪んで」いったのかが,事細かく書いてあります.ホントはわたしの興味とは少し違う流れの中にある書籍なのですが,立ち位置がまじめなので,引用文献も信用できる(もっとも,怪しげな本は引用文献すら示されていないですが)ので,Amazonから購入することに.
あ,これはどうも絶版なようで,新品は入手不可能です.

で,陰陽道に関しては,投げ出してある間に,最近の研究者がわたしでも「理解できる」ような解説書をだしているらしいことがわかりました.早速,四・五冊まとめて発注.
基礎的知識を仕入れたら,昔投げ出した藪内清らの著作に戻ってみようかと考えています.

   

2012年1月23日月曜日

「陰陽道の神々」

最近,また,オカルトに凝っています.
といっても,別に新興宗教に入ったり,怪しいことをやってるわけではありません((^^;).

最近,斎藤英喜氏の「陰陽道の神々」を読みました.

      

中世の公的「陰陽道」と大衆に支持された別の「陰陽道」があるそうです.
現代に至っても,われわれが,さまざまな場合において方位にこだわる理由は,安倍晴明が著したといわれる「簠簋内伝」にそのルーツがあるといわれていますけど,これが実は偽書.晴明が書いたものではないというのが通説です.
つまり,現在でも頻繁におこなわれている「恵方に向かって」なんてのは,誰が書いたのかすらわからない偽書から,すべてが発しているわけです.その背景には,公的ではない「陰陽道」があるんだそうです.


ここまで読んで,「なにか」と「なにが」わたしの頭の中で結びつきました.
たとえば,「占星術」は,王族がみずからの国家の安泰を願い,維持するために発達させたものです.だから,たくさんの学者を傭い,精密な天文学が形成されています.現代天文学のルーツです.
一方,庶民だって,安定した生活がしたい.イヤな出来事はできればさけたい.だから,王族がやっている「占星術」を,できればやってみたい.しかし,庶民ですから,それほどお金があるわけじゃあない.

占星術師を商売としても,手間がかかるだけで,もうけは少ない.
そこで,占星術の「大衆化」が起きます.
占ってほしい人の,生まれた時のすべての星の位置を特定するのではなく,そのときに,ある星座の中に太陽があることをもって簡略化してしまえばいい.そうすると,12程度のわけ方で,すべての人の運勢がわかることになる.そうして生まれたのが「星座占い」です.
簡単だし,占いの結果に,たいした根拠がいるわけでもない.占星術に比べれば「星座占い師」は非常に仕事が楽なわけです.

理解できます?
星座間での太陽の移動は連続しているはずなのに,隣り合った星座同士でも異様に“運勢”が違うことが普通にあることを.


同じことが,風水術でも起きます.
風水術も古代科学の一種で,安全な土地に「都」を置きたいという考えから,発達したものです.安全な土地というのは,自然災害からでもあり,周囲の異民族からでもあります.
だから,風水は,砂漠地帯や大平原,山間部や島国とか,風水土が異なれば,基本になる考え方も違う.しかし,個々の例を見れば,非常にリーズナブルなことがたくさんあります.

皇帝ならば,たくさんの科学者=風水師を傭って綿密な風水を判定することができます.
しかし,庶民は違う.
「風水」が悪いからといって,簡単に引っ越すことはできませんね.身分制度で移動を縛られている時代がありました.家のローンが残ってます.借家住まいだと,造作を変えることもできません.
そこで,風水の大衆化がおきます.
どっちかの方角に(これは,大衆化陰陽道からの借り物です)金色のものを置けとか,枕元に緑色のもの(植物)をおけとか,庶民でもできる(ほとんどわけがわからない)ことが“対応法”として示されます.
現代風水はそうしてできあがったものです.

仏教も神道も同じことが起きています.仏教も神道も一時期,国家の管理におかれたことがありますから,単に大衆化が起きただけではない.あっちこちに歪んでいます.

こういったものは,「ひとつの道」を通ってきたものではないので,現代のわれわれから見ると歴史的に重なってしまったものを見ていることになります.宗教・占い同志が重なっている場合もある.そうすると,一筋縄ではいかない,ひどく複雑なものとして,われわれの目に写ることになります.

けっこういろんな分野(宗教・占い)の本を読みました.しかし,伝説上の聖職者と実際に身の回りにいる「坊主ども」には,呆れるほどのギャップがあるように,「かれら」が書いたものを読んでも,「現状」は理解できないものでした(仏教を理解するのに,坊主の書いたものを読んでも意味がない).
「陰陽道の神々」を読んで,ようやく上記のことどもが,納得できた次第.名著です.

さて,そうすると,「(現代)科学が大衆化」した場合は,一体どんなことが起きるのでしょうね….

2012年1月22日日曜日

動物名考(7) コハクチョウ

コハクチョウ


Cygnus columbianus (Ord, 1815)


[Tundra swan]



「コハクチョウ」って,困った俗名ですね.
これは,われわれが,ふつう「白鳥」と呼んでいる種をさすのだそうです.では,別に「ハクチョウ」と呼ぶように推奨されている鳥はいるのかというと,ない.困ったものです.おい,学者先生!,横暴すぎるぞ!!((^^;)

上位分類は
ordo: ANSERIFORMES Wagler, 1831
 familia: ANATIDAE Vigors, 1825
  subfamilia: ANSERINAE Vigors, 1825
まで,「マガン属」と同じなので省略.

「和漢三才図会」に,「天鵞(はくちょう/テンゴウ)」という項目があるのですが,記述が混乱しているのでなんとも.
ただし,注に「思うに,天鵞〔一名は鵠〕とは俗にいう白鳥である」と,あります.寺島良安の時代以前に「白鳥」は俗名として使われていたことがわかります.一方,「鵠」のほうは,「鵠〔音は斛(こく)〕 皓皓とはっきりした声で鳴く.それで鵠という」とあります.白鳥が「コウ,コウ」と「はっきり」と鳴くのは聴いたことがあると思います.ですから,たぶん,「天鵞」は白鳥なのでしょう.

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Cygnus Bechstein, 1803について.
Cygnusは,1803年にBechstein がたてた属です.そのときはAnas olor Gmelin, 1789のみがこの属に入れられていたようです.
のちに,下記の種が,この属に入れられてゆきますが,困ったことに,のちにAnas cygnus Linnaeus, 1758も入れられていますね.
そもそもが,類似の,というよりはまったく同じ種名が,類似の動物に使われているのに,それを属名とするのは,混乱を引き起こす可能性があり,勧められたことではないのに,Bechsteinはやってしまったようですね.

さて,属名Cygnusはラテン語の《男性》名詞で「白鳥」を意味しています.元は,ギリシャ語の[ὁ κύκνος]=《男》「白鳥」をラテン語化したものでしょう.
ラテン語には,もう一つ「白鳥」を意味する言葉があり,それはolorです.そう,Anas olor Gmelin, 1789のolorですね.おや,anasは《女性》なのにolorは《男性》です.「性の不一致」ですね.マズイですね.命名年代が古いからいいのかな?
まあ,結果として一致したからいいか.Anas olorinaなら問題はなかったんですけどね.

さて,Cygnusの模式種はAnas olor Gmelin, 1789でした.Anas olor Gmelin, 1789の和俗名は「コブハクチョウ(瘤白鳥)」ですので,Cygnusの和俗名は「コブハクチョウ属」が適切ということになりますね.
ただし,コブハクチョウは日本には,自然状態では迷鳥としてしかあらわれない種であるそうです(しかし,例によって,人為的に持ち込まれたものを中心に,日本国内で繁殖しているそうです).つまるところ「コブハクチョウ」は学者が任意でつけた名称なんでしょう.それが属の代表というのは,しっくり来ないですね.でもしょうがない.
和俗名を「ハクチョウ属」としている場合もあります.この場合,日本で「ハクチョウ」と呼ばれているものは,後述する「コハクチョウ」のことですので,模式種がAnas columbianus Ord, 1815と混同される場合がでてきます.ハクチョウ属なのにハクチョウ種がいない.おまけに「(白鳥)ハクチョウ(属)」の中に「(黒鳥)コクチョウ(種)」がいたりする.どうして,こんな,わざわざ混乱を引き起こすような命名や改訂をおこなうのでしょうかね.

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以下に,コブハクチョウ属各種についてリストアップしておきます.

Cygnus olor (Gmelin, 1789)[コブハクチョウ, Mute Swan]
 syn. Anas olor Gmelin, 1789
Cygnus cygnus (Linnaeus, 1758)[オオハクチョウ, Whooper swan]
 syn. Anas cygnus Linnaeus, 1758
Cygnus melancoryphus (Molina, 1782)[クロエリハクチョウ, Black-necked Swan]
 syn. Anas melancoripha Molina, 1782
Cygnus atratus (Latham, 1790) [コクチョウ, Black Swan]
 syn. Anas atrata Latham, 1790
Cygnus columbianus (Ord, 1815)[コハクチョウ, Tundra swan]
 syn. Anas columbianus Ord, 1815
Cygnus buccinator Richardson, 1832[ナキハクチョウ, Trumpeter swan]

olorについては,上記しました.
Cygnus olorは「白鳥・白鳥」という意味になります.ユーラシア大陸に普通にいる白鳥だということで,ふさわしい命名なのかもしれません.しかし,やはり種名は形容詞にしてほしいものです.
英俗名[Mute Swan]は,「沈黙の白鳥」という意味.ほかの白鳥の仲間より鳴き声が静かだからといいます.なお,英語の[mute]には「鳥の糞」という意味もあるそうです.なんでだろ.

cygnusは,属名と同じですが,こちらの語尾は《形容詞》と考えた方がいいでしょう.
したがって,意味は「白鳥の白鳥」.同じ意味を重ねるのは学名ではよくあることです.
英俗名[Whooper swan]は,「大声を上げる白鳥」という意味.オオハクチョウが大きな声で「コォー(皓)」と鳴く様子を示しているようです.
おや?そうすると,「和漢三才図会」でいう「天鵞」はオオハクチョウのことなのかな.

melancoryphusは,melan-coryphusという構造で「黒い+頭の」という意味.どちらも元はギリシャ語でラテン語綴り化したものです.
この種は,頭というよりは(長~~い)頸から黒いので,どうもしっくりきません.和俗名は「クロエリハクチョウ」で,これは英俗名の[Black-necked Swan]の訳ですね.どちらも「頭はどうなの?」となるかもしれません.
まあ,どっちにしても,普通,日本にはいない種ですので,どうでもいいといえばどうでもいい.

atratusは,ラテン語のatratus =「暗い,黒い,黒ずんだ;黒衣の,喪に服している」の《男性》形です.
英俗名は[Black Swan]で,「黒い白鳥」.和俗名も「黒鳥」ですね.矛盾を含んでますが,これは今のところ,オーストラリア固有種ということで,日本は繁殖していませんので,あまり考えなくていいかと….
なお,旭山動物園でも,この「コクチョウ」は飼育されています.が,キャラとしては採用されていません.

columbianusは,日本では普通に見られる渡り鳥(冬鳥)です.つまり,これが「ハクチョウ」ということになりますか.しかし,寺島良安の時代では「コハクチョウ」・「オオハクチョウ」の区別はしていないようですね.ただ産地によっては,味に差があり,羽も良-不良の差があるとしていますので,何らかの違いがあることは認識していたのかもしれません.
英俗名は[Tundra Swan].生息地を示していますね.ところが,種名はcolumbianus.語根columb-が具体的になにを指しているかは不明ですが,これが主な生息地を代表しているとは思えないですね.Colombiaにも,いるのかもしれませんけど.
命名者が米国人なので「ハハン,なるほど」と思いますが,少し視野が狭すぎたようで.
 

2012年1月18日水曜日

動物名考(6) マガモ

マガモ(真鴨)


Anas platyrhynchos Linnaeus, 1758


(Mallard)


マガモの仲間を,一般的に「カモ」といいます.しかし,「カモ」という名称は必ずしも分類学的な単位とは一致していないので,注意が必要です.
ま,分類学的にも相当混乱していて,よくわからないことの方が多いみたいですが.探索もひどく大変でした((--;).

分類学的な記述をするときの,動物の名前を表記する慣習に従ってカタカナで「カモ」と書きますが,これは漢字の「鴨」の「読み」です.しかし,「カモ」は分類学的なグループをつくっていない名称なので,その定義は曖昧です.したがって,カタカナの「カモ」を使うと誤解をうけるかもしれません.

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「カモ」は,某辞典には「『カモ科』に属する鳥のうち,比較的小柄な水鳥をさす」とされていますが(後述するように「カモ科」という言葉は「おかしい」ので,この説明には意味がない),和語としては,語源をたどると「カモメ」や「カラス」と交差するところがあり,なかなか奥深いところがあります.

一説を紹介すると,「カモ」は「カモドリ(鴨鳥)」の略だそうです.
もともとは「浮かぶ鳥(うかぶとり)」だったものが「浮かむ鳥(うかむとり)」に転じ,「カモドリ」になったそうです.そのうちに,「浮かむ」の「浮」が略されて,「カム」となり,さらに「カモ」に転じたとされています.これは,中村浩(1998)「動物名の由来」(東京書籍)に書かれている説で,興味深いですが,出典が書かれていないので,なんとも.
これが本当だとすると,「カモ」は,単に水に浮かんでいる鳥を示す「一般名詞」だったことになり,ある「種」や「属」(もしくは「科」も含めて)などの狭い範囲のグループについていうべき「言葉」ではないということになりそうですね.

別な説では「カモ」は「カミ(神)」に関係あるとされ,これはとくに「地名」に関係があるとされているようです.
どちらにしても,出典もない説なので「曖昧」としかいえませんけどね.

漢字では「鴨」や「鳧」が使われています.
「鴨」は「カモ」でいいようですが,「鳧」(昔はこちらが本字だったらしい)は「カモ」とも読みますが「ケリ」とも読み,こちらは,「チドリ科」の一種を呼ぶ場合もあるので要注意です.

英名は「ダック(duck)」で,日本語のようにアヒルとカモの区別がなく,家鴨を[domestic duck],野鴨を[wild duck]と呼びます.
仏名は「カナール(canard)」,独名は「エンテ(Ente)」といい,どちらも飛行機の翼の形=中程が持ち上がった「へ」状の形を呼ぶ言葉に使われていますね.

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さて,マガモ属の上位分類について,見ておきましょう.

ordo: ANSERIFORMES Wagler, 1831
 familia: ANATIDAE Vigors, 1825
  subfamilia: ANATINAE Leach, 1820
   genus: Anas Linnaeus, 1758 [type: Anas platyrhynchos Linnaeus, 1758]

アンセリフォルメス目[ordo: ANSERIFORMES Wagler, 1831]は,ANSERIFORMES = anser-iformes=「ガチョウの類」+「形態」という合成語で,昔は「ガンカモ形類」が使われていたと記憶しますが,最近は「カモ目」というのがまかり通ってます.どこにも「カモ」を意味する言葉はないのですけどね.
語根ANSERI-はanser (= genus Anser Brisson, 1760)を接頭辞化したものなので,模式種「ハイイロガン」の名称を採用すべきなんだろうと思います.したがって,ANSERIFORMESの和訳(=和名)は「ハイイロガン形目」となるべきなんでしょう.一方で,genus Anser Brisson, 1760はgenus: Anas Linnaeus, 1758 と一緒にfamily ANATIDAE Vigors, 1825に入れられてますから,わけがわからないことになっています.
本来はorder ANATIFORMESが採用されるべきなんですが,ANSERIFORMES Wagler, 1831の「定義」が矛盾の無いものなので,採用されているのだと考えるべきなのでしょう.
それならば,科はfamily ANSERIDAE が採用されるべきなんですが,こちらも,familia: ANATIDAE Vigors, 1825の「定義」が修正の必要のないものなので,採用されているのだともいます.
おかしいですが,しょうがないですね.
だからといって,「カモ」という意味のないANSERIFORMESの訳に「カモ」を入れていいというものではないと思いますけどね.

アナティダエ[familia: ANATIDAE Vigors, 1825]は,ANATIDAE = anat-idae=「Anasの」+《科》という合成語です.anasはラテン語で「カモ・アヒルの類」を意味する言葉です.anasの《属格》はanatisなので《合成前綴》としては anat-, anato-が使用されます.一方で,familia: ANATIDAE Vigors, 1825の模式属はgenus: Anas Linnaeus, 1758なので,学術的な和訳としてはAnas=「マガモ属」を採用し,「マガモ科」とするのがいいでしょう.くどいようですが,「カモ」は自然語で,特定の分類群を示す言葉ではないので,学名に使うのはマズイでしょう.

分類に亜科を使用するときは,subfamily: ANATINAE Leach, 1820とsubfamily: ANSERINAE Vigors, 1825(のほか多数)に分かれています.したがって,
subfamily: ANATINAE Leach, 1820 (マガモ亜科)
subfamily: ANSERINAE Vigors, 1825(ハイイロガン亜科)
となりますので,ANSERIFORMESを「カモ目」と訳すと,ANATINAEも「カモ亜科」,ANSERINAEも「カモ亜科」になってしまいます.気をつけましょう.

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さて,「亜目」という単位に意味があるのかないのかわかりませんが,マガモ科は非常に複雑な様相を示していますので,以下に「亜目」分類を示しておきます.
ただ,分類名称は並べてありますが,その亜科分類にどういう意味があるのかが示されている論文・図鑑・解説書には行き当たらないので,あまり意味がないのだろうと思いますけどね.

subfamilia: ANATINAE Leach, 1820 [type: Anas Linnaeus, 1758]
subfamilia: ANSERINAE Vigors, 1825 [type: Anser Brisson, 1760]
subfamilia: DENDROCYGNINAE Reichenbach 1850 [type: Dendrocygna Swainson, 1837]
subfamilia: MERGINAE (Author unknown) [type: Mergus Linnaeus, 1758]
subfamilia: OXYURINAE (Author unknown) [type: Oxyura Bonaparte, 1828]
subfamilia: PLECTROPTERINAE (Author unknown) [type: Plectropterus Stephens, 1824]
subfamilia: STICTONETTINAE (Author unknown) [type: Stictonetta Reichenbach, 1853]
subfamilia: TADORNINAE (Author unknown) [type: Tadorna Oken, 1817]
subfamilia: THALASSORNINAE Livezey, 1986 [type: Thalassornis Eyton, 1838]

開いた口がふさがりませんね.半数以上の亜科に定義者が見つからない.本当に定義された亜科なのでしょうか.疑問に思ってしまう.
….
ざっと調べてみたのですが,信頼のおける情報にあたらないので,これ以上は無意味と判断.中略するしかありません.

しょうがないので,genus: Anas Linnaeus, 1758へ.

===


genus: Anas Linnaeus, 1758 [type: Anas platyrhynchos Linnaeus, 1758](マガモ属)

Anasは,ラテン語のanas = 「カモ・アヒルの類」をそのまま属名としたものです.
genus: Anasの模式種はAnas platyrhynchos Linnaeus, 1758とされていて,これは和俗名としては「マガモ」とされていますので,genus Anasは「マガモ属」とされるべきですね.だいたいはそうなっていますが,しばしば,「カモ属」とされていることがありますので,要注意.「カモ」がマズイのはすでに記述しました.

platyrhynchos = platy-rhynchosはギリシャ語の[πλατύς]=「広い」と[τό ῥύγχος]=《中》「嘴,鼻,吻状突起,吸嘴」の合成語をラテン語綴り化したもの.意味は,もちろん「広い嘴」です.種名は形容詞か,名詞の属格であるべきなのですが,名詞もなぜか許容されています.あまりよろしくないと思うけど.
もっとまずいことに,属名Anasは《女性》なのに,platyrhynchosは《中性》です.修正しなくていいのでしょうかね.どこかに間違いがあるのかな.と,おもったらAnas platyrhynchaで記述してある論文もありますね.なんたること!.手に負えんなァ.

マガモ科の仲間は,だいたいが「広い嘴」をもっていますが,「マガモ」がとくに広い嘴を持っているのかどうかは,記述がないのでわかりません.
でも,属名とあわせた意味は「広い嘴のカモ」(強引に形容詞として訳しました).
和俗名は「マガモ(真鴨)」.「和漢三才図会」には,マガモは「真鳧」としてあります.これは「本草綱目」からの引用.「和名は『加毛』」とあります.
「鴨は『呷呷(こうこう)』と鳴く」からその名がついたと説明されています.一方で,「野鴨を鳧(かも),家鴨を鶩(あひる)としてこれを区別する」とありますから,アジアでは,やはり当初から区別していたことになりますね.
英俗名はMallardです.元は古いフランス語らしいですが,意味はどうも曖昧.

===


以下,マガモ属に属するとされている種について記しておきます.
なお,旭山動物園キャラに「コールダック(Call Duck)」がリストアップされていますが,コールダックは,「マガモ(Anas)から家畜化された小型の品種.小型のアヒル」ということなので,略します.
なお,下記リストは日本鳥類学会(2000)から拾ったものなので,日本で見られないものについては入っていません.

genus: Anas Linnaeus, 1758 [type: Anas platyrhynchos Linnaeus, 1758](マガモ属)
 Anas platyrhynchos Linnaeus, 1758 [Mallard] (マガモ)
 Anas crecca Linnaeus 1758 [Teal](コガモ)
 Anas strepera Linnaeus, 1758 [Gadwall](オカヨシガモ)
 Anas penelope Linnaeus, 1758 [Eurasian Wigeon](ヒドリガモ)
 Anas acuta Linnaeus, 1758 [Northern Pintail](オナガガモ)
 Anas querquedula Linnaeus, 1758 [Garganey](シマアジ)
 Anas clypeata Linnaeus, 1758 [Northern Shoveler](ハシビロガモ)
 Anas formosa Georgi, 1775 [Baikal Teal](トモエガモ)
 Anas falcata Georgi, 1775 [Falcated Duck](ヨシガモ)
 Anas poecilorhyncha Forster, 1781 [Spot-billed Duck](カルガモ)
 Anas americana Gmelin, 1789 [American Wigeon](アメリカヒドリ)

creccaは,意味不明.
スウェーデン語の[kricka]から来ているという説があり,[kricka]はオスの鳴き声らしいのですが,よくわかりません.
和俗名は「コガモ(小鴨)」.
「和漢三才図会」では,「鸍」の字を示し「こがも,たかべ」と読んでいます.「和名は多加閉(たかべ)」とも.「鳧に似ているが小さい」という記述は,合っているともいます.しかし,色彩の記述がどうも(現在いわれている)「コガモ」と微妙に合いません.鳥類に詳しい人に判断してほしいものです.

種名streperaは不詳.
ラテン語のstrepoは「大きな雑音を立てる;困惑して叫ぶ;反響する」という意味で,これが変化したものらしいのですが,もちろんこんなことを説明している辞書は存在しないので,なんとも.
どうやらstreperus = streper-us=「雑音を立てる」+《形容詞》という構造らしいのですが,語根streper-の生成過程がわからない((^^;).ただ,streperaはstreperusの女性形とみることは可能ですので,「マガモ」であったような「性の不一致」は起きてませんね.

種名penelopeは,ギリシャ神話のオデッセウス[Ὀδυσσεύς, Odusseus]の妻,[ἡ Πηνελόπη]=《女》「ペーネロペー」のラテン語形.ペーネロペーは“貞淑な妻”という役割だそうです.この鳥にそういう性質があるのでしょうかね.「オシドリ」は仲がいい(らしい)ので有名ですが,この鳥の和俗名は「ヒドリガモ(緋鳥鴨)」です.
「和漢三才図会」では,「赤頭鳧(あかがしらがも)」と呼び,「俗に緋鳥(ひどり)と称する」としています.「赤頭」のほうが,特徴を捉えているような気がしますが….

種名acutaは,ラテン語で「尖った」を意味する形容詞の《女性形》.
和俗名は「オナガガモ(尾長鴨)」ですが,じつは,尾っぽが「長く尖っている」ということで,同じ意味.
「和漢三才図会」では,「尾長鳧」(一名は「佐木加毛(さぎかも)」)としています.

種名querquedulaは,ラテン語で「カモの一種(もちろん,欧米では「カモ」と「アヒル」は一緒のものです)」とあります.具体的になにをさすかは不明.
和俗名は「シマアジ(縞味)」というのが通用しているようですが,由来は不明.
「和漢三才図会」では,「味鳧(あじかも)」というのが,これにあたるようです.面白いことに「注」に「どうしてこういうのかよくわからない」とあります.西行法師が歌った和歌が引用されていますので,相当昔から「あぢ」と呼ばれていたことがわかります.なぜ,「あぢ」ではなく,「しまあじ」に変わったのでしょうね.

種名clypeataはclype-atusという合成語の《女性形》で「円楯を備えた」,つまり「円楯状の保護物をもった」という意味です.
和俗名「ハシビロガモ(嘴広鴨)」は,嘴が広く大きいという意味ですが,たぶん,種名の“円楯”は,この大きな嘴を意味しているのだと思います.
「和漢三才図会」には,該当しそうな記述のあるカモは見つかりませんでした.

種名formosaは,ラテン語で「美しい形の」という意味のformosusの《女性形》です.現在,台湾と呼ばれている島のポルトガル名が,このformosaですが,こちらは,単に「美しい」という意味.
和俗名は「トモエガモ(巴鴨)」といい,この鳥の頬にある模様が「巴」に見えるからだといいます.こんな特徴的な色彩・模様なのに,「和漢三才図会」には該当の鳥が見あたりません.

種名falcataは,ラテン語で「鎌状の,鎌を備えた」という意味のfalcatusの《女性形》です.風切り羽根が「鎌様」に見えるからだとされています.和俗名は「ヨシガモ(葦鴨)」とされています.「和漢三才図会」には,「葦鳧(よしがも)」のほか,「蘆鳧(あしがも)」もありますが,色の記載はどちらも微妙.本当に合っているのでしょうか.

種名poecilorhynchaは,poecilorhyncha = poecilo-rhynchaという構造のラテン語合成語.「色取り取りの嘴の《単女》」という意味です.しかし,カルガモの嘴を「色取り取り」という表現をする人はいないだろうと思いますが….
「和漢三才図会」にも「軽鳧(かるがも)」という項目はありますが,名称の由来については,なにもありません.

種名americanaは,合成語Americanusの《女性形》.Americanusは,インドと誤解されていた大陸を新大陸だと認識したといわれるAmerigo Vespucci の名 Amerigo のラテン語形がAmericusで,この語根americ-に形容詞語尾の-anusをつけて形容詞化したもの.
意味はもちろん「アメリカの」ですが,この鳥は,A. penelopeと雑種をつくることが知られており,和俗名も「アメリカヒドリ」だそうです.雑種というのがどのようなものかわからないですが,次の世代が生まれるなら,同一種でいいと思いますけどね.

あ~あ.「カモ」は難物でした((--;).
 

2012年1月14日土曜日

動物名考(5) イワトビペンギン

イワトビペンギン


Eudyptes chrysocome (Forster, 1781)


(Rockhopper Penguin)


ordo: SPHENISCIFORMES Sharpe, 1891
 familia: SPHENISCIDAE Bonaparte, 1831
  genus: Eudyptes Vieillot, 1816 [type: Aptenodytes chrysocome Forster, 1781]
   Eudyptes chrysocome (Forster, 1781)

イワトビペンギンの属名はEudyptesで,この属の模式種はイワトビペンギンそのものです.
属名のEudyptesはeu-dyptesという構造の合成語です.eu-は[εὖ]=「よく(善く,良く),立派に」という意味のギリシャ語接頭辞であり,dyptesは[ὁ δύπτης]=《男》「ダイバー,潜水夫」という意味のギリシャ語.あわせて,「真のダイバー,潜水夫」.ペンギンにふさわしい属名ですね.
dyptesは,キングペンギンの属名Aptenodytesに使われているdytesとは兄弟のような言葉なんですかね.同じ「ダイバー,潜水夫」という意味です.
模式種chrysocomeは最初の記載時はAptenodytesになっていますから,キングペンギンの仲間と見なされていたわけです.

この属の英語の俗名は[Crested penguin]なので「カンムリペンギン」とでも,訳しておきます.
さて,カンムリペンギン属の仲間についてみておきますか.
その前に,ロッキーホッパーの分類については,相当混乱があるようなので,整理しておきます.
ロッキーホッパーは
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Rockhopper Penguin]
の一種であるという説.

ロッキーホッパーは,
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Southern Rockhopper Penguin]
Eudyptes moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
の二種であるという説.

ロッキーホッパーは
Eudyptes chrysocome chrysocome (Forster, 1781) [Western Rockhopper Penguin]
Eudyptes chrysocome filholi Hutton, 1878 [Eastern Rockhopper Penguin]
Eudyptes moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
の二亜種+一種であるという主張.
これの変形として,
Eudyptes chrysocome chrysocome (Forster, 1781) [Western Rockhopper Penguin]
Eudyptes chrysocome filholi Hutton, 1878 [Eastern Rockhopper Penguin]
Eudyptes chrysocome moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
の三亜種であるという主張.
当然出てくるであろう,
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Western Rockhopper Penguin]
Eudyptes filholi Hutton, 1878 [Eastern Rockhopper Penguin]
Eudyptes moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
という主張があるようです.

残念なことに,それらの主張(もしくは説)を公表した論文が入手できないので,検討できません(入手できても,言語学的障壁よよび学問的障壁で理解できるかどうかわかりませんけど(^^;).ただ,DNA分析のみで「亜種もしくは種に分離可能」だったとしても,形態的に分離可能かどうかは,遺伝子学的論文に書かれていることはないので,あまり意味がないだろうと思います.
理解できないものは放っておいて,ここはとりあえず一種であると仮定して,話を進めます.なお,三種もしくは三亜種であるとする主張の英俗名およびその和訳はあまりにもセンスがないので,これも放置します(理由は,南極圏において「東西南北」をどう理解するべきかを考えてみてください).


「カンムリペンギン」属構成種
genus: Eudyptes Vieillot, 1816 [Crested penguin]
 Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Rockhopper Penguin]
 Eudyptes chrysolophus (Brandt, 1837) [Macaroni Penguin]
 Eudyptes pachyrhynchus Gray, 1845 [Fiordland Penguin]
 Eudyptes schlegeli Finsch, 1876 [Royal Penguin]
 Eudyptes sclateri Buller, 1888 [Erect-crested Penguin]
 Eudyptes robustus Oliver, 1953 [Snares Penguin]


種名chrysocomeは,ギリシャ語の[ἡ χρυσοκόμη]=《女》「金髪」が語源と思われますが,種名が《名詞》なのはおかしいので,chrysocomesの誤記だと思われます.
英語の俗名は,ご存じ[Rockhopper Penguin]=「イワトビペンギン」.これは,別にいつも岩の上を跳んでいるのではなくて,スズメのように両足を揃えて跳ぶ移動法からついたもの.属名とあわせて「金髪のカンムリペンギン」の方がいいのかもしれません.

種名chrysolophusは,ギリシャ語の[χρυσόλοφος]=「金色の鶏冠をもつ」のラテン語綴り化したもので,chrysolophus = chryso-loph-us=「黄金色の」+「鶏冠の」+《形容詞》と考えることも可能です.どちらにしても,「金色の鶏冠を持っている」という意味ですね.
英俗名の[Macaroni Penguin]は,18世紀のイギリスで流行した派手な装飾のことをマッカローニズム[Maccaronism]といい,それをとりいれた若者をマッカローニ[maccaroni]あるいはマカローニ[macaroni]といったそうです.この種の鶏冠は,その装飾を彷彿とさせるので,そう呼ばれるようになったといわれています.

種名pachyrhynchusは,pachy-rhynch-us=「厚い」+「嘴の」+《形容詞》という構造の合成語です.
つまり,「厚い嘴のカンムリペンギン」という意味ですが,カンムリペンギンの仲間で,とくに嘴が厚いようにも見えません.ま,そんなこともあるんでしょう.
英俗名の [Fiordland Penguin]のFiordlandはニュージーランド南島の南西の隅にある地名で,ここらあたりが住処のようです.

種名schlegeliは,ドイツの鳥類学者で,シーボルトが日本で収集した脊椎動物を研究し,『Fauna Japonica 』(日本動物誌)を執筆した人です.しかし,このschlegeliとは,とくに関係が見あたりません.発見に関係あったわけでもなく,この種の記載に関係あったわけでもないようです.単に,Schlegel, H.の名を記念したというだけかもしれません.
英俗名の[Royal Penguin]は,キングペンギンやエンペラーペンギンの仲間と勘違いされそうなので,あまり使いたくないですね.“和俗名”としても「ロイヤルペンギン」が使われているようですが,学名を尊重して「シュレーゲルペンギン」がいいのではないでしょうか.

種名sclateriは,Philip Lutley Sclaterを記念したもの.Sclater, P. L. (1829-1913)は英国の法律家,動物学者で,とくに鳥類学に詳しいということです.
《合成語》《種名》sclateri = sclater-i=「Sclater, P. L.の」
英俗名[Erect-crested Penguin]は「鶏冠が立ったペンギン」という意味ですが,「カンムリペンギン」属の構成種は,ほとんどすべてがあてはまってしまいます((^^;).立っているから鶏冠だろう((^^;).
日本語訳では“シュレーターペンギン”というのがまかり通ってますが,何語にしてもSclaterを“シュレーター”とは読まんだろうと思います….ま,英語は綴り通りには読まないのが普通ですけどね((^^;).
学名としては「エゥデュプテス=スクラテリ」です.

種名robustusは,ラテン語の形容詞robustus, robusta, robustum =「堅い木の;樫の;強い,固い,強化された」の男性形.この場合は,「強い」という意味でしょうね.種名としては,大きめで頑丈そうな種に対して,よく使われる言葉です.属名とあわせて,「強いカンムリペンギン」.
英俗名の[Snares Penguin]のSnaresは,ニュージーランド南島の南海岸にある島々の名前.この種は,そこらあたりで繁殖しているのだそうです.
 

2012年1月12日木曜日

動物名考(4) ジェンツーペンギン

ジェンツーペンギン(オンジュンペンギン)


Pygoscelis papua (Forster, 1781)


[Gentoo penguin]



ジェンツーペンギンはジェンツーペンギン属の模式種ですね.
俗称である「ジェンツー」については,諸説あるようで,英和辞典によって説明がバラバラ.異教徒(とくにヒンズー教徒)をあらわすポルトガル語[gentio]が原語だという説が有力のようですが,あまりしっくり来ないです.ターバンのようにも見えないし.
“和名”として「オンジュンペンギン(温順ペンギンらしい)」というのもあるそうですが,なんだかなあ….

以下に,ジェンツーペンギン属に属するとされる種を示しておきます.

genus: Pygoscelis Wagler, 1832 [type: Aptenodytes papua Forster, 1781]
 Pygoscelis papua (Forster, 1781) [Gentoo Penguin]
 Pygoscelis antarcticus (Forster, 1781) [Chinstrap Penguin]
 Pygoscelis adeliae (Hombron and Jacquinot, 1841) [Adélie Penguin]
以下,化石種
Pygoscelis tyreei Simpson, 1972 [Tyree's Gentoo]: L. Plioc. (New Zealand)
Pygoscelis calderensis Hospitaleche et al., 2006: M. Mioc.-Plioc. (Chile)
Pygoscelis grandis Walsh and Suarez, 2006: Plioc. (Chile)


属名のPygoscelisは,ギリシャ語の [ἡ πῡγή]=《女》「尻,臀部」と[τό σκέλος]=《中》「脚,脛」の合成語.あわせて「尻の脚」という意味.大きな「尾」が体を支える「足」のように見えるから,らしい.
本来は Pygoscelos Pygoscelus だと思いますが,この語に関する誤記は頻繁にあるようです.
たぶん,ギリシャ語を素直にラテン語化したscelusは,ラテン語にオリジナルで存在するscelus=「犯罪,邪悪な行為;不幸」になってしまうために,意図的に換えられているのかもしれません.でも,scelisはギリシャ語の [ἡ σκελίς]=《女》「牛の脇腹;ベーコン」の意味があり,まったく不似合いな言葉になってしまいます.
ほかの例として,恐龍に Scelidosaurus というのがあり,これは「脛の龍」という意味だとされています.しかし,ギリシャ語の[σκέλος]は《属格》[σκέλιδος]という変化はしないので,scelido-という語根はあり得ません.混乱の多い「語」です.

種名papua,たぶん…,Papua = New Guineaのことだと思いますが,パプア=ニューギニアまで,このペンギンが生息範囲を持つとは思えませんので,地名に由来するものではないのでしょう.パプアはマレー語で「羊毛のような毛をもつ」という意味だという説が辞書に書かれていますが,これならペンギンの羽毛のことを表現しているのかなと思いますが(なんで,マレー語?),別な説もあり,どうも曖昧.よくわかりません.
模式種papuaは最初の記載ではAptenodytesになっていますから,キングペンギン属に入れられていたわけですね.DNA分析でも近縁(しかし,属として分けてもかまわないぐらい)と判断されているようです.

種名antarcticusは,ギリシャ語の[ἀνταρκτικός]=「南極の」を,ラテン語綴り化したもので「南極の;南の」を意味します.あわせて「南極の尻足」.
《英語の俗称》の[Chinstrap Penguin]は「あごひもペンギン」で,顎紐みたいに見える模様のことを示しています.

種名adeliaeは,フランス人探検家デュモン・デュルヴィル(Dumont d'Urville)が1840年南極大陸に上陸し,上陸地点に妻アデリー(Adélie)の名をとってアデリーランド(Adelieland: Terre Adélie)と名づけました.こういう命名の仕方は希にあることですが,妻への愛情が感じられて好ましいと考える人と,公的なことに対し私的な名前をつけることへの“いやらしさ”を感じる人と意見の分かれるところだと思います.
アデリーペンギンは,この地で発見されたので,同じく"アデリー"の名がつけられたといわれています.地名「Adélie」からの命名であればadeli-ensisとなるはずですが,語尾[-ae]がついているのは女性人名「Adélie」が語源ということになります.命名者Hombron と Jacquinotがどういう人たちなのかわかりませんが,命名の経緯には「なにか」があったはずですね.
また,本来はadelie-aeになるのですが,欧米圏の(われわれには理解できない)習慣により,女性名が語源の場合は「語呂を整えるために」[-e]を略していいという取り決めがあるようです.だからadeliaeになっています.
ついでにいっておけば,仏国は「南極条約」に反し,この地の「領有権」を主張しているそうですから,科学的な探検があったというより,なにか映画にでもなりそうな「ドラマがあった」ような気がします.調べてみると面白そうですが,たぶんにドロドロしていることでしょう((^^;).

種名tyreeiは,ニュージーランド南島の住人Peter Tyreeの名前を採ったもの.
ペーターはPygoscelis tyreei Simpson, 1972の模式標本の発見者.当時,11歳の少年.1967年のクリスマスの日にMontunau Beach(ニュージーランド南島)で発見したとあります.かれは,標本の重要性を認識しており,発見直後にクライストチャーチ[Christchurch]のカンタベリー博物館[the Canterbury Museum]に寄贈しました.
adeliae 命名の経緯とは,ずいぶん違いますね((^^;).

種名 calderensis は,模式地の近くにあるチリ中央部の海岸にある都市(Caldera, Atacama, Chile)の名前からとったものです.日本語化している「カルデラ(caldera)」と同じ綴りですが,たしかに大釜状の湾があります.でも,火山によるものかどうかはわかりませんでした.
《合成語》《種名》calderensis = calder-ensis=「Caldera産の」

種名 grandisは,ラテン語の形容詞 grandis =「十分に成長した.大型の,大きい,偉大な」です.余程大きい標本だったと思われます.
 

厳寒期

厳寒期
 独り続くは
  イヌの足跡(「あと」と読んでください(^^;)

宮武軟骨



-10℃台が続くと,朝の新雪にイヌの足跡だけが点々と.
イヌの糞尿を放置する飼い主が増えるのと並行して,寒いと散歩がイヤになる飼い主も増えるのでしょうね.
イヌだけが散歩に出るようです.

この間,朝の除雪をしていたら,目の前で黄色い染みを落としていったイヌと飼い主がいました.
思わず呆れた風をとってしまいましたが,飼い主はいたって平然.そのまま通り過ぎました.

いつまで経っても,このネタは尽きないなあ.
某国では,犬の飼育は免許制だとか.日本もそうならないかね~~.
恥知らずの人口密度がどんどん増えてる日本ですから…(それは,秘書が…)(事故に責任はない;社長).

2012年1月11日水曜日

動物名考(3) キングペンギン

Aptenodytes patagonicus Miller, 1778


キングペンギン(オウサマペンギン)


[King Penguin]



ordo: SPHENISCIFORMES Sharpe, 1891
 familia: SPHENISCIDAE Bonaparte, 1831
  genus: Aptenodytes J. F. Miller, 1778 [type: Aptenodytes patagonica Miller, 1778]
   Aptenodytes patagonicus Miller, 1778

キングペンギンの属名はAptenodytesで,この属の模式種はキングペンギンそのものですね.
属名Aptenodytesはapteno-dytesという構造で,元はギリシャ語.
apteno-は[ἀπτήν]=《男女》「未熟な」という意味のギリシャ語をラテン語の《合成前綴》化したもの.もともとは「羽がない;翼がない」という意味ですが,日本語でも「まだ毛も生えそろわない」といえば「未熟者」を意味しますね.-dytesは [ὁ δύτης]=《男》「潜水夫」をラテン語綴り化したものです.
あわせて,「未熟なダイバー」という意味になりますが,これは!,キングペンギンに対して,失礼というものですね((^^;).王様ですよ! 相手は!!.

模式種がpatagonicaになっているのに,その下の学名の方はpatagonicusになっていますね.気付いた方はエライ((^^;).
これは,属名の-dytesが《男性》なので,形容詞である種名はそれにしたがって《男性》にしなければならないのに,原著者が《女性形》を書いてしまったのですね.それで,あとで訂正されてしまったわけです.

さて,キングペンギン属に属する種について見てみましょう.
genus: Aptenodytes J. F. Miller, 1778
 Aptenodytes patagonicus J. F. Miller, 1778 [King Penguin]
  Aptenodytes patagonicus patagonicus J. F. Miller, 1778
  Aptenodytes patagonicus halli Mathews, 1911
 Aptenodytes forsteri Gray, 1844 [Emperor Penguin]
 Aptenodytes ridgeni Simpson, 1972 [Ridgen's Penguin]: E. Plioc. (New Zealand)

キングペンギンは二亜種に分ける場合もあるようです.その場合の「英名」は不明.「和名」はいくつかあるようですが,いずれも首を傾げたくなるようなもの.だから,略します.亜種名 halliの語源も不明.hall-iですから,人名「Hallの」という意味ですが,Hallが誰なのかがわかりません.ま,あまり気にしなくてもいいかと.

種名patagonicusは,patagon-icusという合成語です.Patagonは,古いスペイン語で「巨人」という意味らしいです.現在パタゴニアと呼ばれている地域の原住民が極めて背が高かったのでPatagonと呼ばれたらしい.
パタゴンの土地ですからPatagon-ia=「パタゴニア」.
種名patagonicusPatagon-icusをつけて《形容詞》化したもの.「パタゴンの;パタゴン族の」という意味ですね.

種名forsteriは,forster-iという構造で「Forsterの」という意味です.
ForsterはJohann R. Forster.Forsterは独国の博物学者で,キャプテン・クックの第二次太平洋航海に同行,5種のペンギンを命名しています.この種の英名は,[Emperor Penguin]で「コウテイペンギン(皇帝ペンギン)」と訳されています.キングより大きいので,エンペラーね.現生種ペンギンの中では最大の種だそうです.

種名ridgeniは,11歳の小学生Alan Ridgenにちなんでつけられてものです.かれは,1968年,ニュージーランドのカンタベリー地域の海岸で最初にこの化石を発見しました.そう,キングペンギン属の化石種なんです.
 

2012年1月8日日曜日

動物名考(2) ペンギン類およびフンボルトペンギン

ペンギン[Penguin]類


冬の散歩で有名な旭山動物園のペンギンたちについて.
でもまあ,ペンギンの散歩は運動不足の開始目的で,べつに旭山動物園にプライオリティがあるわけじゃあないですけどね.ペンギンの飼育施設では,どこでも普通にやってるとか.
それと,ペンギンにもいろいろ性格の違いがあるようで,イワトビペンギンなんかは性格がきついので,一般客の前で自由に振る舞わせることは無理なようです.

さて,ペンギンは,ペンギン目ペンギン科に属する鳥類の総称です.
現生種は,一目一科一亜科にすべて含まれていますが,化石種の大部分は別の亜科に含まれる用ですが,その分類学的位置付けは,まだ,かなり曖昧なようです.
ペンギン[Penguin]という俗称の語源は諸説あるようで不詳.残念ですね.気になる人は英語版Wikipediaで.

ordo: SPHENISCIFORMES Sharpe, 1891


familia: SPHENISCIDAE Bonaparte, 1831


subfamilia: SPHENISCINAE Bonaparte, 1831



各名称からわかるとおり,type genusはSpheniscus Brisson, 1760です.
面白いことに,genus Spheniscusそのものに,《英名》banded penguinsが当てられています.bandedは「帯模様(縞模様)を持つ」という意味ですけど,その通りで,この属に属する4種はどれもよく似た帯模様を持っています.素人目にはほとんど区別がつかないですね.本当に,分ける意味があるのでしょうかね.

genus Spheniscus Brisson, 1760 [type: Diomedea demersa Linnaeus, 1758]
 Spheniscus demersus (Linnaeus, 1758) [African Penguin]
 Spheniscus magellanicus (Forster, 1781) [Magellanic Penguin]
 Spheniscus humboldti Meyen, 1834 [Humboldt Penguin]
 Spheniscus mendiculus Sundevall, 1871[Galapagos Penguin]
の4種が構成種.このうち,「フンボルトペンギン」と呼ばれるS. humboldtiは旭山動物園在住のようですが,農協キャラには選出されていません.
属名のSpheniscusは,ギリシャ語の[ὁ σφήν]」=「楔」をラテン語綴り化し,《合成前綴》化したものです.語尾の-iscusは《縮小詞》で,この合成語の意味は「小さな楔」.
なにが,「小さな楔」なのかは,ちょっとわかりませんが,体長60~70cmのペンギンが泳ぐさまは「小さな楔」に見えるのかもしれません.
なお,リンネが命名したときのDiomedeaは,「アホウドリ属」のこと.当初はアホウドリの仲間と思われていたということでしょうかね.

種名demersusは,ラテン語で「沈んだ」という意味で,属名とあわせて「沈んだ小楔形」.なんか,海中を泳ぐペンギンの姿を彷彿とさせますね.
最初の記載の時にはdemersaだったのが,genus Spheniscusに移されたときに,語尾が-usに変わっていることに気付きましたか?
これは,属DiomedeaDiomedusの《女性形》なので,《形容詞》である種名も女性形のdemersaをとっていたのが,移されたSpheniscusは《男性形》なので,demersus《男性形》に換えられたわけです.
本来は,原著者が提案した「綴り」は尊重されなければならないのですが,ギリシャ語-ラテン語の系譜を継ぐ「学名」は「名詞」(=属名)を修飾する「形容詞」(=種名)は同じ「性」になるという文法にしたがっていますので,無条件で訂正していいことになっています.ここは,なんか「衒学」的で「ヤ」なところです.なぜって,ろくなラ語辞典・希語辞典がないのに《性》を確認する作業はけっこう大変だからです.「これを知ってるといばれるの唄」みたい(^^;.

種名magellanicusは,Magellanの形容詞形.Magellanは元は人名ですが,この場合は地名「マゼラン海峡の」という意味ですね.人名ならば,Magellan-iとなるはずですから.
属名とあわせて「マゼラン海峡の小楔形」.マゼラン海峡を泳ぐペンギンの姿が浮かんでくるよう.

フンボルトペンギン


Spheniscus humboldti Meyen, 1834


[Humboldt Penguin]


種名humboldtiは,独国の自然科学者F. H. A. Humboldtの名の形容詞化.たぶん,フンボルトが発見に関わったとかいうのではなくて,フンボルト海流が南米を洗うあたりに生息しているのだとおもいます.フンボルト海流は,別にフンボルトが発見したわけではなく,彼が最初に図示したことによるそうです.ちょっと,錯綜してますね.

種名mendiculusは,ラテン語のmendīcus =「物乞いの,貧困の,窮乏した」の縮小語.属名とあわせると,「小さな物乞いの小楔形」って,ひどいんじゃあない(-.-#).
 

2012年1月7日土曜日

動物名考(1) ベニイロフラミンゴ

ベニイロフラミンゴ


[Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758]


「ベニイロフラミンゴ」は,日本には自然状態では生息しない鳥なので,当然この言葉は「学者」が造った言葉でしょう(この情報時代に,誰が造った言葉なのかハッキリしないのは残念).
この「ベニイロフラミンゴ」は学名Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758の和名として使われています.この種は,中南米に生息する鳥なので,英名は「American Flamingo」と呼ばれています.本来は「アメリカフラミンゴ」と呼ばれるべきものかもしれません.

「アメリカフラミンゴ」がいるなら,別な地域名を持ったフラミンゴもいるのでしょうか.
答は「イエス」です.
その学名は「Phoenicopterus roseus Pallas, 1811」.「ヨーロッパフラミンゴ」と呼ばれていますね.ところが,英名は「Greater Flamingo」.訳すと「オオフラミンゴ」になってしまいます.
なぜ「オオフラミンゴ[Greater Flamingo]」というかというと,アフリカ東部からインドあたりに分布する比較的小型なフラミンゴを「コフラミンゴ」とするからです.たぶん,もともとは,「ヨーロッパフラミンゴ」だけが,「フラミンゴ」で,のちに発見されたアフリカ~インドに住む「シュード・フラミンゴ」と区別するために「大小」の区別をつけたものでしょう.

つまり,1758の時点で,
Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「フラミンゴ」

1798には,
Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「フラミンゴ」→「オオフラミンゴ」
Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798「無名」→「コフラミンゴ」

1811には,
Phoenicopterus ruber ruber Linnaeus, 1758「オオフラミンゴ」→「ベニイロフラミンゴ」
Phoenicopterus ruber roseus Pallas, 1811「オオフラミンゴ」→「オオフラミンゴ」
Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798「無名」→「コフラミンゴ」
と,なったのでしょう.

ならば「オオフラミンゴ」ではなく「ヨーロッパフラミンゴ」を選択して,セットで「ベニイロフラミンゴ」は英名の訳である「アメリカフラミンゴ」にすべきだと思うのが普通だとおもいますけど,現行の“和名”は,誰が考えたのか,完全に交差していますね.
なお,1782年には「チリフラミンゴ[Phoenicopterus chilensis Molina, 1782]」(英名を「Chilean flamingo」)が記載されていますので,そうすると,「ヨーロッパ」・「アメリカ」・「チリ」のフラミンゴが並び,生息地も示しているので,「グッ」な“和名”だと思いますがね~~~((^^;).

もう一つ.
「ベニイロフラミンゴ」以外に「ベニイロ」(もしくはその系統の色)はないのかというと,「ヨーロッパフラミンゴ」や「チリフラミンゴ」も,あとで書く別なフラミンゴ類も「淡いピンク色」をしているといいますし,この「色」自体が,食べ物による染色だといいますから,「ベニイロ」とつけるのは,分類学上は的外れな“和名”命名ということになりそうな….
もっとも,「フラミンゴ」という俗名そのものも,ラテン語のflamma=「炎」から来ていますから,それにあてはまる鮮紅色の鳥は「ベニイロフラミンゴ=アメリカフラミンゴ」だけなんですけどね.淡いピンク色の「炎」って,あり得ないよね~~((^^;).


さて,現在は別な属に移されていますが,当初は同属と考えられていた,ほかのフラミンゴについて.
「コフラミンゴ」
Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798
Phoeniconaias minor (Saint-Hilaire, 1798)

「ジェームスフラミンゴ,コバシフラミンゴ」
Phoenicopterus jamesi Sclater, 1827
Phoenicoparrus jamesi (Sclater, 1827)

「アンデスフラミンゴ」
Phoenicopterus andinus Philippi, 1854
Phoenicoparrus andinus (Philippi, 1854)

「コフラミンゴ」はアフリカ東部からインドあたりに生息しています.
「チリフラミンゴ」と「アンデスフラミンゴ」は,生息地域が幾分重なるのですが,別種と認識され,さらにのちには別属とされるようになりました.

「アンデスフラミンゴ」と「ジェームスフラミンゴ」はアンデス山中に生息し,二種は独自の属を構成します.
生息地域が,属の定義に大きな影響を与えているようですね.別な属に移されたのは,どうやらDNA分析の結果らしいのですが,その論文が入手できないので,詳しいところはわかりません.Phoeniconaiasは一属一種だからいいとしても,Phoenicoparrusの模式種がわからない=見つからないのは,正式な記載論文ではなくして(形式に載っていない)造られたからではないかと,邪推しています((^^;).


でな,わけで,フラミンゴの分類をまとめると….

ordo: PHOENICOPTERIFORMES Fürbringer, 1888


familia: PHOENICOPTERIDAE Bonaparte, 1831


genus: Phoenicopterus Linnaeus, 1758 [Type: Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758]
 Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「オオフラミンゴ」
  Phoenicopterus ruber ruber Linnaeus, 1758「アメリカフラミンゴ」(もしくは「ベニイロフラミンゴ」)
  Phoenicopterus ruber roseus Pallas, 1811「ヨーロッパフラミンゴ」(もしくは「バライロフラミンゴ」)
 Phoenicopterus chilensis Molina, 1782「チリフラミンゴ」
 Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798「コフラミンゴ」
 Phoenicopterus andinus Philippi, 1854「アンデスフラミンゴ」(本来は「andesensis」が正しい*)
 Phoenicopterus jamesi Sclater, 1827「ジェームスフラミンゴ」(「ヤメシフラミンゴ」の方が正確**)

もしくは


genus: Phoenicopterus Linnaeus, 1758 [Type: Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758]
 Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「オオフラミンゴ」
  Phoenicopterus ruber ruber Linnaeus, 1758「アメリカフラミンゴ」(もしくは「ベニイロフラミンゴ」)
  Phoenicopterus ruber roseus Pallas, 1811「ヨーロッパフラミンゴ」(もしくは「バライロフラミンゴ」)
 Phoenicopterus chilensis Molina, 1782「チリフラミンゴ」

genus: Phoeniconaias Gray, 1869 [type: Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798]
 Phoeniconaias minor (Saint-Hilaire, 1798)「コフラミンゴ」

genus: Phoenicoparrus Bonaparte, 1856 [type: unknown]
 Phoenicoparrus andinus (Philippi, 1854)「アンデスフラミンゴ」(本来は「andesensis」が正しい)
 Phoenicoparrus jamesi (Sclater, 1827)「ジェームスフラミンゴ」(「ヤメシフラミンゴ」の方が正確)

と,なるのですかね.
ただし,食い散らかしたようなデータが多く,なかなか,キチンとした文献を見つけることができませんので,あちこち修正を加えてありますし,引用文献を明示することができません.あしからず.
なお,学生のみなさんは,決してレポートに丸写ししたりしないように.これは,私見ですので恥をかくだけでは済まないと思いますよ.

*andinus > andesensis :andinusはAndesの形容詞に見えますが,このAndesはアンデス山脈のAndesではなく,ローマの詩人ウェルギリウス[Vergilius]の生地であるAndes村のことです.アンデス山脈のAndesはまったく別の語源と考えられていますから,この形容詞を使うのはおかしい.合成語であるandesensis = andes-ensisを使用するべきですね.ただし,一度つけられた学名は勝手に変更することはできませんから,これを使うしかありません.
**「ヤメシ」:jamesiは原語はどうであれ,学名とされた時点でラテン語ですから,現地語ではなくラテン語の呼び方が採用されるべきです.したがって,jamesiは「ヤメシ」と読むしかないのです.たとえば,英語圏の人間はCoelacanthusを,平気で英語読みの「シーラカンス」と読み,英語圏でない人間にもそう読むように強制しますが,英語圏でない人間にはどうやったって,そうは読めない.これはラテン語読みの「コエラカントゥス」と読まれるべきです.自国語読みでかまわないのなら,学名を使う意味がありませんからね~~.
ま,「道理」が引っ込む世界ですから「無理」でしょうけどね.
 

動物名考(0)

旭山動物園の動物たちの名前を雑学的に紹介していこうと思います.
飼育動物リストでも入手できればいいのですが,そんなものは公開していないようなので….

ところで,「JA旭川青果連」は商品キャラとして,旭山動物園の動物たちを使っています.
具体的には,「JA旭川青果連」の頁を見てください.
ここにイラストを載せてもいいのですが,著作権問題を起こしたくないので…ね.

とりあえず,ここにでている動物たちで,順にサーフィンしていこうと考えてます.
まずは,鳥類から….

AVES[鳥類]


以前は,「鳥類」は,class AVES Linnaeus, 1758 として,ひとつの分類群を形成していると考えられていました.
現在は,いわゆる「鳥類」といわゆる「恐竜類」の類似性が強調され,一方で,分類単位としては,長期間認められていなかった「恐竜類」が復活し,鳥類が恐竜類に含められてしまうなど,新しい分類体系がたくさん提案されています(いるらしいです?).同時に,DNA解析による現生種類縁関係の再構成があり,くわえるにクラディズムの台頭で,リンネが提唱し,それなりに安定していた「分類体系」が,ガタガタになっています.
まあ,食い散らかしたような論文が多いのですがね.そんなわけで,体系的かつリーズナブルな分類体系というのは,現在は存在していないのです(関係者のみなさま,すいません.これが,部外者の素直な感想です).

なんとなく,日本に「プレートテクトニクスが導入されたころ」の地質学会の様子を彷彿とさせるようなところがあります.
地質調査をすることによって,なんとか日本列島の地質を体系立てようと苦心し,それなりの形が整いつつあるところに,外国から「PT論」が導入され,食い散らかしたような論文が,そのときどきで手を変え品を変え頻出したので,地質学界のいわゆる「重鎮たち」がイライラしていた時期ですね.
PT論者たちは,「仮説」を立てて,それを実際の「地質」で検証するという方法論をとっていました:抵抗勢力はこの方法論にも,イライラしたようです.抵抗勢力の方は「地質を細かく記載」し,それによって「体系立てる」という方法論をとっていましたからね(実際は,ちょっと疑問のところもありましたけど(^^;).

もっとも,分類学の方では,日本には抵抗勢力(リンネ流の分類学を厳密にやっていたグループ:学会,学閥)が存在していなかったようで,どこを食い散らかしても,論争など起きなかったようですけどね.

いつになったら,理解できるような分類体系が示されるのだろう….
ま,それはともかくとして,各動物(旭山動物園キャラ)について,稿を改めて示したいと思います.