2009年6月25日木曜日

辞書の展開(3)

 
●ランクの和訳の周辺で

 今回,哺乳類分類についての新旧両体系の比較をおこなってみました.
 そこにでてくるグループが別の分類学的位置に移動しているのですが,当然,後ろにつく分類単位が変化します.そうすると,現在おこなわれている言葉の組み方では不都合が生じます.
 たとえば,旧体系のデスモスチルス目(束柱目)[Order DESMOSTYLIA Reinhart, 1953]は,新体系ではデスモスチルス小目(束柱小目)[Parvorder DESMOSTYLIA (Reinhart, 1953) emend.]に移動します.
 学名と学名の和訳の構造をみていただくと…,

    学名:「分類階級」+「グループ名称(語尾変化あり)」+「記載者名」
(その)和訳:「グループ名称(語尾変化なし)」+「分類階級」

 なんか,人名が英語圏の場合は「名」+「姓」なのが,日本語では「姓」+「名」になってるような現象ですが,彼我の精神風土の表れですかね.

 もうひとつ,外国の分類を題材とした本や,海外のまともなサイトでは,学名とその記載者名はセットになっていて,その定義を確認しようとしたときには道標になってくれますが,国産のものは(正式な論文でさえ)記載者名が無視されていることがほとんどです.図鑑などでこれをやられると,ほとんどアウトなんですが,記載者名どころか,学名すら省略している一般向け図鑑が多く,何のための図鑑やら…,と,思うことがしばしばです.
 ある図鑑で,「学名はしばしば変わるので省略した」と書いているのをみたときには「唖然(O_O)」としましたが,これがまあ,日本の分類学のレベルです(相当高価なものだったんですけどねえ).しばしば変わるなら,「シノニムぐらいリストしとけ」と思いますが,その図鑑編集者(および監修者)は,たぶんシノニムの意味も知らないでしょう.

 話がずれました((^^;).元に戻します.
 どうでもいいようなものですが,これをFEP(今はIMEというんですか?)の日本語変換辞書に登録するときには,少し考察が必要になります.
 もちろん,「ひらがなよみ」から「学名の和訳」に変換できればいいのですが,そのときに「学名」も選択できるようにしておきたい.上述したように,学名を疎略に扱う学者や,図鑑編集者が多いので,日本人は学名の和訳やカタカナ書きも「学名」と勘違いしている人が多いのですが,それはあくまで「学名の和訳」や「カタカナ表記」に過ぎず,学名ではありません.学名は世界標準語ですから,日本語にしてしまったら,それは学名ではないのです.
 理由?
 理由は日本語は世界共通語ではないからです(日本語を読める人なんか世界規模ではほとんどいないからです).

 また,話がずれました((^^;).元に戻します.
 ま,でも上記のような理由で,動物名を日本語でいくら正確に訳したところで,学名が付記されていなければ,その動物名は実は何を示しているのかよくわからないことになります.そこで,どうしても正確に記述するためには,FEP(IME)で学名が出てくるようにしておきたいわけです.

 これまでは,生物の分類階級が大きく変化することなぞ,考えなくてもよかったので,「ですもすちるすもく」>「デスモスチルス目」(もしくは「束柱目」)という風に登録しておけばよかったのですが,とりあえず,もうひとつ「ですもすちるすしょうもく」>「デスモスチルス小目」(もしくは「束柱小目」)を登録することになります.でも,よく考えると,クラディズム台頭の現在,短期間にデスモスチルス類(だけじゃあないですが)が「小目」だけじゃなくて,「大目」や「中目」あるいはまったく別の階級に移動することも充分に考えられます.
 そうすると,今後は,使われた分類階級の数だけ「日本語登録」が必要になります.(古くからPCを使ってる世代は,PCの能力の限界が染みついてますので,ついつい節約したくなるせいもありますが,)なにか不適切なことをやってるような気が,つい,してきます.

 一つの方法として,「分類階級」と「グループ名称」を別々に登録しておけば,ひんぱんな辞書登録は避けることができます(そうすると,「デスモスチルス綱」なんて,むちゃくちゃな言葉も変換できてしまいますね(-_-;).

 そこで,「ほにゅうこう」とタイプするのではなく,「こう」+「ほにゅうるい」とタイプすると「class MAMMALIA Linnaeus, 1758」と出てくることになります(ここも,「ほにゅうこう」とタイプしても「class MAMMALIA Linnaeus, 1758」が選択できるようにしておきます).
 「じょうこう」+「ほにゅうるい」では「superclass MAMMALIA Linnaeus, 1758」となりますので,哺乳類が「上綱」に格上げになったとしても,対応できることになります.
 いいのかな?
 しばらくこれで使ってみよう.
 
 ……….
 
 だめでした.
 確か,学名の語尾はランクが大きく変わると語尾変化するのですね.
 あり得ないものが,たくさん出てきます.

 うまくいかないので,結局元の構造に戻して,一個一個登録することにしました.ランクが変わった場合は,そのランクで別に登録することにします.
 今現在の,私の日本語変換辞書では,たとえば,「ですもすちるすもく」を変換すると,「デスモスチルス目」に変換されますが,同時に「Order DESMOSTYLIA Reinhart, 1953」も選択できるようになっています.これは(私にとって)結構便利なのです.
 ついでにいっておくと,あまり使わない学名で,分類階級が記憶上曖昧な場合には,「ですもすちるするい」と入力すると,「デスモスチルス類」に変換され,同時に「> デスモスチルス目」という注意書が出るようになってます.

 たとえば,旧体系では…,
 「ですもすちるすもく」>「デスモスチルス目」と変換され,さらに「Order DESMOSTYLIA Reinhart, 1953」が選択できるようにしておきます.
 新体系では…,
 「ですもすちるすしょうもく」>「デスモスチルス小目」および「束柱小目」と変換され,さらに「Parvorder DESMOSTYLIA (Reinhart, 1953) M.C. McKenna & S.K. Bell, 1997」が置換候補として選択できるようにするといいのではないかと.

 しかし,これでは,いちいちランクを覚えていないと,変換のための日本語入力ができません.したがって,「ですもすちるするい」という語を登録して,そこに「目」と「小目」の置換候補を登録しておき,将来別のランクがでてきたときには,この「…るい」の置換候補に付加するという方式をとることにします.
 ただし,これはものすごくたくさんの入力が必要になるので,方針だけ決めて後日,その話題を文章にするときに,まとめて入力ということにします.

 もうひとつ考えなければならないことは,これら学名(を含めた専門用語)は,通常ユーザ辞書に登録することになりますが,普通の文章を書いているときに結構邪魔します.だから,何らかの方法で,必要なときだけ使えるようにできるといいのですが,ATOK 2008では,ユーザ辞書の分割やその指定はできないようになっているようです.
 できればシステム辞書に登録しておいて,使用時に選択できるようにしておけば,very good!!なんですがね.これは解決するまでにしばらく時間が必要なようです.見通しはあるんですが….


 ここで少し冷静に.
 「こんな話してても,だ〜〜れも,読まないだろな((^^;)」

 

2009年6月24日水曜日

辞書の展開(2)

 
●新体系と旧体系

 20年ほど前までは,哺乳類は,以下のような大分類が通用してました.

哺乳綱
 ├原獣亜綱(subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
 ├異獣亜綱(subclass ALLOTHERIA Marsh, 1880)
 └獣 亜綱(subclass THERIA Parker et Haswell, 1897)

 Aは二つないし三つのグループに分かれ(B+C+D),Dはさらにいくつかのグループに分けることができ,…というわけで,生物分類はおのおの入れ籠状の構造になっていて,最後は我々が実際に知っている「種」に行き着くというような概念でしたね.




 我々がよく目にする動物たち(哺乳類)は最後の「獣亜綱」に含まれていました.
 獣亜綱のなかは,目同士の関係がよくわからないのか,研究者間で調整がつかないのか,全て「目」でわけられていました.「霊長目」とか,「偶蹄目」とか,「長鼻目」などですね.

 こういう分類は,似たもの同士を集めてグループを作り,より似たものからより似ていないものへ並べながら体系立ててゆくと考えるとわかりやすいと思います.
 ところが,特に化石の場合,どれにも似ていないという「ひねくれ者」が間々現れます.確かに,原獣亜綱や異獣亜綱の中には,こういった「どれにも似ていない」ものが入れられ,いわばゴミ捨て場にちかいものでした.

 こういった古典的な分類学に対し,20世紀の後半からクラディズムという学問が台頭しはじめます.正式にはCladistics(分岐学)というらしいですが,日本語では「分岐分類学」とか呼ばれています.何が違うのかということは,専門の教科書がありますし,ウェブ上でもいろいろ説明してくれている人がいますので,そちらを参考にしてください.
 なかなか,難しい説明が多いようですけどね.

 ここでは,私流の強引な解釈で話を進めます.

 クラディズム(クラディスティクス)の和訳は間違っていると思います.
 旧体系のいわゆるリンネ流の分類学は分類学ですが(トートロジー?(^^ゞ),クラディズムは“分岐系統学”と訳した方がいいと思います.
 比べてみるとわかるのですが,リンネ流の分類学は,似たもの同士を集めて,グループを作ります.このとき重要なのは「そういうグループがある(存在する)」ということです(これは「分類」です).
 一方,クラディズムの方は,たくさんの雑多なものから共通点を持つものを集めますが,実は重要なのは,はじき出された共通点を持たない方のグループ(もしくは「種」)です.この存在が,進化(系統)の道筋を示すキーであるわけです.


           (と,こんなイメージでしょうか)

 共通点を持つグループは,持たないグループと「生き物の流れ」として「分かれた」と判断するわけです.さらに,共通点を持つグループのなかから,別の共通点を探し出し,またその共通点を持たないグループ(もしくは「種」)をはじき出します.この作業を延々と繰り返し,結局,最後は一つの「種」まで分けることになります.
 この作業では,分かれてゆく流れが重要なのであって,グループ分けをすることではないのですね.全部(個々の種に)分かれていますから,グループ分けではないはずなのです.
 したがって,クラディズムは分類学ではありません.

 実際には,やってますけどね.
 これは,必ずしも,一個の種がはじき出されるわけではなくて,グループがはじき出された場合,特にそれが「旧体系」の分類階級「綱」とか,「目」とか,「科」とかに類似してる場合にそのまま使われているということのようです.

 非常に奇妙なことだと思いますが,私は分類学者じゃあないから,どうだってかまわないですね.早いとこ「理解できる体系」を示してほしいだけです.

 なお,以上の解釈は,私の強引な解釈なので,信じないように((^^;).

 もひとつ,なお.
 私は,どちらが「人為分類」で,どちらが「自然分類」だとかは気にしませんし,どちらが「正しいか」なんてことにも興味がありません.生命の体系がわかりやすく(=リーズナブルに)記述してあればいいだけです(べつに,「地向斜造山論」と「PT(プレート・テクトニクス)論」のアナロジーをしてるわけじゃあないですよ(^^;).

 蛇足しておけば,旧体系では「分類」をおこなっていましたから,入れ籠状の分類単位は「界」-「門」-「綱」-「目」-「科」-「属」-「種」に,必要であればこれらの分類単位に「上-」もしくは「亜-」を付加する程度で収まっていました.

【旧体系のランク】
kingdom(界)
 phylum(門)
  class(綱)
   order(目)
    family(科)
     genus(属)
      species(種)

 ところが,分類を目的としないはずのクラディズムでこれをやろうとしたからたまりません.凄まじいことになってしまいました.

【新体系のランク】
kingdom(界)
 subkingdom(亜界)
  phylum(門)
   subphylum(亜門)
    superclass(上綱)
     class(綱)
      subclass(亜綱)
       infraclass(下綱)
        superlegion(上団)
         legion(団)
          sublegion(亜団)
           infralegion(下団)
            supercohort(上区)
             cohort(区)
              magnorder(巨目)
               superorder(上目)
                grandorder(大目)
                 mirorder(中目)
→途中のスペース略
 order(目)
  suborder(亜目)
   infraorder(下目)
    parvorder(小目)
     superfamily(上科)
      family(科)
       subfamily(亜科)
        tribe(族,連)
         subtribe(亜族,亜連)
          genus(属)
           subgenus(亜属)
            section(節)
             series(系)
              species(種)
               subspecies(亜種)
                variety(変種)
                 form(品種,型)

 上団みたい,もとへ,冗談みたいですが,本当にこういうのを使わないと,記述ができないのです(このランクは,旧体系でもあったものですが,現実に使われるものは限られていました.新体系でいよいよ現実味を帯びてきたというわけです).
 (まあ,新体系支持者というものは旧体系支持者を批判するものですが,旧体系が準備した知識の上に新体系が成り立っていることをしばしば忘れてますね.べつに,「地向斜造山論」と「PT(プレート・テクトニクス)論」のアナロジーをしてるわけじゃあないですよ(^^;).
 旧体系のランクでも学生さんに理解させるのは大変でしたが(理解よりも暗記が優先でしたけどね),新体系のランクは紙にでも書いておいとかないと無理ですね.

【参考文献】
ワイリー, E. O.・シーゲル-カウジー, D.・ブルックス, D. R.・ファンク, V. A., (1991)「系統分類学入門=分岐分類の基礎と応用=(宮正樹,1992訳)」(文一総合出版)
仲谷英夫研究室(元・香川大学)HP中の授業レジュメ(仲谷さん,HPを復活させてください.お願いです.)

 

2009年6月23日火曜日

辞書の展開(1)

 
●プツン

 しばらくの間,「鉄の種類もしくは時代的名称」というテーマを書いていたのですが,「ことえり」があまりバカなので,「プッツン」しまして(何せ,ユーザ辞書の単語が一番最後に出てくるというバカさ加減.それまで,延々とあり得ない単語を眺めてなければならないのでして…(-_-;.その上学習能力がない(-.-#)),ATOK2008を購入してしまいました.そしたら,まだ配達されていないのに,ある会社から「ATOK2009の予約開始」というメールが届きました.
 「よっぽど,ATOKとは相性が悪いな((^^;)」と思いました.
 ATOKというか,この開発会社には(9801時代からの)怨み辛みがたくさんあるのですが,それは放っておいて(血圧あがるので,そのうちね(^^;).一年前まで使っていたEGBirdgeのユーザ辞書をATOK用に変換しました.
 こんなことぐらい,インストール後,最初に使用したときに自動で変換するようにしとけ,と,思いますが,やっぱりジャストには,そういうサービス精神はなかった((^^;).
 ヘルプやらジャストシステムのHPを探し回って,自力で変換.

 さて,それからが….
 元々が地質屋なもので,地質関係の用語がたくさんあります(これはまあ,比較的簡単に調整がすみました).鉱物名とか,岩石名とかね.
 おバカな「ことえり」のせいで,不要な「姓」・「名」が,ユーザ辞書にたくさん増えてましたが,これらを処分して,ついでに地質学および地質学史関連の登場人物の個人名に修正.
 さらに,古生物系のひとなので,現生生物や古生物の名前がたくさんあり,これの整理をしてたら….

 大変なことになってました.
 念のためにと,ネット上で動物の分類について確認してみたら,動物の大分類(綱-目)が,私どもが学生のころに習った体系とまったく違ったものになっていました.
 このままでは使えないので,整理し直し始めました.

 実は,何年か前にも,一度整理しようとチャレンジしたのですが,その当時は使える資料が全くなく(たぶん,日本には生物の分類や記載ができる学者が絶滅したんだろうと思う),断念したものです.
 非常勤をやってたときの大学の授業では,差し障りのない範囲で古い体系で話をしてました(ゴメン).ま,現在の旭川では,もう古生物の授業をやってる大学はないので,どうでもいいんですけどね.

 最近は,Wikipediaなどでも,記述がだいぶ整理されてきましたし(まだ,相互に矛盾する記述がありますけどね.海外での記述に丸投げの部分とかも),なんとか独学で恥ずかしくない程度(自己判断ですが(^^;)までレベルアップしたつもりです.

 そこで,古い頭の持ち主が,新しい体系に切り替えるまでをレポしたいと思います.
>「新体系と旧体系」へつづく