2013年2月17日日曜日

Scaphitesの展開(Ⅸ)

 
1980年,アルゼンチンの地質学者ブラスコ=デ=ヌロほかによって「アルゲントスカファイテス[genus: Argentoscaphites Blasco De Nullo, Nullo, et Proserpio, 1980]」が提唱されています.


「アルゲント・[Argento-]」は,ラテン語で「銀」を意味する「アルゲントゥム[argentum]」を語根化したもの.
したがって,「アルゲント・スカファイテス」は「銀のスカファイテス」という意味.

これは,標本が銀色だったからということではなく,産地がアルゼンチンだからつけられた名前でしょう.

それでは,「アルゼンチン」の由来を一節.
日本では「ラプラタ川」と呼ばれているアルゼンチンを流れる川.これはスペイン語で「リオ・デ・ラ・プラタ(Río de la Plata)」といいます.意味は「銀の川」.スペイン人はこの川の上流に「銀の鉱床」があると信じていたからついた名です.
もちろん,スペイン人がここを目指したのは,銀を強奪するため.

アルゼンチンがスペインから独立したときに,その圧政の記憶を消すために,スペイン語からラテン語の「銀= argentum」に置き換え,女性形・形容詞語尾の「・イーナ[-ina]」を足してできたのがargent-ina = Argentinaという国名です.
これを英語化したのが,Argentineというわけ.
「アルゲンティーナ[argent-ina]」は形容詞ですから,男性形も中性形もあります.順に「アルゲンティーヌス[argent-inus]」,「アルゲンティーヌム[argent-inum]」.形容詞で使われるときには,もともとは「銀からなる,銀に関係する」という意味ですが,もちろん,「アルゼンチンの」という意味でも使われます.


さて,種名として用いることができる「銀の」というラテン語形容詞はいくつかあります.
まずは,「~状の」という形容詞語尾「・アートゥス[-atus]」を合成した「アルゲンタートゥス[argent-atus]」=「銀のような」.これは男性形で,女性形は「アルゲンタータ[argentata]」,中性形は「アルゲンタートゥム[argentatum]」になります.

次に,「~製の」を意味する形容詞語尾「・エウス[-eus]」を合成した「アルゲンテウス[argent-eus]」=「銀製の,銀白色の」.これは男性形.女性形は「アルゲンテア[argent-ea]」,中性形は「アルゲンテウム[argent-eum]」です.


「~産の」を意味する「・エンシス[-ensis]」をつけて,「アルゲンチネンシス[argentinensis]」という種名も使われているようです.

この話,ここで一応終了
 

科学と技術,そして科学技術

 
アリストテレスは「医学」を「科学」とみなしていなかったそうだ.
つまり「医術」.
私もだいぶ前から,そう思っていた.

理由は,医界では「名医」が普通に存在することだ.
しかも,名医といわれる医者ほど,斯界の一般化された学術論文よりも自分の経験を重視することだ.
これはまったく科学者の態度ではない.
名医がもっている技術の伝承は,学問の府でではなく,直接,現場で弟子に伝えられてゆく.しかも弟子のほとんどが継承できるわけでもない.「ヤブ」は継承できない.

科学とは,技術の持っている特殊性を解析し,一般化して,基礎知識のある人間になら,誰にでも伝えることのできるシステムのことである.だから,科学は科学技術を爆発的に進化させた.

したがって,医学は科学ではない

今朝の「がっちりマンデー!!」に登場したテーブルマーク社の冷凍技術は,明らかに「科学」である.職人の持つ技術を機械化し,コンスタントにしかも大量に製造することができる.

そんなことを考えた.

日本の第一次産業,農業や漁業も,安全で安価に製造できる,そんな科学が登場しないかと,ふと思った.

高級食材をつくることで,海外の安い食品に勝ってゆこうという流れがある.勝手にやればという気がする.それでは,日本の第一次産業は滅びるにまかせることになることが分かっていないようだ.
 

2013年2月13日水曜日

Scaphitesの展開(Ⅷ)

 
1953年には,スパス氏がインドスカファイテス[Indoscaphites Spath, 1953]という属名を提唱しています.
これも,もちろん,スカファイテスの仲間.

インド・[Indo-]は,もちろん,英語でインディア[India]のこと.
ギリシャ語では「インドス[Ίνδός]」=「インダス川」,「インドの」であり,これからラテン語のインドゥス [Indus]になり,インディア[India]は,Ind- =「インダスの」という語根に《所属・関係》,《状態》,《国名》,《病気》を表す接尾辞[-ia]を合成したもので,Ind-iaとなり「インダスの大地」という意味になります.
英語はこれを借りたものですね.


ラテン語のインドゥス [Indus]は「インダス川」を示す名詞です(複数形はインディー[Indi];なお,この複数形は「インド人たち」もあらわします)が,「インドの」という形容詞でもあります(系統的な勉強をしたわけではありませんが,こうなると,ラテン語に本当に「名詞」とか「形容詞」とかの区別があるんだろうかと悩む;とくに形容詞なのに,この場合頭文字は大文字ですからねえ).
形容詞の変化は「インドウス[Indus],インダ[Inda],インドゥム[Indum](順に,男性形,女性形,中性形)」.
「インドの」をあらわす形容詞では,別に「インディクス[Indicus],インディカ[Indica],インディクム[Indicum]」(順に,男,女,中)」というのもあります.

明瞭に「インド産の」という意味を持たせたければ,「・エンシス[-ensis]」という形容詞語尾を合成して 「インデンシス[Ind-ensis],インデンシス[Ind-ensis],インデンセ[Ind-ense]」ができますが,これはあまり使われないようです.
理由は不明ですが,たぶん,元の意味が「インダス川の」ですから,あまりにも範囲が広すぎるのが原因かと考えます.どちらかというと,「・エンシス」はローカルな地名に使われた方がしっくりきますね.

たとえば,「日本(産)の」を考えた場合,「ヤポネンシス[japon-ensis]」より「ヤポニクス[japon-icus]」のしっくりきますよね.逆に,「夕張(産)の」ならば「ユバリクス[yubar-icus]」よりも「ユバレンシス[yubar-ensis]」のほうがしっくりきます.
もっとも,命名は個人のセンスに負うところが多いですから,「それは違う」といわれたら,反論のしようも無いですけど(こんなことを説明しているギリシャ語ラテン語の解説書って,ないですからね).


さて,「インド・」がついた学名ってのはたくさんあります.その中のいくつかを紹介しましょう.
まずは,中新世の北米・アフリカ・ユーラシアにいた「インダルクトス[genus Indarctos Pilgrim, 1913]」.
これは,「インドゥ・[Ind-]<[Ίνδός]」+「アルクトス[-arctos]<[ἄρκτος]」という合成語で,「インドの」+「クマ」という意味.

インドの恐龍ならば,「インドサウルス[genus Indosaurus Huene et Matley, 1933]」.これは,後期白亜紀のインドに実在した恐龍.
もう一つ,「インドスークス[genus Indosuchus Huene et Matley, 1933]」と恐龍が産出してますが,こちらは「インドのワニ」という意味.ですが,ワニの仲間ではなく,獣脚類に属する立派な恐龍の一つです.
「スークス[suchus]」はラテン語化したもので,もとはギリシャ語の「ソウーコス[σοῦχος]」.こちらは,エジプトのある地方に住む「ワニ」を示す言葉だったらしいのですが,いつの間にか「ワニ一般」をしめすようになったみたいです.

同時代の「インドケラス[genus Indoceras Noetling, 1897]」は,パキスタン産のアンモナイト.記載された頃のパキスタンは,まだインドと分離していなかったからでしょうね.
これはもちろん,「インドの角」という意味でした.

 

2013年2月8日金曜日

Scaphitesの展開(Ⅶ)

 
1953年には,ライト[Wright, C. W.]氏がプテロスカファイテス[Pteroscaphites Wright, 1953]という属名を提唱しています.もちろん,スカファイテスの仲間.


接頭語「プテル・/プテロ・[pter-/ptero-]」は,ギリシャ語の「プテロン[πτερόν]」=「羽,翼」をラテン語合成前綴化したもの.
翼竜の「プテラノドン[Pteranodon Marsh, 1876]」で有名ですね.ほかにも,たくさんの動物・植物の学名に使われている語根です.

ちなみに,「プテラノドン」は「プテル・[pter-]」+「・アノドン[-anodon]」の合成語で, 元はギリシャ語の「プテロン [πτερόν]」+「アノドーン[ἀνόδων]」=「翼」+「歯無し」という構造.つまり,「翼があって,歯が無い」ということです.


話を戻しますと,プテロスカファイテスは,図を見ればわかるように,殻の開口部にヒラヒラのフランジを持っていますね.これを「翼」と表現したのでしょう.
だから,プテロスカファイテスは「翼をもったスカファイテス」ということ.

なお,模式種は「スカプイテース・アウリクラートゥス[Scaphites auriculatus Cobban, 1952]」として記載されました.
種名「アウリクラートゥス[auriculatus]」は,ラテン語の「アウリクラ[auricula]」=「耳朶;耳」に「・アートゥス[-atus]」=「~を持った」という形容詞化語尾をつけたもの.つまり,「耳たぶを持った」という意味です.
ですから,もともとは,「耳たぶを持ったスカファイテス」という意味の学名でしたが,ライト氏が別属として,プテロスカファイテスを設定し「プテロスカプイテース・アウリクラートゥス[Pterocaphites auriculatus (Cobban, 1952)]」が成立しました.そこで,「耳たぶを持った,翼のスカファイテス」となった訳です.意味が二重になってしまいましたね.
 

2013年2月7日木曜日

Scaphitesの展開(Ⅵ)

 
1952年には,コバン氏[William A. Cobban]が,クリオスカファイテス[Clioscaphites]という属名を提唱しています.


この「クリオ・」という接頭辞の意味は,定かではありません.
考えられるのは,ギリシャ神話に出てくるオーケアヌスの娘の一人,クレイオー[Κλειώ](=歴史のミューズ神と云われる)です.これは,ラテン語化して「クリーオー[Clio]」になるわけです.
クリオスカファイテスは,図のように非常にキレイな形態をしています.しかし,なぜ「歴史のミューズ神」に結びつけられたのかは…,謎です.
これが正しいとすれば,ラテン語的には「クリーオー・スカプァイテス」と発音することになります.

このクリーオーは,あのクリオーネ(バッカルコーンで有名(^^;)の語源とも云われています.
ただし,「クリーオー[Clio]」がどうやったら「クリオーネ[Clione]」に変化するのかは謎です.説明が見つかりません.
辞典類には,この例は載っていないので,単なる俗説なのかもしれません(原著に記述はありませんでした).

ちなみに,「バッカルコーン」は《英》buccal-coneのことで,buccalは《ラ語》の「ブッカ[bucca]」=「頬」から,coneは《ラ語》の「コーヌス[conus](元は《ギ語》のコーノス[κῶνος])」=「松笠;円錐体」から借用した言葉です.
 

2013年2月4日月曜日

Scaphitesの展開(Ⅴ)

 
1947年には,スカファイテス群の先祖形と思われるエーオースカファイテス[Eoscaphites Breistroffer, 1947]が記載されています.「発見されています」と書きたいところですが,発見から記載までは「間」があるのが当たり前.研究には時間がかかるんです.
「研究なくして知識なし[No study !, no knowledge !]」(私の造語です(^^;)というわけです.
形から見ると,とてもスカファイテス群には見えませんが(あとから記載された方, 1d, eは別),たぶん,アンモナイトの分類に重要であるとされる縫合線の形が共通しているんでしょう.

さて,「エーオー・」は,ギリシャ語のエーオース[ἠώς]=「曉の女神;朝焼け,曙光」のことで,「始めの,新しい」という意味で使われる接頭辞です.しばしば「エオ・」と使われますが「エーオー・」が正しい.
この「エーオー・」は,日本語では始新世と訳されている地質時代のエーオ・シーン[Eocene]にも使われています.

エーオース(Ἠώς from Wikipedia)

アンモナイトでは,ほかにもエーオー・グンナリテス[Eogunnarites Wright et Matsumoto, 1954],エーオー・マドゥラシテス[Eomadrasites Matsumoto, 1955],エーオー・ラーエボセラス[Eorhaeboceras Alabushev, 1989]などに使用されています.
日本では,順に「エオグンナライテス」,「エオマドラサイテス(エオマドラシテス)」,「エオラエボセラス」と表記するのが一般的ですかね.

恐龍でも,エーオーブロントサウルス[Eobrontosaurus Bakker, 1998]とか,エーオーケラトプス[Eoceratops Lambe, 1915],エーオーラムビア[Eolambia Kirkland, 1998],エーオーラプトル[Eoraptor Sereno et al., 1993]など,祖先形と思われるものに使うのが一般的です.
[続く]

 

2013年2月3日日曜日

ガイガーカウンター

 
買ってみました.
今のところ,うちの中だけですが,そのうち,近所のあちこちを量ってみるつもり.


     


Amazonのカスタマーレビューでも報告しましたが,製品の外装はとても日本製とは思えないものです.
ただ,購入してから「OpenGeigerProject」なるものがあることを初めて知りました.

なにか興味深いことをやってそうなのですが,HPを見ても,あまりよくわからない.
キチンとみてませんけどね((^^;).
 

Scaphitesの展開(Ⅳ)

 
1927年には,リーサイド氏[John B. Reeside, Jr.]が,スカファイテスの仲間として,デスモスカファイテス[Desmoscaphites]という属名を提唱しています.もちろん,ラテン語的には「デスモ・スカプァイテス」と発音します.

「デスモ・」はギリシャ語のデスモス[δεσμός]から.デスモスは「紐,帯」などの「縛るもの,束ねるもの」を意味する言葉です.これが,“罪人を縛るもの”から>「投獄」や「ドアの鍵」という意味になったりもします.一方で,「束ねたモノ」>「束」も意味するようになります.
スケッチの標本は一部欠けているようですが,「束ねたモノ」のように見えますかね?

同じアンモナイトでは,デスモセラス[Desmoceras Zittel, 1885]や,デスモフィライテス[Desmophyllites Spath, 1929]にも使われています.
「デスモセラス」は「デスモ・ケラス」,「デスモフィライテス」は「デスモ・プィライテス」がラテン語的発音.


「デスモ・」をつかった学名では,新生代の海生哺乳類「デスモスチルス[Desmostylus]」が日本では有名ですね.
「デスモ・スチルス」は,ギリシャ語の[δεσμός]+[στῦλος]=「束の」+「柱」という合成語をラテン語綴り化したもの.図はマーシュ氏が1888年に,最初に記載した時のデスモスチルスの歯のスケッチです.「束ねた柱」の様でしょう?
マーシュ氏は,このときはカイギュウの仲間と考えていました.

[続く]
 

2013年2月2日土曜日

Scaphitesの展開(Ⅲ)

 
1911年には,ノワク氏[Jan Nowak]がスカファイテスの仲間として,アカントスカファイテス[Acanthoscaphites]とホプロスカファイテス[Hoploscaphites]という属名を提唱しています.

「アカント・」は,ギリシャ語のアカンタ[ἄκανθα]=「棘,針」をラテン語化して接頭辞としたもの.
「ホプロ・」もギリシャ語で,ホプロン[ὅπλον]はもともと「道具の類」を意味する言葉でしたが,転じて「楯」などの防具,さらにその「防具で身を固めた兵士」を意味するようになりますが,一方で,攻撃用の「武器」なども意味します.
アカントスカファイテスは確かに棘をもっていますし,ホプロスカファイテスは硬そうに(?)見えます(かね?(^^;).

アカントも,ホプロも,化石の名前によく使われる表現ですので,憶えておくとよいかも.

たとえば,「アカント・」では,アンモナイトの仲間に有名なアカントケラス[Acanthoceras Neumayr, 1875]に使われています.棘,ありますね.

ほかにも,デボン紀後期に現れた両生類のアカントステガ[Acanthostega Jarvik, 1952]や,恐竜のアカントプォリス[Acanthopholis Huxley, 1867]にも使われています.


アカントステガの頭骨と全身.後頭部の棘がわかりますか?