2011年10月29日土曜日

今日の《希語》《羅語》:台風

「つむじ風」のことをギリシャ語で,「テュプォース[τυφώς]」というらしい(羅語綴り化すると typhos).
これを擬人化(擬神化)したのが「テュプォース[Τυφώς]」.またの名を「テュプォーエウス[Τυφωεύς] 」.さて,「テュプォーエウス[Τυφωεύς] 」をラテン語風に綴ると,Typhoeusです.

とりあえず,固有名詞の頭文字は「大文字」で示しておきます.(もっとも信用できるとされる)辞典にそう書いてあるから.
でも,古代ギリシャ語は,すべて大文字で綴ったので,こんな区別はなかったそうです.なぜ「大文字」しかなかったかというと,文字は「石」に刻んだので,鑿で刻みやすいように「カクカク」した形だったのです.
これが,のちに柔らかい紙や革に手書きするようになると,「丸っこい」文字ができる.
こちらを「小文字」と呼び,元の「カクカク」した文字を「大文字」としたので,「大文字」と「小文字」が同時に使われるということは,なかったようなのです.
だから,ほんとうは固有名詞の頭文字を「大文字」で綴る,なんてのは「嘘っぱち」のようです.


話を戻します.
擬人化された「テュプォーエウス(Typhoeus)」もしくは「テュプォース(Typhos)」は,じつは,「ガイア[Γαῖα]」と「タルタロス[Τάρταρος]」の末子.「百の頭をもつ巨神」だったそうです.ガイアは大地,タルタロスは冥府です.
ギリシャでは,つむじ風は多かったのですかね.「百もある」というのですから.
それにしても,「大地と地獄」の息子が「風」というのは,すごいセンスですね.

さて,Typhoeusの息子が「テュープォーン[Τῡφῶν]」.ラテン語綴りにするとTyphon.かれは,たくさんの「風」の父親ということになっています.その娘たちの名が「テュプォーニス(Typhonis)」.
う~~ん,「風」だらけですね.

さて,このTyphonが中国語の「台風[tai fung]」とまじりあってできた言葉が,英語の「タイフーン(typhoon)
」.
昔どこかで(って,学校でしょうけど)「台風」が英語化したって習いましたけど,じつはギリシャ神話が大元だったわけです.

たしかに「台風」は地獄の孫.今年は,そんな年でしたねえ.


そういえば,日本で吹いた「神風」で沈んだ「元」の船(実際に攻撃してきたのは,元に支配された朝鮮半島あたりの民族だったらしいですが)がつい最近発見されましたね.
あれって,損害賠償請求できないんでしょうかね(^^;.
 

2011年10月25日火曜日

スコティッシュ・カレー

先日,娘が通学する高校のPTA国際交流委員会がおこなうイベントに参加してきました.
一応,名目だけですが,国際交流委員の代表を務めているもんで((^^;).

イベントといっても,外人講師を招いて,ご当地のお話を聞いたり,ご当地の料理などを作ったり,ゲームをしたりなどが主な内容です.

当日の講師は,スコットランド人なんですが,事前に連絡があって,「カレーを作る」といいます.
スコティッシュ・カレーなんてあるのかな? などと思いながらも,前々日の「買い出し」から手伝うことに.

スコティッシュ・カレーの由来は…,講演会で理解できました.
講師の女性は,イギリスはバーミンガムの出身なんですが,バーミンガムは英国二番目の大都市で,産業革命発祥の地でもあります.
そこで,第二次大戦後の復興期に,たくさんのエスニックが労働力として入りこみ,現在では,(なんと!)全人口の1/3が,インド人を中心とするエスニックが占めているそうです.ほかにも,カリビアン,アフリカン,チャイニーズ,東南アジア人などがいるそうですが,インド人が一番多い.
大量の移民は,かれらの生まれ故郷の,(それこそ)「エスニック料理」を持ち込み,かれらのための「レストラン」を作ります.

講師の女性が生まれたころは,エスニック料理レストランは,街に普通にあり,それらは,スコットランド人家庭にも,家庭料理として,普通に入りこんでいました.もちろん,スコットランド人の舌にあうように,味は調えられていたようですが.

というわけで,スコットランド人の若者にとっては,ある意味,本格的なエスニック料理は「おふくろの味」でもあるというわけです.

な~~るふぉど.聴いて見なきゃ判らんわけだ.
これぞ,国際交流!


面白かったことがもう一つ.
講師の人が,英語で書かれたままの「レシピ」をもってきたのですが,それで,食材を調達することに….
参加した,お母さん方は,英語が得意な人もいることはいましたけど,大部分は「そりゃあ,外国語!」という方たち.
で,強引に「日本語」を繰り返したり,「和製英語」や「カタカナ語」を駆使(?(^^;)して…,それでもなんとか,問題をクリアーしていきました.

個人的なことですが,わたしは江戸時代末期から明治の初めにかけて,北海道に入りこんできた近代地質学の流入に興味があります.日本で最初に,近代地質学が輸入されたのは,ここ北海道なわけですが,外人講師とのやりとりは,当時もこんな感じだったんかなと,ふと,思いました.

完全な英会話能力なんて必要ないですね.「意志あるところ通ず」です.
う~~ん.これぞ国際交流!!
 

2011年10月20日木曜日

今日の《希語》《羅語》:サル

ギリシャ語で,「サル」のことを「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」といいます.

で,なんの不思議もないのですが,ちょっと奥があります.
「希英辞典」で見ると,「ピテーコス」は,「ape」であり,「monkey」です.
日本人にとっては,「サル」は「サル」で,いろんなサルがいるだろうぐらいのことはわかりますが,サルが二分別されるなんてことは,まったく頭にありませんね.

「英和辞典」を見ると,「ape」は,「尾のない大型サル(類人猿)」であり,「monkey」は「尾のある小型サル」のことです.

ということは,(古代)ギリシャ人は,日本人のように「サル」に区別をしていなかったと考えていいのでしょう.

ところが,「羅英辞典」を見ると,このあたりは,とたんに曖昧になります.
ある辞典には,「ピテークス(pithecus)」(ギリシャ語の「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」がラテン語化した言葉)という見出しがあり,その解説には「ape」とかかれています.別の辞典には,「ピテークス(pithecus)」いう見出しそのものがない.

しょうがないので,「英羅辞典」から,「ape」を引くと,そこには,(simia, simius)とあります.「monkey」を引くと,こちらにも「simia」がある.
どちらの解説も不親切ですが,simia と simius は同じもので,simiaが《女性形》で,simiusが《男性形》です.意味は「サル」と書いてありますが,どうも疑問.

これは,ギリシャ語の「シーモス[σῑμός]」=「獅子鼻の,平べったい鼻の」が,ラテン語の語根化した「シーム・(sim-)」=「獅子鼻の」から造られた《合成語》「シーミウス(simius)」=「獅子鼻の」が名詞化したものくさい.

つまり,
simius = sim-ius=「獅子鼻の」+「《形容詞》~に属する」
《合成語》《形容詞》simius, simia, simium =「獅子鼻の;獅子鼻に属する」
《合成語》《形》《複》simii, simiae, simia =「同上」
(それぞれ,順に,《男性形》《女性形》《中性形》)
これが,おのおの名詞化して,=「獅子鼻;獅子鼻に属するもの」になります.これらは,おのおの,羅英辞典の《女性形》simia, simiae,《男性形》simius, simiiに対応しています.

ということは,simiusは,もともと「サル」ではなくて,「獅子鼻の」という形容詞が,「獅子鼻のもの」という名詞化して,「(獅子鼻の)サル」に変化したのだということが考えられるわけです.
ということは,古代ローマ人には「サル」という言葉が無くて,古代ギリシャ語から借りたということになりますね.さらに,古代ローマ人は「獅子鼻のサル」しか知らなかったということになりそうです.
ま,サルの分類は,なかなか難しいので(使われている言葉と分類とがきれいに一致しない),そう簡単ではないかもしれませんが….


ところで,「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」はどうなったのでしょうか?
「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」は,(ほかの単語もだいたいそのような傾向があるのですが)そのままラテン語化せずに,ラテン語の「語根化」しています.
だから,信頼できる羅英辞典ではpithecusという見出しが無くて,pithecium = pithec-ium=「小さなサル」のように「語根」として使われた「語」しか,見出しにないということらしいです.

じゃあ,なぜ,(怪しい形)ラ語辞典にはpithecusという見出しがあるのか.
それは,たぶん,pithecusが学名の一部として現在も使われるため,辞典編集者が項目として取り入れたものなのでしょう.実際,どう考えても《NL》= New Latinには,学名からきたとしか考えられないものが散見されます.
ただし,これらはわたしの私見に過ぎないので,信用しないように
 

2011年10月14日金曜日

今日の《希語》《羅語》:サウルス

サウルスについては,「学名で遊ぶ」で一度紹介したのですが,再度.

サウルス(saurus)というラテン語はありません.
サウルスは,ギリシャ語の「サウーロス[ὁ σαῦρος]」=《男》「トカゲ」から作られた合成語です.

[σαῦρος]をギリシャ語・アルファベータからラテン語・アーゼータ(正確にはなんと呼ぶのかシランですが,一般的には「アルファベット」と呼ばれるヤツです)に変換すると,saurosになります.

ものの本には,ギリシャ語からラテン語に変換すると,自動的に末尾の[-ος]は -usに変化すると書いてあります.わたしも始めはそれを信じていましたが,いろいろ見ていくと,どうも違うような気がします.
ギリシャ語に関する本とか,ラテン語に関する本はありますが(日本語で読めるもの),ギリシャ語とラテン語の関係について書かれた本は無いので,自己流に(機械的に)解釈することにしました.
その方が,簡単なので.

ラテン語化されたsaurosの語根はsaur-です.これに(ラテン語の)形容詞化語尾である-usを合成します(不思議なことに,ラテン語の-usは名詞化語尾でもあります.これについては後で…).そうすると,saur-us = saurus=「トカゲの」ができあがります.語尾-usは,ラテン語の中では典型的な変化をしますので,

saurus = saur-us=「トカゲの」+《形容詞》
《合成語》《形》《単》saurus, saura, saurum=「トカゲの」
《合成語》《形》《複》sauri, saurae, saura=「トカゲの」

ができます.順に《男性形》《女性形》《中性形》です.
sauraがsaurusの《女性形》とかいわれるのは,このあたりからですね.

なぜ,こんなのが必要かというと,実用ラテン語のことは知りませんが,学名ラテン語では,《属名》が《名詞》,《種名》が《形容詞》であらわされ,「赤いイヌ」とか「白いネコ」みたいな形であらわされるのですが,《名詞》の《属名》にも《性》があり,それを形容する《種名》はそれに引っ張られて,「同じ《性》であらわされる」というみょうなルールがあるからです(だから,《男性形》《女性形》《中性形》を作らなければならない.また,「できる」ということでもあります).
これは,実用ラテン語の尾を引いているということなんでしょう.
また,現在では,「種」が生物分類の基本単位とされていますが,このルールが成立したころは,「属」が基本単位で,「種」は,それを形容する「違い」をあらわす名前だったことが推測できます.

この《性》のルールについては,キチンと整理ができていないようです.一方で,《性の統一》については,しばしば「原著者が間違っているので,訂正を」という報告もしばしばあるようです.《性のルール》について,キチンとしたものが公開されていないのだから(とくに,英語を介してでしか,ギリシャ語やラテン語が理解できない日本では…),《性の統一》なんかやめてしまえば…と思いますが,こういう伝統(レガシー;どちらかというとPC界の用法です.もう役に立たないのに「残っている」というような)のあるものは,意味が無くても,なかなか訂正されませんね.

話を戻します.
じつは,ギリシャ語にもラテン語にも,現代文法でいうような《名詞》とか《形容詞》とかの区別はないような気がします.ちゃんと説明できませんけど.それで,上記の《形容詞》は,そのままの形で《名詞》になってしまいます.ギリシャ語だと《冠詞》がつけば《名詞》だと,すぐにわかりますが,ラテン語に冠詞はないそうです.
辞典などでは-usは《名詞化語尾》とも,《形容詞化語尾》とも書いてありますが,なぜ「名詞」も「形容詞」も同じなんでしょうかね.たぶん,「同じ」だからですね.
この《名詞化》については,《合成後綴》として考えた方が理解しやすいかもしれません.

-saurus = -saur-us=「トカゲの」+《名詞化語尾》
《合成後綴》《単》-saurus, -saura, -saurum=「~トカゲ」
《合成後綴》《複》-sauri, -saurae, -saura=「同上」

という形ですね.

たとえば,-us=《行為とその結果》《性質》の代わりに,-ius =「~の.~(に)属する,~(に)関係する」を合成すると,

-saurius = -saur-ius=「トカゲの」+「~の.~(に)属する,~(に)関係する」
《合成後綴》《形》《単》-saurius, -sauria, -saurium=「~トカゲの;~トカゲに属する」
《合成後綴》《形》《複》-saurii, -sauriae, -sauria=「同上」
となり,これが名詞化すると同じ形で,それぞれが=「~トカゲ;~トカゲに属するもの」という意味になります.
恐龍類を意味するDINOSAURIAはdino-sauriaで「恐ろしい」+「トカゲに属するものども《中性複数》」という意味だったことがわかりますね.
 

2011年10月12日水曜日

今日の《希語》《羅語》

ブログがまったくストップしておりますが,体調不良なわけではありません.

魚類の分類名称の検討をおこなっていたら,今まで作ってきた「MY学名語源辞典」の見なおしが必要になりまして,-a~ωまで訂正中なのです.なにせ,データーが膨大なので,やっと[L]に到達したところ.
ヒマがあれば,やってますので,ブログ更新できないのです.

この間,某「生物学名概論」で“定本”とされたLiddell & ScottのA Greek-English Lexiconや,LewisのA Latin Dictionaryなどのオンライン版を入手しまして,検討を続けてました.

思うに,これは,ダメですね.

これらの辞典は,英語とギリシャ語もしくは英語とラテン語に「精通」している人にでないと,意味がないようです.
第一に,省略が多すぎて,辞典を引いているのに,ほとんど謎解き状態.
第二に,英語を経由するわけですが,これらの辞典の著者はギリシャ語やラテン語に精通しているのかもしれないですが,英語はどうもそうではないようです.基本的に説明がヘタ.とくに言葉のえらび方に疑問があります.
辞典の解説文なのに,使われている単語が,しばしば多義性の言葉であって,英語経由で日本語になおすと,どんどん意味が広がって曖昧になってしまうことがあります.古典ギリシャ語,古典ラテン語のプロが直接日本語になおしてくれないと,辞書としてはつねに「?」状態です.

もっとも,日本で販売されている希語辞典,羅語辞典の元本は,どうやら上記の本なようで,ときどき「みょうな訳」(明白な「間違い」も)があるわけがわかりました.

考えてみれば,
「古典ギリシャ語」>「古典ラテン語」化>「英語」化さらに>「日本語」化
もしくは「古典ギリシャ語」>「英語」化さらに>「日本語」化
もしくは「古典ラテン語」>「英語」化さらに>「日本語」化
してるわけで,何重もの言葉(文化)のフィルターがかかっているわけですから,どの言語についてもヅブの素人であるわたしには「ちんぷんかんぷん」な時のほうが多いわけです.

第三に,希語も羅語も「変化形」が多くて,しかも重要といわれているのに,「変化形」がわかるように示されていない.
わたしのような素人には,「原形」がわからないので,辞典を引くことも困難なわけです.

しかし,これら辞典をオンライン化デジタル化した人がいまして,わたしのような素人にでも,「変化形」から辞書を引くことが可能になったわけです.すごく助かります.
残念なのは,ギリシャ文字に「外字」を使用していて,ギリシャ語は直接検索することができません(相当昔に作られたものなのでしょう).一度,ラテン語(綴り)化してからでないと引けないわけです(ラテン語綴り化は,いくつか法則があるようですが,統一されてはいないようです;だから,引きなおしが必要).もったいない.