2009年9月22日火曜日

辞書の展開(17)

 
●クマ上科[superfamily URSOIDEA (Fischer, 1817) Tedford, 1976]

 クマ上科は,ルーツが食肉目であるにもかかわらず,雑食化することによって様々な環境に適応しました.そのため,進化が激しく外見が多様であるのに,遺伝子的には互いに近いという特徴を持っています.従って,これまで「科」・「属」・「種」の各ランクで,ランク自体の定義やそれぞれの境界について議論を引き起こしてきました.
 いまだに,その分類は落ち着こうとしていません.

 The Taxonomiconではリストが並べられているだけで,定義や具体例がないので,クマ類のように問題の多い分類群では,判断基準がなく信頼性に欠けます.
 それでも何とか努力してみましょう.

 クマ上科はクマ科とヘーミーキュオーン科の二つに分けられています.

superfamily URSOIDEA (Fischer, 1817) Tedford, 1976(クマ上科)
├ family URSIDAE (Fischer, 1817) Gray, 1825 (クマ科)
│ ├ URSIDAE incertae sedis
│ ├ subfamily TREMARCTINAE Merriam et Stock, 1925(メガネクマ亜科)
│ ├ subfamily URSINAE (Fischer, 1817) Burmeister, 1866(クマ亜科)
│ └ subfamily AILUROPODINAE Greve, 1894(ジャイアントパンダ亜科)
└ family †HEMICYONIDAE (Frick, 1926) Tedford, 1997(ヘーミーキュオーン科)
           from “The Taxonomicon

 クマ科は現生種をいくつもふくむ普通に想像できるクマの仲間です.
 一方のヘーミーキュオーン科は絶滅グループですので,イメージは困難でしょう.ヘーミーキュオーン科は前出のアムプィキュオーン類が俗に「クマイヌ[bear dogs]」と呼ばれたのにたいして,こちらは「イヌクマ[dog-bears]」と呼ばれています.学名の意味は「半犬」(「ヘーミー[ἡμῑ]」=「半分の」+「キュオーン[κύων]」=「犬」).
 なお,ギリシャ語の「へーミー」はラテン語の語根化して「セーミ・[semi-]」になります.これはもちろん,英語の語根「セミ・[semi-]」の語源ですね.

 アムプィキュオーン類とヘーミーキュオーン類を設置することで,かろうじて「犬」と「熊」を分けているわけですが,その境界は実は微妙です.

 なお,カタカナ表記では「ヘミキオン」とか書かれることが多いですが,これは何語でもないですね.学名ですので,なるたけ,ラテン語の発音に近い表記を心がけます.

 ヘーミーキュオーン類の最初のメンバーはケプァロガレ[Cephalogale]と考えられています.
 ケプァロガレはアライグマ程度の大きさでしたが,クマ類の進化パターンとして体のサイズの増大傾向があり,時代の経過と共に,その仲間は現代のもっとも大きな熊と同じサイズに到達したものもありました.
 ヘーミーキュオーン類は主に肉食と考えられていますが,雑食傾向を示すものも多く,これが熊と関係が深いと考えられる理由でもあります.
 ヘーミーキュオーン類の活躍の舞台は,ユーラシア大陸でしたが,その仲間はしばしば,北米にまで進出し,繁栄しました.しかし,中新世のおわりと共に,この仲間はほとんど絶滅します.

 The Taxonomicon では,アグリオテーリウム[Agriotherium]はヘーミーキュオーン科に入れられていますが,これをアグリオテーリウム亜科として独立させ,ヘーミーキュオーン亜科と並置される立場もあります.この場合は,The Taxonomiconでは「クマ科所属不明」とされているウルサウス[Ursavus]やインダルクトス[Indarctos]が入れられているようです.

 整理されたと見るべきか,混乱を増やしたと見るべきか…(ハハッ).

 さて,クマ上科でイヌ類との区別が困難というか,中間的な形態であるヘーミーキュオーン類とクマ科中の「クマ科分類位置不詳」が終わったので,“純正”クマ類に入ります.


 純正クマ類は,現生種を含むグループなので,比較的イメージしやすいかと思います.
 The Taxonomiconでは,メガネクマ亜科,クマ亜科,ジャイアントパンダ亜科の三つに分けていますが,異論がおおいようですね(いうまでもないか).
 ケプァロガレからウルサウスをたどり,現在のクマ亜科に至るラインは,だいたい同じようですが,どこからパンダ類やメガネクマ類が分岐するのか,またそれらの亜科分類をどうするのかといったところが,問題なようです.
 逆に,大筋では旧体系とそれほど差がないということになります.


 The Taxonomiconは解説がないのでナンですが,たぶん,最新の科学であるDNA分析を重視しているものと思われます.
 勘違いしやすいのですが,DNA分析だからといって,そのまま信じるわけにはいかないのです.
 最近,DNA分析で有罪にされた囚人が実は無実だったという事件がありましたが,これは具体的なかつ悲惨な例ですね.

 これは「DNA神話」が根強いことを意味しています.
 高校で習ったDNAは四つのエレメントがデジタルに性質を決定するというものですから,DNA分析というとデジタルに決まってしまっていると普通は信じています.
 これが「DNA神話」ですね.

 でも,実際にはDNAの四つのエレメント配置を特定して結果を出してるのではなく,程度の差こそあれ,簡易的な手法をとっているのです.かなりアナログな部分があるわけですね.実際は「DNA鑑定」ではなく,「DNA型鑑定」ナンだそうです.
 これを糊塗するのに,科学者は確率論を持ち出します.
 裏の意味は,「確率論も理解してないヤツは口を出すな」,というわけです.
 でも,「明日の降水確率10%」という意味を理解している人がどれほどいるでしょうね.いってる予報官も意味が分かってないに違いありません.
 同じ「DNA型」の持ち主は1/何億とかいいますが,DNAパタンは均質なのか,偏りがあるのかもよく分かってないのに,なぜソンなことがいえるんでしょうね.

 話を少しもどします.
 DNA神話には別の不思議もあります.
 「種」というものに明確な定義もないのに,どこかの誰かが任意に取ってきたサンプルのDNAがその「種」を代表していると,なぜいえるのでしょうかね.
 実際の論文を読んでみると,そのあたりが非常に気にかかります.

 有名な「イブの七人の娘たち」でも,アフリカ黒人のはずのサンプルが,実は在北米の黒人のものだったという話も聞こえます.在北米の黒人の歴史を見れば,アフリカ黒人のDNAの代用にはならないことがわかるはずです.
 小さく,「訂正された」となにかに書かれていましたが,どう訂正されたのかは出ていませんでした.

 しかし,一遍出された論文は,一人歩きし,生物全体の中の位置づけとして,サンプルの意味を確認されることなく,ジグソーパズルの一片として扱われてしまうのです.

 大丈夫かなあ….

 

2009年9月10日木曜日

近況

 
 最近,ブログの更新が滞ってますが,体調がひどく悪いわけではありません.
良くは,ありませんが…(^^;

 新しいソフトウェアを試したり,辞書やDBのメンテナンスをやってます.

 ほかにも,いろいろ頼まれごとが多くて…,せっかく血圧をコントロールしているのですが,このところ,上がり気味.ハーァ.

 最近開設したHPの現在構築中の記事が「ヒグマ」であることもあり,このブログの記事がクマの分類の部分にはいって,クマの新分類を見てますので,最近見つけた論文を和訳したりしてます.
なにせ,「ヒグマ」の部分を書いたのが10年ほど前のことで,ちゃんと確認しないとおかしなことを書いてしまいそうですからね.

 ほかにも,ある記事に,迷惑コメントが毎日つけられて,それも「風俗系」なもので,放っておくわけにもいかない.即,消去していたのですが,あまりにひどいもので,その「記事」自体を消しました.題名が悪かったのかね「アフィリエイト」.
 Hなことが書いてあるのではなくて,紹介した本を読んでほしいということが書いてあるだけだったんですけどねえ.

 たぶん,自動的にそういうキーワードを探して,妙なことをコメントするというソフトウェアでもつくってあったんでしょう.
 その記事を消したら,しばらく起きていません.

 

辞書の展開(16)

 
●熊小目[parvorder URSIDA Tedford, 1976]

 熊小目は,以下の四つに分けられています.

parvorder URSIDA Tedford, 1976(熊小目)
├ URSIDA incertae sedis
├ superfamily †AMPHICYONOIDEA (Haeckel, 1866) McKenna et Bell, 1997(アムプィキュオーン上科)
├ superfamily URSOIDEA (Fischer, 1817) Tedford, 1976(クマ上科)
└ superfamily PHOCOIDEA (Gray, 1821) Smirnov, 1908(アザラシ上科)
           from “The Taxonomicon

 アムプィキュオーン上科は絶滅グループですので,一般にはイメージ不可能かと思いますが,アザラシ上科とクマ上科が近いというのは意外ですね.こういうことは間々あるので,「目」ランクに具体的な動物をイメージしている名前をつけるのは「よろしくない」と思う人が多いわけです.
 やはり,URSIFORMESとかいう形が用いられるべきですね.

 なお,「目」ランクの語尾には,よくこの[-formes]が用いられますが,これは「・フォールミス[-formis]」=「~(の)形をした」の複数形だそうです.
 この《合成後綴》は「『目』を表す接尾辞」という解釈がなされ,和訳には「~形の」という語を入れない場合も多いようです.しかし,「アザラシ類は熊目に属する」というのと,「アザラシ類は熊形目に属する」では,イメージが違うと考えますね.
 で,「・フォルメース[-formes]」という語がある場合には,「形」という語を入れるべきだと考えます.

 最初に,はじき出されているURSIDA incertae sedisにはgenus Adracon Filhol, 1884が入っています.このAdraconについての情報はほとんどもっていませんが,Carroll (1988)の分類ではCARNIVORA incertae sedisに入れられており,前期漸新世の欧州に生息していました.

 アムプィキュオーン類は俗に「クマイヌ[bear dogs]」と呼ばれ,クマ類の成立の関係あるとされる一方で,食肉目全体の基幹であると考える研究者もいるようです.しかし,アムプィキュオーン類は大きさも形もしごく多様で,あまり整理されているとはいえませんね.
 前期漸新世~前期中新世の欧州と中新世の北米で繁栄したグループと,前期漸新世の北米に生息したグループとに分ける場合があるようです.が,基幹はユーラシアにいたグループで,中新世に入ってから,何度か北米に移民することで新しい分類群を成立させたという仮説が有力なようです.これはベーリンジア(現・ベーリング海峡の陸化によって生じる陸橋のこと)の成立と密接な関係があります.ちょうど,北米に基幹をおく馬の仲間がベーリンジアを通ってアジアの草原に進出することで,現代型の馬が成立してゆく過程の逆をたどっていることになります. 

 なお,学名の意味は「アムプイ[ἀμφί]」=「両側に.回りに」+「キュオーン[κύων]」=「犬」で,「両犬」.「アムプイ」は「両生類[Amphi-bia]」にも使われているので,どういう意味かイメージしてみてください.

 クマ上科とアザラシ上科は現生種が含まれており,多様ですので,別枠で.