2009年12月8日火曜日

象徴:地質学の本

 
 久しぶりに,正統派(?)の「地質学の本」を読もうと思い,Amazonのページを開きました.

佐藤久夫(2009)地球(岩石圏)の歴史(上巻)『星野学説』に学ぶー地球の膨張説-.イー・ジー・サービス出版部.
原 郁夫(2009)地質学の方法論 小島学派 一つの回想.丸源書店

 なんですが…,?,ない!

 なんと,二つが二つとも,本の流通ルートに乗っていない.!

 たった,これだけのことですが,現在の地質学会の構造というか,複雑な状況が,よく反映されている出来事なんでしょうね(「ゾンビが歩く」参照).

 ある種の暴力だと思いますよ.

 

2009年11月29日日曜日

ゾンビが歩く

 
 先々週の日曜日(2009/11/15),北海道新聞の書評欄に「都城の歩んだ道:自伝」が載りました.評者は,杉山滋郎氏(北大教授)です.

 別に,都城氏の自伝なんかは興味がないので,どうでもいいんですが,誤解を招くような「言葉」がたくさんあるのが気になります.

 まず,見出しが「日本の地質学会に反発」「渡米し得た世界的名声」とあります.
 「日本の地質学会」のどこに反発したのか.記事には書いていませんが,それらしき記述では…,

「まず、日本の学界の封建的風土に我慢がならなかった。大学の研究室にいる助手は教授に仕える身であり、用事でいつ呼ばれてもいいよう、ずっと自室で待機していなければならない。」
「夕方になれば、 何度も教授室の前に行っては 鍵穴を覗き、光が漏れてこず 教授はもう帰ったと確認できるまで自分も帰らない。」

 整理しておけば,この文章からは,都城氏は都城氏がいた「東大地質学教室」の「封建的風土」を嫌ったとしか読めませんね.「東大」=「日本の地質学会」という構図は,…?,…!,まあ,あったのだろうけど((^^;,いまもあるしね),「一緒くた」にしちゃあいけないでしょ.ほかにも,大学,あることだし.

 もちろん,都城氏の中では「東大」=「日本の地質学会」だったんでしょうけどね.しかし,この人,東大にいる間に助教授にまでなった人で,「東大という体制」の中心人物に近い人じゃあないんでしょうかね.

 ちなみに,都城氏が嫌った「地団研」の巣窟といわれていた某大学では,助手はお気楽な生活してましたよ.一方で,その地団研の巣窟の中でも,東大からやってきた教授の下にいた助手や大学院生はいつもピリピリしてましたね.
 なにが事実なんだか,表面だけではわからないですね.


 蛇足しておけば,都城氏が表現したような,この大学の雰囲気は好きでした.
 教授なんかが帰ったあとも(だからこそ),夜を日に継いで,実験機器を動かしたり,論文を読んだりしている,不夜城.

 いつのころからか,学生も,大学院生もサラリーマン化してしまって9時から5時までしかいなくなってしまいましたが,これには,先行して大学の教官たちがサラリーマン化した事実がありますね.
 大学が,学生を後継者ではなく,通過する人として扱いだしたことも,強く背景にあります.研究成果なんかよりも,施設の管理の方が大事だったようです.行き着く先は,….当然ですね.「愛校心」なんか,いうな.


 話を戻します.
 そのあとにも,酷く不正確な記述があります.
 いわゆる,「歴史主義論争」といわれるものについてです.これは,都城氏の自伝(と書いてある)ですから,都城氏は,やはり,「歴史主義者」vs.「物理化学主義者」との戦いがあったと認識している.
 栃内文彦氏が,実際に本人を含む関係者にインタビューし,検証した結果,そんな「戦い」は存在しなかったと結論づけた論文*があります(おかしいな.栃内氏がこの論文を書いたころは,まだ北大にいたはずだけれど,杉山氏は読んでないのですかね).
 しかし,これは,都城氏の自伝なのだから,都城氏は「戦いはあった」と認識しているわけです.
 人の心は闇ですね. 

 実は,科学史上,こういう存在しなかった「戦い」の話はたくさんあるのです.

 有名なのが「天変地異説」vs.「斉一説」
 ほかにも,「水成論」vs.「火成論」など.

 こういうシンボライズされた「戦い」は,「善」と「悪」が戦って「善が勝った」とか,「神」と「悪魔」が戦って「神が勝った」のように,単純で,わかりやすいですけれど,「要注意!」ですね.
 「忠臣蔵」の浅野内匠頭が実際は“たわけ”者で,吉良上野介が実は名君だったみたいに….評価とは逆の事実もあれば,ソンなことはどこにも存在しなかったりもする.

 “歴史主義者”の巣窟だった(ハズの)北大地鉱教室には,電子顕微鏡もあれば,古地磁気測定装置もあったし,EPMAなど各種測定機器がそろっていた.物理的性格も,化学的性格も,決しておろそかにされてはいなかった(八木健三さんが,実験鉱物学をやったからといって邪魔はされなかったし,逆に賞賛されたと証言しています).
 10年ぐらい前の,北大・地球物理学科の公式HPに某教授が「湊が分析機器を貸してくれなかった(意地悪された)」と書いていたくらいだから,全国的にも,北大内でも,相当早くに,これらの分析機器が導入されていたことがわかります.

 でも,話を単純にして,「歴史主義者」は,物理も化学も無視して,ドグマチックに学問を進めていたようにした方がわかりやすい.
 実際に,実に効果を上げているようですね.この話は,何度でも,出てきます.ウンザリするぐらい.

 ところで,都城氏は“歴史”を無視して((^^;),物理化学で「世界的名声」を得たんですから,「地質学の巨人」を名乗るのはやめた方がいいんじゃあないですかね.謳うなら「地球物理学の巨人」でしょう.
 贔屓の引き倒しみたいになってますね((^^;).

 なにか,暗殺した相手の名前を名乗ったヤマトタケルみたいですね.

 不思議なことに,似たような前例があります.
 “水成論と火成論の戦い”で勝利したとされる,ウェルナー[Abraham Gottlob Werner].彼は,地球の成立に関する思弁的な“地質学”をジオロジー[Geology]と呼び,自分がやっている地質現象を研究する(今でいう科学的な)学問をジオグノシー[Geognosy]と呼んで区別していました.
 結局,科学史上ではウェルナーの支持した水成論が勝利したことになってるのですが,我々が今,地質学と呼んでいるものは「ジオロジー」です.勝利したから,相手方の名を名乗ることにしたのですかね.

 今では,当たり前のことですが,岩石には水成岩もあれば,火成岩もあることがわかっています.

 勝利したはずの,ライエルの斉一論は,どうも怪しげな所があると疑われていますし,「世界を変えた地図」のスミスも,最初ではなかったことが指摘されています.
 地質学史は,まだ幼稚なんです.
 もっとも,現役時代のスミスは敗残者の方にリストアップされていて,同情すべき人物ですが….スミスは技術者であって科学者ではなかったので,彼の靴についた泥でアカデミーの絨毯が汚されることはなかった…と,表現されてますね.


 誤解を恐れずにいえば,「地質学は歴史学」です.

 歴史的背景を抜きにした地質学は,あり得ません(時間はパラメターではないと思う人は,「地球科学」を名乗ってほしいものです.だから,地球科学は地質学に取って代わることは出来ません).

 一方で,再現不可能な現象の多い「地質学は科学ではない」といわれることさえある.
 それは,時間がパラメターだからです.

*栃内文彦(2002)第二次大戦後の日本地質学会における“歴史性論争”=舟橋三男は“歴史主義者”だったのか?.科学史研究,41巻,65-74頁.
 

「オウム」の混乱

 
 恐竜プシッタコサウルス[Psittacosaurus Osborn, 1923]は「鸚鵡(嘴)龍」と漢訳されています.

 プシッタコ・[psittaco-]はラテン語の語根で,「オウムの・」の意味.・サウルス[-saurus]と合成されて,「オウムの龍」.漢字で書けば「鸚鵡龍」となります.漢訳で挟まれている「・嘴・」は,この恐竜の「吻部」が「オウムの嘴」状だったからで,《意訳》になります.

 実は,今,恐竜学名の意味についての辞典をつくっていて,けっこう夢中になってるので,ブログ更新が進んでいません.正確に言うと,「辞書の展開」関連で,昔つくった「学名辞典」の整備を進めている所なんです(もうすぐ,実用レベルに達するはず).
 最近のブログ記事は,実は,それに関係したモンばかりです.

 で,「プシッタコ・」ですが,これが,非道く混乱している.
 正確にいうと,「オウム類」の学名の和訳が混乱しています(それだけでなく,分類自体も相当混乱しているようですが,ここでは立ち入りしません.というか,門外漢である私には言及不可能なようです.ただし,「こんなの(門外漢には理解できない概念)が科学といえるか」という気はする(-_-;).

 ラテン語の「psittacus」は,通常「オウム」と訳されていますが,プシッタクス属[genus Psittacus]は「ヨウム属」です.「ヨウム」は「洋鵡」が語源らしい.
 一方,「オウム属」の学名は「genus Cacatua Vieillot, 1817」.「オウム」は「鸚鵡」ね.
 これだけでも,大分混乱してますね.

 「ヨウム属」は,アフリカ中西部原産の全長30cmぐらいの灰色の鳥.調べた限りでは,一属一種(三亜種ぐらいあるらしい).
 「オウム属」とは,オーストラリア・東インドネシアおよび周辺の島々に生息する直立性の頭冠羽を持つものをいいます.全長40~50cmぐらいの白色の鳥.調べた限りでは一属一種(四亜種ぐらいあるらしい).和名は「キバタン(黄芭旦)」(エッ!,「オウム」じゃあないの!).
 属名の「cacatua」は,マレー語の「kakatua」から.
 英語の「cockatoo」は,マレー語からオランダ語化した「kaketoe」を経由しています.

 なお,もうひとつの「オウム」を意味する英語「parrot」は,フランス語の「perrot」からで,これは「Pierre (Peter)」《男性名詞》の《縮小語》です.


 さて,ここからが(もっと)問題.

 family PSITTACIDAE Illiger, 1811は,通常「オウム科」と訳されていますが,これは「オウム類」を一科とした場合.
 family CACATUIDAE Gray, 1840を成立させたときは,family CACATUIDAE Gray, 1840 =「オウム科」で,PSITTACIDAEは「インコ科」と訳されています(インコは「鸚哥」ね).
 二科に分離せず,一科の場合はPSITTACIDAEが優先され,この場合は「オウム科」と訳される(!).

 さて,order PSITTACIFORMES Wagler, 1830は,「インコ目」とも「オウム目」とも訳されていますね(!!)…(いわせてもらえれば,「インコ形目」とすべきです).

 なお,インコを意味する英語「parakeet」はフランス語の「paroquet」,イタリア語の「parrocchetto」,スペイン語の「periquito」などからきたといわれているが,語源は不明のようです.

 混乱は整理されるべきなんだろうとは思いますが,たぶん,今の日本には「鳥類の分類学」なんてのは成立してないんだろうと思います.基礎科学には金をかけない国ですからね.


 こういった混乱は,(当然)その筋の世界だけでなく,一般市民の世界にも影響します.
 order PSITTACIFORMES Wagler, 1830を「インコ形目」ではなく,「インコ目」と訳すから,これに含まれる生き物は全部「インコ」になってしまう.一方で,「オウム目」とも訳すから「オウム」とも呼ばれる.
 一般市民は(学名を,というよりは“科学者”を盲信してるから),オウムとインコは同レベルで違うものだと思うから,違いを知ろうとして,混乱を深める.

 オウムは,オウム属に含まれるものだけ,つまりは,「キバタン(黄芭旦)」のみを「オウム」と呼ぶべきですね(亜種があると思う人は,それも「オウム」に含めればよい).

 プシッタクス属[genus Psittacus]は「ヨウム属」をやめて,「インコ属」にすべきです.同時に,「インコ属」にも「オウム属」にも含まれないものを(つまり,インコでもオウムでもないものを),「インコ」や「オウム」と呼ぶのを止めなければなりませんが….

 なお,「~インコ」,「~オウム」のほとんどは分類に関係なく,「商品名」と化しているものが多いようですから,これにだまされないように.
 こういうものはたくさんあって,たとえば,「ガラス」と「クリスタル」は相反する概念なのに,「クリスタル=ガラス」なんて言葉がある.
 似たようなことで,「マイナス=イオン」なんて,科学を装った「商品名」(実態があるのかどうかはわからないけど)もあります.
 み~~んな,「地質学者」をやめて「地球科学者」になったのに,「地質学会」を名乗ってる学会もありますしね~~.

 

2009年11月18日水曜日

シーラカンス

 
 先日,“生きた化石”のところで「シーラカンス」を無造作に使ってしまいました.
 反省しております.

 マスコミが「シーラカンス」といっておるものは,「ラティメリア・カルムナエ[Latimeria chalumnae Smith, 1939]」といい,どこにも「シーラカンス」と呼べる要素・由来はありません.

 ちなみに,「ラティメリア」は現地の博物館の学芸員であるラティマー氏(女性)の名前を採ったもの.彼女は問題の標本が重要なものであることを最初に認識し,そのスケッチを記載者であるスミス氏に送りました.「カルムナエ」は発見地のカルムナ川から.合わせ技で,「カルムナ川産のラティメリア」となります.
 現地語では「ゴンベッサ」と呼ぶそうです.


 一方,「シーラカンス」というのは英語の「シーラカンス[Coelacanth]」からきているもので,本当は学名の「コエラカントゥス[Coelacanthus]」属のこと.
 学名は,本来は「英語風読み」なんかしてはいけない.
 英語は,個々の英語の単語の読み方がわかっていないと読めないですから.
 だれが,[Coelacanth]を「シーラカンス」と読むことをあらかじめ知っていないで,読むことが出来ます?
 まあ,でも,英語化してますからしょうがないのでしょうね.だからといって,日本人も「シーラカンス」と呼ばなければいけないわけではありません.学名のほうで「コエラカントゥス」と呼ぶべきものです.

 なお,この学名は「中空の棘のあるもの」という意味です.
 ラテン語「acanth(o)-」には「棘」という意味しかありませんが,ここでは英語の「棘[spine]」が「脊椎」という意味も持つところからの連想と考えてよいでしょう.
 英語圏の人間はかなり強引なのですね.


 コエラカントゥス属はコエラカントゥス科の模式属.
 模式属というのは,すでに死語になっているかとは思いますが,「科」を設定するときの代表的な性格を持つ属のことです.
 分類は,分類学者によって多少の差があるのはしょうがないですが,たとえばWikipediaに示されているコエラカントゥス科は以下のようになっています.

コエラカントゥス科[COELACANTHIDAE]
├アクセリア属[Axelia]
├ティキネポミス属[Ticinepomis]
コエラカントゥス属[Coelacanthus]
└ウィマニア属 [Wimania]

 おや?
 ラティメリア属が入っていませんね.
 ラティメリア属は,ラティメリア科に入れられています.

ラティメリア科 [LATIMERIIDAE]
├ホロプァグス属 [Holophagus]
├リビュス属 [Libys]
├マクロポーマ属 [Macropoma]
├マクロポモイデース属 [Macropomoides]
├メガコエラカントゥス属[Megacoelacanthus]
ラティメリア属[Latimeria]
└ウンディーナ属[Undina]

 じゃあ,コエラカントゥス科とラティメリア科の関係は….

コエラカントゥス形目[COELACANTHIFORMES]
コエラカントゥス科 [COELACANTHIDAE]
├ディプロケルキデス科 [DIPLOCERCIDAE]
├ハドゥロネクトル科 [HADRONECTORIDAE]
├マウソニア科 [MAWSONIIDAE]
├ミグアサイア科 [MIGUASHAIIDAE]
ラティメリア科 [LATIMERIIDAE]
├ラウギア科 [LAUGIIDAE]
├ラブドデルマ科 [RHABDODERMATIDAE]
└ウィテイア科 [WHITEIIDAE]

 うーん.遠いですね.
 これで,「ラティメリア」のことを“シーラカンス”と呼ぶのは,二重,三重くらいに「拙い」ことが,理解できたでしょうか.
 だいたい,発見者のラティマー氏に失礼でしょ.

 問題は,いつ,誰が,ラティメリアのことをシーラカンスと俗称するようになったのかなんですが,これはわかりませんねえ.情報がない.
 日本の科学史は,長期にわたって「なかった」といってもおかしくない状態ですからね.

 また,国立K博の学芸員かな?
 

2009年11月17日火曜日

新生代

 
 「新生代」という言葉を和英辞典で引いてみてください.
 大きめの辞典でないとでていないでしょうけど,たぶん「Cenozoic Era」とでていることでしょう.
 どうもこれが,「アヤシイ」言葉らしい.

 断片的な情報をつなぎ合わせると,「Cenozoic」という言葉は,もともとヨーロッパで「Caenozoic」と綴られていた言葉が,その発音が「seenozoic」に近いというので,米国で使われた“俗語”(というか“俗つづり”).
 ところが,ヨーロッパで使われていたという「Caenozoic」は,もともとフィリップス[J. Philliips]が「Cainozoic」として提唱していたにもかかわらず,使われていた,こちらも“俗語”.

 現在では,俗語の俗語のほうが偉そうな顔をして(主たる語として),辞典類に収まっているという次第.
 酷いことに,caen(o)-やcen(o)-には,ギリシャ語の語源がないにもかかわらず,


 フィリップスは,それまで「第一期[Primary]」・「第二期[Secondary]」・「第三期[Tertiary]」として分けられていた「地質時代」を,曖昧であり混乱の元であるとして,すでにセジウイック[Sedgwick]が提唱していた「Palaeozoic Era」にならい,「Palaeozoic Era」・「Mesozoic Era」・「Cainozoic Era」の三つに分けたのでありました.

 「Cainozoic」は,ギリシャ語の「カイノス[καινός]=「新しい.新鮮な」と「ゾーオン [ζῷον] [zoon]」 =「動物,生物」を組み合わせ,「新しい動物」という英語を造り,さらにこれを形容詞化したもの.
 従って,これだけでは「新しい動物の」という意味しかなく,独立した用語ではありません.だから正式には,「Era」とセットで,やっと「Cainozoic Era」=「新しい動物の時代」という意味になる.

 いい加減なのか,特有の性格なのか,現在の英語では,この形容詞が名詞化してしまって,「Cainozoic」だけで「新しい動物の時代」を意味しています.だから,PCで翻訳をかけると「Cainozoic Era」は「新生代時代」と訳されてしまいます.新生代の地層を意味する「Cainozoic System」は「新生代系」などと訳されてしまう.
 困ったモンです.


 話を戻すと,フィリップスが提唱した元々の「Cainozoic」のcain(o)-はギリシャ語語源を持ちますが,俗語のCaenozoicや俗語の俗語であるCenozoicは,もちろんギリシャ語やその直接の子孫であるラテン語の語源を持ちません.
 それなのに,強引にも,これら俗語や俗語の俗語は,現代の辞典ではギリシャ語の語源を持つように書かれているのが普通です.よく見ると,この記述は,まったく整合性がないことに気付きます.

 ごく最近まで,辞典の記述を盲信しながらも,なぜそうなるのかが理解できなかったのですが,やっと「いい加減である」ことに気付き,理解できた次第.

 困ったモンだ.

 

“生きた化石”

 
 今日もまた,TVでアナウンサーが,「シーラカンスは“生きた化石”です」といっていました.
 この人たちはマッチポンプです.いい加減な言葉を使って,広げて,しばらくたつと「日本語が乱れている」と主張する傾向があります.これもそれの一つかも.

 「生きた化石」という言葉は「存在」しません.
 これは「living fossil」の訳語ですから,「生きている化石」が正しいのです.
 もちろん,「(現在)生きている(化石となっているはず=絶滅しているはずの)化石」という意味です.

 「生きた化石」という言葉の「生きた」は過去形ですから,「(過去に)生きた化石」という当たり前の意味を重ねていることになります.「絶滅したはずだが,生き残ったもの」という意味には,なりません.
 また,日本語としても,奇妙なわけですね.
 「馬から落馬した」みたいな奇妙な日本語です.

 「(現在)生きている化石」という意味を出すためには,現在進行形である「生きている」を使わなければならないわけです.

 驚いたことに,安手の辞典には「生きている化石」ではなく「生きた化石」と出ているものもあるらしい.
 また,Googleで検索してみると,「生きた化石」=327,000件,「生きている化石」=343,000件でした.
 由来のわからない「俗語」が,市民権を得ているというわけですね.

 誰が,こんな言葉を流行らしているんでしょうね.
 「クビナガリュウ」の場合は,国立K博の学芸員が流行らせた俗語だったことがわかってますけど,また,彼らですかね.

 「えっ」,「生きた」には,現在(進行)形の意味もあるって?
 やっぱ,そういうことをいう人がいるんだろうなあ….

 ま,「化石」という言葉自体も,もとは「俗語」ですけどね….

 

2009年11月16日月曜日

親孝行

 
 このところ,昔撮ったVTRをDVDに変換する作業に追われています.

 本当は,昨年中か,今年前半には終わらせておるつもりだったヤツですが,諸般の事情で,年末の今やっています((^^;).
 所有している8mmVTRのデッキの寿命がもう尽きそうなので,切羽詰まってのことです.

 まずは,やはり,娘どもの記録から.

 ダビングは,マニュアル操作ですから,録画時間と同じだけかかります.
 そうすると,見るとはなしに,モニタ画面を見てしまうわけですが,「カワイイ」です((^^;).
 当時は,仕事もあったし,充実していたなあと思います(戦い続けてたもんなあ).

 だれかが言っていましたが,「子供は生まれてから三年ぐらいの間に,一生分の『親孝行』をしてしまう」んだそうです.

 然り

 今,しきりに反省しています.
 あんなに親孝行してくれたのに,今は何を彼女らに要求してるんだろう.
 彼女らが,幸せになってくれればそれでいいではないか.

 先日,近所の老人と話していたら,私の病気の話題になって,なんの加減か「親より先に死ぬなんて,親不孝だ」と言われてしまいました.
 とくに反論はしませんでしたが,多少なりとも「ムッ」ときました.
 が,その理由はよくわかりませんでした.

 今は,よくわかります.
 子供はもう十分親孝行してるので,これ以上何を要求するのか.これ以上,なにかを要求するのは,子供の負担になるだけで,親が“子不幸”をしてるだけなんじゃあないかと思いますね.

 今は,子供たちが生きていくのに「いい時代」か.
 明らかに,今の老人たちの時代より希望がないだろうと思います.
 今の老人たちは,戦争やら,何もなかった時代を過ごしてきたことを言いますが,「努力すれば,すこしでもよくなる時代」だったですね.
 もう,相当前から,「努力だけでは,どうにもならない時代」に突入しているような気がします.

 みんなそう感じているから,“政権交代”が起きた.

 子供が,未来に「希望を持てる時代」になってほしいものだと思います.

 

2009年11月3日火曜日

辞書の展開(20)

 
 今回は,リーポテュプラ大目[grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975]を予定していました.いろいろ調べてみたのですが,正直な話,よくわかりませんでした.

 「リーポテュプラ」類という分類群は,聞き慣れない言葉です.
 どうやら「食虫目[INSECTIVORA]」の定義の変遷に密接に関係あるグループらしい.「食虫目[INSECTIVORA]」は歴史的に,定義が何度となく変わっているらしいのですが,曖昧なまま使われてきたようです.
 一方で,「食虫目[INSECTIVORA]」という分類群名は現在でも普通に使われており(たとえば,阿部永ほか,2005*),我が頭は混乱するばかりです.

 手持ちの教科書を開くと,「食虫目[INSECTIVORA]」関連の記述は,似ていたり,比較が出来ないほど異なっていたり,むちゃくちゃです.「混乱している」の一言で片付けられたりしています.
 何とか,整理しようと試みたのですが,私の手には負えないようです.

The Taxonomiconの記述では,

grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975(リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
├ order incertae sedis
├ ?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998 (アフリカトガリネズミ目)
├ order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(ハリネズミ形目)
└ order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(トガリネズミ形目)

となっています.

 この中には,「モグラ」と,北海道人が「モグラ」と勘違いしている「トガリネズミ」類も入っているので,整理したいところです.が,「リーポテュプラ」全体については,なにかほかの情報が入るまで,ペンディングにさせてください.


●「モグラ」と「トガリネズミ」の違い

grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975(リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
├ order incertae sedis
├ ?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998 (アフリカトガリネズミ目)
│ ├ suborder TENRECOMORPHA Butler, 1972(テンレック形亜目)
│ └ suborder CHRYSOCHLORIDEA (Broom, 1915)(キンモグラ亜目)
├ order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(ハリネズミ形目)
│ ├ superfamily incertae sedis
│ ├ superfamily ERINACEOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Gill, 1872(ハリネズミ上科)
│ └ superfamily TALPOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Novacek, 1975(モグラ上科)
└ order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(トガリネズミ形目)
  ├ superfamily incertae sedis
  └ superfamily SORICOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Gill, 1872(トガリネズミ上科)

  ?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998は「アフリカトガリネズミ目」と訳されています.その中には「キンモグラ亜目」と訳されるsuborder CHRYSOCHLORIDEA (Broom, 1915)がありますが,これらは,「トガリネズミ」でも,「モグラ」でもありません.日本に生息していて,昔から「トガリネズミ」とか,「モグラ」とか呼ばれていたのならともかく,こういう“和訳”は“誤訳”に近いので,やめてほしいものです.悪意すら感じますね.
 ちなみに,表のようにAFROSORICIDAには,TENRECOMORPHAとCHRYSOCHLORIDEAしか含まれていず,「アフリカトガリネズミ」に該当する種も属も存在していません.
 また,「キンモグラ」と訳されているChrysochlorisは「金色の黄緑色」という意味で,モグラという意味はありません.なぜ,こんなに好き好んで,混乱を招くような“和訳”をするのか,まったく不思議です.

 なお,日本では北海道を除く地域に生息する「モグラ」類は「ハリネズミ形目[order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975]」に属し,北海道にも生息する「トガリネズミ」は「トガリネズミ形目[order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975]」に属しています.若干似ているとはいえ,ずいぶんと遠い親戚関係と判断されていますね.

 ちなみに,「ネズミ」は齧歯類であり,「トガリネズミ」は「ネズミ」ではなく,「ソーレックス形」類なので,「トガリネズミ」という名称も混乱を招くモトです.
 しかし,「トガリネズミ」という言葉が,日本語の歴史上どういう意味を持つ言葉なのかが不明なので,この名称の使用の是非については判断できません.ま,誰が使い始めたのかもわからない「用語」が,無責任に使われているということです.


*安部 永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田正明(2005)「日本の哺乳類[改訂版]」(東海大学出版会).



 

2009年11月1日日曜日

鉄人28号

 
 NTTドコモのCMで「鉄人28号」が出演している.

 一度だけ,「鉄人28号」が空を飛ぶシーンを見てしまい,感動した.
 その後,そのシーンが放映されるのを楽しみにしているのだが,未だに出会わない.ロングバージョンの最後のごく短い時間だけ登場するようだ.通常のバージョンでは,その部分はカットされているということらしい.通常のバージョンでさえ,まれにしか放送されないというに….
 だいたい,NTTドコモはTVCMに力を入れていないようで,ソフトバンクのカイ君たちとは雲泥の差だね.

 だいぶ前のことだが,H教育大・岩○沢校で「科学論」(本当は「科学史・科学教育史」)の非常勤をやっていたとき,ネタとして「鉄人28号」を使ったことがある.

 我々の子供時代,大流行したロボットものの双璧の一つが「鉄人28号」だ.もうひとつが「鉄腕アトム」.この二つのロボットは,どちらも,「科学技術」のシンボルなんだが,決定的な違いがある.
 鉄人はリモコンで操作される.鉄人自体に意志はない.科学技術は「両刃の剣」であるという横山光輝のメッセージだ.

 悪用されても,「科学技術」自体には,責任はない.
 しかし,「それ」を造り出した科学者・技術者には責任がある.少なくとも,太平洋戦争で負けたときには,多くの科学者・技術者がそう思った.地団研が結成されたのは,このことがきっかけであると聞いている.
 時代が移り,日本中が好景気に浮かれていた.しかし,その影で汚染物質に泣いている人たちがいた.科学者たちは,すでに,事実を隠蔽する側と発掘する側に分かれていた.

 ベトナム戦争が激化する中,大量殺戮に荷担する科学者たちが糾弾された.
http://socrates.berkeley.edu/~schwrtz/SftP/Jason.html
 金と地位を得た「戦争教授」たちには,糾弾は「屁」でもなかったようだ.

 世の中平和になった.とくに日本は.
 そんな中,すでに記事「ネメシス」で紹介しているように,日本の科学者は手放しで,ジェイソンのメンバーであるアルヴァレズを「天才」と褒めちぎった.再記しておくと,アルヴァレズは原爆開発チームの主要メンバーであり,日本への原爆投下チームのメンバーでもある.彼は,日本上空に立ち昇る「キノコ雲」を現場で観察・記録していた.
 すでに,「『科学技術』自体には責任がない」が,「『科学者』には責任がない」にすり替わっているようだ.
 もちろん,こういう科学者の意識の変化と並行して,地団研は力を失っていった.今では,地団研自体が「悪鬼」の様にいわれている.
 

 鉄人28号には意志がない.
 他方,「アトム」は意志を持っている.
 意志を持っているが故に人間と対立し,人間とロボットの調和がテーマになる.「差別」も時々顔を出す.表向きは「科学技術」がテーマだが,実は人間同士の葛藤がテーマだ.ロボット三原則に拘束されたアトムは,人間のために死を選ぶしかなかった.

 アトムはそもそも,誕生自体に「いわく」がある.
 世のため人のため,工場でオープンに生み出されたロボットではなく,不慮の死を遂げた子供の身代わりとして,たまたま科学者であった父親がプライベートな目的で生み出したものだ.絵柄や表向きの明るさとは異なり,背後には私生児的な暗さがある(もちろん,こういう事情が手塚漫画の深さに直結している).
 「アトム」は科学の問題としては,単純には扱えない難しさがある.


 少し遅れてやってきたヒーローに,「8マン」がいる.
 表向きは,スーパーマンを実現するために生み出されたサイボーグである.
 この当時のアメリカンコミックスのスーパーマン類は「力」を誇示・礼賛した単純なヒーローものばかりだったが,日本版の「スーパーマン」=「8マン」は違った.科学の力で「人間ではないもの」にされてしまった「人間」の「苦しみ」がテーマだった.

 原作者の平井和正には,「サイボーグ・ブルース」という小説がある.小説であるが故に主人公であるサイボーグ=「人間でないものにされてしまった人間」=「8マン」の苦しみが,よりはっきりと表れている.
 科学はどこまで行き着くのかという意味での議論の題材になる.人工臓器の出現や,臓器移植の実現で,現実味を増してきているのも都合がよい.
 これは,人間の「死」の問題にも直結している.人間に「死」を宣告するのは臓器移植を前提とした科学か,人間として死ぬことを選ぶ「人間の感性」か.
 議論は広がる.

 最後は「科学が善か悪か」ではなく,「(善悪を判断する)人間としての感性」を磨くことのほうが重要であるという結論を導き出してほしいというのが目的でした.
 こういう授業をもっとやりたかったなァ.

 と,鉄人28号が空を飛ぶ姿を見ながら考えた(想い出した).

 「飛べ,鉄人!」

 ちなみに,空を飛ぶ鉄人の勇姿は(最後の一瞬だけですが)NTTドコモのHPで見ることが出来ます(04 「CMを見る」をクリック).
 

2009年10月23日金曜日

人気者

 
 最近,TVが面白くなくなった.

 どのチャンネルを見ても,似たような顔ぶれで,似たような番組をやっている.
 とくに思うのが,なんで「こんなやつがTVに出てんだ」というタレントがものすごく多い.“不快キャラ”だと思うけど,世の中全体ではそう思われてはいないらしい.好感度No. 1だったりする.

 「人気があるんだから,しょうがないじゃあない」といわれる.
 「こんなやつが人気があるの?」と聞くと,「人気があるから,TVに出てるんじゃあない」といわれる.

 私は「ひねくれ者」だから,そうは思わない.
 「人気があるから,TVに出てる」んではなくて,「TVに出てるから,人気がある」んだろうと思う.
 「TVCMでやってるから買ってみる人」はたくさんいるが,ある日フラリと立ち寄った小さなお店で,ものすごくおいしい料理を出していたからといって,「なぜこれをTVで宣伝しない」という人はいない.

 「いいから(TVに)でる」わけじゃあない.
 お金払って,TVに出しているから,TVに出ているのだ.

 一方で,ものすごく有能なタレントが,「一発屋」というレッテルを貼られて,面白いのにもかかわらず,中央からほど遠い我々地方人の目の前に姿を現すことがなくなる(中央では,あちこちに小さなライブハウスがあるそうだ).
 この間,(島田)紳助が,ある番組で言っていた.
 「一発屋」というレッテルを貼られた芸人にたいして,TV局の廊下ですれ違ったプロデューサーがこういう.「久しぶりだなあ.どうしてる?」
 紳助が突っ込む.「おまえが使わんからじゃ」

 たくさんの有能なタレントが,スポンサーやプロデューサーの「好み」だけで,日陰者になっているそうだ.人気がないから出られないのじゃあなくて,単にTV界の「大ボス」・「小ボス」の「好み」でそうなっているのだ.

 そういう目でみると,紳助の番組では,「一発屋」と呼ばれて,TV界から姿を消しているタレントが,意図的に使われている(忍び込まされている)ことに気付く(紳助は,けっこうイイヤツなんだな).

 日ハムが北海道に来るまでは,北海道にはジャイアンツ・フアンとアンチ・ジャイアンツ・フアンしかいなかった.しょうがないだろ.TVじゃあ,ジャイアンツ戦しかやらないんだから.
 野球フアンじゃあなくて,ジャイアンツ・フアンだったんだな.昔は.
 
 「ニュース番組」という「バラエティ」で,一般市民を装った人たちが,報道プロデューサーに都合のいい意見を述べている.しばしば,時の政府に都合のいい意見だったりする.何回も繰り返される.立ち止まって考えようという意見はない.
 「消費税」の時も,「郵政民営化」の時もそうだった.
 TV番組でいってる意見を,(“人気があるから”)自分の意見にしてしまう人たちが,酷く多いのではないかと危惧する.

 こういう世界では,自分の頭でものを考える(あるいは考えようとする)人たちというのは,「一発屋」のレッテルを貼られて,表世界から姿を消してゆくのではないかとも疑ってみる.

 一月ぐらい入院して,新聞もTVも見ない生活をしてごらん.
 いかに世の中ゆがんでいるかということに気がつくよ.
 もっとも,病室にも,TVと新聞が陣取ってるけどね.
 

2009年10月21日水曜日

辞書の展開(19)

 
 つぎは熊小目[parvorder URSIDA Tedford, 1976]の姉妹群である鼬小目[parvorder MUSTELIDA Tedford, 1976]です.

 鼬小目は三つの科に別けられています.

parvorder MUSTELIDA Tedford, 1976(イタチ小目)
├ family MUSTELIDAE (Fischer, 1817) Swainson, 1835 (イタチ科)
├ family MEPHITIDAE Bonaparte, 1845(スカンク科)
└ family PROCYONIDAE (Gray, 1825) Bonaparte, 1850 (アライグマ科)

 いずれも,現生種が多く含まれているかですから,イメージはしやすいことでしょう.
 特にイタチ科は絶滅種(化石種)も含めると,実に巨大なグループで,大成功した仲間であることが実感できます.


●イタチ科[family MUSTELIDAE (Fischer, 1817) Swainson, 1835]
 イタチ科は絶滅グループも含めると,以下の6科(+1)に別けられています.

family MUSTELIDAE (Fischer, 1817) Swainson, 1835 (イタチ科)
├ MUSTELIDAE incertae sedis
├ subfamily LUTRINAE (Bonaparte, 1838) Baird, 1857(カワウソ亜科)
├ subfamily MUSTELINAE (Fischer, 1817) Gill, 1872(イタチ亜科)
├ subfamily †LEPTARCTINAE Gazin, 1936(レプタルクトゥス亜科)
├ subfamily MELLIVORINAE (Gray, 1865) Gill, 1872(メッリウォラ亜科;ラーテル亜科)
├ subfamily GULONINAE (Gray, 1825) Miller, 1912(クズリ亜科)
└ subfamily MELINAE (Bonaparte, 1838) Burmeister, 1850(アナグマ亜科)

 MUSTELIDAE incertae sedisは,ほかの6科を成立させるための“ゴミ捨て場”的存在.
 たぶん,ほかの6科にはない,多様な特徴もしくは原始的な特徴を持っているのでしょう.ここに含められている Genus †Potamotherium Saint-Hilaire, 1833(後期漸新世~前期中新世のヨーロッパ,中新世の北米に生息)はカワウソ亜科の先祖形と考えられていたものです(Pickford, 2007).

・カワウソ亜科[subfamily LUTRINAE (Bonaparte, 1838) Baird, 1857]
 「獺・川獺(かわうそ)」は,もともと日本産のLutra lutra (Linnaeus, 1758)もしくはLutra lutra whiteleyi Gray, 1867あるいはLutra lutra nippon Imaizumi et Yoshiyuki, 1989を呼ぶ日本語の俗称でした.これら三亜種が,どういう関係にあるのかは,判断材料を持ち合わせていませんし,ほぼ絶滅したと考えられる現在あまり意味もありませんので,置いておきます.
 民俗学的な記載による「かわうそ」は,ほぼ妖怪といってよく,カワウソ類の愛らしい外見や行動,それらを見たときに起こすであろう日本人の感情から考えれば,“かわうそ”とLutra sp.とは本当に同じものか疑問を生じてしまいますが,縄文-弥生期の遺跡からはLutra lutra (Linnaeus, 1758)とされる遺体が産出していますので,過去にLutra sp.が生息していたのは事実のようです.

 それで,少なくとも一時期は,「カワウソ」は日本在来のLutra sp.を示す言葉であったはずですが,日本国内での絶滅を背景に,カワウソ類全体を表す言葉に変化してきているようです.
 ところで,カワウソ亜科は以下の三つの族(+1)に区分されていますが,tribe LUTRINIを「カワウソ族」と訳すのは,まあいいのですが,これに含まれている一種であるLontra felina (Molina, 1782)はカワウソとはいいながら,海域も生息域としていて,英名は「marine otter」.なぜこれが問題かというと,もっぱら海域に生息しているラッコ[sea otter]は,ラッコ族[tribe ENHYDRINI (Gray, 1825) Sokolov, 1973]として別の「族」を形成していると考えられているのです.ま,系統的に違うと考えられているので,生息域が海域か陸水域かは,あまり意味がありませんが.
 一方で,tribe AONYCHINI (Sokolov, 1973) Davis, 1978は適当な訳語がありません.原則からいえば,ツメナシカワウソ属[genus Aonyx Lesson, 1827]をtypeにしてますから“ツメナシカワウソ族”であるべきですが,“ツメナシカワウソ”は英名の「clawless otters」の直訳で,otter自体は“カワウソ”も“ラッコ”も含んでいますから,「~カワウソ」と訳すこと自体が不自然なのです.
 
subfamily LUTRINAE (Bonaparte, 1838) Baird, 1857 (カワウソ亜科)
├ LUTRINAE tribe incertae sedis
├ tribe LUTRINI (Bonaparte, 1838) Sokolov, 1973(カワウソ族)
├ tribe AONYCHINI (Sokolov, 1973) Davis, 1978(アオニュクス族)“ツメナシカワウソ”,“コツメカワウソ”
└ tribe ENHYDRINI (Gray, 1825) Sokolov, 1973(ラッコ族)

 これらは,みな,生息域の中心を陸上から水域に移したことによって成功したグループですね.胴長短足の愛らしい姿は,水中生活への適応を現しています.

・イタチ亜科[subfamily MUSTELINAE (Fischer, 1817) Gill, 1872]
 イタチの仲間は結構猛烈なファイターなんですが,その外見は「愛らしい」のが普通です.
 イタチというと,長めの胴体と短い足,立派な毛皮をイメージしますね.この特徴はラッコと同じ水中生活への適応だと思うんですが,そういう話には,まだ,であっていません.ひょっとして,私オリジナルの仮説?

 The taxonomiconの「イタチ亜科」は,記述が間違っているようで,理解ができません.
 tribe †ICTONYCHINIが絶滅グループとして扱われ,その他の属はすべて独立したグループとしておかれています.その中には,「ゾリラ[genus Ictonyx Kaup, 1835]」もありますから,矛盾していることは一目でわかります.理解不能ですので,略します.


・レプタルクトゥス亜科[subfamily †LEPTARCTINAE Gazin, 1936]
 レプタルクトゥス亜科は絶滅三属からなるグループ.情報があまりに少ないので省略.


・メッリウォラ亜科(ラーテル亜科)[subfamily MELLIVORINAE (Gray, 1865) Gill, 1872]
 このグループには10属あまりの化石種が知られていますが,現生種はMellivora capensis (Schreber, 1776)のみ.各属は並置しておかれており,系統関係はよくわからないらしい.亜科そのものは,イタチ科の中では,非常に原始的なグループのようです(Bininda-Emonds et al., 1999).
 ラーテル[Ratel]という呼び名は,南アフリカの所謂アフリカーンスらしい.
 以前は英名「honey badger」をそのまま和訳した「ミツアナグマ(蜜穴熊)」という和名が用いられていたようです.アナグマの仲間ではないので,「~アナグマ」という言葉を使わなくなったのはいい傾向ですね.現地語を使うというのは,さらにいい傾向と思います.しかし,採用するならネイティブ・アフリカンの言葉を使ってほしいものです.


・クズリ亜科[subfamily GULONINAE (Gray, 1825) Miller, 1912]
 「クズリ」はシベリア原住民の言葉らしい.これはいい傾向ですね.
 日本語では,これに「屈狸」という当て字をしています.英語では「ウルヴァリン[Wolverine]」.映画「X-MEN ZERO」の「ウルヴァリン」ですね.
 この亜科の現生種は「クズリ[Gulo gulo (Linnaeus, 1758)]」のみ.化石種も発見例が少なく,化石による類縁関係はよくわかりません.遺伝子の分析では,イタチよりはテンに近いグループで,テン類の祖先形とされているようです.

 ここで一つ疑問.
 「クズリ」は日本付近には生息していないのに,なぜ「屈狸」という当て字が必要だったのでしょうね.機会があったら,調べてみましょう.


・アナグマ亜科[subfamily MELINAE (Bonaparte, 1838) Burmeister, 1850]
 アナグマ亜科に属する化石は10を越える属が発見されています.
 ここで,現生種を含む属は以下の三つ.

├ genus Meles Brisson, 1762 (アナグマ:Old World badger)
├ genus Arctonyx F. G. Cuvier, 1825 (ブタアナグマ:hog badger)
└ genus Melogale Saint-Hilaire, 1831 (イタチアナグマ:ferret-badgers)

 日本産の「アナクマ」は「メレス属[Meles]」に属し,「タイリクアナグマ[Meles meles meles (Linnaeus, 1758)]」の亜種「ニホンアナグマ[Meles meles anakuma Temminck, 1844]」とされる場合と,同属別種とされる場合があるようです.遺伝子的にはどうなんでしょうかね.
 なお,上記の通り,英語の「badger」は異なる属にも使われており,「badger」を「アナグマ」と訳すことには違和感があります.Arctonyxの“和名”も,“和名”とはいいながら,単に英名の直訳に過ぎません.生息地は東南アジアなのですから,現地名を使用すべきと思いますね.「ブタアナグマ」は無神経すぎますね.
 それは Melogale についても,まったく同じです.使用する名前は現地名を探索すべきで,「イタチアナグマ」は無神経すぎます.

 また,「アナグマ」は,欧米人にとっては「Old World badger」でもいいのでしょうが,非-欧米人にとっては「Old World」-「New world」は不快な言葉です.この語の使用は人種差別の臭いがプンプンするのにもかかわらず,平気であちこちに使われているのが不思議です.
 さらに,Meles meles meles (Linnaeus, 1758)の英名も,「Europian badger」であり,ヨーロッパ人がそう呼ぶのはかってですが,シベリアを除くアジア大陸のほぼ全域に生息してるのですから,「Asian badger」であるべきですね(シベリアも歴史経過を考えればロシアのものじゃあないです).百歩譲っても,「Eurasian badger」でしょうね(漢字圏で使うときには「亞細亞大陸産」を主張しましょう;こういう無神経な差別用語の使用が無くなるまでは…).


●スカンク科[family MEPHITIDAE Bonaparte, 1845]
 スカンク科には,絶滅種を除くと,四属が入れられています.

family MEPHITIDAE Bonaparte, 1845(スカンク科)
├ 絶滅属を省略
├ genus Mydaus Cuvier, 1821 (スカンクアナグマ属:Stink badger)
├ genus Spilogale Gray, 1865 (マダラスカンク属:Spotted Skunk)
├ genus Mephitis Saint-Hilaire et Cuvier, 1795 (スカンク属:Skunk)
└ genus Conepatus Gray, 1837 (ブタバナスカンク属:Hog-nose Skunk)

 このうち,「スカンクアナグマ属(酷い命名!)[genus Mydaus]」はイタチ科アナグマ亜科に入れられている場合もあるようです.
 “和名”は酷すぎて,触れる気もおきません((- -;).
 日本にはいない動物たちですから,放っておきますか.


●アライグマ科[family PROCYONIDAE (Gray, 1825) Bonaparte, 1850]
 アライグマ科には,ゴミ捨て場的にいろんな動物が含まれているような気配があります.とくに,南アジアの山岳地帯を住処にしているグループは,発見が遅かったものが多く,そう感じるのかもしれません.どれも,日本には生息していない種であることもあるのでしょう.

family PROCYONIDAE (Gray, 1825) Bonaparte, 1850
├ PROCYONIDAE subfamily incertae sedis (アライグマ科所属位置不詳)
├ subfamily BASSARISCINAE (Gray, 1869) Pocock, 1921(カコミスル,オリンゴ,キンカジュー)
├ subfamily PROCYONINAE (Gray, 1825) Gill, 1872(ハナグマ,アライグマ,ヤマハナグマ)
├ subfamily †SIMOCYONINAE (Dawkins, 1868) Zittel, 1893(絶滅グループ)
└ subfamily AILURINAE (Gray, 1843) Trouessart, 1885(レッドパンダ)

 アライグマ亜科[subfamily PROCYONINAE]は,南米-北米の熱帯から温帯までの広い範囲に分布し,北米ではカナダ南部まで達しています.アライグマは世界各地に移入され,とくに日本では爆発的に増えていますね.
 バッサリスクス亜科[subfamily BASSARISCINAE]も,中南米を中心に広い範囲に分布しています.
 一方で,残りのアライグマ科のメンバーであるレッドパンダ[Ailurus fulgens Cuvier, 1825]は,南アジアの山岳地帯のみに生き延びています.アライグマ科でひとくくりにするのは,なんか違和感があります.

 「レッドパンダ」は,日本では「レッサーパンダ」と呼ばれています.
 英語の「レッサー[lesser]」には,「小さい」という意味と同時に「劣るもの」という意味がつよくあり,英語圏では「レッドパンダ[Red Panda]」が使用されるようになってきているそうです.
 日本人は結構無神経? 
 そういえば,いわゆる和名でも,小さくてカワイければ「ヒメ~」とよばれ,カワイくなければ「チビ~」と無神経に呼び分けられていますね.
 ある生物学者がいってましたが,カワイかったり,キレイだったりすれば,すでに国内では絶滅しているのにもかかわらず,海外から輸入してでも,膨大な予算をかけて復活劇を演じますが,彼らが喰うカエルやイモリは絶滅が心配されていても,誰も見向きもしないんだそうです.
 カワイくないのでね.

 そういえば,移入種は,カワイくなかったり,繁殖力が旺盛だったりすれば,「遺伝子汚染」とも呼ばれてますね.「自然保護」やら「野生生物保護」という標語に,素直に賛成できない理由の一つですね.あいまいな,人間の価値判断基準が,優劣の無いはずの野生生物たちの運命の明暗を分けているような気がするからです.
 アライグマだって,カワイいと思われたから輸入されたのに,思いのほか,頑固で気の荒いヤツだったので,「害獣」に落とされてしまいました.すべて,人間の側の都合ですね….

 「パンダ」は,もともと,「レッドパンダ」のことを示すネパール語だったそうです.
 のちに,いわゆる「(ジャイアント)パンダ」が発見されて,元々のパンダは「レッサー~」をつけられるようになってしまいました.そのうち,「パンダ」といえば,「G-パンダ」を示すことになってしまい,元々のパンダは忘れ去られてしまいました.G-パンダよりカワイくなかったのでね.
 原産地のパンダ外交があまりにも露骨だったからかどうかわかりませんが,分家パンダ熱が少し冷めたら,本家パンダのカワイさが再評価されるようになってきました.
 それまで,片隅の小屋に閉じ込められてた本家パンダは,少しいい部屋に移動しましたね.
 それでも,まだ,日本ではいまだに「劣る-パンダ」と呼ばれています.カワイそ.


 バッサリスクス亜科の「カコミスル[cacomistle]」や「オリンゴ[olingo]」は,現地語のようですね.いい傾向だと思います.
 ところが,同亜科の「キンカジュー」は,北米原住民の「クズリ」を示す言葉をフランス人が勘違いして,「キンカジュー[quincajou]」(仏語)と呼び,それを英語化して「キンカジュー[kinkajou]」となったという説があります.あるTV番組のテロップで「金華獣」とかでてたので,てっきりアジア産の生物かと思っていたら,まったく違いました.マスコミももう少し考えてほしいよね.
 ちなみに,キンカジューは中南米の熱帯産の動物です.現地ではなんと呼ばれているのか,知りたいところですね.

 

2009年10月9日金曜日

辞書の展開(18)

 
 このシリーズ,予想外に長くなりすぎて,何をやってるのかだんだんわからなくなってきました.ついでに,このシリーズ,かなり飽きてきました((^^;).
 一方で,「生命潮流」というのは,簡単には把握できないほど,膨大なモンだということが実感できてます.ものすごく,おおざっぱにやってるのに,まだ現生種のほとんどのグループの,その概略さえ把握できてません.もっともっと,おおざっぱにやる必要がありそうです.

 なお,今,三中信宏の「分類思考の世界」を読んでいます.
 この人は幸せな人ですね.
 こんなことを考えながら,それを仕事として一生暮らせるんですからね.文章は,グールド並みにうまいですが,グールド並みに回りくどいのも同じです.
 よく読むと,意味ないことを書いて,結論もない.なにかを伝えたいという気持ちもあまりないようで(本当は,読書量が多すぎて,引き出しが多すぎて,饒舌すぎて,何が言いたいのかよくわからないようになってるんでしょう),これで(この本を書くことで)小遣い稼ぎができてるなら,本当に幸せな人ですね(原稿料というのは,確か1文字/円なので,意味があろうがなかろうが,文字数が多ければ儲けられると,筒井康隆が書いてましたね).

 たとえば,冒頭に「日本最低の山と日本最短の川」の話題が出てきますが,(作者は)問題自体が設定できないことをご存じで,(ある意味,読者をバカにして)この話題を選んでいるのでしょう.
 「山は高い」から山で,「川は性質上分枝しているのが普通だ」から川です.
 (高さ自体を問題にすれば)一番低い山は,日本海溝のどこかにあるというのが正解.
 川は人間の都合で複合体とみなされてますが,本質は「合流して流れるひとつの水のかたまり」で,適当にどこかを切って,その支流(や部分)に名前をつけたって,それは(人間の都合であって)「川」ではないですね.
 こんな話題なら,いくらでもできる.
 「一番赤くない赤」はどんな「赤」とか,「空の一番高いところはどこ」とか….一番浅い海はどことかね.

 たぶん,読み進めていけば,「種の定義は困難である(にもかかわらず,人間はそれをやる)」という話なんでしょうけど,もっと簡単にかけんのかね.

 化石をやってる立場からは,「種の定義」は簡単.
 形を言葉で定義できて,決まった地層から産出すれば,それでOK!.
 極端な言い方をすれば,それは「生物でなく」たってかまわない.「リアルに使えれ」ばそれでいいわけです.

 現世・生物学者のこんな作業は「言葉の遊び」にしか,思えないですね.それはそれで,面白い部分もあるんですが….
 言葉の遊びではなくリアルな部分では,ここで苦労しているとおり,現実に(存在して)生きている生物の分類もろくにできていない.分類学者はみな,その看板を下ろしてほしいと思うものです.
 ただ,もう,分類学者そのものが絶滅寸前だという話をどこかでみましたが….


 さて,それでは,クマ上科の姉妹群である「アザラシ上科」について見てみますか.

●アザラシ上科[superfamily PHOCOIDEA (Gray, 1821) Smirnov, 1908]

 ここで何に苦労していたかというと,分類体系そのものより,学名-英名(もしくは現地名)-和名(和訳名もしくは俗名)の混乱です.食肉目に“ネコ目”という和名を与えるのは論外ですが,そうでなくても,むちゃくちゃな“和名”-俗名が氾濫しています.
 「学名」-「学名の和訳」-「和名」-「俗名」が渾然として使われているのが実態のようです.

 そうでなくても,(とくに日本語の現地名をもたない生物の)“和名”には,差別用語や不快語が蔓延しているのが実態ですし,言葉として実用的でなかったりするものも,ずいぶんあります.
 そういうのは,勝手に整理させていただきました(今回は,それだけで終わりそう(^^;).

 まずは,科レベルのおおざっぱな体系から….

superfamily PHOCOIDEA (Gray, 1821) Smirnov, 1908(アザラシ上科)
├ PHOCOIDEA incerate sedis
├ family OTARIIDAE (Gray, 1825) Gill, 1866 (オータリア科)
└ family PHOCIDAE (Gray, 1821) Gray, 1825 (アザラシ科)

         from The Taxonomicon

 superfamily PHOCOIDEA(アザラシ上科)はに,三つのグループに大別されています.
 一つ目は,PHOCOIDEA incerate sedis=分類不詳のグループ(寄せ集め)ですが,これはすべて絶滅種なので省略します.簡単に言えば,後の二つの分類を成立させるために,余分なものを排除したと考えればいいでしょう.
 そこで,残りの二つは,family OTARIIDAEとfamily PHOCIDAEです.


 family OTARIIDAEは,“アシカ科”という訳が“普通に”使われているようですが,アシカとオータリアは別な生き物のグループで,ここではオータリアが代表名として使われていますので,「オータリア科」を使わせていただきます.

family OTARIIDAE (Gray, 1825) Gill, 1866 (オータリア科)
├ subfamily incertae sedis
├ subfamily ARCTOCEPHALINAE (Gray, 1837) von Boetticher, 1934(オットセイ亜科)
└ subfamily OTARIINAE (Gray, 1825) Mitchell, 1968(オータリア亜科)

 子供のころ,アシカ(と,習った生き物)のことを,いつのまにか「オタリア」と呼ぶ人が増えていたので不思議に思いました.(その後,いい加減に過ごしていたのですが,)今回調べてみてやっと納得できました(遅い!(^^;).

 アシカは実は日本語.
 「葦鹿」がその語源だとされています.つまり,葦が生えているようなところにいる鹿(シカ)ということらしいです.
 俗名アシカに対応する学名はZalophus japonicus (Peters, 1866)なんですが,これは1950年代ころに絶滅したと考えられています.従って,私が見たことのある(アシカだといわれて,そう思っていた)生き物は,北米沿岸産のZalophus californianus (Lesson, 1828)か,南米沿岸産のOtaria byronia (De Blainville, 1820) のどちらか.つまり,輸入物ですね.
 Z. japonicusZ. californianusは同一種(つまり,japonicuscalifornianusのシノニム)だとされるのが一般的ですが,絶滅した今となってはどうでもいいようなものですね.つまり,日本人がアシカだと思ってきたものは(元種が絶滅したこともあり)一つの種(もしくは亜種,もしくはシノニム)ではなく,ああいう形をした生き物全体をイメージする言葉に変わりつつあったわけです.
 だからといって,オータリアから由来している学名の和訳を,アシカとしていいということにはなりませんね.全然別なものと判断されてるわけですから.
 ま,なおらんでしょうけど((^^;).

 一方で,「オットセイ」という日本語もあります.
 語源は,アイヌ語であるとも,それから漢字化した中国語であるともいわれています.
 このオットセイに対応する学名はCallorhinus ursinus (Linnaeus, 1758)です.
 松浦武四郎が蝦夷地を探検したころには,よく見られたもののようで,記録に残っていますが,現在では千島列島沿いに,希に日本にやってくる程度のものらしいですね.



 The Taxonomiconの分類では,このオットセイはオータリア科・亜科分類不詳に入ります.

family OTARIIDAE
├ OTARIIDAE incertae sedis
│ └ Callorhinus ursinus (Linnaeus, 1758)
├ subfamily ARCTOCEPHALINAE
│ └ genus Arctocephalus Saint-Hilaire et Cuvier, 1826
└ subfamily OTARIINAE
  └ genus Otaria Pe’ron, 1816
            (話に無関係な部分は省略してある)

 これ(亜科分類不詳グループ)は,オータリア科の中で,アルクトケプァルス亜科[subfamily ARCTOCEPHALINAE]とオータリア亜科[subfamily OTARIINAE]を成立させるための方便と考えるとわかりやすいでしょう.
 つまり,オットセイ[Callorhinus ursinus]とアルクトケプァルス[Arctocephalus]はまったく別の分類群(亜科レベルで異なる)とされているわけですね.ところが困ったことに,日本の分類学者はこのオットセイに“キタオットセイ”の和名を,アルクトケプァルスには“ミナミオットセイ”の和名を与えています.
 なぜ,こんな名称を与えたのか,よくわかりませんが,たぶん,これは「英名」からきているのだと思われます.英語圏の人間はこの両方に毛皮海獣[fur seal]と呼んでいます.北半球にいるから北毛皮海獣[northern fur seals],南半球にいるから南毛皮海獣[southern fur seals]というわけですね.英語圏の人間の海獣に対する価値観は放っておくとして,これをキタオットセイとミナミオットセイに和訳したのは恥ずかしいですね.この「英名」は通常の「名前」ではなく,生息地に住む現地の人の「呼び名」でもなく,利用するためダケの単なる「符丁」ですから,参考にする必要はまったくなかったのです.
 Callorhinus ursinusは,日本古来の呼び方を重視し「オットセイ」とし,Arctocephalus属は日本にはいないので名前がなかったのですから,そのまま「アルクトケプァルス」と名付ければ良かったのです.あるいは模式種の生存地域の現地名を採用するべきでした.
 
 なお,subfamily OTARIINAE (Gray, 1825)は,五つの属に分けられ,それらはどれも一属一種です.なにか,とても不自然ですね.“和名”も属レベルで異なるとされているのに,(つまりアシカではないものにも)○○○アシカと振られていて,これまた不自然です.
 たぶん,全体で一属五種ぐらいなんだと思いますが,DNA的にはどうなのか,論文を見てみたいところです.

subfamily OTARIINAE (Gray, 1825) Mitchell, 1968
├ genus Eumetopias Gill, 1866 (エウメトピアス属)
│ └ Eumetopias jubatus (Schreber, 1776) (トド:Steller sea lion)
├ genus Otaria Pe’ron, 1816 (オータリア属)
│ └ Otaria byronia (De Blainville, 1820) Peters, 1866 (オータリア:South American sea lion)
├ genus Zalophus Gill, 1866(ザロプゥス属)
│ └ Zalophus californianus (Lesson, 1828) (カリフォルニアアシカ:California sea lion)
├ genus Neophoca Gray, 1866 (ネオプォーカ属)
│ └ Neophoca cinerea (Péron, 1816) (オーストラリアアシカ: Australian sea lion)
└ genus Phocarctos (Peters, 1866)
  └ Phocarctos hookeri (Gray, 1844) (ニュージーランドアシカ: Hooker’s sea lion, New Zealand sealion)


 さて,オータリア科の姉妹群であるアザラシ科[family PHOCIDAE (Gray, 1821)]について,見てみましょう.
 アザラシ科はオドベヌス亜科[subfamily ODOBENINAE (Allen, 1880)]とプォーカ亜科[subfamily PHOCINAE (Gray, 1821)]に分けられています.
 ここで,オドベヌス属は絶滅種を除いた現生種は一種だけです.それは日本名「セイウチ」のことですので,オドベヌス亜科は「セイウチ亜科」と訳して問題ないでしょう.
 また,この亜科内では,その他の分類群もすべて絶滅種からなっており,アザラシ科の中では,セイウチはかなり特殊な生き残りということになりそうです.

family PHOCIDAE (Gray, 1821) Gray, 1825 (アザラシ科)
├ subfamily ODOBENINAE (Allen, 1880) Mitchell, 1968(セイウチ亜科)
│ ├ ODOBENINAE incertae sedis
│ ├ tribe †DESMATOPHOCINI (Hay, 1930) Tedford, 1997
│ └ tribe ODOBENINI (Allen, 1880) Deme're', 1994(セイウチ族)
│   ├ subtribe incertae sedis
│   ├ subtribe ODOBENINA (Allen, 1880) Tedford, 1997(セイウチ亜族)
│   └ subtribe †DUSIGNATHINA (Mitchell, 1968) Tedford, 1997
└ subfamily PHOCINAE (Gray, 1821) Gill, 1866 (アザラシ亜科)
  ├ PHOCINAE incertae sedis
  ├ tribe PHOCINI (Gray, 1821) Chapski, 1955(アザラシ族)
  └ tribe MONACHINI (Gray, 1869) Scheffer, 1958(モナクス族)
    ├ subtribe MONACHINA (Gray, 1869) Tedford, 1997(モナクス亜族)
    └ subtribe LOBODONTINA (Gray, 1869) Tedford, 1997(ロボドン亜族)
 
 一方のプォーカ亜科も,アザラシ亜科と訳して良さそうですが,困ったことに,上位分類群の名称の元になっているプォーカ属自体は“ゴマフアザラシ属”と訳されていることが多いようです.統一してほしいものです.
 Phoca属の模式種は,ゴマフアザラシと呼ばれているPhoca largha Pallas, 1811ではなく,ゼニガタアザラシであるPhoca vitulina Linnaeus, 1758とされていますので,やるのなら「ゼニガタアザラシ属」であるべきです(上位分類群もゼニガタアザラシの名を冠するべき).まったく不自然ですね.

 以下,プォーカ亜科はアザラシ亜科と訳す前提で話を進めます.
 アザラシ亜科は,三つに分けられてます.

subfamily PHOCINAE (Gray, 1821) Gill, 1866 (アザラシ亜科)
├ PHOCINAE incertae sedis
├ tribe PHOCINI (Gray, 1821) Chapski, 1955(アザラシ族)
└ tribe MONACHINI (Gray, 1869) Scheffer, 1958(モナクス族)

 例によって,最初にアザラシ亜科所属位置不明がきます.これはアザラシ族とモナクス族を成立させるための方便ですね.これ(所属位置不明)には,二属の絶滅種が含まれています.が,絶滅種ですので略します.
 アザラシ族には,七属の絶滅グループと4属10種の現生種が含まれています.現生種だけを取り出しますと…,

tribe PHOCINI (Gray, 1821) Chapski, 1955(アザラシ族)

├ genus Phoca Linnaeus, 1758 (アザラシ属)
│ ├ Phoca groenlandica Erxleben, 1777 (タテゴトアザラシ: harp seal)
│ ├ Phoca hispida Schreber, [1775] (ワモンアザラシ: ringed seal)
│ ├ Phoca sibirica Gmelin, in Linnaeus, 1788 (バイカルアザラシ:Baikal seal)
│ ├ Phoca caspica Gmelin, in Linnaeus, 1788 (カスピカイアザラシ:Caspian seal)
│ ├ Phoca largha Pallas, 1811 (ゴマフアザラシ:Larga seal)
│ ├ Phoca vitulina Linnaeus, 1758 (ゼニガタアザラシ:common seal)
│ └ Phoca fasciata Zimmermann, 1783(クラカケアザラシ:ribbon seal)

├ genus Erignathus Gill, 1866 (“アゴヒゲアザラシ“属)
│ └ Erignathus barbatus (Erxleben, 1777) (アゴヒゲアザラシ:bearded seal)
├ genus Halichoerus Nilsson, 1820 (ハイイロアザラシ属)
│ └ Halichoerus grypus (Fabricius, 1791) (ハイイロアザラシ:gray seal)
└ genus Cystophora Nilsson, 1820 (ズキンアザラシ属: hooded seal)
  └ Cystophora cristata (Erxleben, 1777) (ズキンアザラシ:hooded seal)

 なにか,アザラシ属とその他の属では非常にアンバランスな感じがしますが,Bininda-Emonds et al. (1999)などによれば,大まかには支持されているようです.ただし,Bininda-Emondsらが示した図からいえば,これら全体がgenus Phocaでかまわないし,残り三属を成立させるのならば,Phoca fasciata Zimmermann, Phoca groenlandica Erxlebenは別な属にしないと調和がとれないように思われます.
 ま,遺伝子分析はやればやるほどとんでもない結果(過去の分類と不調和な結果)がでるようなので,こういう分析結果が安定するまで何ともいえないんでしょうけど.



 なお,アザラシ類の“和名”についてですが,日本語の「あざらし」は「あざ(=痣)ら(=之)し(=獣)」というというのが語源らしく,アザラシとは斑紋があるものを指していたようです.
 また,「海豹」(あざらし;かいひょう)や「水豹」(すいひょう)という言い方は,「豹」のような斑紋のある動物を意味し,こちらも同様です.
 そういう意味では,斑紋のないプォーカを「アザラシ」もしくは「海豹」,「水豹」と呼ぶのはおかしいですし,一方で,「ワモンアザラシ」,「ゴマフアザラシ」,「ゼニガタアザラシ」は「斑紋」のことを二重に表現しているので,ちょっと恥ずかしい命名ということになりそうです.
 うまく,整理してほしいものですね.


 次は,アザラシ族の姉妹群であるtribe MONACHINI (Gray, 1869)です.
 MONACHINIは,模式属であるgenus Monachus Flemingがモンクアザラシと訳されているために,通常はモンクアザラシ族と訳されます.モンクアザラシは英名のmonk sealのカタカナ化したものですね.
 tribe PHOCINIが「アザラシ族」という名称を使っているので,MONACHINIの構成員に“~アザラシ”という訳語を使うのは,混乱を招くばかりと思われますが,ほとんどにそういう俗名がつけられています.
 要するに,アザラシじゃあないのに,アザラシと名付けられているということです.

 たぶん,シール[seal]という英語(元は英語ではないようです:しかも,単に「体を引きずる生き物」という意味らしい)を「アザラシ」と訳したことから始まる混乱でしょう.あまり使いたくありませんね.そこで,学名をカタカナ化したモナクス族を使わせていただきます.
 ほかにも,カニを食べる習性が確認されていない(実際に食べないらしい)のに“カニクイアザラシ”と呼ばれていたり,この仲間の名前の和訳は無造作すぎますね.だいたいが,日本近海にはいない生き物ですし,混乱を招く英名からの翻訳を止めて,学名を基本とした名称に修正すべきだと思います.
 めんどくさい(なんかむかつく)ので,以下に,モナクス族の現生種のみを抜き出した分類を示して終わりにします.

tribe MONACHINI (Gray, 1869) Scheffer, 1958(モナクス族)
├ subtribe MONACHINA (Gray, 1869) Tedford, 1997
│ ├ genus Mirounga Gray, 1827 (ゾウアザラシ属:elephant-seals)
│ │ ├ Mirounga angustirostris (Gill, 1866) - northern elephant-seal
│ │ └ Mirounga leonina (Linnaeus, 1758) - southern elephant-seal
│ └ genus Monachus Fleming, 1822 (モナクス属,モンクアザラシ属)
│   ├ Monachus schauinslandi Matschie, 1905 - Hawaiian monk seal
│   ├ ‡Monachus tropicalis (Gray, 1850) - Caribbean monk seal
│   └ Monachus monachus (Hermann, 1779) - Mediterranean monk seal
└ subtribe LOBODONTINA (Gray, 1869) Tedford, 1997
  ├ genus Ommatophoca Gray, 1844 (オッマトプォーカ属)
  │ └ Ommatophoca rossii Gray, 1844 (ロスアザラシ:Ross seal)
  ├ genus Lobodon Gray, 1844 (ロボドン属)
  │ └ Lobodon carcinophagus (Hombron et Jacquinot, 1842) (ロボドン: カニクイアザラシ:crabeater seal)
  ├ genus Hydrurga Gistel, 1848 (ヒュドゥルルガ属)
  │ └ Hydrurga leptonyx (Blainville, 1820) (ヒョウアザラシ:leopard-seal)
  └ genus Leptonychotes Gill, 1872 (レプトオニュコテース属)
    └ Leptonychotes weddellii (Lesson, 1826) (ウエッデルアザラシ:Weddell seal)




*Bininda-Emonds, O. R. P., Gittleman, J. L. and Purvis, A., 1999, Building large trees by combining phylogenetic information: a complete phylogeny of the extant Carnivora (Mammalia), Biol. Rev., vol. 74, pp. 143-175.

 

2009年9月22日火曜日

辞書の展開(17)

 
●クマ上科[superfamily URSOIDEA (Fischer, 1817) Tedford, 1976]

 クマ上科は,ルーツが食肉目であるにもかかわらず,雑食化することによって様々な環境に適応しました.そのため,進化が激しく外見が多様であるのに,遺伝子的には互いに近いという特徴を持っています.従って,これまで「科」・「属」・「種」の各ランクで,ランク自体の定義やそれぞれの境界について議論を引き起こしてきました.
 いまだに,その分類は落ち着こうとしていません.

 The Taxonomiconではリストが並べられているだけで,定義や具体例がないので,クマ類のように問題の多い分類群では,判断基準がなく信頼性に欠けます.
 それでも何とか努力してみましょう.

 クマ上科はクマ科とヘーミーキュオーン科の二つに分けられています.

superfamily URSOIDEA (Fischer, 1817) Tedford, 1976(クマ上科)
├ family URSIDAE (Fischer, 1817) Gray, 1825 (クマ科)
│ ├ URSIDAE incertae sedis
│ ├ subfamily TREMARCTINAE Merriam et Stock, 1925(メガネクマ亜科)
│ ├ subfamily URSINAE (Fischer, 1817) Burmeister, 1866(クマ亜科)
│ └ subfamily AILUROPODINAE Greve, 1894(ジャイアントパンダ亜科)
└ family †HEMICYONIDAE (Frick, 1926) Tedford, 1997(ヘーミーキュオーン科)
           from “The Taxonomicon

 クマ科は現生種をいくつもふくむ普通に想像できるクマの仲間です.
 一方のヘーミーキュオーン科は絶滅グループですので,イメージは困難でしょう.ヘーミーキュオーン科は前出のアムプィキュオーン類が俗に「クマイヌ[bear dogs]」と呼ばれたのにたいして,こちらは「イヌクマ[dog-bears]」と呼ばれています.学名の意味は「半犬」(「ヘーミー[ἡμῑ]」=「半分の」+「キュオーン[κύων]」=「犬」).
 なお,ギリシャ語の「へーミー」はラテン語の語根化して「セーミ・[semi-]」になります.これはもちろん,英語の語根「セミ・[semi-]」の語源ですね.

 アムプィキュオーン類とヘーミーキュオーン類を設置することで,かろうじて「犬」と「熊」を分けているわけですが,その境界は実は微妙です.

 なお,カタカナ表記では「ヘミキオン」とか書かれることが多いですが,これは何語でもないですね.学名ですので,なるたけ,ラテン語の発音に近い表記を心がけます.

 ヘーミーキュオーン類の最初のメンバーはケプァロガレ[Cephalogale]と考えられています.
 ケプァロガレはアライグマ程度の大きさでしたが,クマ類の進化パターンとして体のサイズの増大傾向があり,時代の経過と共に,その仲間は現代のもっとも大きな熊と同じサイズに到達したものもありました.
 ヘーミーキュオーン類は主に肉食と考えられていますが,雑食傾向を示すものも多く,これが熊と関係が深いと考えられる理由でもあります.
 ヘーミーキュオーン類の活躍の舞台は,ユーラシア大陸でしたが,その仲間はしばしば,北米にまで進出し,繁栄しました.しかし,中新世のおわりと共に,この仲間はほとんど絶滅します.

 The Taxonomicon では,アグリオテーリウム[Agriotherium]はヘーミーキュオーン科に入れられていますが,これをアグリオテーリウム亜科として独立させ,ヘーミーキュオーン亜科と並置される立場もあります.この場合は,The Taxonomiconでは「クマ科所属不明」とされているウルサウス[Ursavus]やインダルクトス[Indarctos]が入れられているようです.

 整理されたと見るべきか,混乱を増やしたと見るべきか…(ハハッ).

 さて,クマ上科でイヌ類との区別が困難というか,中間的な形態であるヘーミーキュオーン類とクマ科中の「クマ科分類位置不詳」が終わったので,“純正”クマ類に入ります.


 純正クマ類は,現生種を含むグループなので,比較的イメージしやすいかと思います.
 The Taxonomiconでは,メガネクマ亜科,クマ亜科,ジャイアントパンダ亜科の三つに分けていますが,異論がおおいようですね(いうまでもないか).
 ケプァロガレからウルサウスをたどり,現在のクマ亜科に至るラインは,だいたい同じようですが,どこからパンダ類やメガネクマ類が分岐するのか,またそれらの亜科分類をどうするのかといったところが,問題なようです.
 逆に,大筋では旧体系とそれほど差がないということになります.


 The Taxonomiconは解説がないのでナンですが,たぶん,最新の科学であるDNA分析を重視しているものと思われます.
 勘違いしやすいのですが,DNA分析だからといって,そのまま信じるわけにはいかないのです.
 最近,DNA分析で有罪にされた囚人が実は無実だったという事件がありましたが,これは具体的なかつ悲惨な例ですね.

 これは「DNA神話」が根強いことを意味しています.
 高校で習ったDNAは四つのエレメントがデジタルに性質を決定するというものですから,DNA分析というとデジタルに決まってしまっていると普通は信じています.
 これが「DNA神話」ですね.

 でも,実際にはDNAの四つのエレメント配置を特定して結果を出してるのではなく,程度の差こそあれ,簡易的な手法をとっているのです.かなりアナログな部分があるわけですね.実際は「DNA鑑定」ではなく,「DNA型鑑定」ナンだそうです.
 これを糊塗するのに,科学者は確率論を持ち出します.
 裏の意味は,「確率論も理解してないヤツは口を出すな」,というわけです.
 でも,「明日の降水確率10%」という意味を理解している人がどれほどいるでしょうね.いってる予報官も意味が分かってないに違いありません.
 同じ「DNA型」の持ち主は1/何億とかいいますが,DNAパタンは均質なのか,偏りがあるのかもよく分かってないのに,なぜソンなことがいえるんでしょうね.

 話を少しもどします.
 DNA神話には別の不思議もあります.
 「種」というものに明確な定義もないのに,どこかの誰かが任意に取ってきたサンプルのDNAがその「種」を代表していると,なぜいえるのでしょうかね.
 実際の論文を読んでみると,そのあたりが非常に気にかかります.

 有名な「イブの七人の娘たち」でも,アフリカ黒人のはずのサンプルが,実は在北米の黒人のものだったという話も聞こえます.在北米の黒人の歴史を見れば,アフリカ黒人のDNAの代用にはならないことがわかるはずです.
 小さく,「訂正された」となにかに書かれていましたが,どう訂正されたのかは出ていませんでした.

 しかし,一遍出された論文は,一人歩きし,生物全体の中の位置づけとして,サンプルの意味を確認されることなく,ジグソーパズルの一片として扱われてしまうのです.

 大丈夫かなあ….

 

2009年9月10日木曜日

近況

 
 最近,ブログの更新が滞ってますが,体調がひどく悪いわけではありません.
良くは,ありませんが…(^^;

 新しいソフトウェアを試したり,辞書やDBのメンテナンスをやってます.

 ほかにも,いろいろ頼まれごとが多くて…,せっかく血圧をコントロールしているのですが,このところ,上がり気味.ハーァ.

 最近開設したHPの現在構築中の記事が「ヒグマ」であることもあり,このブログの記事がクマの分類の部分にはいって,クマの新分類を見てますので,最近見つけた論文を和訳したりしてます.
なにせ,「ヒグマ」の部分を書いたのが10年ほど前のことで,ちゃんと確認しないとおかしなことを書いてしまいそうですからね.

 ほかにも,ある記事に,迷惑コメントが毎日つけられて,それも「風俗系」なもので,放っておくわけにもいかない.即,消去していたのですが,あまりにひどいもので,その「記事」自体を消しました.題名が悪かったのかね「アフィリエイト」.
 Hなことが書いてあるのではなくて,紹介した本を読んでほしいということが書いてあるだけだったんですけどねえ.

 たぶん,自動的にそういうキーワードを探して,妙なことをコメントするというソフトウェアでもつくってあったんでしょう.
 その記事を消したら,しばらく起きていません.

 

辞書の展開(16)

 
●熊小目[parvorder URSIDA Tedford, 1976]

 熊小目は,以下の四つに分けられています.

parvorder URSIDA Tedford, 1976(熊小目)
├ URSIDA incertae sedis
├ superfamily †AMPHICYONOIDEA (Haeckel, 1866) McKenna et Bell, 1997(アムプィキュオーン上科)
├ superfamily URSOIDEA (Fischer, 1817) Tedford, 1976(クマ上科)
└ superfamily PHOCOIDEA (Gray, 1821) Smirnov, 1908(アザラシ上科)
           from “The Taxonomicon

 アムプィキュオーン上科は絶滅グループですので,一般にはイメージ不可能かと思いますが,アザラシ上科とクマ上科が近いというのは意外ですね.こういうことは間々あるので,「目」ランクに具体的な動物をイメージしている名前をつけるのは「よろしくない」と思う人が多いわけです.
 やはり,URSIFORMESとかいう形が用いられるべきですね.

 なお,「目」ランクの語尾には,よくこの[-formes]が用いられますが,これは「・フォールミス[-formis]」=「~(の)形をした」の複数形だそうです.
 この《合成後綴》は「『目』を表す接尾辞」という解釈がなされ,和訳には「~形の」という語を入れない場合も多いようです.しかし,「アザラシ類は熊目に属する」というのと,「アザラシ類は熊形目に属する」では,イメージが違うと考えますね.
 で,「・フォルメース[-formes]」という語がある場合には,「形」という語を入れるべきだと考えます.

 最初に,はじき出されているURSIDA incertae sedisにはgenus Adracon Filhol, 1884が入っています.このAdraconについての情報はほとんどもっていませんが,Carroll (1988)の分類ではCARNIVORA incertae sedisに入れられており,前期漸新世の欧州に生息していました.

 アムプィキュオーン類は俗に「クマイヌ[bear dogs]」と呼ばれ,クマ類の成立の関係あるとされる一方で,食肉目全体の基幹であると考える研究者もいるようです.しかし,アムプィキュオーン類は大きさも形もしごく多様で,あまり整理されているとはいえませんね.
 前期漸新世~前期中新世の欧州と中新世の北米で繁栄したグループと,前期漸新世の北米に生息したグループとに分ける場合があるようです.が,基幹はユーラシアにいたグループで,中新世に入ってから,何度か北米に移民することで新しい分類群を成立させたという仮説が有力なようです.これはベーリンジア(現・ベーリング海峡の陸化によって生じる陸橋のこと)の成立と密接な関係があります.ちょうど,北米に基幹をおく馬の仲間がベーリンジアを通ってアジアの草原に進出することで,現代型の馬が成立してゆく過程の逆をたどっていることになります. 

 なお,学名の意味は「アムプイ[ἀμφί]」=「両側に.回りに」+「キュオーン[κύων]」=「犬」で,「両犬」.「アムプイ」は「両生類[Amphi-bia]」にも使われているので,どういう意味かイメージしてみてください.

 クマ上科とアザラシ上科は現生種が含まれており,多様ですので,別枠で.

 

2009年8月25日火曜日

辞書の展開(15)

 
●新体系の「FERAE-ARCTOIDEA」から
 つぎは,infraorder CYNOIDEA Flower, 1869 (犬下目)の姉妹群である熊下目[infraorder ARCTOIDEA]です.熊下目は巨大なグループですので,順次細分します.

infraorder ARCTOIDEA Flower, 1869 (熊下目:ゆうかもく)
├ parvorder URSIDA Tedford, 1976(熊小目)
└ parvorder MUSTELIDA Tedford, 1976(鼬小目)

 熊下目は熊小目と鼬小目に分かれます.
 ARCTOIDEAはギリシャ語の「アルクトス [ἄρκτος]」=「熊」をラテン語の語根化したものに,(本来は)「(動物の)上科」を示す接尾辞[-oidea]を合成したもの.
 一方,URSIDAはラテン語の「ursus(ウルスス)」=「熊」を語根化[urs-]し,接尾辞[-ida]をつけたもの.[-ida]は「(動物の)小目」を示すらしいのですが,辞典などにはまったく記載がなく,自信がありません..
 ま,語尾変化のほうは勘弁いただくとして,「熊」のギリシャ語語源とラテン語語源の違いを理解してください.

 熊小目の姉妹群である鼬小目は,ラテン語の「mustela(ムーステーラ)」=「イタチの類」を属名とし,それに接頭辞[-ida]を付加したもの.
 熊と鼬が近い関係にあるとは,意外ですね.

 

2009年8月24日月曜日

辞書の展開(14)

 
●犬形獣亜目[suborder CANIFORMIA]
 次は,犬形獣亜目[suborder CANIFORMIA]です.

suborder CANIFORMIA Kretzoi, 1943(犬形獣亜目)
├ CANIFORMIA incertae sedis ... family †MIACIDAE Cope, 1880 (ミアキス科)
├ infraorder CYNOIDEA Flower, 1869 (犬下目:けんかもく,いぬかもく)
└ infraorder ARCTOIDEA Flower, 1869 (熊下目:ゆうかもく,くまかもく)
           from “The Taxonomicon

 例によって,「犬下目」と「熊下目」に分けるために,先に「ミアキス科」をはじき出しています.
 ミアキス類は,旧体系では犬猫含めた食肉目の先祖形という扱いでしたが,新体系では犬形獣の中での先祖形という扱いに位置づけが変わっています.

 犬下目[infraorder CYNOIDEA] には,次の分類群が納められています.

infraorder CYNOIDEA Flower, 1869 (犬下目)
└ family CANIDAE (Fischer de Waldheim, 1817) Gray, 1821 (イヌ科)
  ├ CANIDAE incertae sedis
  ├ subfamily †HESPEROCYONINAE Martin, 1989(ヘスペルキュオーン亜科)
  ├ subfamily †BOROPHAGINAE Simpson, 1945(ボロプァグス亜科)
  └ subfamily CANINAE (Fischer, 1817) Gill, 1872 (イヌ亜科)
    ├ CANINAE incertae sedis
    ├ tribe VULPINI Hemprich & Ehrenberg, 1832(ウルペース族,キツネ族)
    └ tribe CANINI Fischer, 1817(カニス族,イヌ族)
           from “The Taxonomicon

 犬下目位置不詳には,genus Procynodictis Wortman & Matthew, 1899やgenus Prohesperocyon Wang, 1994が入れられています.前者は,以前はミアキス科に入れられていたものですが,後者はよく分かりません.Procynodictisは後期始新世の北米に生息していました.

 ヘスペルキュオーン亜科は,詳細不明な属-種が多いですが,始新世後期から中新世前期の北米に生息していたグループで,なにか中途半端な印象のあるグループです.ボロプァグス亜科(これに属する属は主に中新世の北米に生息していた)をふくめて,現世のイヌ亜科への橋渡し的な役割なんでしょうか.
 また,両亜科とも分かる範囲では北米産ということは,犬グループは北米で進化したということなんでしょうね.

 イヌ亜科はキツネ族とイヌ族に分けられています.この分類を成立させるために,はじき出されたのがレプトキュオーン[Leptocyon]属.レプトキュオーン属は中~後期中新世の北米に生息(話がうまく合いすぎてるなあ).

 キツネ族は(記録の限りでは)前期鮮新世の北米で発生(後期中新世の記録もあるが,どうも怪しいらしい).
 後期鮮新世には,北米から欧州,アフリカ,アジアに勢力範囲を拡大した.南米に進出したのはごく最近のことらしい.

 イヌ族は前期鮮新世には欧州-アジア-オーストラリアにいた.もちろん北米にも.
 鮮新世後期にはアフリカに進出し,南米に進出したのは更新世になってからのことらしい.この間,多種多様な仲間を増やしながらのことですね.

 

2009年8月23日日曜日

辞書の展開(13)

 
●猫形獣亜目[suborder FELIFORMIA]
 さて,猫形獣亜目[suborder FELIFORMIA]は以下のように並べられています.

suborder FELIFORMIA Kretzoi, 1945(猫形獣亜目)
├ family incertae sedis
├ family †VIVERRAVIDAE Wortman & Matthew, 1899 (ウィウェーラウス科)
├ family †NIMRAVIDAE Cope, 1880 (ニムラウス科)
├ family FELIDAE (Fischer de Waldheim, 1817) Gray, 1821 (ネコ科)
├ family VIVERRIDAE (Gray, 1821) Bonaparte, 1845 (ジャコウネコ科)
├ family HERPESTIDAE (Bonaparte, 1845) Gray, 1869 (マングース科)
├ family HYAENIDAE (Gray, 1821) Gray, 1869 (ハイエナ科)
└ family NANDINIIDAE Pocock, 1929 (ナンディニア科,キノボリジャコウネコ科)
           from “The Taxonomicon

 これらはいずれも,旧体系でもネコ上科[FELOIDEA or AELUROIDEA]に分類されていたものです.科の定義については,クラディズム以後も再定義された様子がないので,これらのこれより細部については,またの機会に.

 細かいことですが…,以下.
 NANDINIIDAEはあまり聞かない分類群ですが,「キノボリジャコウネコ科」という名前が与えられてますね.これを構成している生物は一属一種のみ.

family NANDINIIDAE Pocock, 1929
 genus Nandinia Gray, 1843
  Nandinia binotata (Gray, 1830) - African palm civet

 これには「キノボリジャコウネコ」という和名が与えられています.
 この種は,以前には他のジャコウネコ類と一緒に「ジャコウネコ科[VIVERRIDAE Gray, 1821]」に入れられているのが普通でした.(たぶん)それで,つけられた“和名”が「キノボリジャコウネコ」.
 新体系では独立して別の科となり,ジャコウネコではないのにジャコウネコの名が残ってしまいました.
 不自然になってしまいましたね.

 下手な命名はしない方がいいという例になってしまいそうですねえ.英名も相当混乱があるので,参考にはしない方がいいですね.type loc.の現地語か学名をそのまま使うのがよろしいかと.
 現地の言葉が不明なので,ここでは,勝手に「ナンディニア科」と呼ばせていただきます.

2009年8月18日火曜日

HP更新

 
現在作成中のHP「北海道化石物語」に付録の一部を追加しました.
乞う,ご批判!

 

2009年8月16日日曜日

辞書の展開(12)

 
●食肉目[order CARNIVORA Bowdich, 1821]
 食肉目[order CARNIVORA Bowdich, 1821]は“ネコ目”と呼ぶように指導されてますが,まるで原語を反映していません.ここでは,昔ながらの「食肉目」を使います.

 食肉目は,昔はPINNIPEDIAとFISSIPEDIAの二つに分けられるのが普通でした.
 PINNIPEDIAはpinni+ped+ia=「羽の」+「脚の」+「group」という語根の合成語で「鰭脚類」と訳されています.一方の,FISSIPEDIAはfissi+ped+ia=「裂かれた」+「脚の」+「group」という語根の合成語で「裂脚類」と訳されています.
 鰭脚類は後脚が融合し鰭状になった「アザラシ」・「アシカ」・「セイウチ」などをグループ化し,裂脚類はそうではなく,後脚が二本に分かれたままの(つまり残りの食肉目全部)をグループ化したものでした.
 現代人の常識では,脚は別れているのが普通で,鰭脚化したのは海に戻った食肉目の適応の過程だと考えてしまいますが,昔は鰭脚が基本であり,進化して鰭脚が(分かれた)脚になったと考えたのでしょうかね.

 用語の意味を聞かされれば,なにか不自然な分け方だと自然に思うことかと思います.
 もしかしたら,昔の科学者は「魚類」→「鰭脚類」→「裂脚類」と進化してきたと考えていたのかもしれませんね.

 新分類では,大まかには

order CARNIVORA Bowdich, 1821 (食肉目)
├ CARNIVORA incertae sedis(食肉目分類位置不詳)
├ suborder FELIFORMIA Kretzoi, 1945(猫形獣亜目)
└ suborder CANIFORMIA Kretzoi, 1943(犬形獣亜目)
       from “The Taxonomicon

 となっています.
 なんか,「犬」か「猫」かに分けるなんて,私らの生活感覚には合っていますね.

 しかし,「CARNIVORA incertae sedis」ってのは,いったい何でしょうね.“The Taxonomicon”には,実は「CARNIVORA incertae sedis」という分類はありません.ランクも無しに放り出してあるので,私が勝手にまとめたものです.
 いってみれば,「犬形」と「猫形」に分類するのに邪魔な「古い形質をもった雑多なもの」ということになりますか.
 具体的には,以下の属があげられています.

    genus †Aelurotherium Adams, 1896
    genus †Eosictis Scott, 1945
    genus †Elmensius Kretzoi, 1929
    genus †Kelba R.J.G. Savage, 1965
    ?genus †Vishnucyon Pilgrim, 1932
    genus †Vinayakia Pilgrim, 1932
    genus †Notoamphicyon Ameghino, 1904

 Aelurotheriumは,始新世(北米)に生息していて,古い体系では肉歯目に入れられていたこともありました.Kelbaは,中新世(東アフリカ)に生息していて,古い体系では汎盗目に入れられていたこともありました.
 Eosictis, Elmensius, Vishnucyon, Vinayakiaは詳細不明.
 と,いうことは,旧体系では大部分は無視されていたか,調査の網に引っかからなかったということ.もちろん,クラディズムでは重要なポイントを占めるグループであることは間違いありませんね.

 なにか,プレートテクトニクス的解釈では重要な露頭(岩体)でありながら,地向斜造山論では長年「無視」されてきたか,解釈不能として放置されてきた「メランジ」を思い出してしまいます.

 「分からないこと」にこそ,突破口があるということですかね.
 

辞書の展開(11)

 
●肉歯目[order CREODONTA (Cope, 1875) McKenna, 1975] 

 肉歯類は始新世に繁栄した原始的な肉食性哺乳類です.
 当時のアフリカとローラシア(北米+ユーラシア)に広く分布していました.
 漸新世の初期に入っても生き延びていましたが,急速に勢力を弱め,食肉目と交代してゆきます.
 肉歯目はオックシュアエナ*(=オキシエナ)類とヒュアエノドン*(=ヒエノドン)類に分けられるのが普通です.ランクは亜目だったり,科だったりはしますが.

order CREODONTA
└ suborder HYAENODONTIA
  ├ family HYAENODONTIDAE
  └ family OXYAENIDAE
               by Carroll (1988)

order HYAENODONTA van Valen, 1967 (CREODONTA Cope, 1875)
├ family OXYAENIDAE Cope, 1877
└ family HYAENODONTIDAE Leidy, 1869
               by Mueller (1989)

肉歯目〔ヒエノドン目〕[ Creodonta ]:太古の肉食性有胎盤類.
├オキシエナ亜目 [ Oxyaenoidea ]:初期の肉歯類.
└ヒエノドン亜目 [ Hyaenodontia ]:長続きした種々の肉歯類.
               コルバート・モラレス(1991)より

order †HYAENODONTIA (=†CREODONTA)
├ family OXYAENIDAE
└ family HYAENODONTIDAE
               by Burkitt (1995)

order †CREODONTA (Cope, 1875) McKenna, 1975(肉歯目)
├ CREODONTA incertae sedis
│ ├ subfamily incertae sedis
│ └ ?subfamily †KOHOLIINAE Crochet, 1988
├ family †HYAENODONTIDAE Leidy, 1869(ヒュアエノドン科)
│ ├ subfamily incertae sedis
│ ├ subfamily †LIMNOCYONINAE Wortman, 1902(リムノキュオーン亜科)
│ │ ├ tribe †LIMNOCYONINI (Wortman, 1902) Van Valen, 1966
│ │ └ tribe †MACHAEROIDINI (Matthew, 1909) Van Valen, 1966
│ └ subfamily †HYAENODONTINAE (Leidy, 1869) Trouessart, 1885(ヒュアエノドン亜科)
│   ├ tribe †PROVIVERRINI (Schlosser, 1886) Van Valen, 1966
│   ├ tribe †HYAENODONTINI (Leidy, 1869) Van Valen, 1966
│   ├ tribe †TERATODONTINI (Savage, 1965) McKenna et Bell, 1997
│   └ tribe †APTERODONTINI Szalay, 1967
└ family †OXYAENIDAE Cope, 1877(オックシュアエナ科)
  ├ subfamily †OXYAENINAE (Cope, 1877) Trouessart, 1885
  ├ subfamily †TYTTHAENINAE Gunnell et Gingerich, 1991
  └ subfamily †AMBLOCTONINAE Cope, 1877
               http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

 新体系でも,大きな構造は変わりないようです.subfamily 以下は別の機会に.


* 「オックシュアエナ」は普通「オキシエナ」と,「ヒュアエノドン」は通常「ヒエノドン」と表記されていますが,(たぶん)「デズニー・ランド」に近い表記の仕方だと思います.できるだけ,ラテン語風に表記しておきます.

【文献】
Carroll, R. L., 1988, Vertebrate Paleontology and Evolution. W. H. Freeman and Company, New York, 698 pp.
Mueller, A. H., 1989, Lehrbuch der Palaeozoologie, Band III, Vertebraten, Teil 3, Mammalia. Gustav Fisher Verlag, Jana, 809 pp.
コルバート, E. H.・モラレス,M.(1991)脊椎動物の進化【原著第4版】(田隅本生,1994訳).築地書館.
The Taxonomicon: http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

 

2009年8月15日土曜日

辞書の展開(10)

●キーモレーステース目[order CIMOLESTA McKenna, 1975]

 キーモレーステース目の名称の元になっているCimolestesは北米の後期白亜紀から前期暁新世にかけて生息していた哺乳類.食肉目の先祖形と考えられている一方で,その位置づけはあいまいでした.
 ちなみに,cimolestesの語源は,はっきりしませんが,cimoがギリシャ語の「キマス[κιμάς]」=「引き裂かれた肉」だとすると,「裂肉強盗」になり,いかにも野獣の代表ということになりそうですね.

 MaKenna (1975)はこのCimolestesをはじめとする多種多様な生物をまとめてキーモレーステース目[order CIMOLESTA McKenna, 1975]を設定しました.大部分は絶滅したグループですが,現世の穿山甲[genus Manis Linnaeus, 1758; genus Phataginus Rafinesque, 1821]などが含まれる恐ろしく多種多様なグループです.

 簡単には把握できないので,詳細は別の機会に.
 とりあえず,亜目レベルののリストだけ.

order CIMOLESTA McKenna, 1975(キーモレーステース目)
├ CIMOLESTA incertae sedis
├ suborder †DIDELPHODONTA McKenna, 1975(二子宮歯亜目)
├ suborder †APATOTHERIA (Scott & Jepsen, 1936) McKenna, 1975(擬獣亜目)
├ suborder †TAENIODONTA (Cope, 1876) McKenna, 1975(紐歯亜目)
├ suborder †TILLODONTIA (Marsh, 1875) McKenna, 1993(欠歯亜目)
├ suborder †PANTODONTA Cope, 1873(汎歯亜目)
├ suborder †PANTOLESTA McKenna, 1975(汎盗亜目*)
├ suborder PHOLIDOTA (Weber, 1904) McKenna & Bell, 1997 (穿山甲亜目)
└ suborder †ERNANODONTA Ding, 1987(通小歯亜目*<エルナノドン亜目)

*は例によって,私的和訳.

 穿山甲亜目だけは現生種が入っているので,すこし紹介しておきます.

suborder PHOLIDOTA (Weber, 1904) McKenna et Bell, 1997(有鱗亜目<穿山甲亜目)
├ PHOLIDOTA incertae sedis
├ family †EPOICOTHERIIDAE Simpson, 1927(エポイコテーリウム科)
├ family †METACHEIROMYIDAE Wortman, 1903(メタケイロミュース科)
└ family MANIDAE Gray, 1821(センザンコウ科)
  ├ subfamily MANINAE (Gray, 1821) Pocock, 1924(センザンコウ亜科)
  └ subfamily SMUTSIINAE (Gray, 1873) Pocock, 1924(オオセンザンコウ亜科)
    ├ tribe SMUTSIINI (Gray, 1873) McKenna et Bell, 1997(オオセンザンコウ族)
    └ tribe UROMANINI (Pocock, 1924) McKenna et Bell, 1997(オナガセンザンコウ族)

http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

 穿山甲類はこれまで,化石種を含めてセンザンコウ科一科にまとめられるか,せいぜい,現生種を含むセンザンコウ科と化石種が中心の別科の二つぐらいにしか分けられていませんでしたが,ひどく複雑になっています.
 過去の分類は,ほんのいくつか見ただけでも,研究者間でひどく異なっており,相当混乱していたのだろうということがわかります.
 どれを見ても,属-種のデータがひどく少ないので,比較がなかなか困難です.
 ただ,新分類では,生息地域(大陸)によって別系統と認識し,それによって各属を独立させるというやり方を取っているようです.

辞書の展開(9)

 
●新体系の「Ferae」から
 「FERAE」全体で一つの記事にしようと書き続けていたのですが,巨大になりすぎて,いつまでたってもケリがつかないし,一つの記事がこ〜〜んなに長いと誰も読んでくれそうもないので,細切れにします.
 体調不良で休んでいたわけではありません((^^;)
 むしろ,なにかに夢中になってないと,不快感が気になって,どうもね.

●野獣大目[grandorder FERAE (Linnaeus, 1758) McKenna, 1975]
 この標記から野獣大目はもともと野獣目 [order FERAE Linnaeus, 1758]として提案されたものということがわかりますね.

 FERAE=「野獣」はラテン語から.
 ギリシャ語の「野獣」は「テーロ[θήρ],テーロス[θηρός]」で,ラテン語の語根化して「テール・/テーロ・[ther-/thero-]」.こちらの語根を使った野獣類の学名は「山」ほどありますね.

 野獣大目は以下の三つに分類されています.

grandorder FERAE (Linnaeus, 1758) McKenna, 1975(野獣大目)
├ order CIMOLESTA McKenna, 1975 (裂肉盗目*<キモレステス目)
├ order CREODONTA (Cope, 1875) McKenna, 1975(肉歯目)
└ order CARNIVORA Bowdich, 1821 (食肉目)

         http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

*は私的訳語>これはあまりよろしくないですが….「科」までは,現生種がいるときはその名前を基本に,いないときは「属名」を基本にし,「科」より上,「目」は,あまり具体的な生物をイメージできないように,意図的に漢字訳するようにしています.

 

2009年8月6日木曜日

辞書の展開(8)

 
●新体系の「ANAGALIDA」から

grandorder ANAGALIDA(アナガレ大目)
├ ANAGALIDA incertae sedis … family ANAGALIDAE Simpson, 1931 (アナガレ科)
├ mirorder MACROSCELIDEA (Butler, 1956) McKenna & Bell, 1997(大脛中目*)
├ mirorder DUPLICIDENTATA (Illiger, 1811) McKenna & Bell, 1997(双歯中目)
│ ├ order MIMOTONIDA Li et al., 1987(ミモトナ目)
│ └ order LAGOMORPHA Brandt, 1855 (兎型目)
│   ├ family OCHOTONIDAE Thomas, 1897(ナキウサギ科)
│   └ family LEPORIDAE (Fischer, 1817) Gray, 1821(ノウサギ科*;ウサギ科)
└ mirorder SIMPLICIDENTATA (Weber, 1904) McKenna & Bell, 1997(単歯中目)
  ├ order MIXODONTIA Sych, 1971(混歯目)
  └ order RODENTIA Bowdich, 1821 (齧歯類)
    ├ RODENTIA incertae sedis
    ├ suborder SCIUROMORPHA Brandt, 1855(栗鼠形亜目*)
    │ ├ SCIUROMORPHA incertae sedis
    │ ├ Infraorder †THERIDOMYOMORPHA (Wood, 1955) McKenna & Bell, 1997(獣鼠形下目*)
    │ └ Infraorder SCIURIDA (Carus, 1868) McKenna & Bell, 1997(影尾下目)
    ├ suborder MYOMORPHA Brandt, 1855(鼠形亜目*)
    │ ├ infraorder MYODONTA (Schaub, 1955) McKenna & Bell, 1997(鼠歯下目)
    │ ├ infraorder GLIRIMORPHA (Thaler, 1966) McKenna & Bell, 1997(山鼠形下目)
    │ └ infraorder GEOMORPHA (Thaler, 1966) McKenna & Bell, 1997(堀鼠形下目)
    ├ suborder ANOMALUROMORPHA Bugge, 1974(異尾形亜目*)
    ├ suborder SCIURAVIDA McKenna & Bell, 1997(栗鼠様亜目*)
    └ suborder HYSTRICOGNATHA Woods, 1976(山嵐顎亜目*)

http://taxonomicon.taxonomy.nl/Default.aspx

注:原文は英語.各分類群の名称は私的和訳.

●アナガレ大目
 新体系では,このグループの代表にアナガレ類をもってきています.
 アナガレ科自体は,アナガレ大目所属位置不詳のアナガレ科になっていますので,なにか不自然に見えますが,まあいいでしょう.
 アナガレ類は,東南アジアの「古成紀」(パレオジーン=以前の“古第三紀”:暁新世から漸新世まで)に繁栄した絶滅グループです.

●大脛中目
 次の中目:MACROSCELIDEAは,その筋では“ハネジネズミ類”としているようですが,たぶん漢字で“跳地鼠”とかいたものをカタカナ化したものでしょう.この訳は,原語を反映していず,しかもカタカナ化すると意味がわからず不自然ですので,ここでは使いません.
 また,「目」ぐらいのランクになると,具体的な動物(種あるいは属)が想像できるような命名は不都合ですので,一般にそのグループ全体を示すような言葉が選ばれています.これを尊重し,ここでは「大脛中目」を採用します.
 大脛類は,アフリカ大陸の「新成紀」(ネオジーン=以前の“新第三紀”:中新世から鮮新世まで)に繁栄し,アフリカの各地に生き延びています.

●双歯中目
 次の中目:DUPLICIDENTATAは,その筋では“重歯類”としているようですが,「重」はこれを意味する単語が多すぎて,混乱を招きますし,「dupli-」自体は「二重の」を意味する言葉ですので,ここでは「双歯」類を使います.あるいは「二重歯」類の方がいいかもしれません.
 これは,もちろん,次のSIMPLICIDENTATA (単歯中目)に対応する言葉で,門歯の後にもう一組の歯があるかないかの違いを示しています.要するに,兎の仲間とその先祖ですね.

 双歯中目には,ミモトナ目と兎形目が含まれています.
 ミモトナは,もともと兎型類の中に入れられているのが普通ですが,兎型類の先祖として「目」を設定し,位置づけられているようです.

 なお,兎形目はしばしば,兎目と訳されています.
 現世生物のみを論じるときには,たいして問題も起きませんが,原語は明らかに「兎『形』目」ですし,ウサギ科[family LEPORIDAE Fischer, 1817]もウサギ類になってしまうので,「兎形目」と正確な訳を使用した方がいいでしょう.

●単歯中目
 次のSIMPLICIDENTATAは,単歯類と訳されていますが,上述のように「単一」の意味ではなく,「二重歯」に対応する「一重歯」の意味と思われますので,「一重歯類」を使用した方がいいかもしれません.
 単歯中目には,混歯類[MIXODONTIA]と齧歯類[RODENTIA]が含まれています.

●混歯目
 混歯類は,実態がはっきりしませんが,これに入れられている一属である Gomphos は,一時はミモトナ科として,Eurymylus, Rhombomylusはエウリュミュルス科として,アナガレ目に入れられていたこともあるようです.

●齧歯目
 齧歯目は旧体系でも巨大なグループでしたが,新体系でもそれは同じです.
 これを“ネズミ目”と呼ぶように指導されたこともありましたが,直感的にも“ネズミ”とはいえないような動物がたくさん入っていて,このような呼び方はナンセンスだということは素人にも(素人なら,なおさら)わかるはずです.
 齧歯目は「齧歯目所属位置不詳」,「栗鼠型亜目」,「鼠型亜目」,「異尾形亜目」,「栗鼠様亜目」,「山嵐顎亜目」に分けられています.もちろん,暗黙の内に,このように進化(分化)してきたということが意図されていますね.

●“齧歯目所属位置不詳”
 “齧歯目所属位置不詳”には,旧体系(たとえば,Carroll, 1988)でも「齧歯目所属位置不詳」とされた分類群のいくつかが入れられています.この“よくわからなかった部分”が齧歯目の先祖形と位置づけられているのですね.しかし,すべてがそう位置づけられているわけではなく,大部分はよくわかっていません.かなりの部分が「無視」されていますね(はっきり言ってしまえば,新分類とて,すべてを説明できているわけではないということになりますか).
 一方で,Carroll (1988)以降に創設された「科」がいくつかあり,最近の新しい発見が新体系の確立に大きな役割を果たしているということですか.

● 栗鼠型亜目
 栗鼠型亜目[SCIUROMORPHA]の和訳はリス亜目になっている場合がありますので,原語を反映していないので注意しましょう.記載者名[Brandt, 1855]を見る限りでは,定義に変更はないようです.

● 鼠型亜目
 鼠型亜目[MYOMORPHA]も,リス型亜目と同様に,ネズミ亜目になっている場合があります.同様に,記載者名[Brandt, 1855]を見る限りでは,定義に変更はないようです.
 しかし,亜目以下の細部に関しては,変更があります.というか,McKenna & Bell, 1997による修正があります.McKenna & Bell, 1997は入手していないので検討は後日に回します.

●残り三つの亜目は,比較的最近になってから,創られたものですね.

● 異尾形亜目
 異尾形亜目[ANOMALUROMORPHA]は,(たぶん)Carroll (1988)では齧歯目・栗鼠顎亜目・下目未確立に入れられていた異尾上科[superfamily ANOMALUROIDEA]を拡張再定義したものと思われます.正確なところは,Bugge, 1974の論文を入手して,検討しなければなりませんが,今のところそこまでする気はありません.
 分類学というのは,難しいというよりは,こういった文献収集が「めんどくさい」んです.いきおい,大学などの図書が充実しているところでしか,研究ができないという障害になってしまいます.ま,今大学では「分類学」なんて学問はやってないんですけどね.

● 栗鼠様亜目
 栗鼠様亜目[SCIURAVIDA]はMcKenna & Bell, 1997が定義しています(すべての鍵はMcKenna & Bell, 1997の入手にかかっているようですね).
 栗鼠様亜目は,Carroll (1988)では齧歯目・栗鼠顎亜目・原齧歯形下目・強鼠上科*に入れられていた栗鼠様科[SCIURAVIDAE]を(たぶん)拡張・再定義したものと思われます.
 事実,栗鼠様亜目の栗鼠様科(新体系)と栗鼠様科(Carroll, 1988)を構成する属はほぼ同じです.も少し,詳しい検討が必要ですが,それは別の機会に.

● 山嵐顎亜目
 山嵐顎亜目[HYSTRICOGNATHA]は新旧それほど変わりがないようです.


●齧歯目・旧体系に戻ってみます.

order RODENTIA(齧歯目)
├ suborder SCIUROGNATHI(栗鼠顎亜目)
│ ├ infraorder PROTROGOMORPHA(原齧歯形下目)*
│ ├ infraorder SCIUROMORPHA(栗鼠形下目)
│ ├ infraorder CASTORIMORHA(海狸形下目)
│ ├ infraorder UNNAMED*
│ ├ infraorder MYOMORPHA(鼠形下目)
│ └ infraorder INDETERMINAE
├ suborder HYSTRICOGNATHI(山嵐顎亜目)
│ ├ infraorder BATHYGEROMORPHA(不詳**)?Bathyergomorpha***
│ ├ infraorder HYSTRLCOMORPHA(山嵐形下目)
│ ├ infraorder PHIOMORPHA(プィオミュス下目****)
│ └ infraorder CAVIOMORPHA(天竺鼠形下目)
└ order RODENTIA incertae sedis

from carroll (1988)
* 
・齧歯目は「栗鼠顎亜目」と「山嵐顎亜目」に大別され,そのほかに齧歯目・分類位置不詳のグループがあります(した).
 この「分類位置不詳」のグループは,新体系ではそれぞれ,あるグループの先祖形として位置づけられていることが多いようですが,大部分はまだはっきりとしていません(はっきり言ってしまえば,新分類とて,すべてを説明できているわけではないということになりますか).

 「栗鼠顎亜目」と「山嵐顎亜目」は,下顎と門歯の関係によって分けられていたようです.もちろん,新分類ではこの指標は採用されていませんが,採用されない理由がしっかりと説明されている文献が見つからないもので,私にはよくわかりません.
 ま,何となく変わってしまうというのは,科学の世界でも,実はよくあることです.「勝ち馬にのる」のが原因ということですかね.


●反省
 新分類での「大目」というグループを単位にして,グループの概略を把握しようとしたのですが,失敗でした.単位がちょっと大きすぎたのと,情報不足が原因ですね.
 いずれまた,調べ直して再チャレンジしたいと反省しております.

 ここは調査中のメモ書きですから,多少マニアックに見えてもしかたないと考えております.「北海道化石物語」に転記するときには,もっと理解しやすくすることを心がけましょう((^^;).

2009年7月30日木曜日

案内

 
あたらしいHP を始めました.

題名は「北海道化石物語」です.
左の「リンク」からもいけるようにしました.

このマニアックなブログとは異なり,化石に興味ある一般人や,将来古生物を専攻しようとしている高校生・大学生を対象としたつもりです.
つまり,「わかりやすい」を前提.

まだ工事中のところが多いのですが,「ナキウサギ」については,一通り読めるところまで漕ぎ着けました.

読者のご批判をいただける場所の作り方がわからないので,今は一方的になってますが,そのうち,そういうページも貼り付けるつもりです,


関係する本の紹介とかをしたかったのに,こちらの「Googleサイト」はAmazonのリンクが貼り付けられないようです(自動的に拒否される).これは困ります.
そのうちできるようになるかもしれませんので,ここは気長に待つこととします.

2009年7月29日水曜日

辞書の展開(7)

 
●旧体系と新体系の対比(4)旧体系の「…目」から

 今度は,獣亜綱中の「目」がどうなっているかについてみてみましょう.
Carroll (1988)では,以下のようになっています.

Infraclass EUTHERIA 真獣下綱
  Order APATOTHERIA 擬獣目*
  Order LEPTICTIDA 薄鼬目*(はくゆうもく)
  Order PANTOLESTA 汎盗目*(はんとうもく)
  Order SCANDENTIA 登攀目*(とうはんもく)(ツパイ目)
  Order MACROSCELIDEA 大脛目*(だいけいもく)
  Order DERMOPTERA 皮翼目
  Order INSECTIVORA 食虫目
  Order TILLODONTIA 欠歯目
  Order PANTODONTA 汎歯目
  Order DINOCERATA 恐角目
  Order TAENIODONTIA 紐歯目
  Order CHIROPTERA 手翼目*(しゅよくもく)(翼手目)
  Order PRIMATES 霊長目
  Order CREODONTA 肉歯目
  Order CARNIVORA 食肉目
  Order RODENTIA 齧歯目
  Order LAGOMORPHA 兎形目
  Order CONDYLARTHRA 顆節目
  Order ARTIODACTYLA 偶蹄目
  Order MESONYCHIA (ACREODI) 中爪目*(無肉歯目)
  Order CETACEA 鯨目
  Order PERRISSODACTYLA 奇蹄目
  Order PROBOSCIDEA 長鼻目
  Order SIRENIA 海牛目
  Order DESMOSTYLIA 束柱目
  Order HYRACOIDEA 岩狸目(擬鼠目)
  Order EMBRITHOPODA 重脚目
  Order NOTOUNGULATA 南蹄目
  Order ASTRAPOTHERIA 雷獣目
  Order LITOPTERNA 滑距目
  Order XENUNGULATA 異蹄目
  Order PYROTHERIA 火獣目
  Order XENARTHRA 異節目

注:原文は英語,和訳は適当なものをつけた.[*]は私的訳語.

 真獣下綱以下の「目」は,みな等価に置かれていますね.
 はっきりいって,これは,系統関係つまり進化の道筋は「わからない」といっているということです.しかし,よく見ると,実はこれらの「目」の並べ方には,ある傾向があり,じつは,なんとなく進化の道筋を表しています.
 さて,Carroll (1988)は,Novacek (1986)を引用して,これらの「目」はいくつかのグループ分けが可能であろうことも示しています.
 それは,以下…,

Subclass THERIA 獣亜綱
 └ Infraclass EUTHERIA 真獣下綱
   ├ Cohort EDENTATA 貧歯区
   └ Cohort EPITHERIA 上獣区
     ├ Superorder INSECTIVORA 食虫目
     ├ Superorder VOLITANTIA 遊飛上目*
     ├ Superorder ANAGALIDA アナガレ上目
     ├ Superorder UNGULATA  有蹄上目
     └ Cohort EPITHERIA incertae sedis

 Cohort EDENTATA 貧歯区には
Cohort EDENTATA 貧歯区
  ├ Order XENARTHRA 異節目
  └ Order PHOLIDOTA 鱗甲目

 が含まれており,各Superorderには以下の分類群が含まれています.

Superoder INSECTIVORA 食虫目
  ├ Order LEPTICTIDA 薄鼬目*(はくゆうもく);レプティクティス目
  └ Order LIPOTYPHALA 欠盲腸目;リーポテュプラ目
    ├ Suborder ERINACEOMORPHA ハリネズミ亜目
    └ Suborder SORICOMORPHA トガリネズミ亜目

Superorder VOLITANTIA 遊飛上目*
  ├ Order DERMOPTERA 皮翼目
  └ Order CHIROPTERA 翼手目

Superorder ANAGALIDA アナガレ上目
  └ Order MACROSCELIDAE 大脛目*(跳地鼠目)(may include ANAGALIDAE)
     └ Grandorder GLIRES  山鼠大目*
       ├ Order RODENTIA 齧歯目
       └ Order LAGOMORPHA 兎型目

Superorder UNGULATA (有蹄上目)
  │ ├ Order ARCTOCYONIA 北狼目
  │ ├ Order DINOCERATA 恐角目
  │ ├ Order EMBRITHOPODA 重脚目
  │ ├ Order ARTIODACTYLA 偶蹄目
  │ ├ Order CETACEA 鯨目
  │ └ Order PERISSODACTYLA 奇蹄目
  ├ Grandorder MERIDIUNGULATA 午蹄大目(most South American ungulates)
  └ Grandorder PAENUNGULATA  半蹄大目*
    └ Order HYRACOIDEA イワダヌキ目
      └ Mirorder TETHYTHERIA (テーテュース獣中目)
        ├ Order SIRENIA (海牛目)
        ├ Order PROBOSCIDEA 長鼻目
        └ Order DESMOSTYLIA  束柱目

Cohort EPITHERIA incertae sedis
  ├ Order TUBULIDENTATA 管歯目
  ├ Order CARNIVORA 食肉目
  ├ Order PRIMATES 霊長目
  ├ Order SCANDENTIA 登攀目
  ├ Order TILLODONTIA 欠歯類
  └ Order TAENIODONTA 紐歯目

 なお,最後のCohort EPITHERIA incertae sedisは系統関係がわからないという意味ですので,おのおのを繋いだのは私の勇み足かもしれません.
 これはまあ,進化の道筋ではなく,いくつかの系統分けが可能だということを示しているに過ぎませんね.

 次に,Colbert & Morales (1991)なんですが,Burkitt (1995ed.)もふくめてCarroll (1988)とパタンは大きく変わりませんし,長くなりすぎるので「略」します.


 では,新体系では…,以下が概略です.

superorder PREPTOTHERIA (顕獣上目)
 ├ grandorder ANAGALIDA(アナガレ大目)
 ├ grandorder FERAE(野獣大目)
 ├ grandorder LIPOTYPHLA (= INSECTIVORA) (リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
 ├ grandorder ARCHONTA(主(獣)大目)
 └ grandorder UNGULATA(有蹄大目)

 Carroll (1988)が引用した Novacek (1986)によく似た分類が採用されているように思われます.
 しかし,こちらの場合は,クラディズムが基本ですから,実は進化の道筋を表していることになります.してみると,有蹄類が一番進化していることになるんですかね.

 

2009年7月24日金曜日

辞書の展開(6)

 
●旧体系と新体系の対比(3)superorder PREPTOTHERIA (顕獣上目)までへの流れ

 おおざっぱにいうと,旧体系では,「獣類(真獣類)」とそれより原始的な哺乳類に分けられていて,我々が普通によく目にする哺乳類は「獣類(真獣類)」に入れられています.
 これでも,進化の様子を少しは表しているのですが,新体系ではよりその生命の進化の流れが明瞭になりますね(真実かどうかは別として).

 それでは,旧体系の「獣類(真獣類)」の中身をおさらいしておきましょう.

 まずは,Carroll (1988)から…,

獣亜綱 [ subclass THERIA ]
 ├ 三尖歯〔三隆起歯〕下綱 [infraclass TRITUBERCULATA ]
 │ ├ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA ]
 │ ├ 目分類位置不詳 [ order incertae sedis ]
 │ └ 真汎獣目 [ order EUPANTOTHERIA ]
 ├ THERIA of METATHERIAN-EUTHERIAN Grade
 ├ 後獣下綱[ infraclass METATHERIA ]
 │ ├ 有袋目 [ order MARSUPIALIA (New world and Europian marsupials) ]
 │ └ (豪州有袋類)australasian marsupialia
 └ 真獣下綱 [ infraclass EUTHERIA ]
   ├ 目分類位置不詳 [ order incertae sedis ]
   ├ 擬獣目〔幻獣目〕 [ order APATOTHERIA ]
   ├ 薄鼬目 [ order LEPTICTIDA ]
   ├ …

・注:和訳は私が勝手につけたものが混じっています.原語は英語.また,各分類群には定義者名が入っていませんので,厳密には,ほかの分類体系との比較は不可能です.

 次に,Colbert & Morales (1991)では…,

真獣亜綱〔獣亜綱〕[ subclass THERIA ]
 ├ 汎獣下綱〔全獣下綱〕[ infraclass PANTOTHERIA ]
 │ ├ 新全獣目 [ order EUPANTOTHERIA ]
 │ └ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA ]
 ├ 後獣下綱 [ infraclass METATHERIA ]
 │ └ 有袋目 [ order MARSUPIALIA ]
 └ 正獣下綱〔真獣下綱〕 [ infraclass EUTHERIA ]
   ├ 食虫目 [ order INSECTIVORA ]
   ├ 大脛目〔跳地鼠目〕 [ order MACROSCELIDEA ]
   ├ …
   ├

・注:これは和訳本からですので,和訳名が入っています.しかし,〔 〕内で記述してあるとはいえ,THERIAにも「真獣」,EUTHERIAにも「真獣」の名が使われており,首を傾げざるをえません.また,日本にいない動物に漢字で和名をつけ,さらにそれをカタカナにするなど,深窓の学者が好きな「用語のジャーゴン化」がおこなわれており,統一がとれていません.ここでは「ハネジネズミ」が出てきてしまいましたが,元の漢字に戻してみました.が,原語の学名のラテン語の意味をを反映していないので,原語の意味に近い訳を勝手につけました.
 また,Carroll (1988)と同じ用語が使われていますが,こちらも定義者名が入っていないので,厳密には比較はできません.しかし,それを言っていては比較ができないので,仮に同じ定義者を引用しているという前提で話を進めます.
 たとえば,「獣亜綱」は「subclass THERIA Parker et Haswell, 1897」,「真獣下綱」は「Infraclass EUTHERIA (Gill, 1872) Huxley, 1880」という前提です.


 Burkitt (1995ed.)では…,

獣亜綱 [ subclass THERIA Parker et Haswell, 1897 ]
 ├ 汎獣下綱 [ infraclass PANTOTHERIA Marsh, 1880 ]
 │ ├ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA Simpson, 1925 ]
 │ └ 新全獣目 [ order EUPANTOTHERIA Kermack et Mussett, 1958]
 ├ 後獣下綱 [ infraclass METATHERIA Huxley, 1880 ]
 │ └ 有袋上目 [ superorder MARSUPIALIA Illiger, 1811 ]
 │   ├ 有袋食肉目 [ order MARSUPICARNIVORA Ride, 1964 ]
 │   ├ 僅小結節目 [ order PAUCITUBERCULATA Ameghino, 1894 ]
 │   ├ 袋穴熊目 [ order PERAMELINA Gray, 1825 ]
 │   └ 双門歯目 [ order DIPROTODONTA Owen, 1866 ]*
 └ 正獣下綱 [ infraclass EUTHERIA ( Gill, 1872 ) Huxley, 1880 ]
   ├ 食虫目 [ order INSECTIVORA Bowdich, 1821 ]
   ├ 大脛目 [ order MACROSCELIDEA Butler, 1956 ]
   ├ …
   ├

注:こちらも,原語は英語ですので,勝手に和訳をつけました.
 なお,こちらも,原文には,分類群に定義者名が入っていません.原記載者名はこちらで勝手に入れました.しかし,各分類群には短い説明がされていますので,Burkitt (1955ed.)オリジナルなのかもしれません.原記載と比較してみればいいのですが,原記載の入手は困難ですので,そこまでする気はありません.悪しからず(ただ本当は,こういう場合はきちんと確認しておかないと,原記載とまったく違っていたりして,足をすくわれるのが常ですね).
 本来は,(たとえば)「獣亜綱」はsubclass THERIA Parker et Haswell, 1897ですが,subclass THERIA (Parker & Haswell, 1897) Burkitt, 1995かもしれない,ということを意味しています.
 「分類学者といえば厳密なのだろう」という先入観がありますが,かなりいい加減な人たちがやっているような気がしてきたでしょう?((^^;)


 さて新体系では…,その前に…,
 これまで,いろいろと新体系について探ってきたのですが,分類群にランク名がなく,しかも定義者名も書かれていないなど,根本的な欠陥がボロボロ現れてきて,何度か「プツン」しそうになりました((^^;).
 やっている方からしてみれば,全体の「流れ」が問題なのであって,個々の分類群は「さ」ほど重要ではないと考えているのかもしれませんが,「分類群にランク名がなく,しかも定義者名も書かれていな」ければ,他人には再検討のしようがないので,現代科学論では,「科学ではなく,オカルト」と見なされます.
 クラディズムは,生命の体系に(確かに)いろんな新しい解釈を与えてるかもしれませんが,これが現状だとすれば,頭の古い人たちに受け入れられるには,あと十年はかかりそうですね(なんか,PT論者の研究が先走りすぎて,学会に受け入れられなかった時代に,いろんな意味でよく似ているような気がします).

 さて,そう文句をたれていても,理解に前進がないので,「ちっちゃなことは気にしないで」話を進めます((^^;).

 新体系の情報は前述の通り「THE TAXONOMICON:http://taxonomicon.taxonomy.nl/」からなんですが,何回か見直すと,情報が変わっているような気がします.印刷物だと情報は固定していますので,そんなことはありえないのですが,研究を進めたい人にはいいメディアなんですが,それを検証したい人には不都合なメディアですね.インターネットというものは….

 ま,「ちっちゃいことは気にすんな」で…,

獣型亜綱 [subclass †THERIIFORMES (Rowe, 1988) McKenna & Bell, 1997]
├ 異獣下綱 [infraclass ALLOTHERIA (Marsh, 1880) Hopson, 1970]
├ 三錐歯下綱 [infraclass †TRICONODONTA (Osborn, 1888) Vandebroek, 1964]
└ 完獣下綱 [infraclass HOLOTHERIA (Wible et al., 1995) McKenna & Bell, 1997]
  ├ 吸氏獣上団 [superlegion KUEHNEOTHERIA McKenna, 1975]
  └ 走獣上団 [superlegion TRECHNOTHERIA McKenna, 1975]
    ├ 相称歯団 [legion SYMMETRODONTA (Simpson, 1925) McKenna, 1975]
    └ 分枝獣団 [legion CLADOTHERIA McKenna, 1975]
      ├ 木盗亜団 [sublegion DRYOLESTOIDEA (Butler, 1939) McKenna, 1975]
      └ 最獣亜団 [sublegion ZATHERIA McKenna, 1975]
        ├ 袋鼠下団 [infralegion PERAMURA McKenna, 1975]
        └ 摩楔歯下団 [infralegion TRIBOSPHENIDA (McKenna, 1975) McKenna & Bell, 1997]
          ├ 浜歯上区 [supercohort AEGIALODONTIA (Butler, 1978) McKenna & Bell, 1997]
          └ 獣上区 [supercohort THERIA (Parker & Haswell, 1897) McKenna & Bell, 1997]


 と,これでやっと旧体系にもある「獣類」まで到達しました.
 原文は英語なので,例によって「訳語」は,わたくしオリジナルが混じっています.コピペして知ったかぶりすると,妙なところで恥をかくと思いますのご注意!

 これだけでも,旧体系とは考え方が大きく違うことが理解できると思います.
 前にも言いましたが,クラディズムとは,一点ないし数点で共通項をもたない集団を排除し,それを進化上の分岐点と考えるところから成り立っているからです.
 だから,あらゆるところで,結節点が生じる.
 これまで用いてきた「綱」・「目」・「科」などという単位では数が追いつかないのですね.
 本当は,何が理由ではじき出されたのか示しておきたいし,定義の何が訂正されたのか私自身も知っておきたいのですが,なにせ,文献がね….

 続けて,THERIAから我々が比較的よく知っている動物名が出てくる「顕獣上目 =PREPTOTHERIA 」まで.

獣上区 [supercohort THERIA (Parker & Haswell, 1897) emend.]
├ 獣上区・分類位置不詳
├ 有袋区 [cohort MARSUPIALIA (Illiger, 1811) McKenna & Bell, 1997]
└ 有胎盤区 [cohort PLACENTALIA (Owen, 1837) McKenna & Bell, 1997]
  ├ 有胎盤区・分類位置不詳
  ├ 異節巨目 [magnorder XENARTHRA (Cope, 1889) McKenna & Bell, 1997]
  └ 上獣巨目 [magnorder EPITHERIA (McKenna, 1975) McKenna & Bell, 1997]
    ├ 薄鼬上目 [superorder LEPTICTIDA McKenna, 1975]
    └ 顕獣上目 [superorder PREPTOTHERIA (McKenna, 1975) McKenna, 1993]
      ├ …
      :

 個々の分類群については説明しません.
 というのは,記載者名,訂正者名を示しましたので,原記載はGoogleすれば出てくるはずですから.また,生物のイメージも,学名をコピペして画像検索すればかなりの数が出てきます.
 いい時代になりましたね.あ,日本語での検索はダメですよ.

 

2009年7月15日水曜日

辞書の展開(番外)

 
●意外すぎるオチ
 このテーマ「辞書の展開」は,FEP(IM)にATOKを導入したのをきっかけに,言語環境や辞書環境を整備しようとしていたものです.
 新旧の生物分類をネタに,これまで使っていたいくつかの辞書・辞典を整理してゆくつもりだったのですが,意外なところでオチてしまいました.

 ひとつは,「Jamming」のアップグレード版の「Logophile」が出たこと.
 もうひとつは,Mac OSX (Leopard)搭載の「辞書」に「LSD」が使用できるようになったことです.この二つのために(おかげで),容易に,しかも大きな辞書データに,作成中の文章上からアクセスすることができるようになりました.そのため,FEP(IM)のユーザ辞書を(意識的に)鍛える必要がなくなってしまいました.
 膨大なデータの整理がほとんど不要になってしまい,辞書を作る方針を考え直さなければならなくなったからです.

Jamming/Logophileは「今井あさと」さんが公開しているシェアウェア.電子辞書ブラウザです.
・LSDは,「ライフサイエンス辞書プロジェクト」が公開している生命科学関係の辞書データの数々です.

●PDIC on MS-DOS
 MS-DOS時代には(Windowsに入ってからも続いてますね),PDICというすばらしい辞書ソフトがありまして,特殊な言葉(地質学,古生物学,etc)を使う私には非常にありがたかったものでした.これには,たくさんのdataを貯め込みましたね.辞書とは思えないようなデータも(生物,古生物の学名やその文献データ,友人の住所データまで).
 Mac常用になってからも,PDICでためた資産を使えないものだろうか,PDIC for Macは出ないものかと待ち続けましたが,いまだにPDICのように簡単にユーザ辞書を整備できるものはないと思っています.
 なにせ,PDICをMac上で動かすためだけに,一時はMac上でWindowsを動かしたものです.あほみたいなソフトで途中で消えていきました(現在,また(エミュレーションソフトというのかな?)いくつか出ているようですが,そのときのトラウマ(それほど大げさなモンじゃあないですが)で手を出す気がしないです).

・蛇足しておけば,MS-DOS時代には(すでにWindowsも出てましたが),テグレット社の「知子の情報」シリーズと「Vz Editor」,それにこの「PDIC」があれば,ほとんどの仕事が可能でした.もちろんFEP(IM)は「WX」series.
 バッチファイル(懐かしい言葉(;_;))を組んでおけば,いつでもアプリの切り替えが可能.まったくWindowsは必要なかったですね.


●Jamming on Mac
 Macを常用するようになって,日本語環境が「さみしい」のが気になってました.FEP(IM)もそうですが,辞典類も使い物にならない.

 しょうがないので,マック上で動くいくつかのソフトを試しました.
 結果だけいうと,Jammingというのが一番でした.
 たくさんの市販辞書データを一覧できるし,ユーザ辞書も何とか作れます.

 ジャミング辞書形式というのが,ちょっと特殊なので,PDICのデータを全て変換することはできないままに,しばらく使用してました.「大辞林」や「ランダムハウス」,「リーダーズ+」が使えるので,通常の使用には不自由しないのですね.しかし,ワープロなどのソフトウエアとの連携が悪く,単語をコピーするとJammingが動き出す設定なので,割と邪魔くさい.
 Mac OSXが出たときには,辞典が搭載されていて,単語を反転させてマウス右クリック>メニューで「辞書で調べる」で内蔵辞典(「大辞泉」・「プログレッシブ英和・和英」・「OAD」)が引けます.一般の使用には十分なので,Jammingの使用頻度が減りました.

 ですが,(古)生物の名前や,地質用語・鉱物名などを使用する状況になると,とたんに不満が出てくるわけですね.
 PDICのHPで,Mac版を開発してくれるように,しきりにお願いしてました((^^;).


●ATOK for Mac
 Mac OSX (Leopard)にしたときには,EGBRIDGEが使えなくなりましたので,しょうがなくて「ことえり」を一年弱使ってました.
 「ことえり」のあまりのバカさ加減にあきれて,最後の手段であるATOKに手を出してしまいました.VJE>WX> EGBRIDGEに見放されて,ついにATOKです(ちなみに,atokとは,ペルー産のスカンクの一種だそうです).
 おばかな「ことえり」で一年弱も我慢したことで,どれほどATOKを使いたくなかったかわかるでしょ.でも,その反動でATOKは,快適だこと,快適だこと.

 簡単な辞書エディターもついてますので,こいつを「PDIC並みに使ってやれ」と考えてしまい,ユーザー辞書を鍛え始めました.

 「鉱物名辞書」は簡単に移動できました.
 こいつは結局失敗でした.マニュアルにユーザー辞書の構造の説明がないので普通に使う辞書と同じ辞書に書き込んでしまったのです.本来ならば,独立した辞書にしておいて,その手の文章を書くときにのみ「開く」といいようにしてあれば,同じATOKユーザに鉱物名辞書を分けてあげられたのです.
 ATOKの辞書エディターには,辞書を分離することができるような機能はないようです.「ことえり用出力」とかできれば,ユーザのためになると思うのですが,メーカは,そういうのは「損」と考えているようですね.

 問題はPDIC時代に貯め込んだ膨大な「(古)生物名」辞書.
 もちろん,地質学関連用語もありますが.
 これをJamming辞書に移すことは挫折してますので,PDIC辞書のままテキストで保存してあります(いつか,「PDIC for Mac」が出る日を待ちわびて…(^^;).
 とりあえず,生物の大分類(のみ)をATOK辞書に移しておこうと…,その前に,状況を確認しようとしたら,クラディズムを基本とする分類が(ホンの)少し公開されていることに気付き,今テーマにしている話が始まったというわけです.
 ま,要するに学名を整理しながら,辞書を鍛え直し,ついでにこれを話題にしてしまおうというもの.
 で,学名の整理をしながら,ブログを書いていたのですが….


●Logophile,登場

 そういえば,Jammingのアップグレード版の案内がきてたな,と思い出しました.

 これナンと読むのかな? ラテン語風ですね.
 英語の単語にありました.読みは「ラーガファイル」ですかね.
 ラテン語風に読むのなら,「ロゴプィーレ」ですかね?

 ラテン語ならば,philologia(プィロロギア)なんでしょうね.
 と,ドイツ語の「Philologie」は「文献学」で,英語の「Philology」は「言語学」だそうです.

 個人的には,ソフトの名称としては,「Jamming」の方が好きですね.ボブ=マーレィの熊倉一雄みたいなダミ声を思い出して((^^;).

 閑話休題.
 Logophileは,圧倒的に使いやすくなっていました.
 単語を反転させておいて,マウスの右クリック>メニューの一番下「Logophile」を選択すれば,Logophileが起動.登録辞書から該当の単語を示してくれます(欲をいえば,オリジナルの「辞書で調べる」の上にメニューを持って行けるとありがたいのですが…).

 おまけに,ユーザ辞書エディタもついてますので,私の目的にピッタリ!.
 少し残念なのは,エディタがまだ非力で,「言葉好き」の名の割には辞書整理とかがPDIC並みとはいきません.また,辞書ファイル変換がPDIC辞書に対応していないので,手動になります.
 まだ,ver. 1.0ですから,そのうち良くなるでしょう.
 強力なエディタがほしいですね.
 しかし,待っておられないので,辞書整理を始めてしまいました.
 ATOK辞書の方は,放置です((^^;)(WX>EGBRIDGで使ってた辞書は,もちろん移動しました.常用語辞書のことです.).
 もうひとつ,Mac OSX付属の辞典の使用頻度は減ってしまいました.ボキャブラリに少し問題があるのでね(数のことです).


●LSDが! Mac辞書で!

 さて,Logophileのユーザ辞書の整理中に(単語数があまりに膨大なので(^^;)飽きてしまい,LSDの新版は出ていないのかなと探ったところ,ありました.
 あったどころか,LSDはMac OSXの付属辞書上で使えるデータになってました(!(O_O)).

 これで,なんと,「Logophile」と「Mac OS 付属辞書の強化版」と二つの強力な辞書(ブラウザ)が簡単に使えるようになってしまいました.
 今までの手間暇の大部分は無駄になってしまったんですが,なぜかうれしい((∩.∩)¥).

 もっとも,LSDの生物関連ボキャブラリのほうは,現生種が中心ですから,化石種の方はオリジナルで作り直さなきゃならないのは同じです.
 そうすると,やはり,「Mac OS 付属辞書の強化版」よりは「Logophile」のほうが使用頻度は多くなるでしょう.でも,LSDの表示方式に関しては,「Logophile」よりも,「Mac OS 付属辞書の強化版」のほうが,明らかに見やすく理解しやすい!

 う〜〜ん,困った(明らかに,うれしい「困った」ですね(^^;)

 ということで,辞書整理の順番を考え直さなければならなくなりました.
 やらなくていい部分が増えましたのでね.
 でも,予定していた,

辞書の展開(6)
●旧体系と新体系の対比(3)superorder PREPTOTHERIA (顕獣上目)までへの流れ



辞書の展開(7)
●旧体系と新体系の対比(4)旧体系の「…目」から

 は,データが整理でき次第,続けますので,乞うご期待!
 って,誰も期待してないか((^^;)

 

2009年7月10日金曜日

辞書の展開(5)

●旧体系と新体系の対比(2)異獣類

 哺乳類の分類体系の中で,原始的な「原獣類」と新生代的な「獣類」を結びつけるものとして,異獣類というグループがあります.

 たとえば,Carroll (1988)では…,

哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 獣亜綱[ subclass THERIA ]

 Colbert & Morales (1991)では…,

哺乳綱
├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]

 Burkitt (1995ed.)では…,

哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
│ ├暁獣下綱[ infraclass EOTHERIA ]
│ ├鳥子宮下綱[ infraclass ORNITHODELPHIA ]
│ └異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└獣亜綱[ subclass THERIA ]

 新体系(Taxonomicon)では…,

哺乳類形類
├ 哺乳類形類・分類位置不詳
└ 哺乳綱
  ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
  └ 獣型亜綱[ subclass THERIIFORMES ]
    ├ 異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
    ├ 三錐歯下綱[ infraclass TRICONODONTA ]
    └ 全獣下綱[ infraclass HOLOTHERIA ]
      ├ …

 だんだん,扱いが粗略になっていっているようですが,哺乳類の分類群の中で重要な位置を占めることはわかると思います.
 さてその中身を少し詳しく見ると,

 Carroll (1988)では…,

異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA Cope, 1884 ]
  ├ プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA ]*
  ├ プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA ]**
  ├ タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA ]***
  └ 亜目所属位置不詳 [ suborder incertae sedis ]

*プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA (Ameghino, 1889; Simpson, 1925) Hahn, 1969 ]
** プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA (Simpson, 1928) Sloan et van Valen, 1965 ]
***タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA Sloan et Granger, 1965 ]


 Colbert & Morales (1991)では…,

異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
├ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ](プティロドゥース目)
├ プラギアウラックス目[ order PLAGIAULACOIDEA ]
├ タエニオラビス目[ order TAENIOLABIDOIDEA ]
└ プティロドゥース目[ order PTILODONTOIDEA ]

 Burkitt (1995ed.)では…,

異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ]
  ├ プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA ]
  ├ プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA ]
  ├ タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA ]
  └ 多丘歯目位置不詳 [ MULTITUBERCULATA incertae sedis ]

 新体系(Taxonomicon)では…,

異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ]
  ├ 多丘歯目位置不詳 [ MULTITUBERCULATA incertae sedis ]
  ├ キモロドン亜目[ suborder CIMOLODONTA ]****
  └ ゴンドワーナテーリウム亜目[suborder GONDWANATHERIA ]*****

****キモロドン亜目[ suborder CIMOLODONTA (McKenna, 1975) Kielan-Jaworowska et Nessov, 1992 ]
*****ゴンドワーナテーリウム亜目[suborder GONDWANATHERIA (Mones, 1987) Krause et Bonaparte, 1990 ]


 四者とも,大きな違いは,多丘歯類をほかのグループと並置するか,多丘歯類に含ませるかの違いだけのようです.しかし,新体系では多丘歯類に含まれるグループの名称が,ほかの分類体系と大きく違います.

 キモロドン類は,Carroll (1988)でも,キモロドン科として,異獣亜綱・多丘歯目・プティロドゥース亜目・キモロドン科に分類されていました.Burkitt (1995 ed.)でも,キモロドン科は,異獣亜綱・多丘歯目・プティロドゥース亜目・キモロドン科に分類されています.
 しかし,新体系ではプティロドゥース超科やタエニオラビス超科その他を代表する亜目として設定されています.

 定義を記述した論文が入手できないので滅多なことはいえませんが,キモロドン類がこれらを代表する生物分類群だということではないようです.
 多丘歯目に分類されていた多くの分類群が“キモロドン”亜目に収容されてしまいましたので,これに,これまで使われていた,プラギアウラックス,プティロドゥースやタエニオラビスの名称を使うと誤解を招く可能性が大きいので,「キモロドン」の名称を使ったのだと思われます.

 なお,ゴンドワーナテーリウム類は名称の印象からいうと,ゴンドワーナ大陸に生息していた多くの動物群を示すような名称に見えますが,その実,1980年代になって発見されたフェルグリオテーリウム属,ゴンドワーナテーリウム属,スーダメリカ属しか含まない小さなグループです.そのため,誤解を招きそうな“ゴンドワナ獣”類という名称の使用は避けました.
 したがって,異獣類という枠組み自体は,あまり定義に変化がないようです.

 

2009年7月7日火曜日

辞書の展開(4)(補遺)

 
●旧体系と新体系の対比(1)根っ子のところで(補遺)

 前回は,Carroll (1988)から,いきなり,THE TAXONOMICONの体系に跳ばしてしまいましたので,なにか,ものすごくドラスティックな変化があったような印象を与えてしまいましたが,失敗だったようです.
 そこで,この二つの間に出された体系をいくつか示して,紆余曲折しながら生物の体系に迫ろうとした研究の足跡を示しておきたいと思います.

 先に言っておくと,これらは「どれが正しい・正しくない」というものではありません.
 その時代,その時代で集められた情報を元に,その時代の分類学者が一番適切と思われる体系を組んでいるもので,「新しいものが正しくて,古いものは間違い」というものではないのです.
 しばしば,新しい体系の信奉者が,古い体系を「『錬金術』にも等しい」という言い方をしますが,そんなモンではないですね.こうやって流れを追ってみると,いきなり正解が出たのではなくて,その時代,その時代にたくさんの努力が積み重ねられて,現在に至る過程がよくわかります.「現在」も,流れの中の一コマに過ぎないので,未来永劫続く「真理」というわけではないのです(別に,「地向斜造山論」と「プレート・テクトニクス論」とのアナロジーをやってるわけではないですよ(^^;)

 悲しいかな,「受験学問体系」というのは実在していて,それは「○」か「×」かで判断される知識体系です.こういう関門をくぐって,現在,大学や研究機関でトップに立っている人たちは,案外簡単に「○」か「×」かで,物事を判断することがあるようです.
 ある日,「○」が「×」になったら,その人たちの体系は根本から崩れていくんでしょうね.

 書き方が「正しい学名」とか「正しくない学名」というのはありますが(「無効」,「有効」と分けます),学名そのものが「正しい」とか「正しくない」というのもありません.
 そのとき問題にしている標本は,「Genus species 記載者,記載年」と同じものだといっているだけですから.


 閑話休題(さて,それでは続きを始めます)

 Colbert & Morales (1991)では,大まかには,

哺乳綱
 ├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 ├ 異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
 └ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]

 これらのうち,暁獣亜綱と原獣亜綱をもう少し詳しく示すと,

哺乳綱
 ├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
 │ ├ 梁歯目[ order DOCODONTA ]
 │ └ 三錐歯目[ order TRICONODONTA ]
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 │ └ 単孔目[ order MONOTREMATA ]
 ├ 異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
 └ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]

と,こうなっています.
つまり,Carroll (1988)の体系からは,梁歯目と三錐歯目を原獣類から独立させて,暁獣類(三畳紀〜ジュラ紀にいたきわめて原始的な哺乳類)というグループを作り,原獣類は現生種を含むカモノハシ・ハリモグラの仲間としてわけですね.

 次に,Burkit (1995)では,大まかには…,

哺乳綱
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 └ 獣亜綱[ subclass THERIA ]
   └

 と,なっています.
 ここで,原獣亜綱をもう少し詳しく示すと,以下のようになります.

哺乳綱
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 │ ├暁獣下綱[ infraclass EOTHERIA ]
 │ │ ├三錐歯目
 │ │ └梁歯目
 │ ├鳥子宮下綱[ infraclass ORNITHODELPHIA ]
 │ │ └単孔目
 │ └異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
 └獣亜綱[ subclass THERIA ]
   └

 Colbert & Morales (1991)では,暁獣亜綱として「きわめて原始的な哺乳類」とされたものが,Burkit (1955)では一転して,原獣亜綱の中の一下綱という位置づけです.暁獣下綱を形成する目には変わりがないようですね.
 ここでは,鳥子宮下綱というあまり聞き慣れないグループがでてきました.しかし,この下綱を構成しているのは,単孔目なので,原獣類と同じものと見なしておきます.
 おおざっぱに言うと,下綱以下は細分されていますが,それは原獣類として一括できるもので,哺乳類は原獣類と獣類の二つに分けることができると考えているということです.

 これが,THE TAXONOMICONでは,よりフラットに広がり,ダーウィンのいうようなリンク状になっていったわけです.



コルバート, E. H.・モラレス,M.(1991)「脊椎動物の進化【原著第4版】(田隅本生,1994訳)」(築地書館)
Burkitt, J. H., 1995 ed., MAMMALS = A World Listing of Living and Extinct Species. Tennessee Department of Agriculture, Nashville, Tennessee.
 

2009年7月5日日曜日

学名の悲劇

 
 庭の「黄色いカタクリ」の葉が枯れたので,なにか手入れをする必要があるかなと思い,Googleしてみました.

 ちょっと,球根が増えすぎて,混み混みしているので,間引きすると同時に,別な環境に植え替えを考えた方がいいようです.カタクリは落葉樹の下で,春先に日当たりがよく,夏の強い日差しは避けられるような場所の方がいいようで.
 現在の場所は,真夏の直射日光が当たりますのでね.

 ついでに,なにかの時のために,カタクリの情報を整理しておこうと,サーフィンしてたら,黄色いカタクリは我が国自生のものではなく,アメリカ・カタクリもしくはヨーロッパ・カタクリと呼ばれるものらしいことがわかりました.
 では,学名で情報をフィックスしておこうと始めたのが運の尽き,「悲劇」が起きました((^^;).

 我が国産であるカタクリの学名を,先にと,調べると…,

1)Erythronium japonicum Decne
2)Erythronium japonicum Decne.
3)Erythronium japonicum Dence.
4)Erythronium japonicum Dense.
5)Erythronium japonicum Decaisne

 こ~んなにいっぱい「学名らしきもの」が出てきました((^^;).
 何がどう違うかわかりますか?

 どれも,最初の単語は属名[genus]で,二番目が種名[species].この二つは同じですね.いや,もちろん,ここから違うものは排除してあります((^^;).三番目は記載者名.本当はこのあとに記載年もつきます.

 最近は,一般人のHPでも学名(らしきもの)を多用するようです.
 ちょっと前までは,わけのわからん頁に当たるのを避けるために,学名を用いれば,かなりの率で排除できたもんですが,最近はその手が効かなくなりました((^^;).

 「学名が普及してきた」と,喜ぶのは早いようで.
 単にそれらしく見えるというので似たような頁から,なんの疑問も持たずに,コピペしているというのが実情のようです.
 一方で,大学や研究所が公開している頁でも,かなり,いい加減な扱いをしているものも多いようで,この有様です.

 コピペする段階で起きたと思われる間違いが,2)から1)ですね.
 「.」が省略されてしまいました.「.」は,「長い名前だし,よく使われる名前なので[. ]の後は省略しましたよ」という意味.本当は人名なので,省略するのは「失礼」なんですが,最近の学者は先人に敬意を払わないので,しばしばやります.おまけに,「二回以上出てくる場合には省略してもいい」というのが原則なのに,たった一回しか出てこない場合でも,平気で省略されます.
 こういったことを知らない人が,コピペすると1)が発生します.しかし,これはコピペ元が不親切きわまりないので,省略されていない名前が用いられるべきだと思いますね.
 ただし,この人の場合は,自らこの省略形を使った形跡があります.植物学の世界では有名人らしく,こう書けば,この人「一人だけ(同名の別人ではなく)」を示すということらしいです.

 3)は,たぶん,コピペではなく,タイプミス.もしくは,「Decne」という語は普通のモンじゃあないですからね.たぶん,「Dence」のほうがそれらしいと思ったのでしょう.

 4)も同様のもんですが,「Dence」よりは「Dense」のほうが,より英語らしいですからね.

 さて,5)が,どうやら一番正確なようです.
 Decaisneはフルネームで,Joseph Decaisne (1807. 3. 7. - 1882.1.xx.).ベルギー生まれの植物学者で農学者(フランスで活躍).私は,フランス語もベルギー語もわからないので,発音を「カタカナ」に直せません.悪しからず.
 日本産の植物もたくさん記載しているようです.どういう人なのか,そのうち調べてみましょう.


 学名は定義がはっきりした「もの」を示す言葉ですから,いい加減な引用をすると,非常に困ったことになります.1字違っても別のものを示すことになることがあります.ま,たいていの場合は,“学名らしきもの”になるだけですが….
 さて,先ほど,学名で検索しても,怪しい頁を排除できなくなったといいましたが,まだ方法があります.それは,記載者名も検索条件に入れることです.
 ただし,これをやると,日本語のHPはほとんどなくなりますね.大学や公立研究所が運営している「頁」でも,学名の扱いが粗略だということの証明でしょう.

 属-種からなる二名法は結構ポピュラーになり,属名と種名を並べれば,学名として必要十分であるとわかってきているようですが,より正確を期すならば,その学名の記載者名(+記載年),場合によってはその訂正者名(+訂正年)が必要なことは理解されていないようです.

 そこで,それを調べると…,

1)Erythronium japonicum Decaisne, 1854
2)Erythronium japonicum Decaisne, 1864
3)Erythronium japonicum Decne., 1854
4)Erythronium japonicum Decne., 1864
5)Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Baker, 1874
6)Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Baker, 1875

 と,こんなのがでてきます.
 1)と3),2)と4)は実質的には同じものということですね.ただし,前述したとおり,「Decne.」を使うならば,どこかわかりやすいところに「Decne.」は「Decaisne」の省略形だと書くのが親切というもの(どうも,植物学者でも,これを知らないで使っている人がいるようなんですが…).

 それでは,1),3)と2),4)とは,何が違うのか?
 記載した論文の出版年が違いますね.これは,単なるタイプミスなのかもしれません.
 別なことも考えられます.Decaisneが1854年と1864年にErythronium japonicumに関する若干定義の異なる論文を出していれば,このリストをあげた人が1854年の論文と1864年の論文を比較して,よりリーズナブルだと判断したほうを取り上げたとも考えられます.
 現実には,ここまで記載しておきながら,原著の引用文献をあげていないことの方が多いので(特に,日本人研究者の書いた論文),「タイプミスか」あるいは「取捨選択か」の判断はできないことの方が多いです.

 学名を記述するということには,結構,大変な背景があることがわかったでしょうか.
 一字違いで大違い.知っていれば,別にどうってことはないんですけどね.

 で,どちらが正しいかは曖昧なままで…(文句があったら,学名を疎略に扱っている日本の植物学者にいってくださいね.(^^;).
(もっとも,御國の方針はノーベル賞をもらえるような少数の学者を育成することなので,学問の基礎の基礎である分類学者の育成なんて彼らの頭の隅にもありません.こういうことをやろうという学者が育たないのは,仕方がないことかもしれません.)

 で,まあ曖昧なままで…((^^;).
 5)と6)はなんなんでしょう?
 この一行で(実際には二行ですが,それはまあ置いといて),こんなドラマが生まれます.

 ヨーロッパでは,今から250年以上も前に,“カタクリ”が現在と同じ方法でリンネ氏によって記載されました.それが,Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753.ちなみに,リンナエウス[ Linnaeus ]は本名:リンネ[ Linne ]のラテン語風の綴り.リンネ氏は現代風な種の記載の創始者です.
 また,種名は「犬の歯」を意味しています.“カタクリ”の花が「犬の歯」を連想させたのでしょうか.現地では「犬の歯スミレ」と呼ばれていたようです.“カタクリ”はスミレではなく,ユリの仲間なので,「スミレ」を抜いて,「犬の歯」が学名になったという次第(「-」ハイフンが使用されていますが,アルファベット以外の補助文字を使用するのは疑問です).

 日本で最初に見つかった「カタクリ」は(正確には,植物を記載するということを知っている人に最初に見つかったとき),リンネが1753年に記載したErythronium dens-canisと同じものと見なされたでしょう.あるいは,少し違うなと思われたかもしれません(ちゃんと調べてないので,わかりません).

 リンネ氏の記載の約100年後(1854と1864のどちらが正しいかわからないので),Decaisne氏が日本産の「カタクリ」はヨーロッパ産の“カタクリ”とは違う種としてErythronium japonicum Decaisneを提案しました.ここで,ようやく(日本語圏では),「カタクリ」と「ヨーロッパ・カタクリ(もしくはセイヨウ・カタクリ)」という言葉が成立するわけです.

 その約20年後(1874と1875のどちらが正しいかわからないので),Bakerさんが「ヨーロッパ産のカタクリとは少し違うな」と思い,しかし,新種とするほどの違いではないと考えて,変種:Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Bakerを提案したわけですね.


 さて,では
 Erythronium japonicum Decaisne, 18xxと
 Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Baker, 187xでは,
 どちらが正しいのでしょう?

 答えは…「どっちだっていい」です.
 ただし,正確な記載年と,その引用文献を示さなければなりません.
 そして,選んだ方でないほうを,シノニムとしてリストしておけばいいのです.

 もっといえば,Erythronium nipponicum(とかあなたの好きな名前を書けばよろしい) +(あなたの名前+記載年)として,上の二つをシノニム(同物異名)としてリストして置いてください.それで新種のできあがりです.
 理由として,上記二つの記載論文を読んで,あなたの見つけたカタクリと違うところを明記しておけばいいのです.
 もっとも,誰もあなたの意見を支持しなければ,そのまま消えてしまいますけどね.

 話が,少しずれちまいましたけど,学名の意味が少しは理解できたでしょうか?
 属名と種名をコピペしておけばいいということではないということ.
 たった一行に,たくさんの意味があるということ.
 シノニムがきちんと記載してあれば,研究の歴史までわかるということ…など.

 意味が忘れられて,ネット上を一人歩きしている学名は,悲しいですね.

 

2009年7月3日金曜日

ゾンビ・ハンティングⅡ

 
 09/05/29付けで「ゾンビ・ハンティング」という記事を書きましたが,本日届いた地団研の機関誌「そくほう」に,上田誠也の“書評”とその掲載に対する「地球惑星科学連合ニュースレター」編集部への抗議文が入ってました.

 私は(当時と比較して)少し冷静になってますので,今回は語尾が「論文調」から「会話調」に変わってますね((^^;).


 もちろん,私が腹を立てたのは「誹謗中傷」に対してではなく,こういうものを「科学史」だというセンスに対してです.そのとき流通している学説に乗っ取って科学をおこなっている人たちは,新しい学説に対して慎重であるのは当たり前のことです.

 (今だって,プレート・テクトニクス論者をこき下ろすことは可能ですが,それをしたら,この“科学史家”と同じレベルになっちまうような気がして恥ずかしい.)
 (いずれなんかの機会に「科学者を自称する連中への警鐘」として書きたいと思ってますが…,冷静にかけるまでね(^^;)

 この人たちは海外の状況を無視して,(日本においてのみ)地団研が「プレートテクトニクスの受容を遅らせた」としていますが,同じテーマを扱っている「海外の“科学史家”」ウッドは「地球の科学史=地質学と地球科学の戦い=」で,「地質学者が遅らせた」といっています.
 「地球の発見と地球科学の創造は既成の地質学によって常に妨害されてきた」(「はじめに」より)
 海外にも「地団研があった」というんでしょうかね?


 それはさておき,ある昔の出来事を思い出しました.
 地団研・全国運営委員会事務局の抗議に対するJGL編集者の態度のことです.

 昔,ある博物館に勤めていたんですが,そのときに札幌の「ある雑誌」に妙な記事が載りました.
 ある化石ブローカー(マニアとはいえない)についての記事なんですが,それが,私の勤務する博物館になにか密接な関係があるような書き方でした.当時の館長から,あぶない人なのでコンタクトをとらないようにと注意されていた人でした.
 博物館としては,こういう記事は本当に困るので,業務命令でその雑誌社に抗議の電話をかけました.そのときのその雑誌社の編集者の対応が似てるんですね((^^;).

 記事はフリーのライターが書いたもので,うちには責任がない.

 記事を載っけておいて,「責任がない」そうです(^^;.

 JGL編集部では「反論があれば載せる」といってますので,札幌の怪しい雑誌社よりはましなようですが,この事態を想定できなかったんでしょうかね? 確信犯?


 ちなみに,その札幌の雑誌社は「責任がない」の一点張りだったので,「当博物館に不利益が生じた場合は,法的手段も辞さない」と捨て台詞を吐いて電話を切りました.
 意味あるのかないのか知りませんが(こういう人たちは,山ほどこういう案件を抱えているらしいので,一つぐらい増えたってどうってことないらしい).

 でも,ま,こういう態度は出版関係者では当たり前のことようで,某・北海道の大新聞社でも,あるとき,その新聞の「読者の投稿欄」に,「クジラの骨格」の写真が載って,タイトルが「恐竜の骨格」だったので(もちろん,博物館の名前もばっちり載っていました),非常に困りまして,編集部に電話して,事情を話しましたが,このときも同じ態度でしたね.
 このときは抗議ではなく「『クジラの骨格の写真を,恐竜の骨格とされては困る』ので何とかしてほしい」ということだったんですが,「読者の投稿なので,訂正はしない」と断られました.
 みなさん,新聞に載っていることだからといって,全面的には信用しないようにね((^^;).

 それから,学会の記事でも,科学を装って,個人や団体に対する誹謗中傷が載ることがあるということも,知っておいてくださいね.

 

2009年7月1日水曜日

辞書の展開(4)

 
●旧体系と新体系の対比(1)根っ子のところで

(引き続き,「辞書の展開」なんですが,今回からラベルに「古生物一般」を付け加えます)

 たとえば,Carroll (1988)には,以下のような分類体系が載ってました(Appendixを和訳および編集しました).

 哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
  ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
  ├異獣亜綱(Subclass ALLOTHERIA Marsh, 1880)
  └獣 亜綱(Subclass THERIA Parker et Haswell, 1897)

 たとえば,このうち「原獣亜綱」はどうなっていたかというと….

哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
 ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
 │ ├単孔目(Order MONOTREMATA C.L. Bonaparte, 1837)
 │ │ ├カモノハシ科(Family ORNITHORHYNCHIDAE Gray, 1825)
 │ │ └ハリモグラ科(Family TACHYGLOSSIDAE Gill, 1872)
 │ │
 │ ├三錐歯目(Order TRICONODONTA Osborn, 1888)
 │ │ └(略)
 │ │
 │ └梁歯目(Order DOCODONTA Kretzoi, 1946)
 │   └(略)
 :
 ├異獣亜綱
 └獣 亜綱

 現在は(印刷物は,入手できるころには,もう古くなっていますので,THE TAXONOMICON を利用させてもらいます)….(なお,これに近いものとして,目名問題検討作業部会(2003)が公表されています.こちらは,現生生物中心で概略のみ.しかも,古生物については省略が多いので,参考程度に使いました.「和訳」に関しては「不自然」なところもあるので,そこは自前の訳語を使いました.)

哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
 ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
 │ ├広足目(Order PLATYPODA (Gill, 1782) emend.)
 │ └速舌目(Order TACHYGLOSSA (Gill, 1782) emend.)
 │
 └獣形亜綱(Subclass THERIIFORMES (Rowe, 1988) emend.)
   ├異獣 下綱(Infraclass ALLOTHERIA (Marsh, 1880) emend.)
   ├三錐歯下綱(Infraclass TRICONODONTA (Osborn, 1888) emend.)
   └完獣 下綱(Infraclass HOLOTHERIA (Wible et al., 1995) emend.)
     ├…
     └…

 まず,原獣亜綱に入っていた三錐歯目と梁歯目が消えています.
 どこへ行ったかというと,三錐歯類は獣型亜綱-三錐歯下綱へ,梁歯類は哺乳綱から外されて哺乳類形類(MAMMALIAFORMIS Rowe, 1988)中の梁歯目へ.哺乳類形類はランク名がありませんが,哺乳綱とその他雑多な哺乳類様生物がまとめられた,「綱」より上のランクです(このあたりの表示法が私には理解できないのですが,「哺乳綱」以外は「Class incertae sedis =綱,分類位置不詳」として強引に理解しておきます).

哺乳類形類(MAMMALIAFORMIS Rowe, 1988)
 ├…
 ├梁歯目
 ├…
 └哺乳綱
   ├原獣亜綱
   └獣形亜綱
     ├…
     └…

 原獣類には,広足目と速舌目が与えられていますが,これは実は「単孔目-カモノハシ科」と「単孔目-ハリモグラ科」のこと.したがって,ここには単孔類しか残っていないことになります.それでは,「単孔亜綱(Subclass MONOTREMATA)」にすべきだと思いますが,なぜか原獣類という言葉が残っています.

 日本哺乳類学会種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会(2003)ではMcKenna & Bell (1997)を引用していますが,それらもこれとほとんど変わりがありませんので,まあ,新体系への改訂として現在進められている一般的なものと見なしていいでしょう.

 なお,THE TAXONOMICONのデータを私流に使いやすくするために書き直していたのですが(と,いってもコピペしてmy formatに修正するだけですが),膨大な分類群の数にあきれるとともに,たくさんの生き物が地球上に生まれそしてほとんどが消えていったんだなあと,妙に感動してしまいました.


【参考文献】
Carroll (1988) 「Vertebrate Paleontology and Evolution」( W. H. Freeman and Company)
THE TAXONOMICON:http://taxonomicon.taxonomy.nl/
日本哺乳類学会種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会(2003)「哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について」(哺乳類科学,43巻127-134頁)

 

2009年6月25日木曜日

辞書の展開(3)

 
●ランクの和訳の周辺で

 今回,哺乳類分類についての新旧両体系の比較をおこなってみました.
 そこにでてくるグループが別の分類学的位置に移動しているのですが,当然,後ろにつく分類単位が変化します.そうすると,現在おこなわれている言葉の組み方では不都合が生じます.
 たとえば,旧体系のデスモスチルス目(束柱目)[Order DESMOSTYLIA Reinhart, 1953]は,新体系ではデスモスチルス小目(束柱小目)[Parvorder DESMOSTYLIA (Reinhart, 1953) emend.]に移動します.
 学名と学名の和訳の構造をみていただくと…,

    学名:「分類階級」+「グループ名称(語尾変化あり)」+「記載者名」
(その)和訳:「グループ名称(語尾変化なし)」+「分類階級」

 なんか,人名が英語圏の場合は「名」+「姓」なのが,日本語では「姓」+「名」になってるような現象ですが,彼我の精神風土の表れですかね.

 もうひとつ,外国の分類を題材とした本や,海外のまともなサイトでは,学名とその記載者名はセットになっていて,その定義を確認しようとしたときには道標になってくれますが,国産のものは(正式な論文でさえ)記載者名が無視されていることがほとんどです.図鑑などでこれをやられると,ほとんどアウトなんですが,記載者名どころか,学名すら省略している一般向け図鑑が多く,何のための図鑑やら…,と,思うことがしばしばです.
 ある図鑑で,「学名はしばしば変わるので省略した」と書いているのをみたときには「唖然(O_O)」としましたが,これがまあ,日本の分類学のレベルです(相当高価なものだったんですけどねえ).しばしば変わるなら,「シノニムぐらいリストしとけ」と思いますが,その図鑑編集者(および監修者)は,たぶんシノニムの意味も知らないでしょう.

 話がずれました((^^;).元に戻します.
 どうでもいいようなものですが,これをFEP(今はIMEというんですか?)の日本語変換辞書に登録するときには,少し考察が必要になります.
 もちろん,「ひらがなよみ」から「学名の和訳」に変換できればいいのですが,そのときに「学名」も選択できるようにしておきたい.上述したように,学名を疎略に扱う学者や,図鑑編集者が多いので,日本人は学名の和訳やカタカナ書きも「学名」と勘違いしている人が多いのですが,それはあくまで「学名の和訳」や「カタカナ表記」に過ぎず,学名ではありません.学名は世界標準語ですから,日本語にしてしまったら,それは学名ではないのです.
 理由?
 理由は日本語は世界共通語ではないからです(日本語を読める人なんか世界規模ではほとんどいないからです).

 また,話がずれました((^^;).元に戻します.
 ま,でも上記のような理由で,動物名を日本語でいくら正確に訳したところで,学名が付記されていなければ,その動物名は実は何を示しているのかよくわからないことになります.そこで,どうしても正確に記述するためには,FEP(IME)で学名が出てくるようにしておきたいわけです.

 これまでは,生物の分類階級が大きく変化することなぞ,考えなくてもよかったので,「ですもすちるすもく」>「デスモスチルス目」(もしくは「束柱目」)という風に登録しておけばよかったのですが,とりあえず,もうひとつ「ですもすちるすしょうもく」>「デスモスチルス小目」(もしくは「束柱小目」)を登録することになります.でも,よく考えると,クラディズム台頭の現在,短期間にデスモスチルス類(だけじゃあないですが)が「小目」だけじゃなくて,「大目」や「中目」あるいはまったく別の階級に移動することも充分に考えられます.
 そうすると,今後は,使われた分類階級の数だけ「日本語登録」が必要になります.(古くからPCを使ってる世代は,PCの能力の限界が染みついてますので,ついつい節約したくなるせいもありますが,)なにか不適切なことをやってるような気が,つい,してきます.

 一つの方法として,「分類階級」と「グループ名称」を別々に登録しておけば,ひんぱんな辞書登録は避けることができます(そうすると,「デスモスチルス綱」なんて,むちゃくちゃな言葉も変換できてしまいますね(-_-;).

 そこで,「ほにゅうこう」とタイプするのではなく,「こう」+「ほにゅうるい」とタイプすると「class MAMMALIA Linnaeus, 1758」と出てくることになります(ここも,「ほにゅうこう」とタイプしても「class MAMMALIA Linnaeus, 1758」が選択できるようにしておきます).
 「じょうこう」+「ほにゅうるい」では「superclass MAMMALIA Linnaeus, 1758」となりますので,哺乳類が「上綱」に格上げになったとしても,対応できることになります.
 いいのかな?
 しばらくこれで使ってみよう.
 
 ……….
 
 だめでした.
 確か,学名の語尾はランクが大きく変わると語尾変化するのですね.
 あり得ないものが,たくさん出てきます.

 うまくいかないので,結局元の構造に戻して,一個一個登録することにしました.ランクが変わった場合は,そのランクで別に登録することにします.
 今現在の,私の日本語変換辞書では,たとえば,「ですもすちるすもく」を変換すると,「デスモスチルス目」に変換されますが,同時に「Order DESMOSTYLIA Reinhart, 1953」も選択できるようになっています.これは(私にとって)結構便利なのです.
 ついでにいっておくと,あまり使わない学名で,分類階級が記憶上曖昧な場合には,「ですもすちるするい」と入力すると,「デスモスチルス類」に変換され,同時に「> デスモスチルス目」という注意書が出るようになってます.

 たとえば,旧体系では…,
 「ですもすちるすもく」>「デスモスチルス目」と変換され,さらに「Order DESMOSTYLIA Reinhart, 1953」が選択できるようにしておきます.
 新体系では…,
 「ですもすちるすしょうもく」>「デスモスチルス小目」および「束柱小目」と変換され,さらに「Parvorder DESMOSTYLIA (Reinhart, 1953) M.C. McKenna & S.K. Bell, 1997」が置換候補として選択できるようにするといいのではないかと.

 しかし,これでは,いちいちランクを覚えていないと,変換のための日本語入力ができません.したがって,「ですもすちるするい」という語を登録して,そこに「目」と「小目」の置換候補を登録しておき,将来別のランクがでてきたときには,この「…るい」の置換候補に付加するという方式をとることにします.
 ただし,これはものすごくたくさんの入力が必要になるので,方針だけ決めて後日,その話題を文章にするときに,まとめて入力ということにします.

 もうひとつ考えなければならないことは,これら学名(を含めた専門用語)は,通常ユーザ辞書に登録することになりますが,普通の文章を書いているときに結構邪魔します.だから,何らかの方法で,必要なときだけ使えるようにできるといいのですが,ATOK 2008では,ユーザ辞書の分割やその指定はできないようになっているようです.
 できればシステム辞書に登録しておいて,使用時に選択できるようにしておけば,very good!!なんですがね.これは解決するまでにしばらく時間が必要なようです.見通しはあるんですが….


 ここで少し冷静に.
 「こんな話してても,だ〜〜れも,読まないだろな((^^;)」