2009年11月1日日曜日

鉄人28号

 
 NTTドコモのCMで「鉄人28号」が出演している.

 一度だけ,「鉄人28号」が空を飛ぶシーンを見てしまい,感動した.
 その後,そのシーンが放映されるのを楽しみにしているのだが,未だに出会わない.ロングバージョンの最後のごく短い時間だけ登場するようだ.通常のバージョンでは,その部分はカットされているということらしい.通常のバージョンでさえ,まれにしか放送されないというに….
 だいたい,NTTドコモはTVCMに力を入れていないようで,ソフトバンクのカイ君たちとは雲泥の差だね.

 だいぶ前のことだが,H教育大・岩○沢校で「科学論」(本当は「科学史・科学教育史」)の非常勤をやっていたとき,ネタとして「鉄人28号」を使ったことがある.

 我々の子供時代,大流行したロボットものの双璧の一つが「鉄人28号」だ.もうひとつが「鉄腕アトム」.この二つのロボットは,どちらも,「科学技術」のシンボルなんだが,決定的な違いがある.
 鉄人はリモコンで操作される.鉄人自体に意志はない.科学技術は「両刃の剣」であるという横山光輝のメッセージだ.

 悪用されても,「科学技術」自体には,責任はない.
 しかし,「それ」を造り出した科学者・技術者には責任がある.少なくとも,太平洋戦争で負けたときには,多くの科学者・技術者がそう思った.地団研が結成されたのは,このことがきっかけであると聞いている.
 時代が移り,日本中が好景気に浮かれていた.しかし,その影で汚染物質に泣いている人たちがいた.科学者たちは,すでに,事実を隠蔽する側と発掘する側に分かれていた.

 ベトナム戦争が激化する中,大量殺戮に荷担する科学者たちが糾弾された.
http://socrates.berkeley.edu/~schwrtz/SftP/Jason.html
 金と地位を得た「戦争教授」たちには,糾弾は「屁」でもなかったようだ.

 世の中平和になった.とくに日本は.
 そんな中,すでに記事「ネメシス」で紹介しているように,日本の科学者は手放しで,ジェイソンのメンバーであるアルヴァレズを「天才」と褒めちぎった.再記しておくと,アルヴァレズは原爆開発チームの主要メンバーであり,日本への原爆投下チームのメンバーでもある.彼は,日本上空に立ち昇る「キノコ雲」を現場で観察・記録していた.
 すでに,「『科学技術』自体には責任がない」が,「『科学者』には責任がない」にすり替わっているようだ.
 もちろん,こういう科学者の意識の変化と並行して,地団研は力を失っていった.今では,地団研自体が「悪鬼」の様にいわれている.
 

 鉄人28号には意志がない.
 他方,「アトム」は意志を持っている.
 意志を持っているが故に人間と対立し,人間とロボットの調和がテーマになる.「差別」も時々顔を出す.表向きは「科学技術」がテーマだが,実は人間同士の葛藤がテーマだ.ロボット三原則に拘束されたアトムは,人間のために死を選ぶしかなかった.

 アトムはそもそも,誕生自体に「いわく」がある.
 世のため人のため,工場でオープンに生み出されたロボットではなく,不慮の死を遂げた子供の身代わりとして,たまたま科学者であった父親がプライベートな目的で生み出したものだ.絵柄や表向きの明るさとは異なり,背後には私生児的な暗さがある(もちろん,こういう事情が手塚漫画の深さに直結している).
 「アトム」は科学の問題としては,単純には扱えない難しさがある.


 少し遅れてやってきたヒーローに,「8マン」がいる.
 表向きは,スーパーマンを実現するために生み出されたサイボーグである.
 この当時のアメリカンコミックスのスーパーマン類は「力」を誇示・礼賛した単純なヒーローものばかりだったが,日本版の「スーパーマン」=「8マン」は違った.科学の力で「人間ではないもの」にされてしまった「人間」の「苦しみ」がテーマだった.

 原作者の平井和正には,「サイボーグ・ブルース」という小説がある.小説であるが故に主人公であるサイボーグ=「人間でないものにされてしまった人間」=「8マン」の苦しみが,よりはっきりと表れている.
 科学はどこまで行き着くのかという意味での議論の題材になる.人工臓器の出現や,臓器移植の実現で,現実味を増してきているのも都合がよい.
 これは,人間の「死」の問題にも直結している.人間に「死」を宣告するのは臓器移植を前提とした科学か,人間として死ぬことを選ぶ「人間の感性」か.
 議論は広がる.

 最後は「科学が善か悪か」ではなく,「(善悪を判断する)人間としての感性」を磨くことのほうが重要であるという結論を導き出してほしいというのが目的でした.
 こういう授業をもっとやりたかったなァ.

 と,鉄人28号が空を飛ぶ姿を見ながら考えた(想い出した).

 「飛べ,鉄人!」

 ちなみに,空を飛ぶ鉄人の勇姿は(最後の一瞬だけですが)NTTドコモのHPで見ることが出来ます(04 「CMを見る」をクリック).
 

0 件のコメント: