2009年11月18日水曜日

シーラカンス

 
 先日,“生きた化石”のところで「シーラカンス」を無造作に使ってしまいました.
 反省しております.

 マスコミが「シーラカンス」といっておるものは,「ラティメリア・カルムナエ[Latimeria chalumnae Smith, 1939]」といい,どこにも「シーラカンス」と呼べる要素・由来はありません.

 ちなみに,「ラティメリア」は現地の博物館の学芸員であるラティマー氏(女性)の名前を採ったもの.彼女は問題の標本が重要なものであることを最初に認識し,そのスケッチを記載者であるスミス氏に送りました.「カルムナエ」は発見地のカルムナ川から.合わせ技で,「カルムナ川産のラティメリア」となります.
 現地語では「ゴンベッサ」と呼ぶそうです.


 一方,「シーラカンス」というのは英語の「シーラカンス[Coelacanth]」からきているもので,本当は学名の「コエラカントゥス[Coelacanthus]」属のこと.
 学名は,本来は「英語風読み」なんかしてはいけない.
 英語は,個々の英語の単語の読み方がわかっていないと読めないですから.
 だれが,[Coelacanth]を「シーラカンス」と読むことをあらかじめ知っていないで,読むことが出来ます?
 まあ,でも,英語化してますからしょうがないのでしょうね.だからといって,日本人も「シーラカンス」と呼ばなければいけないわけではありません.学名のほうで「コエラカントゥス」と呼ぶべきものです.

 なお,この学名は「中空の棘のあるもの」という意味です.
 ラテン語「acanth(o)-」には「棘」という意味しかありませんが,ここでは英語の「棘[spine]」が「脊椎」という意味も持つところからの連想と考えてよいでしょう.
 英語圏の人間はかなり強引なのですね.


 コエラカントゥス属はコエラカントゥス科の模式属.
 模式属というのは,すでに死語になっているかとは思いますが,「科」を設定するときの代表的な性格を持つ属のことです.
 分類は,分類学者によって多少の差があるのはしょうがないですが,たとえばWikipediaに示されているコエラカントゥス科は以下のようになっています.

コエラカントゥス科[COELACANTHIDAE]
├アクセリア属[Axelia]
├ティキネポミス属[Ticinepomis]
コエラカントゥス属[Coelacanthus]
└ウィマニア属 [Wimania]

 おや?
 ラティメリア属が入っていませんね.
 ラティメリア属は,ラティメリア科に入れられています.

ラティメリア科 [LATIMERIIDAE]
├ホロプァグス属 [Holophagus]
├リビュス属 [Libys]
├マクロポーマ属 [Macropoma]
├マクロポモイデース属 [Macropomoides]
├メガコエラカントゥス属[Megacoelacanthus]
ラティメリア属[Latimeria]
└ウンディーナ属[Undina]

 じゃあ,コエラカントゥス科とラティメリア科の関係は….

コエラカントゥス形目[COELACANTHIFORMES]
コエラカントゥス科 [COELACANTHIDAE]
├ディプロケルキデス科 [DIPLOCERCIDAE]
├ハドゥロネクトル科 [HADRONECTORIDAE]
├マウソニア科 [MAWSONIIDAE]
├ミグアサイア科 [MIGUASHAIIDAE]
ラティメリア科 [LATIMERIIDAE]
├ラウギア科 [LAUGIIDAE]
├ラブドデルマ科 [RHABDODERMATIDAE]
└ウィテイア科 [WHITEIIDAE]

 うーん.遠いですね.
 これで,「ラティメリア」のことを“シーラカンス”と呼ぶのは,二重,三重くらいに「拙い」ことが,理解できたでしょうか.
 だいたい,発見者のラティマー氏に失礼でしょ.

 問題は,いつ,誰が,ラティメリアのことをシーラカンスと俗称するようになったのかなんですが,これはわかりませんねえ.情報がない.
 日本の科学史は,長期にわたって「なかった」といってもおかしくない状態ですからね.

 また,国立K博の学芸員かな?
 

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