2009年11月3日火曜日
辞書の展開(20)
今回は,リーポテュプラ大目[grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975]を予定していました.いろいろ調べてみたのですが,正直な話,よくわかりませんでした.
「リーポテュプラ」類という分類群は,聞き慣れない言葉です.
どうやら「食虫目[INSECTIVORA]」の定義の変遷に密接に関係あるグループらしい.「食虫目[INSECTIVORA]」は歴史的に,定義が何度となく変わっているらしいのですが,曖昧なまま使われてきたようです.
一方で,「食虫目[INSECTIVORA]」という分類群名は現在でも普通に使われており(たとえば,阿部永ほか,2005*),我が頭は混乱するばかりです.
手持ちの教科書を開くと,「食虫目[INSECTIVORA]」関連の記述は,似ていたり,比較が出来ないほど異なっていたり,むちゃくちゃです.「混乱している」の一言で片付けられたりしています.
何とか,整理しようと試みたのですが,私の手には負えないようです.
The Taxonomiconの記述では,
grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975(リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
├ order incertae sedis
├ ?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998 (アフリカトガリネズミ目)
├ order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(ハリネズミ形目)
└ order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(トガリネズミ形目)
となっています.
この中には,「モグラ」と,北海道人が「モグラ」と勘違いしている「トガリネズミ」類も入っているので,整理したいところです.が,「リーポテュプラ」全体については,なにかほかの情報が入るまで,ペンディングにさせてください.
●「モグラ」と「トガリネズミ」の違い
grandorder LIPOTYPHLA (Haeckel, 1866) McKenna, 1975(リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
├ order incertae sedis
├ ?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998 (アフリカトガリネズミ目)
│ ├ suborder TENRECOMORPHA Butler, 1972(テンレック形亜目)
│ └ suborder CHRYSOCHLORIDEA (Broom, 1915)(キンモグラ亜目)
├ order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(ハリネズミ形目)
│ ├ superfamily incertae sedis
│ ├ superfamily ERINACEOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Gill, 1872(ハリネズミ上科)
│ └ superfamily TALPOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Novacek, 1975(モグラ上科)
└ order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975(トガリネズミ形目)
├ superfamily incertae sedis
└ superfamily SORICOIDEA (Fischer de Waldheim, 1817) Gill, 1872(トガリネズミ上科)
?order AFROSORICIDA Stanhope, 1998は「アフリカトガリネズミ目」と訳されています.その中には「キンモグラ亜目」と訳されるsuborder CHRYSOCHLORIDEA (Broom, 1915)がありますが,これらは,「トガリネズミ」でも,「モグラ」でもありません.日本に生息していて,昔から「トガリネズミ」とか,「モグラ」とか呼ばれていたのならともかく,こういう“和訳”は“誤訳”に近いので,やめてほしいものです.悪意すら感じますね.
ちなみに,表のようにAFROSORICIDAには,TENRECOMORPHAとCHRYSOCHLORIDEAしか含まれていず,「アフリカトガリネズミ」に該当する種も属も存在していません.
また,「キンモグラ」と訳されているChrysochlorisは「金色の黄緑色」という意味で,モグラという意味はありません.なぜ,こんなに好き好んで,混乱を招くような“和訳”をするのか,まったく不思議です.
なお,日本では北海道を除く地域に生息する「モグラ」類は「ハリネズミ形目[order ERINACEOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975]」に属し,北海道にも生息する「トガリネズミ」は「トガリネズミ形目[order SORICOMORPHA (Gregory, 1910) McKenna, 1975]」に属しています.若干似ているとはいえ,ずいぶんと遠い親戚関係と判断されていますね.
ちなみに,「ネズミ」は齧歯類であり,「トガリネズミ」は「ネズミ」ではなく,「ソーレックス形」類なので,「トガリネズミ」という名称も混乱を招くモトです.
しかし,「トガリネズミ」という言葉が,日本語の歴史上どういう意味を持つ言葉なのかが不明なので,この名称の使用の是非については判断できません.ま,誰が使い始めたのかもわからない「用語」が,無責任に使われているということです.
*安部 永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田正明(2005)「日本の哺乳類[改訂版]」(東海大学出版会).
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