2011年10月14日金曜日

今日の《希語》《羅語》:サウルス

サウルスについては,「学名で遊ぶ」で一度紹介したのですが,再度.

サウルス(saurus)というラテン語はありません.
サウルスは,ギリシャ語の「サウーロス[ὁ σαῦρος]」=《男》「トカゲ」から作られた合成語です.

[σαῦρος]をギリシャ語・アルファベータからラテン語・アーゼータ(正確にはなんと呼ぶのかシランですが,一般的には「アルファベット」と呼ばれるヤツです)に変換すると,saurosになります.

ものの本には,ギリシャ語からラテン語に変換すると,自動的に末尾の[-ος]は -usに変化すると書いてあります.わたしも始めはそれを信じていましたが,いろいろ見ていくと,どうも違うような気がします.
ギリシャ語に関する本とか,ラテン語に関する本はありますが(日本語で読めるもの),ギリシャ語とラテン語の関係について書かれた本は無いので,自己流に(機械的に)解釈することにしました.
その方が,簡単なので.

ラテン語化されたsaurosの語根はsaur-です.これに(ラテン語の)形容詞化語尾である-usを合成します(不思議なことに,ラテン語の-usは名詞化語尾でもあります.これについては後で…).そうすると,saur-us = saurus=「トカゲの」ができあがります.語尾-usは,ラテン語の中では典型的な変化をしますので,

saurus = saur-us=「トカゲの」+《形容詞》
《合成語》《形》《単》saurus, saura, saurum=「トカゲの」
《合成語》《形》《複》sauri, saurae, saura=「トカゲの」

ができます.順に《男性形》《女性形》《中性形》です.
sauraがsaurusの《女性形》とかいわれるのは,このあたりからですね.

なぜ,こんなのが必要かというと,実用ラテン語のことは知りませんが,学名ラテン語では,《属名》が《名詞》,《種名》が《形容詞》であらわされ,「赤いイヌ」とか「白いネコ」みたいな形であらわされるのですが,《名詞》の《属名》にも《性》があり,それを形容する《種名》はそれに引っ張られて,「同じ《性》であらわされる」というみょうなルールがあるからです(だから,《男性形》《女性形》《中性形》を作らなければならない.また,「できる」ということでもあります).
これは,実用ラテン語の尾を引いているということなんでしょう.
また,現在では,「種」が生物分類の基本単位とされていますが,このルールが成立したころは,「属」が基本単位で,「種」は,それを形容する「違い」をあらわす名前だったことが推測できます.

この《性》のルールについては,キチンと整理ができていないようです.一方で,《性の統一》については,しばしば「原著者が間違っているので,訂正を」という報告もしばしばあるようです.《性のルール》について,キチンとしたものが公開されていないのだから(とくに,英語を介してでしか,ギリシャ語やラテン語が理解できない日本では…),《性の統一》なんかやめてしまえば…と思いますが,こういう伝統(レガシー;どちらかというとPC界の用法です.もう役に立たないのに「残っている」というような)のあるものは,意味が無くても,なかなか訂正されませんね.

話を戻します.
じつは,ギリシャ語にもラテン語にも,現代文法でいうような《名詞》とか《形容詞》とかの区別はないような気がします.ちゃんと説明できませんけど.それで,上記の《形容詞》は,そのままの形で《名詞》になってしまいます.ギリシャ語だと《冠詞》がつけば《名詞》だと,すぐにわかりますが,ラテン語に冠詞はないそうです.
辞典などでは-usは《名詞化語尾》とも,《形容詞化語尾》とも書いてありますが,なぜ「名詞」も「形容詞」も同じなんでしょうかね.たぶん,「同じ」だからですね.
この《名詞化》については,《合成後綴》として考えた方が理解しやすいかもしれません.

-saurus = -saur-us=「トカゲの」+《名詞化語尾》
《合成後綴》《単》-saurus, -saura, -saurum=「~トカゲ」
《合成後綴》《複》-sauri, -saurae, -saura=「同上」

という形ですね.

たとえば,-us=《行為とその結果》《性質》の代わりに,-ius =「~の.~(に)属する,~(に)関係する」を合成すると,

-saurius = -saur-ius=「トカゲの」+「~の.~(に)属する,~(に)関係する」
《合成後綴》《形》《単》-saurius, -sauria, -saurium=「~トカゲの;~トカゲに属する」
《合成後綴》《形》《複》-saurii, -sauriae, -sauria=「同上」
となり,これが名詞化すると同じ形で,それぞれが=「~トカゲ;~トカゲに属するもの」という意味になります.
恐龍類を意味するDINOSAURIAはdino-sauriaで「恐ろしい」+「トカゲに属するものども《中性複数》」という意味だったことがわかりますね.
 

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