ギリシャ語で,「サル」のことを「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」といいます.
で,なんの不思議もないのですが,ちょっと奥があります.
「希英辞典」で見ると,「ピテーコス」は,「ape」であり,「monkey」です.
日本人にとっては,「サル」は「サル」で,いろんなサルがいるだろうぐらいのことはわかりますが,サルが二分別されるなんてことは,まったく頭にありませんね.
「英和辞典」を見ると,「ape」は,「尾のない大型サル(類人猿)」であり,「monkey」は「尾のある小型サル」のことです.
ということは,(古代)ギリシャ人は,日本人のように「サル」に区別をしていなかったと考えていいのでしょう.
ところが,「羅英辞典」を見ると,このあたりは,とたんに曖昧になります.
ある辞典には,「ピテークス(pithecus)」(ギリシャ語の「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」がラテン語化した言葉)という見出しがあり,その解説には「ape」とかかれています.別の辞典には,「ピテークス(pithecus)」いう見出しそのものがない.
しょうがないので,「英羅辞典」から,「ape」を引くと,そこには,(simia, simius)とあります.「monkey」を引くと,こちらにも「simia」がある.
どちらの解説も不親切ですが,simia と simius は同じもので,simiaが《女性形》で,simiusが《男性形》です.意味は「サル」と書いてありますが,どうも疑問.
これは,ギリシャ語の「シーモス[σῑμός]」=「獅子鼻の,平べったい鼻の」が,ラテン語の語根化した「シーム・(sim-)」=「獅子鼻の」から造られた《合成語》「シーミウス(simius)」=「獅子鼻の」が名詞化したものくさい.
つまり,
simius = sim-ius=「獅子鼻の」+「《形容詞》~に属する」
《合成語》《形容詞》simius, simia, simium =「獅子鼻の;獅子鼻に属する」
《合成語》《形》《複》simii, simiae, simia =「同上」
(それぞれ,順に,《男性形》《女性形》《中性形》)
これが,おのおの名詞化して,=「獅子鼻;獅子鼻に属するもの」になります.これらは,おのおの,羅英辞典の《女性形》simia, simiae,《男性形》simius, simiiに対応しています.
ということは,simiusは,もともと「サル」ではなくて,「獅子鼻の」という形容詞が,「獅子鼻のもの」という名詞化して,「(獅子鼻の)サル」に変化したのだということが考えられるわけです.
ということは,古代ローマ人には「サル」という言葉が無くて,古代ギリシャ語から借りたということになりますね.さらに,古代ローマ人は「獅子鼻のサル」しか知らなかったということになりそうです.
ま,サルの分類は,なかなか難しいので(使われている言葉と分類とがきれいに一致しない),そう簡単ではないかもしれませんが….
ところで,「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」はどうなったのでしょうか?
「ピテーコス[ὁ πίθηκος]」は,(ほかの単語もだいたいそのような傾向があるのですが)そのままラテン語化せずに,ラテン語の「語根化」しています.
だから,信頼できる羅英辞典ではpithecusという見出しが無くて,pithecium = pithec-ium=「小さなサル」のように「語根」として使われた「語」しか,見出しにないということらしいです.
じゃあ,なぜ,(怪しい形)ラ語辞典にはpithecusという見出しがあるのか.
それは,たぶん,pithecusが学名の一部として現在も使われるため,辞典編集者が項目として取り入れたものなのでしょう.実際,どう考えても《NL》= New Latinには,学名からきたとしか考えられないものが散見されます.
ただし,これらはわたしの私見に過ぎないので,信用しないように.
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