2013年2月13日水曜日

Scaphitesの展開(Ⅷ)

 
1953年には,スパス氏がインドスカファイテス[Indoscaphites Spath, 1953]という属名を提唱しています.
これも,もちろん,スカファイテスの仲間.

インド・[Indo-]は,もちろん,英語でインディア[India]のこと.
ギリシャ語では「インドス[Ίνδός]」=「インダス川」,「インドの」であり,これからラテン語のインドゥス [Indus]になり,インディア[India]は,Ind- =「インダスの」という語根に《所属・関係》,《状態》,《国名》,《病気》を表す接尾辞[-ia]を合成したもので,Ind-iaとなり「インダスの大地」という意味になります.
英語はこれを借りたものですね.


ラテン語のインドゥス [Indus]は「インダス川」を示す名詞です(複数形はインディー[Indi];なお,この複数形は「インド人たち」もあらわします)が,「インドの」という形容詞でもあります(系統的な勉強をしたわけではありませんが,こうなると,ラテン語に本当に「名詞」とか「形容詞」とかの区別があるんだろうかと悩む;とくに形容詞なのに,この場合頭文字は大文字ですからねえ).
形容詞の変化は「インドウス[Indus],インダ[Inda],インドゥム[Indum](順に,男性形,女性形,中性形)」.
「インドの」をあらわす形容詞では,別に「インディクス[Indicus],インディカ[Indica],インディクム[Indicum]」(順に,男,女,中)」というのもあります.

明瞭に「インド産の」という意味を持たせたければ,「・エンシス[-ensis]」という形容詞語尾を合成して 「インデンシス[Ind-ensis],インデンシス[Ind-ensis],インデンセ[Ind-ense]」ができますが,これはあまり使われないようです.
理由は不明ですが,たぶん,元の意味が「インダス川の」ですから,あまりにも範囲が広すぎるのが原因かと考えます.どちらかというと,「・エンシス」はローカルな地名に使われた方がしっくりきますね.

たとえば,「日本(産)の」を考えた場合,「ヤポネンシス[japon-ensis]」より「ヤポニクス[japon-icus]」のしっくりきますよね.逆に,「夕張(産)の」ならば「ユバリクス[yubar-icus]」よりも「ユバレンシス[yubar-ensis]」のほうがしっくりきます.
もっとも,命名は個人のセンスに負うところが多いですから,「それは違う」といわれたら,反論のしようも無いですけど(こんなことを説明しているギリシャ語ラテン語の解説書って,ないですからね).


さて,「インド・」がついた学名ってのはたくさんあります.その中のいくつかを紹介しましょう.
まずは,中新世の北米・アフリカ・ユーラシアにいた「インダルクトス[genus Indarctos Pilgrim, 1913]」.
これは,「インドゥ・[Ind-]<[Ίνδός]」+「アルクトス[-arctos]<[ἄρκτος]」という合成語で,「インドの」+「クマ」という意味.

インドの恐龍ならば,「インドサウルス[genus Indosaurus Huene et Matley, 1933]」.これは,後期白亜紀のインドに実在した恐龍.
もう一つ,「インドスークス[genus Indosuchus Huene et Matley, 1933]」と恐龍が産出してますが,こちらは「インドのワニ」という意味.ですが,ワニの仲間ではなく,獣脚類に属する立派な恐龍の一つです.
「スークス[suchus]」はラテン語化したもので,もとはギリシャ語の「ソウーコス[σοῦχος]」.こちらは,エジプトのある地方に住む「ワニ」を示す言葉だったらしいのですが,いつの間にか「ワニ一般」をしめすようになったみたいです.

同時代の「インドケラス[genus Indoceras Noetling, 1897]」は,パキスタン産のアンモナイト.記載された頃のパキスタンは,まだインドと分離していなかったからでしょうね.
これはもちろん,「インドの角」という意味でした.

 

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