2012年1月7日土曜日

動物名考(1) ベニイロフラミンゴ

ベニイロフラミンゴ


[Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758]


「ベニイロフラミンゴ」は,日本には自然状態では生息しない鳥なので,当然この言葉は「学者」が造った言葉でしょう(この情報時代に,誰が造った言葉なのかハッキリしないのは残念).
この「ベニイロフラミンゴ」は学名Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758の和名として使われています.この種は,中南米に生息する鳥なので,英名は「American Flamingo」と呼ばれています.本来は「アメリカフラミンゴ」と呼ばれるべきものかもしれません.

「アメリカフラミンゴ」がいるなら,別な地域名を持ったフラミンゴもいるのでしょうか.
答は「イエス」です.
その学名は「Phoenicopterus roseus Pallas, 1811」.「ヨーロッパフラミンゴ」と呼ばれていますね.ところが,英名は「Greater Flamingo」.訳すと「オオフラミンゴ」になってしまいます.
なぜ「オオフラミンゴ[Greater Flamingo]」というかというと,アフリカ東部からインドあたりに分布する比較的小型なフラミンゴを「コフラミンゴ」とするからです.たぶん,もともとは,「ヨーロッパフラミンゴ」だけが,「フラミンゴ」で,のちに発見されたアフリカ~インドに住む「シュード・フラミンゴ」と区別するために「大小」の区別をつけたものでしょう.

つまり,1758の時点で,
Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「フラミンゴ」

1798には,
Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「フラミンゴ」→「オオフラミンゴ」
Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798「無名」→「コフラミンゴ」

1811には,
Phoenicopterus ruber ruber Linnaeus, 1758「オオフラミンゴ」→「ベニイロフラミンゴ」
Phoenicopterus ruber roseus Pallas, 1811「オオフラミンゴ」→「オオフラミンゴ」
Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798「無名」→「コフラミンゴ」
と,なったのでしょう.

ならば「オオフラミンゴ」ではなく「ヨーロッパフラミンゴ」を選択して,セットで「ベニイロフラミンゴ」は英名の訳である「アメリカフラミンゴ」にすべきだと思うのが普通だとおもいますけど,現行の“和名”は,誰が考えたのか,完全に交差していますね.
なお,1782年には「チリフラミンゴ[Phoenicopterus chilensis Molina, 1782]」(英名を「Chilean flamingo」)が記載されていますので,そうすると,「ヨーロッパ」・「アメリカ」・「チリ」のフラミンゴが並び,生息地も示しているので,「グッ」な“和名”だと思いますがね~~~((^^;).

もう一つ.
「ベニイロフラミンゴ」以外に「ベニイロ」(もしくはその系統の色)はないのかというと,「ヨーロッパフラミンゴ」や「チリフラミンゴ」も,あとで書く別なフラミンゴ類も「淡いピンク色」をしているといいますし,この「色」自体が,食べ物による染色だといいますから,「ベニイロ」とつけるのは,分類学上は的外れな“和名”命名ということになりそうな….
もっとも,「フラミンゴ」という俗名そのものも,ラテン語のflamma=「炎」から来ていますから,それにあてはまる鮮紅色の鳥は「ベニイロフラミンゴ=アメリカフラミンゴ」だけなんですけどね.淡いピンク色の「炎」って,あり得ないよね~~((^^;).


さて,現在は別な属に移されていますが,当初は同属と考えられていた,ほかのフラミンゴについて.
「コフラミンゴ」
Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798
Phoeniconaias minor (Saint-Hilaire, 1798)

「ジェームスフラミンゴ,コバシフラミンゴ」
Phoenicopterus jamesi Sclater, 1827
Phoenicoparrus jamesi (Sclater, 1827)

「アンデスフラミンゴ」
Phoenicopterus andinus Philippi, 1854
Phoenicoparrus andinus (Philippi, 1854)

「コフラミンゴ」はアフリカ東部からインドあたりに生息しています.
「チリフラミンゴ」と「アンデスフラミンゴ」は,生息地域が幾分重なるのですが,別種と認識され,さらにのちには別属とされるようになりました.

「アンデスフラミンゴ」と「ジェームスフラミンゴ」はアンデス山中に生息し,二種は独自の属を構成します.
生息地域が,属の定義に大きな影響を与えているようですね.別な属に移されたのは,どうやらDNA分析の結果らしいのですが,その論文が入手できないので,詳しいところはわかりません.Phoeniconaiasは一属一種だからいいとしても,Phoenicoparrusの模式種がわからない=見つからないのは,正式な記載論文ではなくして(形式に載っていない)造られたからではないかと,邪推しています((^^;).


でな,わけで,フラミンゴの分類をまとめると….

ordo: PHOENICOPTERIFORMES Fürbringer, 1888


familia: PHOENICOPTERIDAE Bonaparte, 1831


genus: Phoenicopterus Linnaeus, 1758 [Type: Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758]
 Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「オオフラミンゴ」
  Phoenicopterus ruber ruber Linnaeus, 1758「アメリカフラミンゴ」(もしくは「ベニイロフラミンゴ」)
  Phoenicopterus ruber roseus Pallas, 1811「ヨーロッパフラミンゴ」(もしくは「バライロフラミンゴ」)
 Phoenicopterus chilensis Molina, 1782「チリフラミンゴ」
 Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798「コフラミンゴ」
 Phoenicopterus andinus Philippi, 1854「アンデスフラミンゴ」(本来は「andesensis」が正しい*)
 Phoenicopterus jamesi Sclater, 1827「ジェームスフラミンゴ」(「ヤメシフラミンゴ」の方が正確**)

もしくは


genus: Phoenicopterus Linnaeus, 1758 [Type: Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758]
 Phoenicopterus ruber Linnaeus, 1758「オオフラミンゴ」
  Phoenicopterus ruber ruber Linnaeus, 1758「アメリカフラミンゴ」(もしくは「ベニイロフラミンゴ」)
  Phoenicopterus ruber roseus Pallas, 1811「ヨーロッパフラミンゴ」(もしくは「バライロフラミンゴ」)
 Phoenicopterus chilensis Molina, 1782「チリフラミンゴ」

genus: Phoeniconaias Gray, 1869 [type: Phoenicopterus minor Saint-Hilaire, 1798]
 Phoeniconaias minor (Saint-Hilaire, 1798)「コフラミンゴ」

genus: Phoenicoparrus Bonaparte, 1856 [type: unknown]
 Phoenicoparrus andinus (Philippi, 1854)「アンデスフラミンゴ」(本来は「andesensis」が正しい)
 Phoenicoparrus jamesi (Sclater, 1827)「ジェームスフラミンゴ」(「ヤメシフラミンゴ」の方が正確)

と,なるのですかね.
ただし,食い散らかしたようなデータが多く,なかなか,キチンとした文献を見つけることができませんので,あちこち修正を加えてありますし,引用文献を明示することができません.あしからず.
なお,学生のみなさんは,決してレポートに丸写ししたりしないように.これは,私見ですので恥をかくだけでは済まないと思いますよ.

*andinus > andesensis :andinusはAndesの形容詞に見えますが,このAndesはアンデス山脈のAndesではなく,ローマの詩人ウェルギリウス[Vergilius]の生地であるAndes村のことです.アンデス山脈のAndesはまったく別の語源と考えられていますから,この形容詞を使うのはおかしい.合成語であるandesensis = andes-ensisを使用するべきですね.ただし,一度つけられた学名は勝手に変更することはできませんから,これを使うしかありません.
**「ヤメシ」:jamesiは原語はどうであれ,学名とされた時点でラテン語ですから,現地語ではなくラテン語の呼び方が採用されるべきです.したがって,jamesiは「ヤメシ」と読むしかないのです.たとえば,英語圏の人間はCoelacanthusを,平気で英語読みの「シーラカンス」と読み,英語圏でない人間にもそう読むように強制しますが,英語圏でない人間にはどうやったって,そうは読めない.これはラテン語読みの「コエラカントゥス」と読まれるべきです.自国語読みでかまわないのなら,学名を使う意味がありませんからね~~.
ま,「道理」が引っ込む世界ですから「無理」でしょうけどね.
 

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