2009年6月24日水曜日
辞書の展開(2)
●新体系と旧体系
20年ほど前までは,哺乳類は,以下のような大分類が通用してました.
哺乳綱
├原獣亜綱(subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
├異獣亜綱(subclass ALLOTHERIA Marsh, 1880)
└獣 亜綱(subclass THERIA Parker et Haswell, 1897)
Aは二つないし三つのグループに分かれ(B+C+D),Dはさらにいくつかのグループに分けることができ,…というわけで,生物分類はおのおの入れ籠状の構造になっていて,最後は我々が実際に知っている「種」に行き着くというような概念でしたね.
我々がよく目にする動物たち(哺乳類)は最後の「獣亜綱」に含まれていました.
獣亜綱のなかは,目同士の関係がよくわからないのか,研究者間で調整がつかないのか,全て「目」でわけられていました.「霊長目」とか,「偶蹄目」とか,「長鼻目」などですね.
こういう分類は,似たもの同士を集めてグループを作り,より似たものからより似ていないものへ並べながら体系立ててゆくと考えるとわかりやすいと思います.
ところが,特に化石の場合,どれにも似ていないという「ひねくれ者」が間々現れます.確かに,原獣亜綱や異獣亜綱の中には,こういった「どれにも似ていない」ものが入れられ,いわばゴミ捨て場にちかいものでした.
こういった古典的な分類学に対し,20世紀の後半からクラディズムという学問が台頭しはじめます.正式にはCladistics(分岐学)というらしいですが,日本語では「分岐分類学」とか呼ばれています.何が違うのかということは,専門の教科書がありますし,ウェブ上でもいろいろ説明してくれている人がいますので,そちらを参考にしてください.
なかなか,難しい説明が多いようですけどね.
ここでは,私流の強引な解釈で話を進めます.
クラディズム(クラディスティクス)の和訳は間違っていると思います.
旧体系のいわゆるリンネ流の分類学は分類学ですが(トートロジー?(^^ゞ),クラディズムは“分岐系統学”と訳した方がいいと思います.
比べてみるとわかるのですが,リンネ流の分類学は,似たもの同士を集めて,グループを作ります.このとき重要なのは「そういうグループがある(存在する)」ということです(これは「分類」です).
一方,クラディズムの方は,たくさんの雑多なものから共通点を持つものを集めますが,実は重要なのは,はじき出された共通点を持たない方のグループ(もしくは「種」)です.この存在が,進化(系統)の道筋を示すキーであるわけです.
(と,こんなイメージでしょうか)
共通点を持つグループは,持たないグループと「生き物の流れ」として「分かれた」と判断するわけです.さらに,共通点を持つグループのなかから,別の共通点を探し出し,またその共通点を持たないグループ(もしくは「種」)をはじき出します.この作業を延々と繰り返し,結局,最後は一つの「種」まで分けることになります.
この作業では,分かれてゆく流れが重要なのであって,グループ分けをすることではないのですね.全部(個々の種に)分かれていますから,グループ分けではないはずなのです.
したがって,クラディズムは分類学ではありません.
実際には,やってますけどね.
これは,必ずしも,一個の種がはじき出されるわけではなくて,グループがはじき出された場合,特にそれが「旧体系」の分類階級「綱」とか,「目」とか,「科」とかに類似してる場合にそのまま使われているということのようです.
非常に奇妙なことだと思いますが,私は分類学者じゃあないから,どうだってかまわないですね.早いとこ「理解できる体系」を示してほしいだけです.
なお,以上の解釈は,私の強引な解釈なので,信じないように((^^;).
もひとつ,なお.
私は,どちらが「人為分類」で,どちらが「自然分類」だとかは気にしませんし,どちらが「正しいか」なんてことにも興味がありません.生命の体系がわかりやすく(=リーズナブルに)記述してあればいいだけです(べつに,「地向斜造山論」と「PT(プレート・テクトニクス)論」のアナロジーをしてるわけじゃあないですよ(^^;).
蛇足しておけば,旧体系では「分類」をおこなっていましたから,入れ籠状の分類単位は「界」-「門」-「綱」-「目」-「科」-「属」-「種」に,必要であればこれらの分類単位に「上-」もしくは「亜-」を付加する程度で収まっていました.
【旧体系のランク】
kingdom(界)
phylum(門)
class(綱)
order(目)
family(科)
genus(属)
species(種)
ところが,分類を目的としないはずのクラディズムでこれをやろうとしたからたまりません.凄まじいことになってしまいました.
【新体系のランク】
kingdom(界)
subkingdom(亜界)
phylum(門)
subphylum(亜門)
superclass(上綱)
class(綱)
subclass(亜綱)
infraclass(下綱)
superlegion(上団)
legion(団)
sublegion(亜団)
infralegion(下団)
supercohort(上区)
cohort(区)
magnorder(巨目)
superorder(上目)
grandorder(大目)
mirorder(中目)
→途中のスペース略
order(目)
suborder(亜目)
infraorder(下目)
parvorder(小目)
superfamily(上科)
family(科)
subfamily(亜科)
tribe(族,連)
subtribe(亜族,亜連)
genus(属)
subgenus(亜属)
section(節)
series(系)
species(種)
subspecies(亜種)
variety(変種)
form(品種,型)
上団みたい,もとへ,冗談みたいですが,本当にこういうのを使わないと,記述ができないのです(このランクは,旧体系でもあったものですが,現実に使われるものは限られていました.新体系でいよいよ現実味を帯びてきたというわけです).
(まあ,新体系支持者というものは旧体系支持者を批判するものですが,旧体系が準備した知識の上に新体系が成り立っていることをしばしば忘れてますね.べつに,「地向斜造山論」と「PT(プレート・テクトニクス)論」のアナロジーをしてるわけじゃあないですよ(^^;).
旧体系のランクでも学生さんに理解させるのは大変でしたが(理解よりも暗記が優先でしたけどね),新体系のランクは紙にでも書いておいとかないと無理ですね.
【参考文献】
ワイリー, E. O.・シーゲル-カウジー, D.・ブルックス, D. R.・ファンク, V. A., (1991)「系統分類学入門=分岐分類の基礎と応用=(宮正樹,1992訳)」(文一総合出版)
仲谷英夫研究室(元・香川大学)HP中の授業レジュメ(仲谷さん,HPを復活させてください.お願いです.)
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