鈴木尉元(1982)地質調査所における石油・天然ガス調査事業の歩み.
地質調査所がおこなった石油・天然ガス資源調査の歴史について,詳細に述べられている.しかし,その調査史は,時代の波に押し流され,国内だけにも地質調査所内だけにもおさまるものではなく,また,縮小を余儀なくされた時代もあったことが示されている.
太平洋戦争中には,南方石油の開発に多くの地質家・石油技術者が駆りだされたが,戦況の悪化に伴う国内石油開発へ振り替えるために,まとめて国内に送り返された阿波丸が沈没.500有余名の専門家が死去した.「阿波丸殉難者追悼録」が出版されているとあるが,機会があったら読んでみたいものだ.
我が師,湊正雄(北大名誉教授)は阿波丸を待たず,一刻も早く日本に帰りたいと危険を顧みず軍艦で帰国したが,皮肉なことに彼は生還した.湊が戦争を嫌い,科学者が軍事研究に与することがないように戦い続けたルーツである.
敗戦後,深刻なエネルギー危機を迎えた日本は,地質調査所を中心に多くの油田開発を進めた.この報告以降,原油の輸入が可能になった日本は,国内の油田開発をやめて,地質屋の努力は灰燼に帰したが,この時期におこなわれた第三紀層の研究の結果は,いまも燦然と輝いている.
以下,各章の表題と引用文献を掲げておく.
1.初期の油田調査
2.第一次の油田調査
3.第2次の油田調査まで
4.第2次の油田調査
5.第3次の油田調査まで
6.第3次の油田調査
7.第2次大戦後
8.まとめと今後の課題
参考文献
地質調査所(1887-1903)地質要報
地質調査所(1908-1944)地質調査所報告 No.4-125
地質調査所(1911-1922)鉱物調査報告 No. 1-34
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地質調査所(1969)地質調査所出版物目録(明治12年̃~昭和43年) 251p.
地質調査所阿波丸殉難者追悼録刊行会(編)(1979)阿波丸殉難者追悼録 245p.
地質調査所八十周年記念出版物編集委員会(1962)懐古録 276p.
千谷好之助(1925)秋田山形及越後地方に於ける油田調査事業と其将来の試掘地域.地学雑 37 538-544
千谷好之助(1930)本邦油田第三紀層の分類と其名称に就きて(摘要).地質雑 37 262ー269
千谷好之助(1934)本邦油田調査事業に就きて 石油技協誌 2 173-18
千谷好之助(1940)討論研究題目「新潟県各油田の地層対比を論じ石油試掘との関係に及ぶ」開会の挨拶 石油技協誌 8 356-369
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池辺展生(1940)新潟県各油田の地層の対比 石油技協誌 8 361-372
池辺展生(1941)越後油田褶曲運動の現世まで行われていることに就いて 石油技協誌 10 184-185
池辺展生(1961)日本の新生代の研究史 槇山次郎教授記念論文集 339-342
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