生涯を独身で通したライマン(邊治文,士蔑治,來曼:Benjamin Smith Lyman)ですが,たった一度だけ,ある日本女性を生涯の伴侶としようとした形跡があります.もちろん生涯独身を通したわけですから,ライマンの恋は実らなかったわけです.ただし,この件,あまりにも謎が多すぎます.謎が多いあまりに,少ない点と点をつなぐ線はいくらでも描くことができて,小説ネタになったりもしています.
森本貞子は,二つの小説でライマンを単なる「エロ外人」として描きました(四十も近いのに,十八の乙女に恋するなんて).もっとも,二つの小説共に,ライマンは重要な役割を果たしていず,主人公である女性を魅力的に見せるための道具でしかないからです.ライマンに興味を持つ人には不愉快な解釈ですが,何かがあったらしいことが示され,その「あらすじ」にはなるようです.
小説ではなく伝記から判断すると,ライマン自身はある種の「陰謀」があったと考えています.副見恭子はその陰謀の全貌をライマンの残した資料から明らかにしようとしていますが,成功していません.藤田文子は,その件は置いておいて,「正義派ライマン」として開拓使との確執を描き出そうとしています.
関係者はまず,ライマンその人.そしてライマンが一目惚れした相手の「広瀬常」.恋敵といわれる「森有礼」.陰謀を働いたとされる開拓使女学校係の「福住三」.
開拓使を統括する「黒田清隆」.開拓使に巣食う薩摩閥の面々.間でとばっちりを食う開拓使吏員の秋山美丸および通訳・佐藤秀顕.開拓使吏員でありながら蚊帳の外の元幕臣の技術者たち.
実際に何があったのかは判りませんが,ライマンはその後,一生を独身で通しました.そして,福住は彼が管理していた「開拓使女学校」の女学生の二人と特殊な関係にあることが噂となります.開拓使はこの噂を否定しましたが,直後「女学校」は廃止に.
広瀬常はライマンが北海道の調査を行っていて不在のうちに,森と婚約そして結婚.ところが,のちに離婚され,常は消息不明に.森家では,常のことは「タブー」となります.その後,森は再婚しますが,その相手は「岩倉具視」の娘でした.
黒田清隆が統括していた開拓使も,(ライマンが指摘したように)膨大な予算を費やしたのにもかかわらず,見るべき成果もあげられず,薩摩閥の巣窟と見なされ,やがて廃止に追い込まれます.その時に,開拓使の官有物を薩摩出の資本家や薩摩閥の元開拓使吏員に払い下げるという事件を起こして,一次閑職へ.すぐに返り咲きますが….
誰が儲けて,誰が損をしたか.誰が誇りを貫いて,誰が恥をかいたか.誰がいい目を見て,誰がつらい目にあったかを考えれば,どちらを支持すべきか答えは出ると思います.
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