2015年5月22日金曜日

「北海道鑛山畧記」:(三)石炭の「カヤノマ石炭」(明治十七年〜二十一年,採炭行業)

(明治十七年(自七月至十二月)採炭行業)
一,採炭は伊季鋪・東壼番抗より新二番坑の前層に増設し,是に於て貳拾坑炭層東西に爲換軌道を掘進す.且つ空氣の流通を能くする爲め,上部大澤貳番抗に逹す其質善良なり.
一,抗夫,採炭する器械は従來用ひ來る(ツルハシ),又は(タガ子)等にて,火藥は目下炭質柔軟なるにより用せす.
一,本材拾五石目
   此代金五圓
一,石炭一噸の代金,壹圓三拾壹錢

(坑内略図:「開礦坑百年史」より)
(残念ながら「伊季鋪」は不詳.文中「新二番坑」は,図の右上「旧二坑」と思われる.「砂ハッチ」部分は「採掘跡」とあるから,ここに記載の坑道があったと思われる)


(販賣地名)
「イワナイ」*1
フルウ郡サカヅキ村*2
    カムイナイ村*3
--
*1:「イワナイ」:岩内(現在の岩内郡岩内町)
*2:サカヅキ村:盃村(現在の古宇郡泊村盃村)
*3:カムイナイ村:神恵内村(現在の古宇郡神恵内村)


(運送費)
「カヤノマ」より「イワナイ」迄      壹噸賃金三拾七錢
同所    より「フルウ」郡サカヅキ村  仝  金三拾錢
              カムイナイ村 仝  金四拾錢


(役員及坑夫の生計)
採炭組合正副惚代入  二名
仝   取締人    四名
仝   坑夫頭取   壹名
仝   出納係    壹名
仝   事務扱人   壹名
 雑役夫は其時々に雇入使役せり.
  但,事務扱人は毎月三回出勤するのみ.
一坑夫は石炭一噸を掘採して,其賃金五拾五錢を給す.且つ,坑内使役一工賃三拾錢とす.坑外使役の一工賃貳拾五銭とす.一ヶ月に凡金七八圓を給す.以て食料に充つ.


(明治十八年(自一月至十二月)採炭行業)
明治十八年に至り,採炭着手の事を議せんと欲し,頻に集會をなすと雖とも來會者少く,其議決せす.僅に五拾五噸を掘採せるのみにして止む.
一,「カヤノマ」炭坑附屬物件,炭車器械は前年拜借の通り.
一,探炭場は前年の如く,伊季舗東壹番より新二番坑前層に逹し掘採す.
   抗夫 一四一人に付百八拾壱貫目を採掘す.工數七拾八工五分七厘.
一,本材貳拾石目.
   此代金拾貳圓五拾錢.
一,石炭壹噸代金壹圓三拾三銭六厘.


(販賣地名)
「イワナイ」
フルウ郡サカヅキ村
    カムイナイ村
ハコダテ*1
新潟
--
*1:ハコダテ:「箱館」.明治4年ころには「函館」の表記が優勢となる.


(運送費)
「カヤノマ」村ヨリ「イワナイ」迄     壹噸賃金三拾七錢
 仝       フルウ郡サカヅキ村   仝  金三拾錢
             カムイナイ村  仝  金四拾銭


(職工賃金幷に抗夫使役高及工程)
一,職工賃金    壹工の賃金貳拾五錢 使役工數千五百五拾九工九分五厘
一,坑夫坑内使役賃 壹工賃金三拾錢   使役工數七拾八工六分
   従来用ひ來る「ツルハシ」を使用し,一工に付石炭百八拾壹貫目を採掘す.
一,坑夫七拾八工五分七厘
   従来用ひ來る「ツルハシ」「タガ子」等の器械を用井,一工百八拾壹貫目を採掘す.


(明治十八年一月役員)
採炭組合正副惚代人  二名
仝   取締人    四名
仝   事務扱人   一名
仝   坑夫頭    一名
仝   小使     一名
 雑役夫は時々雇入使役す.

一,坑夫は石炭壹噸を採掘し,其賃金五拾七錢を給す.是を精撰して濱石炭庫に運搬し,其賃金壹噸貳拾錢を給す.其他,坑内にて使役賃は一工に付金三拾錢,坑外は一工に付金貳拾五錢を給す.一ヶ月壹名にして凡金八九圓を給し以て食料に充つ.
仝年十二月廿二日,伊季舗大坑道内東西貳番,横坑道入ロの處に火起りて延焼す.之を去る四拾貳尺の處に於て防火壁を築造*1し,怠りなく是に注意す.
明治十九年一月に至り,木材を以て防火壁を堅め掘採塲の火災を防き,各所修繕のみに失費し,然して開坑熱心の者四・五名をして採炭の義を談合せしも,殘炭若干あるを以て賣却の後,採炭着手するに決し,販路を探索し,三井物産會社等に販賣したり.
--
*1:防火壁を築造:この当時は坑内火災に対処する方法がなく,封印して酸欠状態をつくり出す方法をとったものと思われる.


(明治十九年自一月至十二月採炭行業)
一,カヤノマ村石炭坑,附屬物件,運搬車,器械等,前年拜借の通り.
一,木材五拾四石七斗九升四合
   此代價金貳拾七圓三拾四錢七厘
一,産出石炭,壹噸代價,壹圓三拾七錢四厘七毛


(販賣地名)
「イワナイ」
フルウ郡サカヅキ村
    カムイナイ村
ハコダテ
新潟


(運搬費)
「カヤノマ」ヨリ「イワナイ」迄     壹噸賃金三拾七錢
 仝      フルウ郡サカヅキ村   仝  金三拾錢
            カムイナイ村  仝  金四拾銭
 仝      ハコダテ迄       仝  金壹圓五拾銭


(職工賃金幷に坑夫使役高及工程)
一,職工賃金  一日一人に付 金貳拾五錢 四百拾二工四分
一,坑夫賃金         金参拾銭  六百九十五工六分
一,坑夫    一工にて従来用井來る「ツルハシ」「タガネ」等の器具を用ひ,一日石炭百八拾壱貫目を採掘す.


(明治十九年九月役員)
組合正副惣代人 貳名
仝 取締人   三名
仝 事務扱人  一名
仝 坑夫頭   一名
仝 小使    一名
 雑役夫は其時々雇入使役す

一,坑夫生計
前年に仝し.
明治十九年十二月,組合を會して鑛業興廃の決局を議せんとせしに,會するもの役員のみ.終に決せす.依て開坑熱心の者(長濱彦太郎,安田半兵衛,佐野川弘治,澤口荘治,大崎亀吉)五名にして,各自更に採炭資本を出金し,明治二十年一月より着手したり.


(明治二十年自一月至十二月採炭行業)
「カヤノマ」村石炭坑並に付屬物件,運搬車,器械等,前年拜借の通り.
一,採掘は前年の箇處,則ち伊季鋪東一番坑より通し,新二番坑東西前層へ通したる炭層を掘採す.火藥は炭質柔軟に付不用.
   採炭坑夫一人にして百八拾一貫目を得る.工數六百拾四工三分七厘
一,木材貳百七拾三石
   代價金百三拾六圓五拾錢
一,産出石炭代價,金壹圓四拾錢貳厘   (但,壹噸にて)


(販賣地名)
「イワナイ」
フルウ郡サカヅキ村
    カムイナイ村
ハコダテ
新潟


(運送費)
「カヤノマ」ヨリ「イワナイ」迄    壱噸金三拾七錢
 仝      フルウ郡サカヅキ村  仝 金三拾錢
            カムイナイ  仝 金四拾錢
 仝      ハコダテ迄      仝 金壹圓五拾錢


(職工賃金並に坑夫使役高及工程)
一,職工賃金 一日一人に付金貳拾五錢 工數三百四拾五工五分三厘
一,坑夫賃金 仝     金三拾錢  仝 千二百九拾六工一分
一,坑夫               仝 六百拾四工貳分七厘
   器械は従來使用し來「ツルハシ」,「タガネ」等を用井,一日掘採,炭百八拾壹貫目を得る.


(明治二十年十一月役員)
組合惚代人  壹名
仝取締人   貳名
仝事務扱人  壹名
坑夫頭    壹名
雑役夫請負人 壹名
 坑夫生計
  前年に仝し.

前述の如く常に組合人の不仝意より,開坑に盡力せさるのみならす,却て巨多の金員を失費し,事業容易ならざるより,拜借人並に株主決議の上,拜借物件を残らず返上し,且つ,後日異論なきを確約し,更に組織を換へ,借區開坑を出願せしに付,右有志の者は,速に來會,加名相成度旨,普く組合株主に通知し,然して明治二十年十二月,拜借物件一と先返上を願,更に開坑熱心の者,長濱彦太郎,安田半兵衛,大崎龜吉,佐野川弘治,澤口荘助,五名に於て,借區開坑,並に前拜借の諸物件,拂下出願せしに,明治廿一年二月十五日,許可せらる.依て,各自出金し炭庫・炭車の修繕を加へ,専ら採炭に従事す.


(明治二十一年自一月至十二月採炭行業)
一,カヤノマ石炭坑
   借區坪數五万坪
   附屬
    坑内外軌道据置キノ儘
一,炭庫,見張所,倒潟塲等,及炭車,前年拜借の分は盡く拂下けを受けたり.
一,掘採は明治二十年迄拜借之通り伊季舗東一番より新二番坑の前層に達したる.則ち二番坑炭層東西にて掘採す.
   但し坑内より運搬するは拂下の炭車を用ひ,且つ坑内にては「ハコダテ」・「サツポロ」より購求したる「ツルハシ」を以て掘採す.坑夫一日に採掘する石炭,百八拾貫目.
    使役高,千四百貳拾八石五分.壹噸に付採掘賃金,五拾七錢.
一,木材三百石目
   此代價百五拾圓
一,石炭        壹噸代價,金壹圓八拾錢
             但濱石炭庫に於て.


(販賣地名)
「イワナイ」
フルウ郡サカヅキ村
    カムイナイ村
ハコダデ


(運送賃)
「カヤノマ」より「イワナイ」迄    壹噸賃金三拾七錢
 仝      フルウ郡サカヅキ村  仝  金三拾錢
            カムイナイ村 仝  金四拾錢
 仝      ハコダテ迄      仝  金壹圓五拾錢


(職工賃金幷に坑夫使役高及工程)
一,職工 一日壹人に付 金貳拾五錢  工數,千七百七拾七工
一,坑夫 仝      金参拾錢   工數,二百八拾三工三分三厘
一,坑夫               工數,千四百貳拾八工五分六厘
   従来用ひ來る「ツルハシ」・「タガ子」等を用ひ,一工,石炭百八拾壹貫目を採掘す.


(明治二十一年一月役員)
組合惣代人    壹名
仝 取締人    貳名
仝 事務取扱人  壹名
  坑夫頭    壹名
雑役人夫請負人  壹名

 坑夫生計
前年に仝し.
 

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