2015年6月11日木曜日

「北海道鑛山畧記」:(三)石炭の「ハルトリ石炭」

●ハルトリ石炭

(地名)
釧路國クスリ郡クシロ村字ハルトリ*1
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*1:釧路國クスリ郡クシロ村字ハルトリ:春採(現:釧路市春採)


(發見の原由)
炭脈は「クシロ」近傍に連亘し,所々に露出するを以て,敢て指點すへき發見者あるを聞かすと雖とも,明治十九年中,大坂府平民・山田朔郎は「アトサノボリ」硫黄山*1事業追々擴張し,諸器械に石炭の尤も必要なるを感じ,探掘運搬共便利なる箇所に着手せんと欲し,所々を探索し,終に今の「ハルトリ」山を選定して,郡衙に出願し,試掘に着手せんとするの際,硫黄山事業は擧て安田善之助へ譲渡したるを以て,該炭も亦,善之助に於て引受けたり.
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*1:「アトサノボリ」硫黄山:アトサヌプリ硫黄山(現:川上郡弟子屈町アトサヌプリ;一時は「跡佐登」と表記).


(借區坪數及人名)
該坑の借區は栃木縣宇都宮寺町一番地,安田善之助*1を以て始めとす.即ち實測面積・三拾五萬八千八百九拾四坪の借區を,本年二月中北海道廳へ請願し,該坪數の假借區券下付せられ,以來善之助に於て坑業をなせり.
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*1:安田善之助:安田財閥二代目.


(採掘方法並に沿革)
採掘は鶴嘴を使用し,他器を用ひしヿなし.
礦質は試掘の時に比較すれは漸良質となる.
坑道は山の中腹に作りしを以て,其長延となるに從ひ水量を増加し,自然排水に力を要するに至りたり.
坑道中は二個の笊(一個七貫五百 位入)を擔ひ運搬せり.坑夫は男子のみにして女子を使用したる事なし.
試掘中は平均一日拾名にして,本年三月後は平均拾五名使用せり.坑夫の賃錢は一日一人四拾錢にして,一噸採掘の工程割合は左(下)の如し.
 一探掘 一人
 一運搬 一人 (一噸に付)
 一枠夫 一人 (枠とは留木のヿ)


(産出量)
本年始より七月卅一日迄の採掘高は七百廿噸九分六厘なり.


(製品代價其販賣地名及運送費高)
此迄採掘の石炭は,唯自家の滊車滊船並に硫黄製錬に供し,他え販賣したるヿなし.字モシリヤ*1迄,礦物十壱貫目を叺詰となし,馬脊に依りて運搬せは,本年始より七月迄,其支拂せし費用を産出の噸数に割賦すれば左(下)の如し.
 金七拾八錢六厘 一噸に付運搬費(荷造費共)
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*1:字モシリヤ:不詳.釧路には「モシリヤ砦跡」という文化財があるので,その付近まで運んだということかもしれない.


(職工坑夫の賃錢及其使役高)
本年三月以來七月迄,坑道内に使役せし人夫,貳千貳百五拾人にして,一日一人の賃錢は四拾錢なり.


(坑夫ノ工程)
坑夫の使用する器具は鶴嘴・厂爪にして,一日三人にて一噸を坑外へ出す割合なり.


(抗夫生計ノ度幷ニ食料其他給與方法等)
坑夫の起臥する家屋は,板屋と草屋の二様なり.炭山に住する爲め,殊に發病したる者あるを見ざるなり.食物は「クシロ」市街に接近せるを以て,魚菜に乏しからず.普通稼ぎ人の食物に異なるなし.
坑夫の需用品は市街に出て自辨せり.
坑夫一年間の働賃を平均すれば,百貳拾圓内外に當る.其内食料及ひ物品講入に五六拾圓内外を費すべし.


(役員幷に坑夫技手等の總数幷増減沿革)
役員は一名他業と兼務せり.技手は別段置かずして,坑夫擔當人一名,坑夫三拾壹名使役せり.


●舊記
開拓使事業報告に曰く,「クシロ」海濱を距る一里餘,字「カラトリ」(ハルトリならん)と稱する新炭坑あり.露出石面上より下へ量るに,淡褐色にして砂石の露面凡五尺.石炭(只表面の石炭にして價少し),一尺九寸五分.「スレート」及骨状石炭,二尺二寸五分.暗色シェール,凡五分.合四尺二寸五分.斯の如き石炭,素より開採するに足らす.又,小澗の邊に開鑿せる一炭層あり.恐らく同一層脈ならん.其露面上より下へ量るに,灰色砂石,凡一尺.石炭,一尺八寸五分.灰色砂石,十尺.合十二尺八寸五分.是亦開採に足らす.

 

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