湊先生の南方油田調査の背景を知りたくて,関連していそうな文献を漁ってみました.
時代が時代なので,ほとんど全てが絶版で古本探し.内容が内容なので,客観描写だろうと思われる本を探すのもけっこう骨が折れます.小説は除外しなけりゃならんし.
さて,一冊目は高橋健夫「油断の幻影=一技術将校の見た日米開戦の内幕=」から.
高橋健夫(1985)
筆者は副題の通り戦前戦中をかけての技術将校.軍用燃料関連の実務を一手に引き受けていたようです.したがって,だれよりも石油と戦争の関連を語れる重要人物.
著者が記録しておきたかったことの一つは,帝国陸海軍の愚かさと因習だろう.当時の軍首脳部は軍事行動に於ける石油の重要性が理解できていなかった.また,理解できても,具体的にどうするかということを考える能力がなかった.
また,石油がなくては軍事行動ができないので石油関係者を軍属にしたのに,軍属は軍馬,軍用犬,軍鳩以下の扱いでした.南洋油田占領後,その修理運営に行くはずだった軍属たちは,軍人なら飛行機で三日でいける現地に,船で何ヶ月もかかっています.負けるわけだ.その当時の日本の「秩序という名の差別構造」が透けて見える話です.筆者は敗戦後,進駐軍から事情聴取を受けていますが,その相手は民間石油会社の社員であり,同時にこの仕事のために将校待遇で雇用され,正式の将校と同じ扱いを受けていたことに感銘を受けたといいます.
戦前戦中に関する石油事情はこの本一冊で充分だろうと思われます.
二冊目は,石井正紀「石油人たちの太平洋戦争=戦争は石油に始まり石油に終わった=」.
石井正紀(1991)
筆者は理工学部建築家出身の建築技術者らしい.しかし,戦記関連の著述が複数あり,本業の傍ら関連の著述を続けていたらしいです.大量の戦記関連の書籍を読んでおり,末尾にたくさんの文献資料のリストがあるのがありがたい.もちろん前記,高橋(1985)は重要文献ですね.
昭和12年生まれなので,実体験に基づいたものではないですが,構成や文章は非常に読みやすいものです.
出版社が「光人社」.月刊「丸」や数々の戦記物を出版している会社です.
最後は,岩瀬 昇「日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか」.
岩瀬 昇(2016)
筆者は商社マン.東京大学を卒業して三井物産に入社し,石油を中心としたエネルギー関連業務に携わってきた人物.現在から第三者の目で,日露戦争から軍用エネルギーについて概観しています.
筆者は1948年生まれ.完全に戦後育ちです.
三冊の著者は,世代および立場の違いがありますので,読むなら,それを頭において進めるのがいいでしょう.
さて,湊先生を初めたくさんの地質屋,また石油技術者を南方に送り込んだ社会情勢はなんとなく理解できました.次は,現地における戦闘の実態について調べてみたいと考えています.
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