2010年5月8日土曜日

「或る地質屋の記」

先日,大久保雅弘さんの「或る地質屋の記」が届きました.
 この本は,要するに大久保さんの自伝です.亡くなられたあと,息子さんらが「フロッピー」に保存されていた遺構を編集して出されたものらしい.

 大久保雅弘(2010)或る地質屋の記.丸源書店,東京,216頁.

 大久保さんと直接の面識はありませんが,南部北上山地の論文をいくつも書いていらしゃるので,お名前は存知申しあげている.
 ざっと眺めると,昔聞いた地名や地質用語のほかに,故・湊正雄北大名誉教授の写真が出てきたりして,何ともいえず懐かしい.

 「我が師,湊正雄」なんて,私は書いていますが,実のところ,最盛期の湊先生のことは,私は知りません.私が二講座に入れてもらったころは,湊先生はすでに盛りを過ぎた老人のようで,大学院時代には,指導もしてもらえませんでした.
 怖いころの湊正雄を追体験してみようと思う.

 話を戻すと,大久保さんの子供のころの話には,来日した愛新覚羅溥儀が天皇と一緒の車に乗っていたのを見た話など,明治から昭和にかけての地質屋の歴史と,その背景を調べている私には,紙の上に書かれた歴史ではなく,リアルな歴史を体験したような気がしました.
 じっくり読んでみようと思います.

 話は変わりますが…,
 悲しいことに,この本も,前に紹介した二冊の本とおなじで,通常の流通ルートには乗っていないようです.
 
 もっとも,このような本が,一般に売れるとは,とっても思えません.しかし,読みたいと思う人が現れても,そこに行き着かない=購入できないのは,何とも情けない.


 早いとこ,現在の出版業界は潰れてほしいと思う.
 そして,インターネット上でオンライン=ソフトウェアのように,書きたい人が誰でも出版でき,読みたい人が誰でもダウンロードして読むことができる時代が来ればよいと思う.PC上でも,i-Pad上でも,携帯電話上でも,種々の機器の上でも,読めるような.
 そして,著作権を持つ著者に,正当に報酬が入るようなシステムも.
 もちろんそれには,オンライン=ブックスのエディター(フリーウェア)の開発と,オンライン=ブックスを供給できるNPOみたいな組織が必要だけれど.

 たぶん,このまま放っておくと,旧出版界がネット上の出版システムも牛耳って,利益だけを吸収して,著者も読者も育てないシステムが再来し,ネット上の出版界も,できると同時に崩壊すると思う.

 現在の出版不況は,全面的に業界に責任があります.
 ネットで書籍が購入できるようになる以前には,札幌のような北海道一の都市にある大書店でも,注文してから入手できるまで二ヶ月もかかるのが当たり前でした.
 しばらく田舎暮らしをしていましたが,そこの本屋さんに行くと,本がありませんでした.店主に聞くと,これは出版業界のシステムで,田舎の本屋には,本は(特に皆が読みたいと思うような本は)回ってこないとのことでした.
 その町の図書館の司書は,(もちろん)地元の書店からは購入できず,休日に大きな町の本屋に行って,直接本を買ってこなければ,皆が読みたいと思うような本は入手できないといってました.
 大都市でも,中心街の大書店には平積みにされているような本だって,中心を少し外れた小書店には,そのような本は回ってこないのが普通です.
 既成の出版業界は,田舎や郊外の小書店は眼中にないし,そこしか利用できない読者がいることも眼中にありませんでした.書店は潰れて当たり前なのでした.

 今,ネット書店とリアル書店などという言葉をつくって,インターネットが本屋を潰すというよなキャンペーンを張ってる筋もありますが,本屋を潰したのは,本を配本しなかった本の流通業界です.多くの人は,ネットで(出版さえされているなら)どんな本でも,速やかに入手でき,ありがたいと思っているはずです.
 ネット書店は,読者を育てているのです.
 結局,旧業界が読者を育てるという努力を怠ったのだから,本を読む人がいなくなったのでしょう.

 業界は,作者を育てるという努力も怠り,ベストセラー作家ばかり優遇したから,売れる本しか流通しなくなりました.当たり前と思われるかもしれないけど.海外では,再版されるような本を持っている著者は,それだけで喰っていける.でも,日本では,つねにベストセラーを出し続けるような作家でないと,著述家としては成立しません.

 早いところ,ネット上の作家-書店-読者というシステムが確立してほしいものです.

 話を戻せば,そうなれば,流通ルートに乗っていない自主出版みたいな本でも,インターネットが結ぶ世界では,読みたい人の総和は,けっこうな数になるはず.少なくとも,作者が赤字を出さなくてすむシステムができると思うのですが….
 10年,20年もすれば,今のベストセラーなんかよりも,こちらの方が,よっぽど資料的価値が上がると思いますけどね.
 

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