2010年9月17日金曜日

感染症とはなにか:三論

 
 漠然とですが,「感染症というものは存在しない」のではないかと考えていました.
 生物同志は共生に向かうのが成りゆきで,出合った生物同志の共生がスムースにいけば外観上は何も起きないですし(遺伝子レベルなり,細胞レベルで共生関係が成立する),多少トラブルが起きて発熱その他の異常が出れば,それを“感染症”と呼ぶのではないかと漠然と考えていたのです(感染自体は不断に起きている).
 つまり,「感染症」という状態は「共生にいたるまでの葛藤」なのではないか,と思っていたわけです.

 それで,それこそ10数年ぐらい前には,そのあたりのことを考察している生物学者ないしは医者がいないかとさがしていたのですが,みつからなかった.
 言い過ぎかもしれませんが,近視眼的な「感染症(=病気)」の概念の主張しかなかったので,しばらく放ってあったわけです.
 しかし,最近になって,「感染症」というものの全体像をとらえようとするひとたちがでてきたようです(ま,昔からいたんでしょうけど,そういう主張を文章に(本に)する人がいなかったということなのですかね).
 「傷はぜったい消毒するな」を読んで,またぞろ刺激されて,探索を再開したということです.
 以下,その探索で,それらしきことが書いてあるような「表題」の本を三冊選んでみました.

 悲しいかな,某「科学本の書評サイト」で「医者の書いた本は,概して面白くない」と書かれてありましたが,実際その通りです.
 書かれている内容がつまらなければ(だいたいが近視眼的),読書をすぐに放棄すれば,それでいいのですが(だから,すぐには購入しないで,図書館から借りだして数頁読んでみる.合格点であれば購入),内容自体は興味深いものなのに,文章がヘタクソで,理解にものすごく時間がかかるものが多いのです.
 編集担当者がいないか,「わかりやすい文章を書いてください」といえる編集者が皆無に近いようなのです.ま,相手は大学教授や大病院の医者あるいは国公立研究所の大先生ですからね.いえないよね.
 
 簡単に言ってしまえば,「AはBである.BはCである.よってAはCである」というような明快な文章ではなくて,「AであるBは,CであるDのようだが,EであるFはDであり,またGでもあるので,HはIである.なお,HとはJとされている.」みたいな….複合文章で,省略されている主語が異なっていたりなんて有り得ないことが起きていたりもする(もしかしたら,著者の意図はちがっているのかもしれないですが:どっちにしても難解なのでわからない(^^;).

 そんなわけで,読書にものすごく時間がかかるのです(もちろん,老化でわたしの読書力が落ちているということもありますけど(^^;).
 さて,本題に戻します.

 まず一冊目.
●本田武司「病原菌はヒトより勤勉で賢い」(三五館)

  


 最近は,こんな立派な装丁で,¥1,400なんて本はお目にかかれなくなりました.¥1,000台後半の定価なのに,開くこともままならない糊で頁をくっつけただけのお手軽装丁の本ばかりになりましたからね.

 この方の文章は,わかりやすいです.比較的スムースに読むことができます.
 しかし,「細菌の発見史」や「細菌そのもの」についての説明が長く,なかなか,「病原菌がヒトより勤勉で賢い」という話には進んでゆきません.
 もしかしたら,著者の中では「そういう話」をしているつもりなのかもしれませんが,どうもピンとこない.
 別な方面からいえば,「細菌そのもの」についてが,一般に対しあまりにも普及されていないので(この医学が進んだ日本での状況としては,理解ができないですが),本題よりも基礎知識のほうにページを割かなければならない背景があるということでしょうかね.
 逆に言えば,「細菌の発見史」や「細菌そのもの(個々)」について知りたければ,非常によい本ということになります.

 いくつか気になった記述があるので,ご紹介しておきましょう.
「病原菌は本来,人間の体などには入りたくないのに,人間の不注意によって偶然に食べ物の中に紛れ込んだために,あるいは空中を遊泳(?)中に呼吸で無理やり吸い込まれたりして,ヒトの体の中に入ってしまうという“偶然の取り込み”が起こる可能性がある.」

 病原菌(菌にとっては不本意な名称ですけど)は早くヒトの体から脱出したいが為に,下痢や咳などの症状を起こす(そして,飛び出す).と,考えられるわけです.
 それを,人間が勝手に「病気」と呼び,かれらを「病原菌」と呼んでいるというわけですね.

 もうひとつ.

「一説によると,ジャングルの野生動物たちの中で共存していた微生物が,その動物が絶滅しかけたために新たな宿主としてヒトを選んで,戦いを挑んできた(病気を起こしだした)のではないかという.」

 これは気になる点です.
 宿主を殺してしまえば,困るのは“病原菌”のほう(宿主が居なくなるという単純な事実)なのに,なぜ「病気」をおこすのか.
 ヒトに対する攻撃が一段落すれば,「共生関係」が成立し「病気」ではなくなるのか.そのあたりは,残念ながら記述されていません.


 二冊目.
●吉川泰弘「鳥インフルエンザはウィルスの警告だ!=ヒトとウィルスの不思議な関係」(第三文明社)

  



 「ヒトとウィルスの不思議な関係」という副題から,前述の「共生関係の成立」などのことが書かれているかと思いましたが,残念ながら,この著者の頭にあるのは「病気そのもの」のことです.
 前半の内容からは,ひょっとして「そういう話にいたるのかな」と,思わせましたが,期待はずれでした.なにが「鳥インフルエンザはウィルスの警告」なのかもよくわかりませんでした.
 中身は表題をこえていないという,よくある本です(たぶん,出版社側で決めた表題なのでしょう).

 本としては,「病原菌はヒトより勤勉で賢い」と似たような内容で,どちらか一冊読めば充分でしょう.わたしとしては「知りたいことが書かれていそうで,書かれていない」もどかしさだけが残りました.
 

 三冊目.
●益田昭吾「病原体から見た人間」(ちくま新書)

 すっごく,読みづらい本です.

  


 途中で何回も読み返す必要があります(文章構造が難解.途中で文脈が跳んでいるような気がする.専門用語の説明がないか,あとからでてくる)し,書かれている内容が「です・ます体」とは不調和なので,文体は違和感バリバリです.
 とはいえ,既存の本とは異なり,個々の病気についての解説ではなく,「病気」そのものがトータルにとらえられているので,もしかしたら,わたしの知りたいことに話が進んでいくかもしれない.
 しかし,ものすごく読みづらいので,図書館の返却起源に間に合いそうもありません.しょうがないので購入してしまいした.すでに,第四章の途中まで読んでいたのですが,結局,また最初から読みなおしています.

 著者の主張のツボは,生命の「階層構造」にあります.
 (通常は)あらゆる生命は,すぐ上の階層構造とは仲良くやっているのが普通(共生関係が成立している)ですが,さらに上の階層とは仲良くできるとは限らない.これが「病気」なわけです(詳しくは,やはりこの本を読んでもらわないとね).
 たぶん,この話が進んでゆくと,「ヒト」という生命体は(すぐ上の)上部構造である「地球=環境」とは仲良くやってゆくのが当たり前ですが,「ヒト」の下位構造である「脳=知能」は直接の上部構造であるヒトとは仲良くやってゆけますが,ヒトのさらに上部構造である「地球=環境」と仲良くやってゆけるとは限らない.という話にいたる(ヒトはそのもつ「知能」のせいで,地球についての「病原菌」になってしまう)ものと予想されます.

 そして,最初に書いたわたしの「病気とは,共生にいたるまでの葛藤である」という予測は,見事に外れることになります.
 
 

0 件のコメント: