2009年8月16日日曜日

辞書の展開(12)

 
●食肉目[order CARNIVORA Bowdich, 1821]
 食肉目[order CARNIVORA Bowdich, 1821]は“ネコ目”と呼ぶように指導されてますが,まるで原語を反映していません.ここでは,昔ながらの「食肉目」を使います.

 食肉目は,昔はPINNIPEDIAとFISSIPEDIAの二つに分けられるのが普通でした.
 PINNIPEDIAはpinni+ped+ia=「羽の」+「脚の」+「group」という語根の合成語で「鰭脚類」と訳されています.一方の,FISSIPEDIAはfissi+ped+ia=「裂かれた」+「脚の」+「group」という語根の合成語で「裂脚類」と訳されています.
 鰭脚類は後脚が融合し鰭状になった「アザラシ」・「アシカ」・「セイウチ」などをグループ化し,裂脚類はそうではなく,後脚が二本に分かれたままの(つまり残りの食肉目全部)をグループ化したものでした.
 現代人の常識では,脚は別れているのが普通で,鰭脚化したのは海に戻った食肉目の適応の過程だと考えてしまいますが,昔は鰭脚が基本であり,進化して鰭脚が(分かれた)脚になったと考えたのでしょうかね.

 用語の意味を聞かされれば,なにか不自然な分け方だと自然に思うことかと思います.
 もしかしたら,昔の科学者は「魚類」→「鰭脚類」→「裂脚類」と進化してきたと考えていたのかもしれませんね.

 新分類では,大まかには

order CARNIVORA Bowdich, 1821 (食肉目)
├ CARNIVORA incertae sedis(食肉目分類位置不詳)
├ suborder FELIFORMIA Kretzoi, 1945(猫形獣亜目)
└ suborder CANIFORMIA Kretzoi, 1943(犬形獣亜目)
       from “The Taxonomicon

 となっています.
 なんか,「犬」か「猫」かに分けるなんて,私らの生活感覚には合っていますね.

 しかし,「CARNIVORA incertae sedis」ってのは,いったい何でしょうね.“The Taxonomicon”には,実は「CARNIVORA incertae sedis」という分類はありません.ランクも無しに放り出してあるので,私が勝手にまとめたものです.
 いってみれば,「犬形」と「猫形」に分類するのに邪魔な「古い形質をもった雑多なもの」ということになりますか.
 具体的には,以下の属があげられています.

    genus †Aelurotherium Adams, 1896
    genus †Eosictis Scott, 1945
    genus †Elmensius Kretzoi, 1929
    genus †Kelba R.J.G. Savage, 1965
    ?genus †Vishnucyon Pilgrim, 1932
    genus †Vinayakia Pilgrim, 1932
    genus †Notoamphicyon Ameghino, 1904

 Aelurotheriumは,始新世(北米)に生息していて,古い体系では肉歯目に入れられていたこともありました.Kelbaは,中新世(東アフリカ)に生息していて,古い体系では汎盗目に入れられていたこともありました.
 Eosictis, Elmensius, Vishnucyon, Vinayakiaは詳細不明.
 と,いうことは,旧体系では大部分は無視されていたか,調査の網に引っかからなかったということ.もちろん,クラディズムでは重要なポイントを占めるグループであることは間違いありませんね.

 なにか,プレートテクトニクス的解釈では重要な露頭(岩体)でありながら,地向斜造山論では長年「無視」されてきたか,解釈不能として放置されてきた「メランジ」を思い出してしまいます.

 「分からないこと」にこそ,突破口があるということですかね.
 

0 件のコメント: