2010年4月21日水曜日
地球七つの謎
「七つの謎」本というのは,ありふれているというか,掃いて捨てるほどありますね.
なぜ「七つ」なのか.
その方が謎ですが,一説には,人間の脳のバッファは最大七つぐらいで,それ以上の数のイベントのことは頭から抜け落ちてしまうといいます.だから,「七つ」.それ以上のことは,脳外のバッファ>つまり「メモ」などに残しておかないと,えらい目に遭うことになります.
西洋発の「一週間」が「七日」なのも,これを単位として考えるのが,脳の性質上,楽だからだといいます.「覚えておける予定は,せいぜい一週間」ということですかね.
キリスト教の神が七日で地球を完成させたからだと主張する向きもありますが,どっちが先で,どっちが後かは難しいところですね.
ちなみに,「ラッキーセブン」なんてことも,これに関係あるとかいわれてます.
ただまあ,脳科学者のいうことは,具体的な証拠が示されることは,まずないので,これを基準にしてよいのかどうか判断ができません.
私は「地質学」をやってます(ました?(^^;).
地質学は博物学の直系の末裔なので,「もの」としての標本がないことには,そして,その標本からいえることでないと,学問の論理としては成立しないのです.
これは,決して「脳科学は科学ではない」といってるのではありませんよ.「『脳科学』と『地質学』は別の体系から成り立っている」といっているだけです(ただ,まあ,科学哲学なんかやってる人にいわせたら,「?」かもしれません.なぜって,脳科学者の脳にしかないものには,誰にも反論できないからです).
これが,今流行の「地球科学」になると,まったく異なり,(「もの」ではない)観測機械や測定器の出したデータやコンピューター・シミュレーションの結果なども学問の対象となっています.結果も,「この地域の,今後30年以内にマグニチュード7.0以上の地震が起きる確率は90%」なんて,訳の分からない結論も「科学的」とされている.
研究分野が広がったと思えば,いいのかもしれませんが,どうも,生理的な違和感がつきまといますね.「もの」がないと話が始まらない,地質屋の性分かもしれません.
閑話休題
現代の「地球の七不思議」には,どんなものがあげられるのでしょう.
たとえば,丸山茂徳・磯崎行雄(1998)「生命と地球の歴史」(岩波新書)には,「地球史七大事件」として,以下のイベントがあげられています.
1.微惑星の衝突付加によって地球の基本的な成層構造ができた(45.5億年前)
2.プレートテクトニクスの開始,生命の誕生,そして大陸地殻の形成の始まり(40億年前)
3.強い地球磁場の誕生と酸素発生型光合成生物の浅海への進出(27億年前)
4.はじめての超大陸の形成(19億年前)
5.海水のマントルへの注入開始,太平洋スーパープルームの誕生と硬骨格生物の出現(10~6億年前)
6.古生代と中生代の境界での生物大量絶滅(2.5億年前)
7.人類の誕生と科学の始まり(500万年前~現在)
また,別に,「地球生命史重大事件」というのも主たる話題として取り扱われ,以下の(これも「七つ」)イベントがあげられています.
1.原始生命の発生(約40億年前)
2.バクテリア(原核細胞)の出現(38~35億年前)
3.光合成の開始(27億年前)
4.真核細胞の出現(21億年前)
5.多細胞生物の出現(10億年前)
6.硬骨格生物の出現(5.5億年前)
7.人類の出現(500万年前)
「地球史七大事件」とは,微妙に重なり合ったり,そうでなかったりしています.要するに,著者らは,地球上で起こった重大事件は生命の進化に大きく関係があるということをいいたいようですね.
この二つの「七大事件」を見て,オヤッと思うことがあります.
それは,「地球の誕生」が挙げられていないこと.
丸山・磯崎は「地球の誕生」とはいわずに,「地球の基本的な成層構造ができた」としていますね.
なぜ,「地球の誕生」といわないのでしょう.
「地球の誕生は約45~46億年前」ということは,巷に流布したことです.どこにでもそう書いてある.しかし,45億でも46億年前でもいいですが(45.5~45.6億あたりが妥当らしい),その誕生当時の地球がどんなんだったかを説明できる学者はいないでしょう.
これは当たり前の話で,この数字は希に手に入る隕石や月の岩石の同位体元素を測定し,出てきた数字を,地球の年齢と仮定しているだけだからです.
だから,その数字が示す時の地球はどんなんだったかは,まったく判らない.
太陽系に属する惑星衛星は,ほぼ同時にできた.と仮定し,更に,太陽系に散在する隕石などの物質が,なぜか,速やかに現在の惑星の位置に集合し,可及的速やかに成長したと考えなければ,この数字は意味を持たないのです.
散在する物質は(なぜか)集合し,大きくなってゆくわけですが,どの時点を地球の誕生とするかは,これは決められません.
最初の大きめの二個がぶつかったとき?
今の地球のサイズに匹敵するほど,集まったとき?
それとも,その間の任意の時点?
どれも,意味がないですね(地球上の物質を測定したわけじゃあないですし…).
丸山さんは,PT経,布教の教祖ですから,地球上でプレートを動かさなければなりません.そこで,PTを動かすための基礎である原始的な成層構造の完成をもって「地球の誕生」としたいわけです.定義はいいですが,証拠があるわけではありません.そう考えると,都合がいいというだけです.
実際にプレートが動き始めるまでには,それからまだ数億年かかるとされています.
これに対して,地質屋はどう答えるべきか.
無理ですね.
証拠である「物質」,「もの」,「標本」が入手できないことに,地質屋は手を出してはいけません.なぜなら,地質学は博物学の末裔だからです.「もの」がないことには仕事にならない.
守備範囲外ということです.
だから,これは地球科学者の独壇場ということになります.
ついでにいっておけば,もうひとつ,違和感バリバリの事項があります.
「環境保護」という訳の分からない言葉があります.
地球環境の上で,砂漠のような過酷な環境を否定して,緑豊かな地球を守ろうということらしいのですが,意味が分からない.過酷な砂漠だって地球上の一環境だし,そこにしかない生態系があり,そこでしか生きられない生物がたくさんいます.
人間にとって都合のいい環境ということなら,そういえばいいのに,「地球に優しい」なんて言葉が「この非常時に!」みたいな使用法で用いられています.
地球環境は変動しているから,多様な生物が存在している筈,なんですがね.
それはさておき,「地球=生態系」という考え方が,すべての基本みたいに扱われているのに,「地球の誕生」は,だだの岩石の塊ができたときなんです(英語圏では「地球」はEarth=「土塊」).
おかしいでしょう?
そう.
地球の誕生は,少なくとも「原始的な生態系」ができあがったときに置くべきだと思いませんか? 賛同はされなくても,一つの考え方としては成立すると思います.
そうすると,地球の誕生は,原始的な生態系が成立したカンブリア紀の始まりに一致するということになります.
大昔の言葉が復活し,「先カンブリア紀」は「先地球時代」として扱われることになります.そうすると,地質学も安泰なんだけどなあ….無理か(^^;
う.余談だけで,本筋に入れなかった….
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