2019年4月24日水曜日

北海道地質学史に関する文献集(17)

北海道地質学史に関する文献集(17)

佐藤博之(1968)北海道の地質はどのように解明されているか.

 戦後の北海道の地質調査について,図幅調査を中心に詳述されている.敗戦前の国土膨張期には,完全に無視されていた北海道の地下資源も,敗戦とともに見直され,基礎的な地質調査の重要性が見直された.
 調査機関としては,(日本)地質調査所に加えて,北海道地下資源調査所が設立され,これに北海道開発庁(実際の調査は地質調査所と地下資源調査所がおこなった)が加わって本格的に始動する.地質家としては,上記職員のほかに,北海道大学と北海道教育大学から,ほかにも東京教育大学,熊本大学,札幌通商産業局などが調査に加わった.
 以下に,この報告の章立てを示す.

   1 5万分の1図幅
   2 20万分の1地質(図幅)
   3 小縮尺地質図
   4 図幅調査のトピック




 「4 図幅調査のトピック」には「新冠川の石灰石鉱床」と「大千軒岳山麓の石炭紀層」が挙げられている.
 「新冠川の石灰石鉱床」は,道路がないために未踏査であった地域が,北海道電力が電源開発のために切り開いた調査歩道が使えるようになり,そこで鈴木守技師(北海道地下資源調査所:当時)が新冠川を踏査中に巨大な石灰岩体を発見したという話題である.本文を引用すれば「人跡もそれまでは未到にひとしかった日高の山中に これだけの地下資源が眠っており それが図幅調査によって発見されたというめずらしい話題である」という.それが,神保小虎が命名した「日高山脈」,人を近づけない「日高山脈」の実体だったわけである.
 もう一つの「大千軒岳山麓の石炭紀層」は,道南の上ノ国村の地質調査中に,また「大千軒岳」図幅調査中に,上ノ国では石灰岩レンズから,大千軒岳付近では知内川の礫状石灰岩及び石灰質礫岩から紡錘虫や珊瑚化石が発見され,これらから石炭系の地層があることが確認されたことである.それまでは,いずれの岩体も時代未詳古生層とされていたので,非常に重要な発見であった.
 どちらも,綿密な地質調査が,どれだけ多くの情報をもたらすかという好例である.
 ところが不思議なことに,上ノ国図幅も大千軒岳図幅も,どちらも出版されずに終わっている.



 

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