2010年7月12日月曜日
「世界史の中の石見銀山」
ひさびさの,鉱山史ネタです(ちょっと違うけど).
「世界史の中の石見銀山」(豊田有恒;祥伝社)という本が出ています.
記述されている「事実」に関しては,目新しいものはなにもありません.
この本の目的は石見銀山でもちいられた高度な鉱山技術と日本に大量に移入している「ポルトガル語」を結びつけ,当時の世界情勢から多くのポルトガル人が日本に帰化したであろうことを推定しているものです.
したがって,鉱山史的な情報が書かれていると思うと,がっかりする.
ポルトガル人の「高度な鉱山技術」の一端でも書かれていれば,それで,私は十分満足だったんですが…(残念).
序章「石見銀山は,今」
ま,「序」ですね.
第一章「金銀王国ジパング」は,石見銀山を中心とした日本の鉱山の歴史が略述されています.
目新しいものは,何一つありません.皆,一度は眼にしたことのある史実の継ぎ合わせです.
豊田有恒氏をして,これだけの情報しかないんですから,たぶん,これしかないんでしょう.日本には,鉱山史とか,鉱山技術史を調べてる学者はいないんでしょうかね.
ま,ある意味,「これだけなんだ」と安心しましたけどね.
第二章「日本と世界の大航海時代」は,背景となった世界史の略述.
視点が面白いので,思わず,世界史の勉強をやり直したくなりました.
世界史図録を横に置きながら,何度も読み返しました.
第三章「なぜ日本の外来語にはポルトガル語に由来する単語が多いのか」
ここが,この本のメインパートですね.こちらは,日本史の略述.
第四章「石見銀山を支配した謎の豪商・神屋家」
ここは,一番興味があるところですが,雑学は多いけれども,肝心の「神屋」家の実態については,何一つ目新しいことはありません.というよりは,ほとんどわからないということが書かれているだけです.
残念.
終章「石見銀山とポルトガル」は,なにが言いたいのかよくわかりません.
総じて,どの部分も,引用が明示されていず,巻末に「参考文献」が羅列されているだけです.
どの部分も,裏付けが明示されてないので,ただのSFですといわれても仕方がないです.もともと,豊田氏はSF作家ですしね.
歴史には「ウソ」が多いことは,実際に自分で原著に近い文献を調べてみるとしばしば体験できます.それ経験すると,引用が明示されていない話は,確認・検証ができないので,眉唾で聞くしかなくなります.
たぶん,歴史の定説というのは,最初は大家が「私はこう思う」から始まってしまっているのでしょう.
でも,それを覆すのに,おなじ様な「私はこう思う」では,誰も受け入れてくれません.状況証拠だけではどうにもならない,たくさんの証拠と水も漏らさぬ論理の構造が必要.後発は,けっこうつらい宿命を負っているものです(ここは一般論).
もっとも,ポルトガル人のDNAが“日本民族”に蓄積されていようが,いまいが,今のところ,私にはあまり興味がないですが….
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2 件のコメント:
コメント失礼いたします。
私もこの本を読んで、ちょっと不満を感じるところもあったので、他の読者の感想が知りたいと思い検索していて、こちらのブログに来ました。
>ポルトガル人の「高度な鉱山技術」の一端でも書かれていれば,それで,私は十分満足だったんですが…(残念).
大久保長安がポルトガル人から学んだ測量技術を用いて掘られた坑道についての調査報告の記事(2年前だけど)を、何かの足しになれば・・・と思い、貼って帰ります。
[山陰中央新報 - 石見銀山地下に8巨大空間]
http://www.sanin-chuo.co.jp/tokushu/modules/news/article.php?storyid=492656169
コメントありがとうございます.
非常に興味深い記事ですね.
エッと驚くような近代的な技術が使われている可能性がありますね.
報告書が出ていないようなのが残念です.
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