2009年7月7日火曜日
辞書の展開(4)(補遺)
●旧体系と新体系の対比(1)根っ子のところで(補遺)
前回は,Carroll (1988)から,いきなり,THE TAXONOMICONの体系に跳ばしてしまいましたので,なにか,ものすごくドラスティックな変化があったような印象を与えてしまいましたが,失敗だったようです.
そこで,この二つの間に出された体系をいくつか示して,紆余曲折しながら生物の体系に迫ろうとした研究の足跡を示しておきたいと思います.
先に言っておくと,これらは「どれが正しい・正しくない」というものではありません.
その時代,その時代で集められた情報を元に,その時代の分類学者が一番適切と思われる体系を組んでいるもので,「新しいものが正しくて,古いものは間違い」というものではないのです.
しばしば,新しい体系の信奉者が,古い体系を「『錬金術』にも等しい」という言い方をしますが,そんなモンではないですね.こうやって流れを追ってみると,いきなり正解が出たのではなくて,その時代,その時代にたくさんの努力が積み重ねられて,現在に至る過程がよくわかります.「現在」も,流れの中の一コマに過ぎないので,未来永劫続く「真理」というわけではないのです(別に,「地向斜造山論」と「プレート・テクトニクス論」とのアナロジーをやってるわけではないですよ(^^;)
悲しいかな,「受験学問体系」というのは実在していて,それは「○」か「×」かで判断される知識体系です.こういう関門をくぐって,現在,大学や研究機関でトップに立っている人たちは,案外簡単に「○」か「×」かで,物事を判断することがあるようです.
ある日,「○」が「×」になったら,その人たちの体系は根本から崩れていくんでしょうね.
書き方が「正しい学名」とか「正しくない学名」というのはありますが(「無効」,「有効」と分けます),学名そのものが「正しい」とか「正しくない」というのもありません.
そのとき問題にしている標本は,「Genus species 記載者,記載年」と同じものだといっているだけですから.
閑話休題(さて,それでは続きを始めます)
Colbert & Morales (1991)では,大まかには,
哺乳綱
├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
├ 異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]
これらのうち,暁獣亜綱と原獣亜綱をもう少し詳しく示すと,
哺乳綱
├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
│ ├ 梁歯目[ order DOCODONTA ]
│ └ 三錐歯目[ order TRICONODONTA ]
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
│ └ 単孔目[ order MONOTREMATA ]
├ 異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]
と,こうなっています.
つまり,Carroll (1988)の体系からは,梁歯目と三錐歯目を原獣類から独立させて,暁獣類(三畳紀〜ジュラ紀にいたきわめて原始的な哺乳類)というグループを作り,原獣類は現生種を含むカモノハシ・ハリモグラの仲間としてわけですね.
次に,Burkit (1995)では,大まかには…,
哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
└ 獣亜綱[ subclass THERIA ]
└
と,なっています.
ここで,原獣亜綱をもう少し詳しく示すと,以下のようになります.
哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
│ ├暁獣下綱[ infraclass EOTHERIA ]
│ │ ├三錐歯目
│ │ └梁歯目
│ ├鳥子宮下綱[ infraclass ORNITHODELPHIA ]
│ │ └単孔目
│ └異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└獣亜綱[ subclass THERIA ]
└
Colbert & Morales (1991)では,暁獣亜綱として「きわめて原始的な哺乳類」とされたものが,Burkit (1955)では一転して,原獣亜綱の中の一下綱という位置づけです.暁獣下綱を形成する目には変わりがないようですね.
ここでは,鳥子宮下綱というあまり聞き慣れないグループがでてきました.しかし,この下綱を構成しているのは,単孔目なので,原獣類と同じものと見なしておきます.
おおざっぱに言うと,下綱以下は細分されていますが,それは原獣類として一括できるもので,哺乳類は原獣類と獣類の二つに分けることができると考えているということです.
これが,THE TAXONOMICONでは,よりフラットに広がり,ダーウィンのいうようなリンク状になっていったわけです.
コルバート, E. H.・モラレス,M.(1991)「脊椎動物の進化【原著第4版】(田隅本生,1994訳)」(築地書館)
Burkitt, J. H., 1995 ed., MAMMALS = A World Listing of Living and Extinct Species. Tennessee Department of Agriculture, Nashville, Tennessee.
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿