2009年7月24日金曜日
辞書の展開(6)
●旧体系と新体系の対比(3)superorder PREPTOTHERIA (顕獣上目)までへの流れ
おおざっぱにいうと,旧体系では,「獣類(真獣類)」とそれより原始的な哺乳類に分けられていて,我々が普通によく目にする哺乳類は「獣類(真獣類)」に入れられています.
これでも,進化の様子を少しは表しているのですが,新体系ではよりその生命の進化の流れが明瞭になりますね(真実かどうかは別として).
それでは,旧体系の「獣類(真獣類)」の中身をおさらいしておきましょう.
まずは,Carroll (1988)から…,
獣亜綱 [ subclass THERIA ]
├ 三尖歯〔三隆起歯〕下綱 [infraclass TRITUBERCULATA ]
│ ├ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA ]
│ ├ 目分類位置不詳 [ order incertae sedis ]
│ └ 真汎獣目 [ order EUPANTOTHERIA ]
├ THERIA of METATHERIAN-EUTHERIAN Grade
├ 後獣下綱[ infraclass METATHERIA ]
│ ├ 有袋目 [ order MARSUPIALIA (New world and Europian marsupials) ]
│ └ (豪州有袋類)australasian marsupialia
└ 真獣下綱 [ infraclass EUTHERIA ]
├ 目分類位置不詳 [ order incertae sedis ]
├ 擬獣目〔幻獣目〕 [ order APATOTHERIA ]
├ 薄鼬目 [ order LEPTICTIDA ]
├ …
・注:和訳は私が勝手につけたものが混じっています.原語は英語.また,各分類群には定義者名が入っていませんので,厳密には,ほかの分類体系との比較は不可能です.
次に,Colbert & Morales (1991)では…,
真獣亜綱〔獣亜綱〕[ subclass THERIA ]
├ 汎獣下綱〔全獣下綱〕[ infraclass PANTOTHERIA ]
│ ├ 新全獣目 [ order EUPANTOTHERIA ]
│ └ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA ]
├ 後獣下綱 [ infraclass METATHERIA ]
│ └ 有袋目 [ order MARSUPIALIA ]
└ 正獣下綱〔真獣下綱〕 [ infraclass EUTHERIA ]
├ 食虫目 [ order INSECTIVORA ]
├ 大脛目〔跳地鼠目〕 [ order MACROSCELIDEA ]
├ …
├
・注:これは和訳本からですので,和訳名が入っています.しかし,〔 〕内で記述してあるとはいえ,THERIAにも「真獣」,EUTHERIAにも「真獣」の名が使われており,首を傾げざるをえません.また,日本にいない動物に漢字で和名をつけ,さらにそれをカタカナにするなど,深窓の学者が好きな「用語のジャーゴン化」がおこなわれており,統一がとれていません.ここでは「ハネジネズミ」が出てきてしまいましたが,元の漢字に戻してみました.が,原語の学名のラテン語の意味をを反映していないので,原語の意味に近い訳を勝手につけました.
また,Carroll (1988)と同じ用語が使われていますが,こちらも定義者名が入っていないので,厳密には比較はできません.しかし,それを言っていては比較ができないので,仮に同じ定義者を引用しているという前提で話を進めます.
たとえば,「獣亜綱」は「subclass THERIA Parker et Haswell, 1897」,「真獣下綱」は「Infraclass EUTHERIA (Gill, 1872) Huxley, 1880」という前提です.
Burkitt (1995ed.)では…,
獣亜綱 [ subclass THERIA Parker et Haswell, 1897 ]
├ 汎獣下綱 [ infraclass PANTOTHERIA Marsh, 1880 ]
│ ├ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA Simpson, 1925 ]
│ └ 新全獣目 [ order EUPANTOTHERIA Kermack et Mussett, 1958]
├ 後獣下綱 [ infraclass METATHERIA Huxley, 1880 ]
│ └ 有袋上目 [ superorder MARSUPIALIA Illiger, 1811 ]
│ ├ 有袋食肉目 [ order MARSUPICARNIVORA Ride, 1964 ]
│ ├ 僅小結節目 [ order PAUCITUBERCULATA Ameghino, 1894 ]
│ ├ 袋穴熊目 [ order PERAMELINA Gray, 1825 ]
│ └ 双門歯目 [ order DIPROTODONTA Owen, 1866 ]*
└ 正獣下綱 [ infraclass EUTHERIA ( Gill, 1872 ) Huxley, 1880 ]
├ 食虫目 [ order INSECTIVORA Bowdich, 1821 ]
├ 大脛目 [ order MACROSCELIDEA Butler, 1956 ]
├ …
├
注:こちらも,原語は英語ですので,勝手に和訳をつけました.
なお,こちらも,原文には,分類群に定義者名が入っていません.原記載者名はこちらで勝手に入れました.しかし,各分類群には短い説明がされていますので,Burkitt (1955ed.)オリジナルなのかもしれません.原記載と比較してみればいいのですが,原記載の入手は困難ですので,そこまでする気はありません.悪しからず(ただ本当は,こういう場合はきちんと確認しておかないと,原記載とまったく違っていたりして,足をすくわれるのが常ですね).
本来は,(たとえば)「獣亜綱」はsubclass THERIA Parker et Haswell, 1897ですが,subclass THERIA (Parker & Haswell, 1897) Burkitt, 1995かもしれない,ということを意味しています.
「分類学者といえば厳密なのだろう」という先入観がありますが,かなりいい加減な人たちがやっているような気がしてきたでしょう?((^^;)
さて新体系では…,その前に…,
これまで,いろいろと新体系について探ってきたのですが,分類群にランク名がなく,しかも定義者名も書かれていないなど,根本的な欠陥がボロボロ現れてきて,何度か「プツン」しそうになりました((^^;).
やっている方からしてみれば,全体の「流れ」が問題なのであって,個々の分類群は「さ」ほど重要ではないと考えているのかもしれませんが,「分類群にランク名がなく,しかも定義者名も書かれていな」ければ,他人には再検討のしようがないので,現代科学論では,「科学ではなく,オカルト」と見なされます.
クラディズムは,生命の体系に(確かに)いろんな新しい解釈を与えてるかもしれませんが,これが現状だとすれば,頭の古い人たちに受け入れられるには,あと十年はかかりそうですね(なんか,PT論者の研究が先走りすぎて,学会に受け入れられなかった時代に,いろんな意味でよく似ているような気がします).
さて,そう文句をたれていても,理解に前進がないので,「ちっちゃなことは気にしないで」話を進めます((^^;).
新体系の情報は前述の通り「THE TAXONOMICON:http://taxonomicon.taxonomy.nl/」からなんですが,何回か見直すと,情報が変わっているような気がします.印刷物だと情報は固定していますので,そんなことはありえないのですが,研究を進めたい人にはいいメディアなんですが,それを検証したい人には不都合なメディアですね.インターネットというものは….
ま,「ちっちゃいことは気にすんな」で…,
獣型亜綱 [subclass †THERIIFORMES (Rowe, 1988) McKenna & Bell, 1997]
├ 異獣下綱 [infraclass ALLOTHERIA (Marsh, 1880) Hopson, 1970]
├ 三錐歯下綱 [infraclass †TRICONODONTA (Osborn, 1888) Vandebroek, 1964]
└ 完獣下綱 [infraclass HOLOTHERIA (Wible et al., 1995) McKenna & Bell, 1997]
├ 吸氏獣上団 [superlegion KUEHNEOTHERIA McKenna, 1975]
└ 走獣上団 [superlegion TRECHNOTHERIA McKenna, 1975]
├ 相称歯団 [legion SYMMETRODONTA (Simpson, 1925) McKenna, 1975]
└ 分枝獣団 [legion CLADOTHERIA McKenna, 1975]
├ 木盗亜団 [sublegion DRYOLESTOIDEA (Butler, 1939) McKenna, 1975]
└ 最獣亜団 [sublegion ZATHERIA McKenna, 1975]
├ 袋鼠下団 [infralegion PERAMURA McKenna, 1975]
└ 摩楔歯下団 [infralegion TRIBOSPHENIDA (McKenna, 1975) McKenna & Bell, 1997]
├ 浜歯上区 [supercohort AEGIALODONTIA (Butler, 1978) McKenna & Bell, 1997]
└ 獣上区 [supercohort THERIA (Parker & Haswell, 1897) McKenna & Bell, 1997]
と,これでやっと旧体系にもある「獣類」まで到達しました.
原文は英語なので,例によって「訳語」は,わたくしオリジナルが混じっています.コピペして知ったかぶりすると,妙なところで恥をかくと思いますのご注意!
これだけでも,旧体系とは考え方が大きく違うことが理解できると思います.
前にも言いましたが,クラディズムとは,一点ないし数点で共通項をもたない集団を排除し,それを進化上の分岐点と考えるところから成り立っているからです.
だから,あらゆるところで,結節点が生じる.
これまで用いてきた「綱」・「目」・「科」などという単位では数が追いつかないのですね.
本当は,何が理由ではじき出されたのか示しておきたいし,定義の何が訂正されたのか私自身も知っておきたいのですが,なにせ,文献がね….
続けて,THERIAから我々が比較的よく知っている動物名が出てくる「顕獣上目 =PREPTOTHERIA 」まで.
獣上区 [supercohort THERIA (Parker & Haswell, 1897) emend.]
├ 獣上区・分類位置不詳
├ 有袋区 [cohort MARSUPIALIA (Illiger, 1811) McKenna & Bell, 1997]
└ 有胎盤区 [cohort PLACENTALIA (Owen, 1837) McKenna & Bell, 1997]
├ 有胎盤区・分類位置不詳
├ 異節巨目 [magnorder XENARTHRA (Cope, 1889) McKenna & Bell, 1997]
└ 上獣巨目 [magnorder EPITHERIA (McKenna, 1975) McKenna & Bell, 1997]
├ 薄鼬上目 [superorder LEPTICTIDA McKenna, 1975]
└ 顕獣上目 [superorder PREPTOTHERIA (McKenna, 1975) McKenna, 1993]
├ …
:
個々の分類群については説明しません.
というのは,記載者名,訂正者名を示しましたので,原記載はGoogleすれば出てくるはずですから.また,生物のイメージも,学名をコピペして画像検索すればかなりの数が出てきます.
いい時代になりましたね.あ,日本語での検索はダメですよ.
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