2009年7月10日金曜日

辞書の展開(5)

●旧体系と新体系の対比(2)異獣類

 哺乳類の分類体系の中で,原始的な「原獣類」と新生代的な「獣類」を結びつけるものとして,異獣類というグループがあります.

 たとえば,Carroll (1988)では…,

哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 獣亜綱[ subclass THERIA ]

 Colbert & Morales (1991)では…,

哺乳綱
├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]

 Burkitt (1995ed.)では…,

哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
│ ├暁獣下綱[ infraclass EOTHERIA ]
│ ├鳥子宮下綱[ infraclass ORNITHODELPHIA ]
│ └異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└獣亜綱[ subclass THERIA ]

 新体系(Taxonomicon)では…,

哺乳類形類
├ 哺乳類形類・分類位置不詳
└ 哺乳綱
  ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
  └ 獣型亜綱[ subclass THERIIFORMES ]
    ├ 異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
    ├ 三錐歯下綱[ infraclass TRICONODONTA ]
    └ 全獣下綱[ infraclass HOLOTHERIA ]
      ├ …

 だんだん,扱いが粗略になっていっているようですが,哺乳類の分類群の中で重要な位置を占めることはわかると思います.
 さてその中身を少し詳しく見ると,

 Carroll (1988)では…,

異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA Cope, 1884 ]
  ├ プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA ]*
  ├ プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA ]**
  ├ タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA ]***
  └ 亜目所属位置不詳 [ suborder incertae sedis ]

*プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA (Ameghino, 1889; Simpson, 1925) Hahn, 1969 ]
** プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA (Simpson, 1928) Sloan et van Valen, 1965 ]
***タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA Sloan et Granger, 1965 ]


 Colbert & Morales (1991)では…,

異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
├ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ](プティロドゥース目)
├ プラギアウラックス目[ order PLAGIAULACOIDEA ]
├ タエニオラビス目[ order TAENIOLABIDOIDEA ]
└ プティロドゥース目[ order PTILODONTOIDEA ]

 Burkitt (1995ed.)では…,

異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ]
  ├ プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA ]
  ├ プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA ]
  ├ タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA ]
  └ 多丘歯目位置不詳 [ MULTITUBERCULATA incertae sedis ]

 新体系(Taxonomicon)では…,

異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ]
  ├ 多丘歯目位置不詳 [ MULTITUBERCULATA incertae sedis ]
  ├ キモロドン亜目[ suborder CIMOLODONTA ]****
  └ ゴンドワーナテーリウム亜目[suborder GONDWANATHERIA ]*****

****キモロドン亜目[ suborder CIMOLODONTA (McKenna, 1975) Kielan-Jaworowska et Nessov, 1992 ]
*****ゴンドワーナテーリウム亜目[suborder GONDWANATHERIA (Mones, 1987) Krause et Bonaparte, 1990 ]


 四者とも,大きな違いは,多丘歯類をほかのグループと並置するか,多丘歯類に含ませるかの違いだけのようです.しかし,新体系では多丘歯類に含まれるグループの名称が,ほかの分類体系と大きく違います.

 キモロドン類は,Carroll (1988)でも,キモロドン科として,異獣亜綱・多丘歯目・プティロドゥース亜目・キモロドン科に分類されていました.Burkitt (1995 ed.)でも,キモロドン科は,異獣亜綱・多丘歯目・プティロドゥース亜目・キモロドン科に分類されています.
 しかし,新体系ではプティロドゥース超科やタエニオラビス超科その他を代表する亜目として設定されています.

 定義を記述した論文が入手できないので滅多なことはいえませんが,キモロドン類がこれらを代表する生物分類群だということではないようです.
 多丘歯目に分類されていた多くの分類群が“キモロドン”亜目に収容されてしまいましたので,これに,これまで使われていた,プラギアウラックス,プティロドゥースやタエニオラビスの名称を使うと誤解を招く可能性が大きいので,「キモロドン」の名称を使ったのだと思われます.

 なお,ゴンドワーナテーリウム類は名称の印象からいうと,ゴンドワーナ大陸に生息していた多くの動物群を示すような名称に見えますが,その実,1980年代になって発見されたフェルグリオテーリウム属,ゴンドワーナテーリウム属,スーダメリカ属しか含まない小さなグループです.そのため,誤解を招きそうな“ゴンドワナ獣”類という名称の使用は避けました.
 したがって,異獣類という枠組み自体は,あまり定義に変化がないようです.

 

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