2011年11月1日火曜日

ワラジムシとダンゴムシ

facebook上で,専門家に,道内での「ダンゴムシ」の北上について訊ねたのだけれども,どうやら,「×××,ヘビに怖じず」だったようです.まったく申し訳ない.

どういうことかというと,「ダンゴムシ」や「ワラジムシ」という名は「俗称」に過ぎず,ある「種」に対応した言葉ではないからです.“虫”の世界ではありがちですが.

たとえば,「ダンゴムシ」はoredr ISOPODA Latreille, 1817(目 等脚類)を構成する生物のうち,陸棲で刺激を受けると丸くなる習性をもつもののことだそうです.
しかし,これが,分類学上の単位と一致するのかどうかは明瞭ではありません.

一方で,一般にダンゴムシと呼ばれている生物には,メジャーなものがあり,それは学名でArmadillidium vulgare (Latreille, 1804)というもので,これには「オカダンゴムシ」という和名が与えられているようです.
まあ,われわれ(凡人:非“虫”人)が「ダンゴムシ」というと,だいたいこれを指しているというわけですね.

ところが,プロにとっては,別種,別属,別科にも“ダンゴムシ”が居るのだから,わたしのように無知な質問をするものがいると,戸惑うというわけですね.
あ,もちろんそのプロのかたは,そんなことはおくびにも出さず,親切に回答してくださっています.


ついでに,調べたところを蛇足しておくと,「ワラジムシ」も似たようなことがあり,われわれが,「ワラジムシ」というと,だいたいが,Porcellio scaber Latreille, 1804という種のことを指しているのですが,一方で,suborder ONISCIDEA Latreille, 1802(亜目 ワラジムシ類)に含まれる大部分も「ワラジムシ」と呼ばれているそうです(ざっと,写真を見たところ,わたしには,ほとんど区別がつかなかったですが).

だったら,俗称を和名として「一種」に対応させればいいようなものですけど,現状はそうなっていないらしい.
これはまあ,分類が混乱しているというよりは,分類研究は手つかず状態をようやく脱皮し,ちょっとの違いで「これも新種,これも新種」ということで群雄割拠中という状態らしい(ほかにも,「ワラジ~系」は移入種が多いといわれながら,在来種が居たのかどうかも定かでないとか,あるみたい).
日本だけでも,何十種いるとも,何百種いるともいわれているようです.

だいたい,“虫”の世界は,わずかな違い,たとえば,色とか模様とかが少し違うということで「新種」として報告されることが多いのですが,わたしのように,(昔のことですが)化石を扱っていたものにとっては「そんなに違いがあるのかいな」と感じることもシバシバです(化石には,「色や(それが造り出す)模様」は,ほとんどない).

まあ,それは研究しなければ,あるいはできなければ,混乱があるのは致し方ないことですし,研究が始まったとしても開始初期の混乱(見かけ上,起きる)というのは,また仕方のないことなのです.
さらに,そういうところにお金を出すのは「無駄だ」と考えているエライ人が多い情けない国なので,研究費は出ても涙金.インプットがなければ,アウトプットもない.常識.
誰かが,ノーベル賞でも取れば,秘技「手のひら返し」があるんですけどね.

もう一つ,登場人(虫!)物.
学名をOniscus asellus C. Linnaeus, 1758というのがいまして,こいつはどうやら欧州出身で日本にはいりこんできたものらしい.こいつは,適当なのかどうなのか「ホンワラジムシ」という「和名」をもらっています.たぶん,suborder(亜目)名の語根に使われているonisc-の元だから,「ホン…」とつけられたのでしょう.

さて,この三人の(三つの)登場人物の関係はどうなっているのかというと,以下にあるweb pageにでていた分類表から抜粋したものを示します.

order ISOPODA Latreille, 1817
└ suborder ONISCIDEA Latreille, 1802
 └ infraorder LIGIAMORPHA Vandel, 1943
  └ section CRINOCHETA Legrand, 1946
   ├ superfamily ONISCOIDEA (Latreille, 1802)
   │└ family ONISCIDAE Latreille, 1802
   │ └ genus Oniscus C. Linnaeus, 1758
   │  └ Oniscus asellus C. Linnaeus, 1758(ホンワラジムシ)
   └ superfamily ARMADILLOIDEA Brandt, 1831
    ├ family ARMADILLIDIIDAE Brandt, 1833
    │└ genus Armadillidium Brandt, 1833
    │ └ Armadillidium vulgare (Latreille, 1804)(オカダンゴムシ)
    └ family PORCELLIONIDAE Brandt & Ratzeburg, 1831
     └ genus Porcellio Latreille, 1804
      └ Porcellio scaber Latreille, 1804(ワラジムシ)

こうなると,われわれ一般人にとって,もっとも目につく特徴である「丸くなる」というのは,分類学上では,ほとんど意味が無いようです.実際に,「ホンワラジムシ」と「ワラジムシ」の画像をいくつか見てみましたが,これといった違いはわかりませんでした.
一方,「ワラジムシ」に近い関係にある「オカダンゴムシ」は,何度もいうように「丸まる」という特徴でもって,“ホンワラジ”や“ワラジ”とは異なっているように見えるんですけどねえ.
 

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは。ダンゴムシの生体鉱物学を研究している者です。検索していて、こちらのサイトを拝見させていただいたのですが、文中の系統樹が分かるサイト、もしよろしければ教えていただけないでしょうか。。。

ボレアロプーさん さんのコメント...

単純にWikispecies[http://species.wikimedia.org/wiki/Main_Page]を編集したものです.

匿名 さんのコメント...

ありがとうございます。見てみます。