イワトビペンギン
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781)
(Rockhopper Penguin)
ordo: SPHENISCIFORMES Sharpe, 1891
familia: SPHENISCIDAE Bonaparte, 1831
genus: Eudyptes Vieillot, 1816 [type: Aptenodytes chrysocome Forster, 1781]
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781)
イワトビペンギンの属名はEudyptesで,この属の模式種はイワトビペンギンそのものです.
属名のEudyptesはeu-dyptesという構造の合成語です.eu-は[εὖ]=「よく(善く,良く),立派に」という意味のギリシャ語接頭辞であり,dyptesは[ὁ δύπτης]=《男》「ダイバー,潜水夫」という意味のギリシャ語.あわせて,「真のダイバー,潜水夫」.ペンギンにふさわしい属名ですね.
dyptesは,キングペンギンの属名Aptenodytesに使われているdytesとは兄弟のような言葉なんですかね.同じ「ダイバー,潜水夫」という意味です.
模式種chrysocomeは最初の記載時はAptenodytesになっていますから,キングペンギンの仲間と見なされていたわけです.
この属の英語の俗名は[Crested penguin]なので「カンムリペンギン」とでも,訳しておきます.
さて,カンムリペンギン属の仲間についてみておきますか.
その前に,ロッキーホッパーの分類については,相当混乱があるようなので,整理しておきます.
ロッキーホッパーは
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Rockhopper Penguin]
の一種であるという説.
ロッキーホッパーは,
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Southern Rockhopper Penguin]
Eudyptes moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
の二種であるという説.
ロッキーホッパーは
Eudyptes chrysocome chrysocome (Forster, 1781) [Western Rockhopper Penguin]
Eudyptes chrysocome filholi Hutton, 1878 [Eastern Rockhopper Penguin]
Eudyptes moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
の二亜種+一種であるという主張.
これの変形として,
Eudyptes chrysocome chrysocome (Forster, 1781) [Western Rockhopper Penguin]
Eudyptes chrysocome filholi Hutton, 1878 [Eastern Rockhopper Penguin]
Eudyptes chrysocome moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
の三亜種であるという主張.
当然出てくるであろう,
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Western Rockhopper Penguin]
Eudyptes filholi Hutton, 1878 [Eastern Rockhopper Penguin]
Eudyptes moseleyi Mathews and Iredale, 1921 [Northern Rockhopper Penguin]
という主張があるようです.
残念なことに,それらの主張(もしくは説)を公表した論文が入手できないので,検討できません(入手できても,言語学的障壁よよび学問的障壁で理解できるかどうかわかりませんけど(^^;).ただ,DNA分析のみで「亜種もしくは種に分離可能」だったとしても,形態的に分離可能かどうかは,遺伝子学的論文に書かれていることはないので,あまり意味がないだろうと思います.
理解できないものは放っておいて,ここはとりあえず一種であると仮定して,話を進めます.なお,三種もしくは三亜種であるとする主張の英俗名およびその和訳はあまりにもセンスがないので,これも放置します(理由は,南極圏において「東西南北」をどう理解するべきかを考えてみてください).
「カンムリペンギン」属構成種
genus: Eudyptes Vieillot, 1816 [Crested penguin]
Eudyptes chrysocome (Forster, 1781) [Rockhopper Penguin]
Eudyptes chrysolophus (Brandt, 1837) [Macaroni Penguin]
Eudyptes pachyrhynchus Gray, 1845 [Fiordland Penguin]
Eudyptes schlegeli Finsch, 1876 [Royal Penguin]
Eudyptes sclateri Buller, 1888 [Erect-crested Penguin]
Eudyptes robustus Oliver, 1953 [Snares Penguin]
種名chrysocomeは,ギリシャ語の[ἡ χρυσοκόμη]=《女》「金髪」が語源と思われますが,種名が《名詞》なのはおかしいので,chrysocomesの誤記だと思われます.
英語の俗名は,ご存じ[Rockhopper Penguin]=「イワトビペンギン」.これは,別にいつも岩の上を跳んでいるのではなくて,スズメのように両足を揃えて跳ぶ移動法からついたもの.属名とあわせて「金髪のカンムリペンギン」の方がいいのかもしれません.
種名chrysolophusは,ギリシャ語の[χρυσόλοφος]=「金色の鶏冠をもつ」のラテン語綴り化したもので,chrysolophus = chryso-loph-us=「黄金色の」+「鶏冠の」+《形容詞》と考えることも可能です.どちらにしても,「金色の鶏冠を持っている」という意味ですね.
英俗名の[Macaroni Penguin]は,18世紀のイギリスで流行した派手な装飾のことをマッカローニズム[Maccaronism]といい,それをとりいれた若者をマッカローニ[maccaroni]あるいはマカローニ[macaroni]といったそうです.この種の鶏冠は,その装飾を彷彿とさせるので,そう呼ばれるようになったといわれています.
種名pachyrhynchusは,pachy-rhynch-us=「厚い」+「嘴の」+《形容詞》という構造の合成語です.
つまり,「厚い嘴のカンムリペンギン」という意味ですが,カンムリペンギンの仲間で,とくに嘴が厚いようにも見えません.ま,そんなこともあるんでしょう.
英俗名の [Fiordland Penguin]のFiordlandはニュージーランド南島の南西の隅にある地名で,ここらあたりが住処のようです.
種名schlegeliは,ドイツの鳥類学者で,シーボルトが日本で収集した脊椎動物を研究し,『Fauna Japonica 』(日本動物誌)を執筆した人です.しかし,このschlegeliとは,とくに関係が見あたりません.発見に関係あったわけでもなく,この種の記載に関係あったわけでもないようです.単に,Schlegel, H.の名を記念したというだけかもしれません.
英俗名の[Royal Penguin]は,キングペンギンやエンペラーペンギンの仲間と勘違いされそうなので,あまり使いたくないですね.“和俗名”としても「ロイヤルペンギン」が使われているようですが,学名を尊重して「シュレーゲルペンギン」がいいのではないでしょうか.
種名sclateriは,Philip Lutley Sclaterを記念したもの.Sclater, P. L. (1829-1913)は英国の法律家,動物学者で,とくに鳥類学に詳しいということです.
《合成語》《種名》sclateri = sclater-i=「Sclater, P. L.の」
英俗名[Erect-crested Penguin]は「鶏冠が立ったペンギン」という意味ですが,「カンムリペンギン」属の構成種は,ほとんどすべてがあてはまってしまいます((^^;).立っているから鶏冠だろう((^^;).
日本語訳では“シュレーターペンギン”というのがまかり通ってますが,何語にしてもSclaterを“シュレーター”とは読まんだろうと思います….ま,英語は綴り通りには読まないのが普通ですけどね((^^;).
学名としては「エゥデュプテス=スクラテリ」です.
種名robustusは,ラテン語の形容詞robustus, robusta, robustum =「堅い木の;樫の;強い,固い,強化された」の男性形.この場合は,「強い」という意味でしょうね.種名としては,大きめで頑丈そうな種に対して,よく使われる言葉です.属名とあわせて,「強いカンムリペンギン」.
英俗名の[Snares Penguin]のSnaresは,ニュージーランド南島の南海岸にある島々の名前.この種は,そこらあたりで繁殖しているのだそうです.
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