浜益の魔神の簗材
魔神が日本海の中に簗をかけて,浜益の方に鰊の廻遊するのをさまたげようとした.それを知った文化神サマイクルカムイ*が簗を打ちこわして,その用材を海岸に積みあげたので,浜益ではさわりなく鰊が群来るようになった.その魔神の簗材を積みあげたのが岩になったのが,幌の増毛よりの海岸にある.
(新十津川町泥川・空知保老伝)
これも「北海道地質百選」にある「幌の玄武岩熔岩」といわれているものです.
正体は「柱状節理」を呈する玄武岩の熔岩.
まるで角材のような形をした石が積み重なっているのを見て,「魔神の簗材」を連想したのでしょう.ただし,柱状節理は水平に流れた熔岩の温度差を反映して直立しているそうです.だから,“積み上げた”ようには見えません.立て掛けたようには見えますね.
また,これと同じ伝説が網走付近にもあるそうで,「ポンモイ柱状節理」と呼ばれていて,網走市指定の「天然記念物」になっています.
地質学的には「ポンモイ岬の玄武岩」といういい方のほうが適切でしょう.「柱状節理」は節理の形態を表しているだけですから.
こちらは,熔岩ではなく貫入岩なので,貫入方向に垂直に節理が発達し,角材を積み上げたように見えるわけです(道東の自然史研究会編「道東の自然を歩く」:188頁参照).ほぼ水平の柱状節理が発達していて,たしかに「魔神の簗材」を「積み上げた」ように見えますね.
この「ポンモイ岬の玄武岩」については,江戸時代末期から明治の初期にかけて箱館に在住したブラキストンが「えぞ地の旅(西島照男訳)」で記述しています.
わたくしめも,「蝦夷地質学外伝」で引用していますので,よかったら読んでみてください.
*サマイクルカムイ:アイヌの伝説で天地創造神の役割を果たしているのですが,「文化神」という肩書きも付き,さらに「源義経」ともゴッチャになっているようで….
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