2010年8月7日土曜日
ハリマオ+α
土生良樹「神本利男とマレーのハリマオ=マレーシアに独立の種をまいた日本人」という本があります.
おもしろい本でした.
村上もとかの「龍-RON-」を彷彿とさせる冒険小説です.
一気に読めます.しかし,読んでる途中で,違和感「バリバリ」になります.
なぜなら,最初から最後まで,当事者しかわかるはずのない「会話」が多用されていることから,これはフィクションである筈なのです.
いくつか,神がかり的なエピソードも挿入されています.
しかし,「序文」では,拓殖大学総長・小田村四郎が,これを「伝記」とよんでいます.同時に,「一時的に史実を歪曲捏造し,祖国の歴史と父祖の偉業を敵視する自虐史観に充ちた,独立国家にあるまじき歴史教科書が出現した…」とかいていることから,かれは,これを「ノンフィクション」であり,「歪曲」されていない事実と見なしていると考えられます.
また,帯に示された一文「アジア解放の理想を胸に戦争のさ中、「マレイの虎・ハリマオ」こと谷豊を救出、ともにイギリス植民地主義と戦った一代の快男児・神本利男。マレーシア在住の著者により10年がかりで明らかにされた、その壮絶な生涯。」とあります.
「明らかにされた…」が微妙ですが,普通ならこれは「(調査によって)明らかにされた」と読むでしょう.たとえば,Amazonの分類では「ノンフィクション」に入っていますし,現在,一つだけある「書評」も「ノンフィクション」という前提で書かれています.
しかし,本文を読めば,これはどうも「(筆力によって)明らかにされた」ということしか考えられません.
前の記事「ハリマオ」で,紹介した二冊は,「不明」のところは「不明」とかく,あきらかな「ノンフィクション」ですが,そういう姿勢は,こちらにはありません.
どちらかというと,前二冊の「ノンフィクション」が「伝説」を解体しようとしたのに対し,こちらは「伝説」を製造する側であるらしい.
断っておきますが,「冒険小説」としてはおもしろいし,ある程度のレベルに達していると思います.しかし,これを「事実」と見なすひとたちがいるのは,どうも….
怖いので,これ以上立ちいる気はありませんが,「歴史論争」なるものの,一端を見たような気がします.
あ,もうひとつ.
この本は,少数の理想主義者がいたとしても,「軍人」は無知蒙昧であり,「軍」は暴走するものだから,「正義の戦争はあり得ない」ことを示していますが,こちらは,フィクションではないようです.
しかし,「自虐史観」という妙な言葉を使う人たちは,このことには触れないようにしているようですね.
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