2010年10月20日水曜日
アモンナイトに関するノート
本棚付近が乱雑になってきたので,整理していたら,むかしやっていた「アモンナイト*分類に関するノート」がたくさんでてきました.
博物館に勤めるようになってから,まもなくでしたが,大学の先輩から電話があって,「アンモナイトに関する普及書を書いてみないか」と誘われたのでした.いっしゅん食指が動きました.「博物館に勤めたら,当然そういう仕事ができるんだろう」と期待していたからです.
でもその頃はすでに,就職した“博物館”が博物館としての機能をもっていず,「普通の博物館として存在する」までにも,相当時間がかかるだろうと思い始めていたころでしたから,「残念だけど…」と,断ってしまいました.
それでも,いつかはそんなことができるようになるだろうと,あきらめきれずに,密かに空き時間を見ては,書きためていたノートでした.その博物館は長頸竜化石の発見を発端としてつくられた博物館でしたから,当然,同時代の古生物である「アモンナイト」も大量に“保管”されていました.
「収蔵」といわずに「保管」としたのは,分類・整理もされずに「ただおかれて」いただけだったからです.採取地や採取者も判然としない「化石」が乱雑に積み上げられていたのでした(ただの納骨堂ですね).(ちなみに,研究もせずに,発見された資料を展示しているだけの博物館を「墓標型博物館」といいます.「~~文学館」とか「~~記念館」ってのは,たいていその典型です)
これを「博物館に収蔵されている」といえるようにするまでには,実際に仕事を始められるようになってからも,3~4年かかりました.実際にというのは,なにせ,「収蔵品の整理・管理は博物館(=学芸員)の仕事である」ということを館長をはじめ教育長など役場の人たちは,まるで理解してなかったから,できなかったのです.
学芸員の仕事といえば,図書館長と町史編纂室長を兼ねている博物館長の雑用係と考えられていました.だから,本来の博物館(=学芸員)の仕事である収蔵品の研究や整理,それからそれが進んでゆけば,当然考えられてくる系統的な資料の収集なんてことは,当初は夢のような状態でした.
化石の採集に山に入っていたら,役場では「学芸員は遊んでばかりいる」と噂になっていたのにはビックリしました(誰が噂の元かは見当がつきますね.同様に,化石の整理のために論文を読んでいたら「学芸員は研究ばかりしている=役場職員としての仕事をしていない」といわれたものです:しょうがないので,こういうことは,ほとんど自宅で夜にやりましたね).
あ,また血圧があがってきた((^^;).
話を戻します.
そんな中で書きためたものですから(いまから見れば非常に中途半端なものですが,書き込みをみると必死なようすがわかります(^^;),棄てるに棄てられず,とりあえず,いま,PDF化しています(役に立つ日が来るんだろうか.もう,すでに「日暮れて路遠し」の状態だというのに(^^;).
そんな中に,松本達郎九州大学名誉教授からきた手紙が入っていました.あるアモンナイトを調べているときに,どうしても記載論文がみつからず,直接,松本名誉教授に問い合わせたときの返事です.
それには,「それはnomen nudum**で,そのまま使っており,すべてわたしの責任です」と書かれてありました(やべ!,逆鱗に触れたかな(^^;:だれも,若いころは怖いもの知らずなモンですね).
その後,博物館を訪れたアモンナイトの研究者の一人は,「アモンナイト分類の再編成を早急に行わなければならないのだが,M教授存命のうちは不可能だろう」といってました(理由はご想像ください).
松本名誉教授は,昨年なくなられましたが,アモンナイトの分類が整理改訂されるとは思っていません.なぜなら,時代が変わって地質学が滅びたから,生層序学(とくに大型化石による)なんて,もう学問のうちに入ってませんし,地層の時代を知りたければ,微化石か物理化学的手段で行われるのが科学的(現代的)と思われているからです.
したがって,いま,正当な職場についているアモンナイト研究者なんて存在するのかどうか….いたとして,アモンナイト分類の再検討なんていう研究が,研究として認められるはずはないと思われますしね.
よっく,考えてほしいのですが,アマチュアでアモンナイトに興味を持っている人は,まだ,たくさんいますし,子どもたちが最初に科学に興味を持つのは,化石を集めるとか,鉱物を集めるとか,昆虫を集めるとか…,そういう「博物学的」行為からなのです.
科学技術立国をめざすなら,最先端科学を優遇するのもいいのかもしれませんが,まず,基盤をしっかりさせないとね.そんなんだから,たくさんのひとたちが,科学の世界からはじき出されて,どんどん増殖している疑似科学やオカルトの餌食になってしまうのですね.
IT長者になりたがる子らより,何げない自然の不思議に気がついて,目を輝かせている子どもたちのほうが好きですね.
「飛び出せ!科学くん」エライッ!
田中,ガンバレ!
しょこたん,ガンバレ!!((^^;)
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* アモンナイト:一般的には「アンモナイト」と表記されていますが,これは“和製”英語(もしくはただの日本語).Ammoniteですから,「アッモーン・アイト」が本当ですが,英語では「アモナイ」,もしくは「アモンナイト」のほうがより正確なのです.
** nomen nudum:記載無しで使われている学名.本来あり得ない事態ですが,科学的でない事情により,しばしば「ある」ことでもあります.
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