エゾフクロウ(蝦夷梟)
Strix uralensis japonica (Clark, 1907)
[Yezo owl]
エゾフクロウは,かなり困った言葉です.
Clark が1907年に,この亜種を記載したとき,Jesso(蝦夷=北海道)産のフクロウにSyrnium uralense japonicum Clarkとし,Hond(本土=本州;この場合の模式地はIwaki)産のフクロウをSyrnium uralense hondoense Clarkとしたようです.
まあ,蝦夷産のものをjaponicumとするセンスも困ったものですが,島ごとに亜種を創ろうという細分主義も困ったものです.
標本から,亜種を判定する明瞭な方法も見あたらないし….
ということで,「エゾフクロウ」というものは存在しないという前提で進めさせていただきます.つまり,以下.
フクロウ(鴞・鴟・梟)
Strix uralensis Pallas, 1771
[Ural owl]
まずは,genus Strix Linnaeus, 1758の上位分類についてですが,下記をご覧になればわかるようにきれいにそろっていますね.
ordo: STRIGIFORMES Wagler, 1830
familia: STRIGIDAE Vigors, 1825
subfamilia: STRIGINAE Vigors, 1825
genus: Strix Linnaeus, 1758 [Type species: Strix stridula Linnaeus, 1758]
リンネが属Strixを創ったときの模式種はStrix stridula Linnaeus, 1758らしいのですが,これは,Strix aluco Linnaeus, 1758 [Tawny Owl]のシノニムとされているらしい.どうやら,alucoのほうが先の頁に書かれているということで,Strix aluco Linnaeus, 1758が生き延びているようです(正確なところは,記載論文が見つからないので不詳).そうだとすれば,誰か修正案をキチンと論文にしとけや!
さて,属名Strixは,ラテン語のstrixをそのまま学名としたものです.
ただし,ラテン語の辞書には,strix = screech-owl=「コノハズク類のミミズク」とありますが,フクロウは通常,角毛のないものを指しますので,辞典には齟齬があります.ラテン語のstrixは,ギリシャ語の[ἡ στρίξ]=「フクロウ」を語源とするもので,こちらは単に「フクロウ」になっています.
英語ではフクロウとミミズクは区別しないようですから,ラテン語辞書>英語辞書>和訳という経路に無理があるので,区別すると間違いが入りこむのかもしれません.
《合成語》《属名》Strix = strix=「フクロウ(属)」
《合成前綴》には,strixの属格であるstrigisの語根strig-=「Strixの」が使われます.
以下,
《合成語》《亜科》STRIGINAE = strig-inae=「Strixの」+《亜科》
《合成語》《科名》STRIGIDAE = strig-idae=「Strixの」+《科》
《合成語》《目名》STRIGIFORMES = strig-iformes=「Strixの」+「~の形をした」=「フクロウ形類」
種名uralensisは,もちろん「Ural産の」という意味.
実際には,ヨーロッパ・アジアに広く分布し,東はサハリン・日本・朝鮮半島,西はスカンジナビア半島までいるといいます.それほど移動が激しい鳥とも思えませんので,地域によって遺伝子の偏りはあるのかもしれませんね.しかし,それが亜種を設定できるほどの違いかどうかは,論文が見あたらないのでわかりません.
Strix uralensisの和俗名は「フクロウ」です.
和漢三才図会の項目は「鴞」となっていて,別名「梟鴟(きょうし)」などがあげられています.しかし,本文(解説)中には「梟」が使われていて「梟の字は鳥の首を木の上にのせる」とあります.フクロウは“親不孝”な鳥なので,木の上にさらすからだそうです.わたしには,単に木の上に止まったまま動かない鳥であることを示しているような気がします.
北方では,不吉な鳥としてこれを怪しむが,南方では家禽として飼育し,ネズミを捕らせると猫よりも獲ると評価されています.人間の評価なんて勝手なモンです.
フクロウはメンコイですよね((^^;).
なお,genus Strixの日本産種はStrix uralensisだけなので(亜種は無視します),genus Strix所属種は無視します.
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