カピバラ(Kapiyva),オニテンジクネズミ
Hydrochoerus hydrochaeris (Linnaeus, 1766)
(Capybara, Capibara)
カピバラは,英俗名の日本語表記です.
元は,南米先住民の言葉で[Kapiyva]=「草原の主」という意味らしい.それが,ポルトガル語では[Capivara]になり,スペイン語では[Capibara]と表記されるようになったようです.その後,英語化して[Capybara]になったわけですね(Wikipedia &ウィキペディア).
別の説では,やはり南米先住民の言葉で「カピグワラ[kapigwara]」=「草喰い」が,ポルトガル語表記の「カピバラ[capibara]」になり,さらにそれが英語化して「[Capybara]」になったといいます(新英和大辞典第6版).
さて,どちらを信じるべきでしょう(^^;.
印刷物である後者を優先すると,現地語の「カピグワラ[kapigwara]」(正確には,なんと発音するのかわからない)を採用すべきと思います.
別な和俗名で,「オニテンジクネズミ」というのがあります.
「テンジクネズミ」は,テンジクネズミ科に属する(下記)からでしょうけど,“オニ”はどうも….和俗名は,小さければ,“ヒメ”とか,“チビ”とか,大きければ,“オニ”とかつけることが多いのですが,センスが….疑っちまう….
さて,カピグワラの上位分類は以下のようです.
ordo: RODENTIA Bowdich, 1821[齧歯目]
subordo: HYSTRICOMORPHA Brandt, 1855[豪猪形類(山嵐形類)]
infraordo: HYSTRICOGNATHI Tullberg, 1899[豪猪顎類(山嵐顎類)]
infraordo: CAVIOMORPHA Wood, 1955[天竺鼠形類]
familia: CAVIIDAE Fischer de Waldheim, 1817[テンジクネズミ科]
subfamilia: HYDROCHOERINAE J. E. Gray, 1825[カピバラ亜科]
genus: Hydrochoerus Brisson, 1762 [Type: Sus hydrochaeris Linné, 1766]
familia: CAVIIDAEまでは,モルモットと同じなので省略.
亜科HYDROCHOERINAE は,hydrochoer-inaeという構造です.hydrochoer-は,属Hydrochoerusを語根化したもの.つまり「Hydrochoerusの亜科」ですね.
属Hydrochoerusは,hydro-choerusという構造です.
hydro-は,ギリシャ語で[τό ὕδωρ]」=《中》「水」をラテン語の《合成前綴》化したもので「水の」という意味.
choerusは,ギリシャ語の[ὁ/ἡ χοίρος]=《男/女》「豚;子豚」をラテン語綴り化したもの.本来は,choirosですが,ラテン語転記の際,二重母音[-οι](-oi)は[-oe]になり,末尾が[-ος](-os)の場合,[-us]になるという「奇妙な」習慣があります.これは,ICZN:付録Bに「そうするように」という勧告がありますので,それに従うと,choirosはchoerusになるわけです(一方,ラテン語レキシコンにはchoerosという単語が明記されていますが,その変化を含めて解説は曖昧です).
合成すると,Hydrochoerusは「水のブタ」という意味.カピグワラが水好きである様子をよくあらわしていますね.
模式種はリンネが記載したSus hydrochaeris Linné, 1766なのですが,原記載の属名をみればわかるように,Susはラテン語で「ブタ」の意.カピバラは「ブタ」の仲間に見られてた!
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さて,genus: Hydrochoerus Brisson, 1762に属するとされる種を下記に,
genus: Hydrochoerus Brisson, 1762
Hydrochoerus hydrochaeris (Linnaeus, 1758) [カピバラ、オニテンジクネズミ; capybara]: SA.
Hydrochoerus isthmius Goldman, 1912 [lesser capybara]: CA.
Hydrochoerus gaylordi MacPhee, Singer & Diamond, 2000(extinct) : Up. Plioc. SA.
種hydrochaerisは,hydro-chaerisという構造です.
が,-chaerisという語はギリシャ語にもラテン語にも見あたりません.通常,hydro-が[τό ὕδωρ]=《中》「水」というギリシャ語ですから,-chaerisも,もとはギリシャ語のはずなのですが.
これは,実は,[ὁ/ἡ χοίρος]=《男/女》「豚;子豚」をラテン語綴り化するときの誤記もしくは誤植だろうといわれています.
[χοίρος]は上記したように,本来はchoirosになるはずですが,我々にはわからないルールによってchoerusと,ラテン語綴り化されます.ところが,リンネはしばしば-chaerisの綴りを使っているようなのです.
たとえば最近,帰化植物(外来種)として,あちこちに目立つ“タンポポモドキ”あるいは“ブタナ”という植物がありますが,この学名がHypochaeris radicata Linnaeus, 1753.
このHypochaerisの語根-chaerisは,しばしばその由来が話題になっています.
これも,誤記・誤植説が有力なのですが,複数あるということは誤記や誤植であるより,リンネがそう記述してある辞典を所持していた可能性のほうが高いのではないかと思いますが,どうでしょう.
なお,誤植だとしてHypochoerisと訂正してある論文・書籍もあるのだそうですが,そうすると,こんどは,どうしたら[χοίρος]をchoerisと綴ることができるのかということが説明できない.
手持ちの植物図鑑でブタナの学名を確認してみてください.
Hypochaeris radicata Linnaeus, 1753になっていたら,その図鑑は信用できないと判断していいでしょう.
ま,たぶん記載者名もしめされていないか「L.」となっていると思いますね.それは,学名の意味も知らず,いわゆるコピペでつくった「いい加減な図鑑」であるという証拠です.
話を戻します.
で,Hydrochoerus hydrochaerisは,強引に訳して,「水のブタ,水のブタ」.う~~ん.センスが….
種名isthmiusは,ギリシャ語の[ὁ Ἰσθμός]=《男》「首,細道;隘路,地峡」をラテン語綴り化したもので,どうやら,この種の模式地がパナマ地峡であることからきているらしいです.合わせて,「地峡の水ブタ」.凄い名前だなあ.
種名gaylordiは,不詳.
たぶん,古生物学者のGeorge Gaylord SimpsonのGaylordをとったものだと思いますが,原著に当たれないのでなんとも.
なお,この種は化石種です.
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