2009年7月30日木曜日

案内

 
あたらしいHP を始めました.

題名は「北海道化石物語」です.
左の「リンク」からもいけるようにしました.

このマニアックなブログとは異なり,化石に興味ある一般人や,将来古生物を専攻しようとしている高校生・大学生を対象としたつもりです.
つまり,「わかりやすい」を前提.

まだ工事中のところが多いのですが,「ナキウサギ」については,一通り読めるところまで漕ぎ着けました.

読者のご批判をいただける場所の作り方がわからないので,今は一方的になってますが,そのうち,そういうページも貼り付けるつもりです,


関係する本の紹介とかをしたかったのに,こちらの「Googleサイト」はAmazonのリンクが貼り付けられないようです(自動的に拒否される).これは困ります.
そのうちできるようになるかもしれませんので,ここは気長に待つこととします.

2009年7月29日水曜日

辞書の展開(7)

 
●旧体系と新体系の対比(4)旧体系の「…目」から

 今度は,獣亜綱中の「目」がどうなっているかについてみてみましょう.
Carroll (1988)では,以下のようになっています.

Infraclass EUTHERIA 真獣下綱
  Order APATOTHERIA 擬獣目*
  Order LEPTICTIDA 薄鼬目*(はくゆうもく)
  Order PANTOLESTA 汎盗目*(はんとうもく)
  Order SCANDENTIA 登攀目*(とうはんもく)(ツパイ目)
  Order MACROSCELIDEA 大脛目*(だいけいもく)
  Order DERMOPTERA 皮翼目
  Order INSECTIVORA 食虫目
  Order TILLODONTIA 欠歯目
  Order PANTODONTA 汎歯目
  Order DINOCERATA 恐角目
  Order TAENIODONTIA 紐歯目
  Order CHIROPTERA 手翼目*(しゅよくもく)(翼手目)
  Order PRIMATES 霊長目
  Order CREODONTA 肉歯目
  Order CARNIVORA 食肉目
  Order RODENTIA 齧歯目
  Order LAGOMORPHA 兎形目
  Order CONDYLARTHRA 顆節目
  Order ARTIODACTYLA 偶蹄目
  Order MESONYCHIA (ACREODI) 中爪目*(無肉歯目)
  Order CETACEA 鯨目
  Order PERRISSODACTYLA 奇蹄目
  Order PROBOSCIDEA 長鼻目
  Order SIRENIA 海牛目
  Order DESMOSTYLIA 束柱目
  Order HYRACOIDEA 岩狸目(擬鼠目)
  Order EMBRITHOPODA 重脚目
  Order NOTOUNGULATA 南蹄目
  Order ASTRAPOTHERIA 雷獣目
  Order LITOPTERNA 滑距目
  Order XENUNGULATA 異蹄目
  Order PYROTHERIA 火獣目
  Order XENARTHRA 異節目

注:原文は英語,和訳は適当なものをつけた.[*]は私的訳語.

 真獣下綱以下の「目」は,みな等価に置かれていますね.
 はっきりいって,これは,系統関係つまり進化の道筋は「わからない」といっているということです.しかし,よく見ると,実はこれらの「目」の並べ方には,ある傾向があり,じつは,なんとなく進化の道筋を表しています.
 さて,Carroll (1988)は,Novacek (1986)を引用して,これらの「目」はいくつかのグループ分けが可能であろうことも示しています.
 それは,以下…,

Subclass THERIA 獣亜綱
 └ Infraclass EUTHERIA 真獣下綱
   ├ Cohort EDENTATA 貧歯区
   └ Cohort EPITHERIA 上獣区
     ├ Superorder INSECTIVORA 食虫目
     ├ Superorder VOLITANTIA 遊飛上目*
     ├ Superorder ANAGALIDA アナガレ上目
     ├ Superorder UNGULATA  有蹄上目
     └ Cohort EPITHERIA incertae sedis

 Cohort EDENTATA 貧歯区には
Cohort EDENTATA 貧歯区
  ├ Order XENARTHRA 異節目
  └ Order PHOLIDOTA 鱗甲目

 が含まれており,各Superorderには以下の分類群が含まれています.

Superoder INSECTIVORA 食虫目
  ├ Order LEPTICTIDA 薄鼬目*(はくゆうもく);レプティクティス目
  └ Order LIPOTYPHALA 欠盲腸目;リーポテュプラ目
    ├ Suborder ERINACEOMORPHA ハリネズミ亜目
    └ Suborder SORICOMORPHA トガリネズミ亜目

Superorder VOLITANTIA 遊飛上目*
  ├ Order DERMOPTERA 皮翼目
  └ Order CHIROPTERA 翼手目

Superorder ANAGALIDA アナガレ上目
  └ Order MACROSCELIDAE 大脛目*(跳地鼠目)(may include ANAGALIDAE)
     └ Grandorder GLIRES  山鼠大目*
       ├ Order RODENTIA 齧歯目
       └ Order LAGOMORPHA 兎型目

Superorder UNGULATA (有蹄上目)
  │ ├ Order ARCTOCYONIA 北狼目
  │ ├ Order DINOCERATA 恐角目
  │ ├ Order EMBRITHOPODA 重脚目
  │ ├ Order ARTIODACTYLA 偶蹄目
  │ ├ Order CETACEA 鯨目
  │ └ Order PERISSODACTYLA 奇蹄目
  ├ Grandorder MERIDIUNGULATA 午蹄大目(most South American ungulates)
  └ Grandorder PAENUNGULATA  半蹄大目*
    └ Order HYRACOIDEA イワダヌキ目
      └ Mirorder TETHYTHERIA (テーテュース獣中目)
        ├ Order SIRENIA (海牛目)
        ├ Order PROBOSCIDEA 長鼻目
        └ Order DESMOSTYLIA  束柱目

Cohort EPITHERIA incertae sedis
  ├ Order TUBULIDENTATA 管歯目
  ├ Order CARNIVORA 食肉目
  ├ Order PRIMATES 霊長目
  ├ Order SCANDENTIA 登攀目
  ├ Order TILLODONTIA 欠歯類
  └ Order TAENIODONTA 紐歯目

 なお,最後のCohort EPITHERIA incertae sedisは系統関係がわからないという意味ですので,おのおのを繋いだのは私の勇み足かもしれません.
 これはまあ,進化の道筋ではなく,いくつかの系統分けが可能だということを示しているに過ぎませんね.

 次に,Colbert & Morales (1991)なんですが,Burkitt (1995ed.)もふくめてCarroll (1988)とパタンは大きく変わりませんし,長くなりすぎるので「略」します.


 では,新体系では…,以下が概略です.

superorder PREPTOTHERIA (顕獣上目)
 ├ grandorder ANAGALIDA(アナガレ大目)
 ├ grandorder FERAE(野獣大目)
 ├ grandorder LIPOTYPHLA (= INSECTIVORA) (リーポテュプラ大目・欠盲腸大目)
 ├ grandorder ARCHONTA(主(獣)大目)
 └ grandorder UNGULATA(有蹄大目)

 Carroll (1988)が引用した Novacek (1986)によく似た分類が採用されているように思われます.
 しかし,こちらの場合は,クラディズムが基本ですから,実は進化の道筋を表していることになります.してみると,有蹄類が一番進化していることになるんですかね.

 

2009年7月24日金曜日

辞書の展開(6)

 
●旧体系と新体系の対比(3)superorder PREPTOTHERIA (顕獣上目)までへの流れ

 おおざっぱにいうと,旧体系では,「獣類(真獣類)」とそれより原始的な哺乳類に分けられていて,我々が普通によく目にする哺乳類は「獣類(真獣類)」に入れられています.
 これでも,進化の様子を少しは表しているのですが,新体系ではよりその生命の進化の流れが明瞭になりますね(真実かどうかは別として).

 それでは,旧体系の「獣類(真獣類)」の中身をおさらいしておきましょう.

 まずは,Carroll (1988)から…,

獣亜綱 [ subclass THERIA ]
 ├ 三尖歯〔三隆起歯〕下綱 [infraclass TRITUBERCULATA ]
 │ ├ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA ]
 │ ├ 目分類位置不詳 [ order incertae sedis ]
 │ └ 真汎獣目 [ order EUPANTOTHERIA ]
 ├ THERIA of METATHERIAN-EUTHERIAN Grade
 ├ 後獣下綱[ infraclass METATHERIA ]
 │ ├ 有袋目 [ order MARSUPIALIA (New world and Europian marsupials) ]
 │ └ (豪州有袋類)australasian marsupialia
 └ 真獣下綱 [ infraclass EUTHERIA ]
   ├ 目分類位置不詳 [ order incertae sedis ]
   ├ 擬獣目〔幻獣目〕 [ order APATOTHERIA ]
   ├ 薄鼬目 [ order LEPTICTIDA ]
   ├ …

・注:和訳は私が勝手につけたものが混じっています.原語は英語.また,各分類群には定義者名が入っていませんので,厳密には,ほかの分類体系との比較は不可能です.

 次に,Colbert & Morales (1991)では…,

真獣亜綱〔獣亜綱〕[ subclass THERIA ]
 ├ 汎獣下綱〔全獣下綱〕[ infraclass PANTOTHERIA ]
 │ ├ 新全獣目 [ order EUPANTOTHERIA ]
 │ └ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA ]
 ├ 後獣下綱 [ infraclass METATHERIA ]
 │ └ 有袋目 [ order MARSUPIALIA ]
 └ 正獣下綱〔真獣下綱〕 [ infraclass EUTHERIA ]
   ├ 食虫目 [ order INSECTIVORA ]
   ├ 大脛目〔跳地鼠目〕 [ order MACROSCELIDEA ]
   ├ …
   ├

・注:これは和訳本からですので,和訳名が入っています.しかし,〔 〕内で記述してあるとはいえ,THERIAにも「真獣」,EUTHERIAにも「真獣」の名が使われており,首を傾げざるをえません.また,日本にいない動物に漢字で和名をつけ,さらにそれをカタカナにするなど,深窓の学者が好きな「用語のジャーゴン化」がおこなわれており,統一がとれていません.ここでは「ハネジネズミ」が出てきてしまいましたが,元の漢字に戻してみました.が,原語の学名のラテン語の意味をを反映していないので,原語の意味に近い訳を勝手につけました.
 また,Carroll (1988)と同じ用語が使われていますが,こちらも定義者名が入っていないので,厳密には比較はできません.しかし,それを言っていては比較ができないので,仮に同じ定義者を引用しているという前提で話を進めます.
 たとえば,「獣亜綱」は「subclass THERIA Parker et Haswell, 1897」,「真獣下綱」は「Infraclass EUTHERIA (Gill, 1872) Huxley, 1880」という前提です.


 Burkitt (1995ed.)では…,

獣亜綱 [ subclass THERIA Parker et Haswell, 1897 ]
 ├ 汎獣下綱 [ infraclass PANTOTHERIA Marsh, 1880 ]
 │ ├ 相称歯目 [ order SYMMETRODONTA Simpson, 1925 ]
 │ └ 新全獣目 [ order EUPANTOTHERIA Kermack et Mussett, 1958]
 ├ 後獣下綱 [ infraclass METATHERIA Huxley, 1880 ]
 │ └ 有袋上目 [ superorder MARSUPIALIA Illiger, 1811 ]
 │   ├ 有袋食肉目 [ order MARSUPICARNIVORA Ride, 1964 ]
 │   ├ 僅小結節目 [ order PAUCITUBERCULATA Ameghino, 1894 ]
 │   ├ 袋穴熊目 [ order PERAMELINA Gray, 1825 ]
 │   └ 双門歯目 [ order DIPROTODONTA Owen, 1866 ]*
 └ 正獣下綱 [ infraclass EUTHERIA ( Gill, 1872 ) Huxley, 1880 ]
   ├ 食虫目 [ order INSECTIVORA Bowdich, 1821 ]
   ├ 大脛目 [ order MACROSCELIDEA Butler, 1956 ]
   ├ …
   ├

注:こちらも,原語は英語ですので,勝手に和訳をつけました.
 なお,こちらも,原文には,分類群に定義者名が入っていません.原記載者名はこちらで勝手に入れました.しかし,各分類群には短い説明がされていますので,Burkitt (1955ed.)オリジナルなのかもしれません.原記載と比較してみればいいのですが,原記載の入手は困難ですので,そこまでする気はありません.悪しからず(ただ本当は,こういう場合はきちんと確認しておかないと,原記載とまったく違っていたりして,足をすくわれるのが常ですね).
 本来は,(たとえば)「獣亜綱」はsubclass THERIA Parker et Haswell, 1897ですが,subclass THERIA (Parker & Haswell, 1897) Burkitt, 1995かもしれない,ということを意味しています.
 「分類学者といえば厳密なのだろう」という先入観がありますが,かなりいい加減な人たちがやっているような気がしてきたでしょう?((^^;)


 さて新体系では…,その前に…,
 これまで,いろいろと新体系について探ってきたのですが,分類群にランク名がなく,しかも定義者名も書かれていないなど,根本的な欠陥がボロボロ現れてきて,何度か「プツン」しそうになりました((^^;).
 やっている方からしてみれば,全体の「流れ」が問題なのであって,個々の分類群は「さ」ほど重要ではないと考えているのかもしれませんが,「分類群にランク名がなく,しかも定義者名も書かれていな」ければ,他人には再検討のしようがないので,現代科学論では,「科学ではなく,オカルト」と見なされます.
 クラディズムは,生命の体系に(確かに)いろんな新しい解釈を与えてるかもしれませんが,これが現状だとすれば,頭の古い人たちに受け入れられるには,あと十年はかかりそうですね(なんか,PT論者の研究が先走りすぎて,学会に受け入れられなかった時代に,いろんな意味でよく似ているような気がします).

 さて,そう文句をたれていても,理解に前進がないので,「ちっちゃなことは気にしないで」話を進めます((^^;).

 新体系の情報は前述の通り「THE TAXONOMICON:http://taxonomicon.taxonomy.nl/」からなんですが,何回か見直すと,情報が変わっているような気がします.印刷物だと情報は固定していますので,そんなことはありえないのですが,研究を進めたい人にはいいメディアなんですが,それを検証したい人には不都合なメディアですね.インターネットというものは….

 ま,「ちっちゃいことは気にすんな」で…,

獣型亜綱 [subclass †THERIIFORMES (Rowe, 1988) McKenna & Bell, 1997]
├ 異獣下綱 [infraclass ALLOTHERIA (Marsh, 1880) Hopson, 1970]
├ 三錐歯下綱 [infraclass †TRICONODONTA (Osborn, 1888) Vandebroek, 1964]
└ 完獣下綱 [infraclass HOLOTHERIA (Wible et al., 1995) McKenna & Bell, 1997]
  ├ 吸氏獣上団 [superlegion KUEHNEOTHERIA McKenna, 1975]
  └ 走獣上団 [superlegion TRECHNOTHERIA McKenna, 1975]
    ├ 相称歯団 [legion SYMMETRODONTA (Simpson, 1925) McKenna, 1975]
    └ 分枝獣団 [legion CLADOTHERIA McKenna, 1975]
      ├ 木盗亜団 [sublegion DRYOLESTOIDEA (Butler, 1939) McKenna, 1975]
      └ 最獣亜団 [sublegion ZATHERIA McKenna, 1975]
        ├ 袋鼠下団 [infralegion PERAMURA McKenna, 1975]
        └ 摩楔歯下団 [infralegion TRIBOSPHENIDA (McKenna, 1975) McKenna & Bell, 1997]
          ├ 浜歯上区 [supercohort AEGIALODONTIA (Butler, 1978) McKenna & Bell, 1997]
          └ 獣上区 [supercohort THERIA (Parker & Haswell, 1897) McKenna & Bell, 1997]


 と,これでやっと旧体系にもある「獣類」まで到達しました.
 原文は英語なので,例によって「訳語」は,わたくしオリジナルが混じっています.コピペして知ったかぶりすると,妙なところで恥をかくと思いますのご注意!

 これだけでも,旧体系とは考え方が大きく違うことが理解できると思います.
 前にも言いましたが,クラディズムとは,一点ないし数点で共通項をもたない集団を排除し,それを進化上の分岐点と考えるところから成り立っているからです.
 だから,あらゆるところで,結節点が生じる.
 これまで用いてきた「綱」・「目」・「科」などという単位では数が追いつかないのですね.
 本当は,何が理由ではじき出されたのか示しておきたいし,定義の何が訂正されたのか私自身も知っておきたいのですが,なにせ,文献がね….

 続けて,THERIAから我々が比較的よく知っている動物名が出てくる「顕獣上目 =PREPTOTHERIA 」まで.

獣上区 [supercohort THERIA (Parker & Haswell, 1897) emend.]
├ 獣上区・分類位置不詳
├ 有袋区 [cohort MARSUPIALIA (Illiger, 1811) McKenna & Bell, 1997]
└ 有胎盤区 [cohort PLACENTALIA (Owen, 1837) McKenna & Bell, 1997]
  ├ 有胎盤区・分類位置不詳
  ├ 異節巨目 [magnorder XENARTHRA (Cope, 1889) McKenna & Bell, 1997]
  └ 上獣巨目 [magnorder EPITHERIA (McKenna, 1975) McKenna & Bell, 1997]
    ├ 薄鼬上目 [superorder LEPTICTIDA McKenna, 1975]
    └ 顕獣上目 [superorder PREPTOTHERIA (McKenna, 1975) McKenna, 1993]
      ├ …
      :

 個々の分類群については説明しません.
 というのは,記載者名,訂正者名を示しましたので,原記載はGoogleすれば出てくるはずですから.また,生物のイメージも,学名をコピペして画像検索すればかなりの数が出てきます.
 いい時代になりましたね.あ,日本語での検索はダメですよ.

 

2009年7月15日水曜日

辞書の展開(番外)

 
●意外すぎるオチ
 このテーマ「辞書の展開」は,FEP(IM)にATOKを導入したのをきっかけに,言語環境や辞書環境を整備しようとしていたものです.
 新旧の生物分類をネタに,これまで使っていたいくつかの辞書・辞典を整理してゆくつもりだったのですが,意外なところでオチてしまいました.

 ひとつは,「Jamming」のアップグレード版の「Logophile」が出たこと.
 もうひとつは,Mac OSX (Leopard)搭載の「辞書」に「LSD」が使用できるようになったことです.この二つのために(おかげで),容易に,しかも大きな辞書データに,作成中の文章上からアクセスすることができるようになりました.そのため,FEP(IM)のユーザ辞書を(意識的に)鍛える必要がなくなってしまいました.
 膨大なデータの整理がほとんど不要になってしまい,辞書を作る方針を考え直さなければならなくなったからです.

Jamming/Logophileは「今井あさと」さんが公開しているシェアウェア.電子辞書ブラウザです.
・LSDは,「ライフサイエンス辞書プロジェクト」が公開している生命科学関係の辞書データの数々です.

●PDIC on MS-DOS
 MS-DOS時代には(Windowsに入ってからも続いてますね),PDICというすばらしい辞書ソフトがありまして,特殊な言葉(地質学,古生物学,etc)を使う私には非常にありがたかったものでした.これには,たくさんのdataを貯め込みましたね.辞書とは思えないようなデータも(生物,古生物の学名やその文献データ,友人の住所データまで).
 Mac常用になってからも,PDICでためた資産を使えないものだろうか,PDIC for Macは出ないものかと待ち続けましたが,いまだにPDICのように簡単にユーザ辞書を整備できるものはないと思っています.
 なにせ,PDICをMac上で動かすためだけに,一時はMac上でWindowsを動かしたものです.あほみたいなソフトで途中で消えていきました(現在,また(エミュレーションソフトというのかな?)いくつか出ているようですが,そのときのトラウマ(それほど大げさなモンじゃあないですが)で手を出す気がしないです).

・蛇足しておけば,MS-DOS時代には(すでにWindowsも出てましたが),テグレット社の「知子の情報」シリーズと「Vz Editor」,それにこの「PDIC」があれば,ほとんどの仕事が可能でした.もちろんFEP(IM)は「WX」series.
 バッチファイル(懐かしい言葉(;_;))を組んでおけば,いつでもアプリの切り替えが可能.まったくWindowsは必要なかったですね.


●Jamming on Mac
 Macを常用するようになって,日本語環境が「さみしい」のが気になってました.FEP(IM)もそうですが,辞典類も使い物にならない.

 しょうがないので,マック上で動くいくつかのソフトを試しました.
 結果だけいうと,Jammingというのが一番でした.
 たくさんの市販辞書データを一覧できるし,ユーザ辞書も何とか作れます.

 ジャミング辞書形式というのが,ちょっと特殊なので,PDICのデータを全て変換することはできないままに,しばらく使用してました.「大辞林」や「ランダムハウス」,「リーダーズ+」が使えるので,通常の使用には不自由しないのですね.しかし,ワープロなどのソフトウエアとの連携が悪く,単語をコピーするとJammingが動き出す設定なので,割と邪魔くさい.
 Mac OSXが出たときには,辞典が搭載されていて,単語を反転させてマウス右クリック>メニューで「辞書で調べる」で内蔵辞典(「大辞泉」・「プログレッシブ英和・和英」・「OAD」)が引けます.一般の使用には十分なので,Jammingの使用頻度が減りました.

 ですが,(古)生物の名前や,地質用語・鉱物名などを使用する状況になると,とたんに不満が出てくるわけですね.
 PDICのHPで,Mac版を開発してくれるように,しきりにお願いしてました((^^;).


●ATOK for Mac
 Mac OSX (Leopard)にしたときには,EGBRIDGEが使えなくなりましたので,しょうがなくて「ことえり」を一年弱使ってました.
 「ことえり」のあまりのバカさ加減にあきれて,最後の手段であるATOKに手を出してしまいました.VJE>WX> EGBRIDGEに見放されて,ついにATOKです(ちなみに,atokとは,ペルー産のスカンクの一種だそうです).
 おばかな「ことえり」で一年弱も我慢したことで,どれほどATOKを使いたくなかったかわかるでしょ.でも,その反動でATOKは,快適だこと,快適だこと.

 簡単な辞書エディターもついてますので,こいつを「PDIC並みに使ってやれ」と考えてしまい,ユーザー辞書を鍛え始めました.

 「鉱物名辞書」は簡単に移動できました.
 こいつは結局失敗でした.マニュアルにユーザー辞書の構造の説明がないので普通に使う辞書と同じ辞書に書き込んでしまったのです.本来ならば,独立した辞書にしておいて,その手の文章を書くときにのみ「開く」といいようにしてあれば,同じATOKユーザに鉱物名辞書を分けてあげられたのです.
 ATOKの辞書エディターには,辞書を分離することができるような機能はないようです.「ことえり用出力」とかできれば,ユーザのためになると思うのですが,メーカは,そういうのは「損」と考えているようですね.

 問題はPDIC時代に貯め込んだ膨大な「(古)生物名」辞書.
 もちろん,地質学関連用語もありますが.
 これをJamming辞書に移すことは挫折してますので,PDIC辞書のままテキストで保存してあります(いつか,「PDIC for Mac」が出る日を待ちわびて…(^^;).
 とりあえず,生物の大分類(のみ)をATOK辞書に移しておこうと…,その前に,状況を確認しようとしたら,クラディズムを基本とする分類が(ホンの)少し公開されていることに気付き,今テーマにしている話が始まったというわけです.
 ま,要するに学名を整理しながら,辞書を鍛え直し,ついでにこれを話題にしてしまおうというもの.
 で,学名の整理をしながら,ブログを書いていたのですが….


●Logophile,登場

 そういえば,Jammingのアップグレード版の案内がきてたな,と思い出しました.

 これナンと読むのかな? ラテン語風ですね.
 英語の単語にありました.読みは「ラーガファイル」ですかね.
 ラテン語風に読むのなら,「ロゴプィーレ」ですかね?

 ラテン語ならば,philologia(プィロロギア)なんでしょうね.
 と,ドイツ語の「Philologie」は「文献学」で,英語の「Philology」は「言語学」だそうです.

 個人的には,ソフトの名称としては,「Jamming」の方が好きですね.ボブ=マーレィの熊倉一雄みたいなダミ声を思い出して((^^;).

 閑話休題.
 Logophileは,圧倒的に使いやすくなっていました.
 単語を反転させておいて,マウスの右クリック>メニューの一番下「Logophile」を選択すれば,Logophileが起動.登録辞書から該当の単語を示してくれます(欲をいえば,オリジナルの「辞書で調べる」の上にメニューを持って行けるとありがたいのですが…).

 おまけに,ユーザ辞書エディタもついてますので,私の目的にピッタリ!.
 少し残念なのは,エディタがまだ非力で,「言葉好き」の名の割には辞書整理とかがPDIC並みとはいきません.また,辞書ファイル変換がPDIC辞書に対応していないので,手動になります.
 まだ,ver. 1.0ですから,そのうち良くなるでしょう.
 強力なエディタがほしいですね.
 しかし,待っておられないので,辞書整理を始めてしまいました.
 ATOK辞書の方は,放置です((^^;)(WX>EGBRIDGで使ってた辞書は,もちろん移動しました.常用語辞書のことです.).
 もうひとつ,Mac OSX付属の辞典の使用頻度は減ってしまいました.ボキャブラリに少し問題があるのでね(数のことです).


●LSDが! Mac辞書で!

 さて,Logophileのユーザ辞書の整理中に(単語数があまりに膨大なので(^^;)飽きてしまい,LSDの新版は出ていないのかなと探ったところ,ありました.
 あったどころか,LSDはMac OSXの付属辞書上で使えるデータになってました(!(O_O)).

 これで,なんと,「Logophile」と「Mac OS 付属辞書の強化版」と二つの強力な辞書(ブラウザ)が簡単に使えるようになってしまいました.
 今までの手間暇の大部分は無駄になってしまったんですが,なぜかうれしい((∩.∩)¥).

 もっとも,LSDの生物関連ボキャブラリのほうは,現生種が中心ですから,化石種の方はオリジナルで作り直さなきゃならないのは同じです.
 そうすると,やはり,「Mac OS 付属辞書の強化版」よりは「Logophile」のほうが使用頻度は多くなるでしょう.でも,LSDの表示方式に関しては,「Logophile」よりも,「Mac OS 付属辞書の強化版」のほうが,明らかに見やすく理解しやすい!

 う〜〜ん,困った(明らかに,うれしい「困った」ですね(^^;)

 ということで,辞書整理の順番を考え直さなければならなくなりました.
 やらなくていい部分が増えましたのでね.
 でも,予定していた,

辞書の展開(6)
●旧体系と新体系の対比(3)superorder PREPTOTHERIA (顕獣上目)までへの流れ



辞書の展開(7)
●旧体系と新体系の対比(4)旧体系の「…目」から

 は,データが整理でき次第,続けますので,乞うご期待!
 って,誰も期待してないか((^^;)

 

2009年7月10日金曜日

辞書の展開(5)

●旧体系と新体系の対比(2)異獣類

 哺乳類の分類体系の中で,原始的な「原獣類」と新生代的な「獣類」を結びつけるものとして,異獣類というグループがあります.

 たとえば,Carroll (1988)では…,

哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 獣亜綱[ subclass THERIA ]

 Colbert & Morales (1991)では…,

哺乳綱
├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]

 Burkitt (1995ed.)では…,

哺乳綱
├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
│ ├暁獣下綱[ infraclass EOTHERIA ]
│ ├鳥子宮下綱[ infraclass ORNITHODELPHIA ]
│ └異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└獣亜綱[ subclass THERIA ]

 新体系(Taxonomicon)では…,

哺乳類形類
├ 哺乳類形類・分類位置不詳
└ 哺乳綱
  ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
  └ 獣型亜綱[ subclass THERIIFORMES ]
    ├ 異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
    ├ 三錐歯下綱[ infraclass TRICONODONTA ]
    └ 全獣下綱[ infraclass HOLOTHERIA ]
      ├ …

 だんだん,扱いが粗略になっていっているようですが,哺乳類の分類群の中で重要な位置を占めることはわかると思います.
 さてその中身を少し詳しく見ると,

 Carroll (1988)では…,

異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA Cope, 1884 ]
  ├ プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA ]*
  ├ プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA ]**
  ├ タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA ]***
  └ 亜目所属位置不詳 [ suborder incertae sedis ]

*プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA (Ameghino, 1889; Simpson, 1925) Hahn, 1969 ]
** プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA (Simpson, 1928) Sloan et van Valen, 1965 ]
***タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA Sloan et Granger, 1965 ]


 Colbert & Morales (1991)では…,

異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
├ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ](プティロドゥース目)
├ プラギアウラックス目[ order PLAGIAULACOIDEA ]
├ タエニオラビス目[ order TAENIOLABIDOIDEA ]
└ プティロドゥース目[ order PTILODONTOIDEA ]

 Burkitt (1995ed.)では…,

異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ]
  ├ プラギアウラックス亜目[ suborder PLAGIAULACOIDEA ]
  ├ プティロドゥース亜目[ suborder PTILODONTOIDEA ]
  ├ タエニオラビス亜目[ suborder TAENIOLABIDOIDEA ]
  └ 多丘歯目位置不詳 [ MULTITUBERCULATA incertae sedis ]

 新体系(Taxonomicon)では…,

異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
└ 多丘歯目[order MULTITUBERCULATA ]
  ├ 多丘歯目位置不詳 [ MULTITUBERCULATA incertae sedis ]
  ├ キモロドン亜目[ suborder CIMOLODONTA ]****
  └ ゴンドワーナテーリウム亜目[suborder GONDWANATHERIA ]*****

****キモロドン亜目[ suborder CIMOLODONTA (McKenna, 1975) Kielan-Jaworowska et Nessov, 1992 ]
*****ゴンドワーナテーリウム亜目[suborder GONDWANATHERIA (Mones, 1987) Krause et Bonaparte, 1990 ]


 四者とも,大きな違いは,多丘歯類をほかのグループと並置するか,多丘歯類に含ませるかの違いだけのようです.しかし,新体系では多丘歯類に含まれるグループの名称が,ほかの分類体系と大きく違います.

 キモロドン類は,Carroll (1988)でも,キモロドン科として,異獣亜綱・多丘歯目・プティロドゥース亜目・キモロドン科に分類されていました.Burkitt (1995 ed.)でも,キモロドン科は,異獣亜綱・多丘歯目・プティロドゥース亜目・キモロドン科に分類されています.
 しかし,新体系ではプティロドゥース超科やタエニオラビス超科その他を代表する亜目として設定されています.

 定義を記述した論文が入手できないので滅多なことはいえませんが,キモロドン類がこれらを代表する生物分類群だということではないようです.
 多丘歯目に分類されていた多くの分類群が“キモロドン”亜目に収容されてしまいましたので,これに,これまで使われていた,プラギアウラックス,プティロドゥースやタエニオラビスの名称を使うと誤解を招く可能性が大きいので,「キモロドン」の名称を使ったのだと思われます.

 なお,ゴンドワーナテーリウム類は名称の印象からいうと,ゴンドワーナ大陸に生息していた多くの動物群を示すような名称に見えますが,その実,1980年代になって発見されたフェルグリオテーリウム属,ゴンドワーナテーリウム属,スーダメリカ属しか含まない小さなグループです.そのため,誤解を招きそうな“ゴンドワナ獣”類という名称の使用は避けました.
 したがって,異獣類という枠組み自体は,あまり定義に変化がないようです.

 

2009年7月7日火曜日

辞書の展開(4)(補遺)

 
●旧体系と新体系の対比(1)根っ子のところで(補遺)

 前回は,Carroll (1988)から,いきなり,THE TAXONOMICONの体系に跳ばしてしまいましたので,なにか,ものすごくドラスティックな変化があったような印象を与えてしまいましたが,失敗だったようです.
 そこで,この二つの間に出された体系をいくつか示して,紆余曲折しながら生物の体系に迫ろうとした研究の足跡を示しておきたいと思います.

 先に言っておくと,これらは「どれが正しい・正しくない」というものではありません.
 その時代,その時代で集められた情報を元に,その時代の分類学者が一番適切と思われる体系を組んでいるもので,「新しいものが正しくて,古いものは間違い」というものではないのです.
 しばしば,新しい体系の信奉者が,古い体系を「『錬金術』にも等しい」という言い方をしますが,そんなモンではないですね.こうやって流れを追ってみると,いきなり正解が出たのではなくて,その時代,その時代にたくさんの努力が積み重ねられて,現在に至る過程がよくわかります.「現在」も,流れの中の一コマに過ぎないので,未来永劫続く「真理」というわけではないのです(別に,「地向斜造山論」と「プレート・テクトニクス論」とのアナロジーをやってるわけではないですよ(^^;)

 悲しいかな,「受験学問体系」というのは実在していて,それは「○」か「×」かで判断される知識体系です.こういう関門をくぐって,現在,大学や研究機関でトップに立っている人たちは,案外簡単に「○」か「×」かで,物事を判断することがあるようです.
 ある日,「○」が「×」になったら,その人たちの体系は根本から崩れていくんでしょうね.

 書き方が「正しい学名」とか「正しくない学名」というのはありますが(「無効」,「有効」と分けます),学名そのものが「正しい」とか「正しくない」というのもありません.
 そのとき問題にしている標本は,「Genus species 記載者,記載年」と同じものだといっているだけですから.


 閑話休題(さて,それでは続きを始めます)

 Colbert & Morales (1991)では,大まかには,

哺乳綱
 ├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 ├ 異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
 └ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]

 これらのうち,暁獣亜綱と原獣亜綱をもう少し詳しく示すと,

哺乳綱
 ├ 暁獣亜綱[ subclass EOTHERIA ]
 │ ├ 梁歯目[ order DOCODONTA ]
 │ └ 三錐歯目[ order TRICONODONTA ]
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 │ └ 単孔目[ order MONOTREMATA ]
 ├ 異獣亜綱[ subclass ALLOTHERIA ]
 └ 真獣亜綱[獣亜綱][ subclass THERIA ]

と,こうなっています.
つまり,Carroll (1988)の体系からは,梁歯目と三錐歯目を原獣類から独立させて,暁獣類(三畳紀〜ジュラ紀にいたきわめて原始的な哺乳類)というグループを作り,原獣類は現生種を含むカモノハシ・ハリモグラの仲間としてわけですね.

 次に,Burkit (1995)では,大まかには…,

哺乳綱
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 └ 獣亜綱[ subclass THERIA ]
   └

 と,なっています.
 ここで,原獣亜綱をもう少し詳しく示すと,以下のようになります.

哺乳綱
 ├ 原獣亜綱[ subclass PROTOTHERIA ]
 │ ├暁獣下綱[ infraclass EOTHERIA ]
 │ │ ├三錐歯目
 │ │ └梁歯目
 │ ├鳥子宮下綱[ infraclass ORNITHODELPHIA ]
 │ │ └単孔目
 │ └異獣下綱[ infraclass ALLOTHERIA ]
 └獣亜綱[ subclass THERIA ]
   └

 Colbert & Morales (1991)では,暁獣亜綱として「きわめて原始的な哺乳類」とされたものが,Burkit (1955)では一転して,原獣亜綱の中の一下綱という位置づけです.暁獣下綱を形成する目には変わりがないようですね.
 ここでは,鳥子宮下綱というあまり聞き慣れないグループがでてきました.しかし,この下綱を構成しているのは,単孔目なので,原獣類と同じものと見なしておきます.
 おおざっぱに言うと,下綱以下は細分されていますが,それは原獣類として一括できるもので,哺乳類は原獣類と獣類の二つに分けることができると考えているということです.

 これが,THE TAXONOMICONでは,よりフラットに広がり,ダーウィンのいうようなリンク状になっていったわけです.



コルバート, E. H.・モラレス,M.(1991)「脊椎動物の進化【原著第4版】(田隅本生,1994訳)」(築地書館)
Burkitt, J. H., 1995 ed., MAMMALS = A World Listing of Living and Extinct Species. Tennessee Department of Agriculture, Nashville, Tennessee.
 

2009年7月5日日曜日

学名の悲劇

 
 庭の「黄色いカタクリ」の葉が枯れたので,なにか手入れをする必要があるかなと思い,Googleしてみました.

 ちょっと,球根が増えすぎて,混み混みしているので,間引きすると同時に,別な環境に植え替えを考えた方がいいようです.カタクリは落葉樹の下で,春先に日当たりがよく,夏の強い日差しは避けられるような場所の方がいいようで.
 現在の場所は,真夏の直射日光が当たりますのでね.

 ついでに,なにかの時のために,カタクリの情報を整理しておこうと,サーフィンしてたら,黄色いカタクリは我が国自生のものではなく,アメリカ・カタクリもしくはヨーロッパ・カタクリと呼ばれるものらしいことがわかりました.
 では,学名で情報をフィックスしておこうと始めたのが運の尽き,「悲劇」が起きました((^^;).

 我が国産であるカタクリの学名を,先にと,調べると…,

1)Erythronium japonicum Decne
2)Erythronium japonicum Decne.
3)Erythronium japonicum Dence.
4)Erythronium japonicum Dense.
5)Erythronium japonicum Decaisne

 こ~んなにいっぱい「学名らしきもの」が出てきました((^^;).
 何がどう違うかわかりますか?

 どれも,最初の単語は属名[genus]で,二番目が種名[species].この二つは同じですね.いや,もちろん,ここから違うものは排除してあります((^^;).三番目は記載者名.本当はこのあとに記載年もつきます.

 最近は,一般人のHPでも学名(らしきもの)を多用するようです.
 ちょっと前までは,わけのわからん頁に当たるのを避けるために,学名を用いれば,かなりの率で排除できたもんですが,最近はその手が効かなくなりました((^^;).

 「学名が普及してきた」と,喜ぶのは早いようで.
 単にそれらしく見えるというので似たような頁から,なんの疑問も持たずに,コピペしているというのが実情のようです.
 一方で,大学や研究所が公開している頁でも,かなり,いい加減な扱いをしているものも多いようで,この有様です.

 コピペする段階で起きたと思われる間違いが,2)から1)ですね.
 「.」が省略されてしまいました.「.」は,「長い名前だし,よく使われる名前なので[. ]の後は省略しましたよ」という意味.本当は人名なので,省略するのは「失礼」なんですが,最近の学者は先人に敬意を払わないので,しばしばやります.おまけに,「二回以上出てくる場合には省略してもいい」というのが原則なのに,たった一回しか出てこない場合でも,平気で省略されます.
 こういったことを知らない人が,コピペすると1)が発生します.しかし,これはコピペ元が不親切きわまりないので,省略されていない名前が用いられるべきだと思いますね.
 ただし,この人の場合は,自らこの省略形を使った形跡があります.植物学の世界では有名人らしく,こう書けば,この人「一人だけ(同名の別人ではなく)」を示すということらしいです.

 3)は,たぶん,コピペではなく,タイプミス.もしくは,「Decne」という語は普通のモンじゃあないですからね.たぶん,「Dence」のほうがそれらしいと思ったのでしょう.

 4)も同様のもんですが,「Dence」よりは「Dense」のほうが,より英語らしいですからね.

 さて,5)が,どうやら一番正確なようです.
 Decaisneはフルネームで,Joseph Decaisne (1807. 3. 7. - 1882.1.xx.).ベルギー生まれの植物学者で農学者(フランスで活躍).私は,フランス語もベルギー語もわからないので,発音を「カタカナ」に直せません.悪しからず.
 日本産の植物もたくさん記載しているようです.どういう人なのか,そのうち調べてみましょう.


 学名は定義がはっきりした「もの」を示す言葉ですから,いい加減な引用をすると,非常に困ったことになります.1字違っても別のものを示すことになることがあります.ま,たいていの場合は,“学名らしきもの”になるだけですが….
 さて,先ほど,学名で検索しても,怪しい頁を排除できなくなったといいましたが,まだ方法があります.それは,記載者名も検索条件に入れることです.
 ただし,これをやると,日本語のHPはほとんどなくなりますね.大学や公立研究所が運営している「頁」でも,学名の扱いが粗略だということの証明でしょう.

 属-種からなる二名法は結構ポピュラーになり,属名と種名を並べれば,学名として必要十分であるとわかってきているようですが,より正確を期すならば,その学名の記載者名(+記載年),場合によってはその訂正者名(+訂正年)が必要なことは理解されていないようです.

 そこで,それを調べると…,

1)Erythronium japonicum Decaisne, 1854
2)Erythronium japonicum Decaisne, 1864
3)Erythronium japonicum Decne., 1854
4)Erythronium japonicum Decne., 1864
5)Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Baker, 1874
6)Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Baker, 1875

 と,こんなのがでてきます.
 1)と3),2)と4)は実質的には同じものということですね.ただし,前述したとおり,「Decne.」を使うならば,どこかわかりやすいところに「Decne.」は「Decaisne」の省略形だと書くのが親切というもの(どうも,植物学者でも,これを知らないで使っている人がいるようなんですが…).

 それでは,1),3)と2),4)とは,何が違うのか?
 記載した論文の出版年が違いますね.これは,単なるタイプミスなのかもしれません.
 別なことも考えられます.Decaisneが1854年と1864年にErythronium japonicumに関する若干定義の異なる論文を出していれば,このリストをあげた人が1854年の論文と1864年の論文を比較して,よりリーズナブルだと判断したほうを取り上げたとも考えられます.
 現実には,ここまで記載しておきながら,原著の引用文献をあげていないことの方が多いので(特に,日本人研究者の書いた論文),「タイプミスか」あるいは「取捨選択か」の判断はできないことの方が多いです.

 学名を記述するということには,結構,大変な背景があることがわかったでしょうか.
 一字違いで大違い.知っていれば,別にどうってことはないんですけどね.

 で,どちらが正しいかは曖昧なままで…(文句があったら,学名を疎略に扱っている日本の植物学者にいってくださいね.(^^;).
(もっとも,御國の方針はノーベル賞をもらえるような少数の学者を育成することなので,学問の基礎の基礎である分類学者の育成なんて彼らの頭の隅にもありません.こういうことをやろうという学者が育たないのは,仕方がないことかもしれません.)

 で,まあ曖昧なままで…((^^;).
 5)と6)はなんなんでしょう?
 この一行で(実際には二行ですが,それはまあ置いといて),こんなドラマが生まれます.

 ヨーロッパでは,今から250年以上も前に,“カタクリ”が現在と同じ方法でリンネ氏によって記載されました.それが,Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753.ちなみに,リンナエウス[ Linnaeus ]は本名:リンネ[ Linne ]のラテン語風の綴り.リンネ氏は現代風な種の記載の創始者です.
 また,種名は「犬の歯」を意味しています.“カタクリ”の花が「犬の歯」を連想させたのでしょうか.現地では「犬の歯スミレ」と呼ばれていたようです.“カタクリ”はスミレではなく,ユリの仲間なので,「スミレ」を抜いて,「犬の歯」が学名になったという次第(「-」ハイフンが使用されていますが,アルファベット以外の補助文字を使用するのは疑問です).

 日本で最初に見つかった「カタクリ」は(正確には,植物を記載するということを知っている人に最初に見つかったとき),リンネが1753年に記載したErythronium dens-canisと同じものと見なされたでしょう.あるいは,少し違うなと思われたかもしれません(ちゃんと調べてないので,わかりません).

 リンネ氏の記載の約100年後(1854と1864のどちらが正しいかわからないので),Decaisne氏が日本産の「カタクリ」はヨーロッパ産の“カタクリ”とは違う種としてErythronium japonicum Decaisneを提案しました.ここで,ようやく(日本語圏では),「カタクリ」と「ヨーロッパ・カタクリ(もしくはセイヨウ・カタクリ)」という言葉が成立するわけです.

 その約20年後(1874と1875のどちらが正しいかわからないので),Bakerさんが「ヨーロッパ産のカタクリとは少し違うな」と思い,しかし,新種とするほどの違いではないと考えて,変種:Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Bakerを提案したわけですね.


 さて,では
 Erythronium japonicum Decaisne, 18xxと
 Erythronium dens-canis Linnaeus, 1753 var. japonicum Baker, 187xでは,
 どちらが正しいのでしょう?

 答えは…「どっちだっていい」です.
 ただし,正確な記載年と,その引用文献を示さなければなりません.
 そして,選んだ方でないほうを,シノニムとしてリストしておけばいいのです.

 もっといえば,Erythronium nipponicum(とかあなたの好きな名前を書けばよろしい) +(あなたの名前+記載年)として,上の二つをシノニム(同物異名)としてリストして置いてください.それで新種のできあがりです.
 理由として,上記二つの記載論文を読んで,あなたの見つけたカタクリと違うところを明記しておけばいいのです.
 もっとも,誰もあなたの意見を支持しなければ,そのまま消えてしまいますけどね.

 話が,少しずれちまいましたけど,学名の意味が少しは理解できたでしょうか?
 属名と種名をコピペしておけばいいということではないということ.
 たった一行に,たくさんの意味があるということ.
 シノニムがきちんと記載してあれば,研究の歴史までわかるということ…など.

 意味が忘れられて,ネット上を一人歩きしている学名は,悲しいですね.

 

2009年7月3日金曜日

ゾンビ・ハンティングⅡ

 
 09/05/29付けで「ゾンビ・ハンティング」という記事を書きましたが,本日届いた地団研の機関誌「そくほう」に,上田誠也の“書評”とその掲載に対する「地球惑星科学連合ニュースレター」編集部への抗議文が入ってました.

 私は(当時と比較して)少し冷静になってますので,今回は語尾が「論文調」から「会話調」に変わってますね((^^;).


 もちろん,私が腹を立てたのは「誹謗中傷」に対してではなく,こういうものを「科学史」だというセンスに対してです.そのとき流通している学説に乗っ取って科学をおこなっている人たちは,新しい学説に対して慎重であるのは当たり前のことです.

 (今だって,プレート・テクトニクス論者をこき下ろすことは可能ですが,それをしたら,この“科学史家”と同じレベルになっちまうような気がして恥ずかしい.)
 (いずれなんかの機会に「科学者を自称する連中への警鐘」として書きたいと思ってますが…,冷静にかけるまでね(^^;)

 この人たちは海外の状況を無視して,(日本においてのみ)地団研が「プレートテクトニクスの受容を遅らせた」としていますが,同じテーマを扱っている「海外の“科学史家”」ウッドは「地球の科学史=地質学と地球科学の戦い=」で,「地質学者が遅らせた」といっています.
 「地球の発見と地球科学の創造は既成の地質学によって常に妨害されてきた」(「はじめに」より)
 海外にも「地団研があった」というんでしょうかね?


 それはさておき,ある昔の出来事を思い出しました.
 地団研・全国運営委員会事務局の抗議に対するJGL編集者の態度のことです.

 昔,ある博物館に勤めていたんですが,そのときに札幌の「ある雑誌」に妙な記事が載りました.
 ある化石ブローカー(マニアとはいえない)についての記事なんですが,それが,私の勤務する博物館になにか密接な関係があるような書き方でした.当時の館長から,あぶない人なのでコンタクトをとらないようにと注意されていた人でした.
 博物館としては,こういう記事は本当に困るので,業務命令でその雑誌社に抗議の電話をかけました.そのときのその雑誌社の編集者の対応が似てるんですね((^^;).

 記事はフリーのライターが書いたもので,うちには責任がない.

 記事を載っけておいて,「責任がない」そうです(^^;.

 JGL編集部では「反論があれば載せる」といってますので,札幌の怪しい雑誌社よりはましなようですが,この事態を想定できなかったんでしょうかね? 確信犯?


 ちなみに,その札幌の雑誌社は「責任がない」の一点張りだったので,「当博物館に不利益が生じた場合は,法的手段も辞さない」と捨て台詞を吐いて電話を切りました.
 意味あるのかないのか知りませんが(こういう人たちは,山ほどこういう案件を抱えているらしいので,一つぐらい増えたってどうってことないらしい).

 でも,ま,こういう態度は出版関係者では当たり前のことようで,某・北海道の大新聞社でも,あるとき,その新聞の「読者の投稿欄」に,「クジラの骨格」の写真が載って,タイトルが「恐竜の骨格」だったので(もちろん,博物館の名前もばっちり載っていました),非常に困りまして,編集部に電話して,事情を話しましたが,このときも同じ態度でしたね.
 このときは抗議ではなく「『クジラの骨格の写真を,恐竜の骨格とされては困る』ので何とかしてほしい」ということだったんですが,「読者の投稿なので,訂正はしない」と断られました.
 みなさん,新聞に載っていることだからといって,全面的には信用しないようにね((^^;).

 それから,学会の記事でも,科学を装って,個人や団体に対する誹謗中傷が載ることがあるということも,知っておいてくださいね.

 

2009年7月1日水曜日

辞書の展開(4)

 
●旧体系と新体系の対比(1)根っ子のところで

(引き続き,「辞書の展開」なんですが,今回からラベルに「古生物一般」を付け加えます)

 たとえば,Carroll (1988)には,以下のような分類体系が載ってました(Appendixを和訳および編集しました).

 哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
  ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
  ├異獣亜綱(Subclass ALLOTHERIA Marsh, 1880)
  └獣 亜綱(Subclass THERIA Parker et Haswell, 1897)

 たとえば,このうち「原獣亜綱」はどうなっていたかというと….

哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
 ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
 │ ├単孔目(Order MONOTREMATA C.L. Bonaparte, 1837)
 │ │ ├カモノハシ科(Family ORNITHORHYNCHIDAE Gray, 1825)
 │ │ └ハリモグラ科(Family TACHYGLOSSIDAE Gill, 1872)
 │ │
 │ ├三錐歯目(Order TRICONODONTA Osborn, 1888)
 │ │ └(略)
 │ │
 │ └梁歯目(Order DOCODONTA Kretzoi, 1946)
 │   └(略)
 :
 ├異獣亜綱
 └獣 亜綱

 現在は(印刷物は,入手できるころには,もう古くなっていますので,THE TAXONOMICON を利用させてもらいます)….(なお,これに近いものとして,目名問題検討作業部会(2003)が公表されています.こちらは,現生生物中心で概略のみ.しかも,古生物については省略が多いので,参考程度に使いました.「和訳」に関しては「不自然」なところもあるので,そこは自前の訳語を使いました.)

哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
 ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
 │ ├広足目(Order PLATYPODA (Gill, 1782) emend.)
 │ └速舌目(Order TACHYGLOSSA (Gill, 1782) emend.)
 │
 └獣形亜綱(Subclass THERIIFORMES (Rowe, 1988) emend.)
   ├異獣 下綱(Infraclass ALLOTHERIA (Marsh, 1880) emend.)
   ├三錐歯下綱(Infraclass TRICONODONTA (Osborn, 1888) emend.)
   └完獣 下綱(Infraclass HOLOTHERIA (Wible et al., 1995) emend.)
     ├…
     └…

 まず,原獣亜綱に入っていた三錐歯目と梁歯目が消えています.
 どこへ行ったかというと,三錐歯類は獣型亜綱-三錐歯下綱へ,梁歯類は哺乳綱から外されて哺乳類形類(MAMMALIAFORMIS Rowe, 1988)中の梁歯目へ.哺乳類形類はランク名がありませんが,哺乳綱とその他雑多な哺乳類様生物がまとめられた,「綱」より上のランクです(このあたりの表示法が私には理解できないのですが,「哺乳綱」以外は「Class incertae sedis =綱,分類位置不詳」として強引に理解しておきます).

哺乳類形類(MAMMALIAFORMIS Rowe, 1988)
 ├…
 ├梁歯目
 ├…
 └哺乳綱
   ├原獣亜綱
   └獣形亜綱
     ├…
     └…

 原獣類には,広足目と速舌目が与えられていますが,これは実は「単孔目-カモノハシ科」と「単孔目-ハリモグラ科」のこと.したがって,ここには単孔類しか残っていないことになります.それでは,「単孔亜綱(Subclass MONOTREMATA)」にすべきだと思いますが,なぜか原獣類という言葉が残っています.

 日本哺乳類学会種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会(2003)ではMcKenna & Bell (1997)を引用していますが,それらもこれとほとんど変わりがありませんので,まあ,新体系への改訂として現在進められている一般的なものと見なしていいでしょう.

 なお,THE TAXONOMICONのデータを私流に使いやすくするために書き直していたのですが(と,いってもコピペしてmy formatに修正するだけですが),膨大な分類群の数にあきれるとともに,たくさんの生き物が地球上に生まれそしてほとんどが消えていったんだなあと,妙に感動してしまいました.


【参考文献】
Carroll (1988) 「Vertebrate Paleontology and Evolution」( W. H. Freeman and Company)
THE TAXONOMICON:http://taxonomicon.taxonomy.nl/
日本哺乳類学会種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会(2003)「哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について」(哺乳類科学,43巻127-134頁)